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第三回ジェイダス杯

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第三回ジェイダス杯

リアクション

 参加者の多くが運営委員により仕掛けられた罠に四苦八苦する中、ラクラクと目的の果物を入手することができた参加者もいる。
 勝利の女神の祝福を受けたと言うべき幸運の主は、波羅実生の時雨塚 亜鷺(しぐづか・あさぎ)だ。
 西にイベントあれば、ダフ屋を企み、東に競技あれば闇賭博を企み、南にパラ実の襲撃あれば、被害者に色々売りつけようとし、北に騒動あれば、漁夫の利が狙えないかとそっと伺う…そんな小悪党である亜鷺は、自分の目的地になんの罠も仕掛けられていなかったことを知り、心から喜んだ。
「ちゃちゃっと回収して、ゴールに戻りましょうかね〜」
 念のため、道が狭くなってきた所に、光学迷彩を発動させたフルプレートアーマー型ゆる族ジェイムズ・ブラックマン(じぇいむず・ぶらっくまん)を置いてきた。
 彼が鎮座していれば、それは不可視のバリアの如く、後続者達を遮ってくれることだろう。
「これで優勝はボクのものっと♪ 商品とかでないかな〜?」
 捕らぬ狸の皮算用をしつつ、ウキウキと勝利の果実に手を掛けた亜鷺がふと、ジェイムズがいるはずの辺りに視線をやれば。
 そこには、見えない壁と格闘する自称忍者黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)の姿があった。
「ふふ〜ん、困ってる、困ってる。今のうちに葡萄を回収しなくちゃ!」
 亜鷺がほくそ笑んだときであった。
「そうはさせないわよ!」
 小型飛空艇に乗って、にゃん丸に伴走していたリリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)が、何やら怪しげな青い光を放つ光精の指輪を掲げながらこちらに飛んでくる。
 リリィは亜鷺の前で小型飛空艇を急停止させると、すかさす葡萄を奪い取る。
「小型飛空艇を使うなんてルール違反だ! 卑怯だよ!」
 亜鷺は腕を振り上げて抗議をするが、リリィは取り合わない。
「卑怯はどっちよ! なんだか分からないけど、変な壁作って道をふさいだのはそっちじゃない!」
 そもそも影に潜む存在である忍者が、正々堂々と戦うことこそおかしいのだ。
 優勝を目前とした今、リリィは手段を選ぶつもりはない。
「それより、はい、どうぞ!」
 ニヤリと笑ったリリィは、持っていた光精の指輪を亜鷺に押しつけた。
「なんだよ、これ?」
 渡された指輪は、表面が青く塗りたくられている。
 亜鷺は怪訝そうに顔をしかめてみせた。
「で、アッチ見て!」
 何やら不吉なものを感じつつも、リリィが指さした方角を見やった瞬間、亜鷺の表情が凍り付く。
 巨大なカナブンの軍団がこちらに向かってきている?!
 実はにゃん丸達が用意した光精の指輪は、誘虫灯の効果があった。光に誘われた虫が、持ち主に襲い掛かるという姦智の極みだ。
 亜鷺の気が反れた隙に、葡萄を持ったリリィはにゃん丸の元へと戻っている。
 リリィから葡萄を受け取ったにゃん丸は、亜鷺が巨大カナブンに襲われているうちにゴールを目指そうと目論んでいたが、そうは問屋が卸さない。
「よし。後は手筈通りに…ってリリィ?!」
 なんとリリィは、亜鷺には自分の分を渡しただけで、にゃん丸の分の指輪を持ったままであった。
 気がつけば巨大カナブンは、自分達の方にまでやってきている。
「うぇえ、きもい…やっぱ無理!」
 その身に宿す光は微妙に違えども、カナブンも群になってしまえばゴキブリとさほど大差がない。
 リリィは光精の指輪改め誘虫指輪をにゃん丸に投げつけると、空の彼方へと逃げ去っていく。
「む…虫に囲まれたって悲鳴なんてあげないのさ。俺、忍者だから!」
 カナブンの集団に囲まれたにゃん丸は必死に恐怖と戦うが、背中に張り付かれ、その臭い体液を擦り付けられた瞬間、限界を向かえた。
「ぎゃぁあああああ!!!!」
 静かなイルミンスールの森ににゃん丸の叫びが木霊する。
 しかし、にゃん丸は大いなる恐怖にその心を蝕まれつつも、最後まで諦めなかった。
 気力を振り絞り、逆にカナブンの背中にかじりつくと、光精の指輪改め誘虫指輪をゴール地点めがけて投げつける。
「願わくば、カナブンよ。俺をこのままゴールに……」


 その頃、ゴール地点では、運営委員の一人エル・ウィンド(える・うぃんど)が待ちかまえていた。
 過去のジェイダス杯において、優勝者にトロフィーが贈られたという記録はない。ジェイダスが何故トロフィーを用意していないのか、その真意は分からないが。イルミンスールで開催されるのならば、ぜひとも最高のトロフィーを贈りたいとエルは考えた。
 しかし、単なる普通のトロフィーではつまらない。
 熟考に熟考を重ねたエルは、とある暴挙に出ることになる。
 服を脱ぎ捨てたエルは、金色のビキニに着替えた。それから、全身を金粉で塗りたくり黄金の三輪車にまたがる。
 後は優勝者が到着した瞬間、ヒロイックアサルトで極限まで強化した光術を放とう。全身の毛穴から光を放出する様は、きっと神様の後光のように見る人の心に大いなる感動を与えてくれることだろう。
 そして優勝者の訪れを今か今かと待ちかまえるエルの前に現れたのは、青光りを放つ巨大カナブンの群…であった。
 


 にゃん丸の到着で、ゴール地点が阿鼻叫喚の事態に陥っていた頃。
 和原 樹(なぎはら・いつき)フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)、そしてソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)は、力なく肩を落としていた。
 行く先々の果物が熟れすぎだったり、腐っていたりしたお陰で、四人は四方八方を走り回る羽目になった。やっと程良く熟れた柿の実がありそうな場所にたどり着いてみれば…そこは小林翔太によって食い荒らされた柿の種が無惨にも散らばるだけだったのだ…。
 憐れ、イルミンスール四人衆。そして恐るべき、食欲大魔神。
 まさにブラックホールとも言える小林翔太の胃袋は、ジェイダス杯の黒歴史として密かに語り継がれることとなった。