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リアクション
「ふふふ……あなたかわいいわ……ぁん、あなたのことも好きよ……」
どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)は、女生徒達を周りにはべらせてご満悦だった。手には大きな深皿を持っていて、中にはスープがたっぷりと入っている。
(ふぅん、案外、占いってのも馬鹿にできないなあ)
雑誌の占いに外出先で新しい恋と出会えるとあり、試しにイルミンスールに来てみたのだが大正解だった。
でも、可愛い女の子をもっともっと惚れさせたい!
更なる勢力拡大を図るため、どりーむは深皿片手に校内を歩く。好みの女生徒を見つけて近付き、言葉巧みにスープを口に送り込む。
「なんかヘンな細菌がみんなをおかしくしてるらしいわっ! 解毒剤をみんなに配ってるのっあなたも一応一口飲んでおいてっ!」
こくん、と女子の喉が鳴る。10センチくらい離れて様子を見るどりーむ。だが突然、近くで光術が炸裂して彼女は目を閉じた。
「まぶしっ!」
次に目を開けた時にどりーむの視界に入ったものは、たった今ホレグスリを飲ませた女子と見つめ合っているクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)の姿だった。
「さあ、今日からあなたも俺のファンです! 会員ナンバー10番を差し上げましょう!」
「ちょっと!」
当然の権利として抗議するどりーむだったが、クロセルは既に他の女の子の眼前へと移動している。対象は、悉く薬を飲まされた直後の女子だ。手持ちのホレグスリはとっくの昔に無くなっている。
「人の獲物、横取りしないでよーーーーーーー!」
「どりーむちゃん……」
怒るどりーむに、後ろからかなしそうな声が掛かる。
「だ、だめだよ……そんな心を操っちゃう魔法なんて……いけないよ〜」
「あっあっ、泣かないで……」
半泣きのふぇいと・てすたろっさ(ふぇいと・てすたろっさ)の頭をどりーむは慌てた素振りで抱え込み、やさしく撫でた。
「ふぇいとちゃんのことも好きだから……ねっ! いつも側にいてくれて、あたしのことわかってくれて、あなたが一番好きよ……たっぷりかわいがってあげるから覚悟なさい……」
「うん……ねえどりーむちゃん……」
「ん?」
「えいっ」
ふぇいとは、一気に顔を上げるとどりーむに口付けした。そのまま上に被さり、口に含んでいたホレグスリを流し込む。飲み込んだことを確認したところで、唇を離す。
「…………」
どきどきして見守るふぇいとだったが……
「ちょっと、早く降りてよ。上になるのは、あたしの方でしょ?」
「え? なんともないの?」
「もともと好きな相手には効かないんじゃないの?」
しれっとして言うどりーむに、ふぇいとはしばしぽかんとする。そのうち、嬉しさが込み上げてきた。
(……私のことそんなに好きだったんだ……なのに私ったらどりーむちゃんのこと疑ったりして……)
「私のこと好きならなんで他の子に飲ませるんですか〜」
再び涙の珠を浮かべるふぇいとは、起き上がったどりーむに抱きしめられた。どりーむの表情も、今は澄んでいる。
「うん、ずっと側にいるから……だから……」
「クロセル、こっちだ!」
「はいっ!」
シャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)の声に応じ、クロセルは抱えていたマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)を放り投げた。
「わあーーーーっ」
悲鳴をあげるマナを、シャーミアンが確実にキャッチする。次の瞬間、目の前にあるのはどっかの知らん男子生徒の顔。
「……お初にお目にかかる」
「可愛いっ!」
男子生徒が性別を忘れてしまったかのように、マナに抱きついてモフモフする。
(わあ! なんだなんだ?)
マナは混乱していた。校内には熱に浮かされたような足取りで近づいてくる者が一杯いて、不気味以外表現のしようがなかった。寮を出て以降はアチコチで投げられるは、クロセルとシャーミアンが注目を集めようと奇行に走るは、虚ろな目をした連中で校内が溢れかえっているわで、ワケが分からない。
自称お茶の間のヒーローであるクロセルにとって、スキャンダルはご法度である。しかし、ファンは別だ。手持ちのホレグスリが少ないクロセルは一計を案じ、薬を飲ませた瞬間に割り込んでファンを増やすことにした。女性ファンは自分に、男性ファンはクロセル家のマスコット、マナに。マナが現場に間に合わないようなら、シャーミアンとキャッチボールの要領で投げ合ってご対面させるという寸法だ。今回ばかりはシャーミアンにも異論はないようで、今のところ連携プレイはうまくいっている。
モフモフされるマナを見るシャーミアンの様子がおかしいような気もするが。
「イルミンスールの御当地ヒーローと、そのマスコットには、もっと沢山のファンがいて然るべきなのです!」
軽身功で吹き抜けの高いところまで行き、マントをたなびかせてポーズを取るクロセル。
再び地上に戻り、割り込みを続けようとしたところで――眼前に、美脚……もとい、靴の裏が迫ってきた。
がきんっ!
蹴られた仮面がはずれ、宙に舞う。クロセルはがたつく椅子の上でジャンプすると、無事、床に着地した。
「私より目立つなんて許さないんだからね!」
着地した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、ミニスカートを翻して言う。絶対領域は健在だ。
「それに、これ以上ホレグスリを広げたらとんでもないことになっちゃう! 桃色パニックはそろそろ沈静化しなきゃいけないの!」
人差し指を立てた右腕をびしいっと伸ばし、左手を腰にあてて美羽は胸を張った。
「ほーうなるほど、それなら、俺の作戦は充分に効果的ですよ?」
予備の仮面をつけたクロセルがマントを身に纏わせて格好つける。制服を着たミニスカの少女と怪盗然とした青年の対峙というのはいつぞやのTVアニメを思い出させるがそれは置いといて。
「これからホレグスリを飲んだ人がみんな俺達のファンになれば、騒ぎは万事解決です! そうは思いませんか?」
「え? う、うーん、そうね……」
美羽が少し考え込む素振りを見せたところで、クロセルは畳み込む。
「なんなら、蒼空学園のアイドルとイルミンスールのヒーローでファンの数を競うというのもいいですね」
「そんなのだめですぅ〜!」
その時、ウォーハンマーを持ったメイド2人と、野球バットを持ったメイドが薬を使おうとする生徒を薙ぎ倒しながらやってきた。それぞれの武器には、何やら赤いものが付着している。
3人は、蝶マスクをつけて正体を隠していた。
「謎のメイドソルジャーMですぅ!」
「謎のメイドローグSだよ!」
「謎のメイド剣士Fですわ」
中心に立った謎のメイドソルジャーMが、語る。
「どんな目的であれ、ホレグスリを使うということがいけないんですぅ! 人の心を弄ぶようなお方はみんな成敗ですぅ!」
「とっとと全部破壊するよ!」
「今宵のバットは血に飢えておりますわ」
どこかから「今は昼で夜じゃない」というツッコミが入ったが謎のメイド剣士Fは聞こえないふりをした。
「さあ、狩りの時間ですよ」
この一言を合図に、メイド達が武器を振り上げる。
「え、私も!? ちょ、誤解だって! 私、正義の味方ーーーーー! ……でも、やるならやるよ!」
美羽は華麗な足技を繰り出す。その度に、素面の生徒だけじゃなく惚れ状態の生徒も感嘆の声を上げる。ホレグスリを持っている生徒は区別なく狙われ、この一帯はもう大混乱だ。
「シャーミアン、マナ! そしてファンの方々! 逃げますよ! ……って……あれ?」
ファンの姿が見当たらない。視線を彷徨わせてみると、割り込んで惚れさせた女生徒達は落とした仮面に黄色い声をあげていた。どうやら皆、仮面に惚れていたらしい。
「……元気を出すのだ。今日はクリスマスケーキを作ってくれるのだろう?」
足元からなぐさめてくれるマナに、クロセルはきょとんとする。
「俺、そんなこと言いましたっけ?」
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