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第三回ジェイダス杯

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第三回ジェイダス杯

リアクション

「もうっ、あっちに行ってくださいっ。何であんころ餅がワタシと一緒なんですかぁ!」
 ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)は拗ねたように頬を膨らませながら、持っていたバスターソードで同行する緒方 章(おがた・あきら)を突いた。
「僕だってカラクリ娘となんか同行したくなかったですよ。今すぐにでも退治してあげたいくらいです」
 先ほどからキャンキャンと噛み付いてくるジーナに緒方は顔をしかめている。対ジーナ用の妨害アイテムとして胡椒をガーゼでくるんだものを用意しておいた。
「どのタイミングで投げつけるのが一番効果的だろうか」と先ほどから緒方はジーナの隙を探っている。
 二人はシャンバラ教導団員林田 樹(はやしだ・いつき)のパートナーの座を争うライバルである。今回のレースは、自分こそが林田の相棒に相応しいことを証明する機会だと二人は意気込んでいた。
 しかし、いつもの調子でくだらない言い合いをしているうちに、林田はカエルのゆる族・コタローを連れてさっさと出発してしまったのだ。しょうがなく樹とは逆のルートで周り始めた二人だったが、その道中は小競り合いのくり返し。順調とは言い難い。
 そんな彼らの横を颯爽と走り去って行ったのは、果物採取用にと、前と後ろにカゴを付けたママチャリにまたがった七枷 陣(ななかせ・じん)だ。
「自転車マスターの意地にかけて、今回ばかりは負けるわけにはいかんのやぁ〜!!!」
 パートナーのリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)を乗せたチャイルドシートまでくっつけたママチャリで激走する姿は、子供を乗せて買い出しに行く嫁の尻に敷かれた旦那のようだが、少なくともその気迫は本物だ。
「行っけぇ〜、陣くん! 誰もボク達の前を走らせるな〜!!!」
 チャイルドシートの安全バーをシッカリと握りしめたリーズが陣を鼓舞する。
「おっしゃぁ! 任せろ!」
 脇目もふらず猪突猛進する陣のすぐ後ろには、マウンテンバイクにまたがった比島 真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)がピタリと付いてくる。こちらは一見、マイペースに見えるほど淡々とした走りである。
 先を行く陣達を無言で追いかける教導団員とドラゴニュートの二人組の姿は、ある意味、不気味でもある。
「うわっ?!」
 すると突然、真紀が驚いたような声とともに大きくハンドルを横に切った。半ば自分から横転させるようにマウンテンバイクを止めた真紀は、すぐ側の被い繁った葉の陰に鋭い視線を向ける。
「どうした真紀?」
 真紀の行動に不審に思ったサイモンもすぐさまマウンテンバイクを漕ぐ足を止めた。
「そこに油がまいてあります! それに木陰には…」
 真紀が指さした先でカサリ…と木の葉がなった。
 姿を現したのは、紐パンビキニに白衣を身にまとった島村 幸(しまむら・さち)だ。
「…患者…患者患者患者…患者……」
 看護には患者が必要だと思った幸は、自ら患者を製造しようと罠を張っていたようだ。ボソボソと呟きながら真紀達を見つめる幸の目は、完全に正気を失っているように見える。
「ここは逃げるが勝ちだぞ」
 サイモンは真紀に忠告しながらドラゴンアーツのスキルを発動させた。
 ドラゴニュートの怪力でマウンテンバイクを漕ぎまくり、猛スピードで幸から逃げるつもりなのだろう。
「…逃がしませんよぉ…」
 鋭い光を放つメスを閃かせ、襲いかかろうとした幸だったが、真紀の行動の方が一瞬早かった。
 素早く用意しておいた鉤付きのロープを木の枝に投げつけると、力任せによじ登り、幸の手の届かない場所に避難してしまった。
 ついでに目的のプラムも採取し、後は幸の注意がそれるまでここで待機するだけだ。
 そして幸の次なる獲物はすぐにやってきた。
 ギッチラギッチラと重いペダルを漕ぎながら、幸が待ちかまえる枝にやってきたのは、薔薇学のヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)だ。
 ちなみにヴィナの乗る自転車は、漕ぎ手は彼一人だが、何故か二人乗り仕様である。その上、タイヤはレース開催前からパンクしており、後部席にはペットの黒いラブラドールがどっしりと鎮座していた。わざわざ自らペナルティを課すとは、どれだけドMなんだと突っ込みたくなるところだが、ヴィナ曰くこれは「修行」なのだそうだ。
 どうやらヴィナ、とあるイベントでそれまで禁忌とされていた料理をしたことが本妻と内妻にばれてしまったらしく…。二人からボコボコにされた上、「修行」と称してジェイダス杯に放り込まれたらしい。
 もちろん真紀達に逃げられた幸が、新たな患者候補を見逃すわけがない。
 全身で伸び上がるようにしながらゆっくりとペダルを漕いでいるヴィナは、幸にとって格好の獲物だ。
「…患者…患者患者患者…」
 爛々と目を輝かせた幸が、ヴィナの目の前に姿を現した。
 ヴィナは明らかに異様なオーラを醸し出す幸に一瞬、驚いたようだったが、何か思いついたのか。静かに首を左右に振った。
「…怒った奥さん達の方が怖いし」
 幸よりも怖いというヴィナの「奥さん」とは如何なる人物なのだろう…。
 そして普段、ヴィナがそんな怖い奥さん達にどんな扱いを受けているのか。知りたいような、知りたくないような…。
 話を聞いているだけでは、鬼のような人物しか浮かばないのだが、ヴィナにとっては可愛い恋女房なのだろう。
 ヴィナが突然、相好を崩した。
「そんなところも可愛いけど!」
「え?! 私?!」
 ヴィナの言葉に、驚いた幸がポロリ…と手にしていたメスを取り落とした。
 男のような形をしていても、幸だって年頃の娘なのだ。
 二人の嫁を持つ百戦錬磨の色男が、幸の変化を見逃すわけがなかった。
「あなたも可愛いけど。僕にとって一番可愛いのは奥さん達だから〜」
 ヴィナは幸に向かって投げキッスを飛ばすと、脱兎の如く逃げ出した。