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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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第5章 精神を乱す不快な口

「2人と逸れてしまったようですね・・・。こんな広い森の中を、闇雲に探しても見つからないでしょうし・・・」
 綾瀬 悠里(あやせ・ゆうり)は一緒に来たパートナーたちと逸れてしまった。
 彼女たちを探すため歩き出そうとしたその時、草を踏む足音が近づいてきた。
 どこから聞こえるのだろうかと周囲を見回していると、その音は悠里の傍で止まる。
 音が止まった方へ振り返るとそこには悠里と同じ背格好、同じ顔をした人間がいた。
「キミは・・・・・・自分なのか?」
「―・・・えぇそうです、自分の名は綾瀬悠里。忌み子と呼ばれる存在・・・」
 悠里の言葉に、同じ姿をした人物がゆっくりと答える。
「違う・・・自分は・・・・・・」
 平静を保ち、冷静な口調で否定する。
「これを見てもまだ違うと否定できる?紫魂の巫女」
 もう一人の悠里は悠里の言葉を遮り、瞳の色を紅色から紫色へと変え、それを見た悠里は表情に驚愕の色を浮かべてしまう。
「今、悠里の声が聞こえたような・・・。なっ・・・どいうこと!?」
 逸れてしまったパートナーの声が聞こえた千歳 四季(ちとせ・しき)は、怪しく微笑む悠里と驚愕の表情を浮かべ立ち尽くす悠里の姿を見つけた。
「悠里さん、やっと会えました〜。あれ?悠里さんが2人?どういうことなのでしょうか?」
 イエス・キリスト(いえす・きりすと)は状況が分からず、目を丸くしてオロオロとする。
「―・・・ドッペルゲンガーね・・・そう、もう一人の自分よ、一般的には出会ってしまうと近い内に死を迎えると言われてるわね」
 素早く状況を判断した四季が、ヨシュアの傍に行きそっと伝えた。
「本当は復讐したいのでしょ?母をあんな目に遭わせた、自分に酷い仕打ちを行った村人達をその手で・・・さあ思い出して、あの地獄のような日々を」
 何も言葉を発することが出来ない悠里に、もう1人の悠里が傍へ歩み寄り耳元で囁く。
「―・・・っ、悠里さん!大丈夫ですか!!」
「自分に触るな」
 いつもの悠里とは違い、様子のおかしい本物の悠里の元へ慌てて駆け寄り、肩に手を置くが払われてしまう。
 四季もパートナーの傍へ駆け寄る。
「違う、私は復讐なんて望まない。アイツラナンテシラナイ」
 ドッペルゲンガーの言葉に首を左右に振り必死で否定する悠里の姿に、悠里の過去を知っている四季は、もう1人の悠里に何を言われたのかすぐに理解した。
 壊れそうになる悠里に追い討ちをかけるようにドッペルゲンガーは、後ろからそっと抱き締めてヨシュアと四季にわざとらしく聞こえるように言う。
「ウソツキ、片時も忘れた事なんてないくせに、あの悪夢に魘され何度朝日が昇っていくのを見たの?そのピアスも母の形見でしょ?貴女の事一番理解しているのは私よ、だって私は貴女なんですもの。だから貴女の代わって復讐するの」
「復讐は復讐しか生まれません!そんな悲しい負の連鎖に加わらないでください」
 ヨシュアは悲しい表情を浮かべ、ドッペルゲンガーの言葉に反論する。
「悲しい・・・?その悲しみとやらを消し去るために、ナラカに落としてあげましょうか」
 悠里の頭部へ殴りつけようとするロッドを、2人のパートナーがメイスとランスで止める。
「それ以上、悠里に何したら私たちがあなたを倒す!」
「―・・・そうはいかないわ!」
 木の上から状況を眺めていた四季とヨシュアが飛び降り、彼女たちに襲いかかった。
「私たちのドッペルゲンガーですか・・・」
「どうも初めまして」
 ドッペルゲンガーのヨシュアが丁寧に挨拶する。
「そして・・・さよなら!」
 氷雨の笑顔のまま彼女は、本物のヨシュアにチェインスマイトの連撃をくらわす。
「あぁっ!」
「フフフ・・・あなたの力じゃ、私は倒せませんよ?眼の前で大切な人を失う絶望感を味合わせてあげましょうか。あなたはその後で葬ってあげます」
 触れられたくない過去を散々言われ、未だ戦えない悠里の方へゆっくり近づく。
「させません!」
「かかりましたね・・・」
 偽者のヨシュアが振り向き様にランスを向ける。
「恐怖を与えることしか知らないあなたに、私は負けません!」
 手にしているランスで不意打ちを受け流し、得物の上に跳び乗ったヨシュアは、苦しまないように一撃で仕留めた。
「どんなに辛くても、偽者にあげる人生なんてないわよっ!」
 四季も自分のドッペルゲンガーへメイスを叩きつけ倒した。
「悠里っ戦って!」
「悠里さん、自分の幻影に負けてはいけませんっ」
 彼女たちの言葉に答えるように悠里は、惑わすドッペルゲンガーの方をようやく顔を向け雷術を放つ。
「過去に捕らわれてばかりの巫女が、この先を生きていても何も意味がありませんよ」
 軽々と術を避け、偽者の悠里が嘲笑する。
「意味ならあります」
「逃げ道だけの理由なら聞くに値しませんよ?」
「―・・・自分が生きる理由・・・それは彼女たちと共に生きていくことです!」
 全ての魔力を放出し、氷術でドッペルゲンガーの身体を凍りつかせ、ロッドで叩き壊した。
 微笑かける四季とヨシュアに、悠里は微笑み返し、ゆっくりと彼女たちの元へ歩いていった。



「オメガ様見つかりませんね」
 風森 望(かぜもり・のぞみ)は光精の指輪で光源を確保して屋敷から連れ去られた魔女を探していた。
「あら、知的で凛々しいヴァルキリーがいますわね」
 自分とそっくな姿をした存在が後をつけているのに気づき、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)は振り向き様にうっとりと見つめて言う。
「ええ、恥的なヴァカキリーとは雲泥の差です」
 さりげなく望みが毒を含んだ言葉を吐く。
「当たり前ですわ。いくら同じ姿だからといって、あなた方と一緒に思われては困りますもの」
「一刻も早く、この見苦しい存在たちを壊しましょう」
「うふふふふ、それでこそ、ぶん殴りがいがあるというものです」
 本物の望よりさらに毒づく彼女たちに得物を向け、望は微笑みながら殺気を放つ。
「ヴァカキリーだのヘボキリーだの・・・・・・誰が主人かその身に刻み付けて差し上げますわ!」
 望の言葉を根に持ち、ドッペルゲンガーの望にその怒りをぶつけ、グレートソードで斬りかかる。
「普段よりもキレがありませんわよ?」
「簡単に倒したらつまらないですから。ちょっと手抜いてあげているんです」
 ニコッと笑いかける偽者の望に対して、ノートは不愉快そうに眉を潜める。
「主人のわたくしに逆らうと、どういう目に遭うか思い知らせてやりますわっ」
「あなたが私の主人ですって?冗談はお顔だけにしてください」
 薙刀で斬撃を受け流し、クスクスと笑う。
「―・・・わたくしの逆鱗に触れましたわね・・・。いいでしょう・・・頭から真っ二つに斬り裂いてあげますわ!」
 バーストダッシュでいっきりに間合いを詰め、ツインスラッシュの剣圧を飛ばす。
「本物ほど腹黒くありませんでしたわね」
 頭から真っ二つに斬り裂かれたドッペルゲンガーの死骸が土の上へドンッと落ち、裂け目から真っ赤な血が流れ出る。
「向こうはもう片付いたようですから、こちらも終わらせましょう」
「終わるのはそちらかもしれませんわよ?」
「着替えは散らかしっぱなし、毎度毎度の摘み食い、フォローに回るこっちの身にもなってくださいっ!」
「あら?わたくしでしたら、そのようなはしたないことはいたしませんわ。どうですか?そのヴァルキリーとわたしくを代えてみては」
 スウェーで薙刀の刃を逃れながらドッペルゲンガーのノートが提案する。
「それもいいですね」
「ちょ・・・ちょっと!それ本気でっているんですの!?」
 離れた位置からノートが非難の声を上げる。
「でもまぁ、アレでもまっとうな心はあるんです。なのでその申し出はお断りさせていただきます」
 偽者のノートと間合いを取り、光精の指輪で目くらましをくらわす。
「くぅっ!小細工を使うとは卑怯ですわっ」
「いやですね。成功法と言ってください」
 薙刀の刃で偽者のヴァルキリーの胴体を断裂させた。
 無残に転がる死体から背骨の断面が見える。
「全く、余計な手間をかけさせるのは本物と同じですね」
 望は絶命した亡骸を見下ろし、ふぅと深いため息をついた。



「(ここに新たな研究材料があると聞いて来てちゃいました。どこにあるんでしょうかね、フフフ・・・)」
 クリスタルの破片を研究材料にしようと、島村 幸(しまむら・さち)は目の色を変えて周囲をキョロキョロと見回す。
 合わせ鏡から遠野 歌菜(とおの・かな)たちと共に、ドッペルゲンガーの森へやってきた。
「勉強熱心なイルミン生徒を危険な目に合わせるやつはどこのどいつだ!」
 一方パートナーのアスクレピオス・ケイロン(あすくれぴおす・けいろん)は、イルミンスールの生徒を被害に合わせた者に怒りを顕にする。
 幸たちと逸れないように、一緒に来たブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)の服の裾を掴む。
「他の生徒たちのドッペルゲンガーもいるんですよね幸姐さん」
 逸れてドッペルゲンガーと遭遇しないように、手をつなぎながら進む。
「えぇ、手強い相手もいそうですから気をつけましょう。急に霧が発生しましたね・・・。視界が悪い・・・皆、逸れないように気をつけてください」
 突然発生した濃い霧に視界を阻まれ、幸は森の奥へ続く道を見失わないように目を凝らす。
「歌菜・・・絶対に手を離さないでくださいね?」
「離しませんよ幸姐さん、絶対に・・・」
「もしも逸れてしまったら大変ですからね」
「絶対に・・・絶対に離しませんよ」
「―・・・か・・・歌菜?」
 ギリギリッと強く手を握られ、いつもの歌菜と違う雰囲気に違和感を感じた幸は、ゆっくり彼女の方を見る。
「私の美しい幸姐さん、私だけの姐さん・・・もう絶対に離さない」
「あなた・・・私が知っている歌菜ですか?」
「幸姐さんの知っている私は、私だけですよ」
 にこっと笑いかける笑顔を裏腹に、握り締める手の力は異常だった。
「なら私の質問に答えれますよね。写し切れないものって何ですか?」
「写し切れないもの・・・?何でしたっけ、教えてください♪」
「―・・・あなた偽者ですね」
 森の中で彼女たちと決めていた合言葉を答えられなかった者から手を離す。
「私ですよ、遠野歌菜です」
「違います・・・私が知っている歌菜とはまったく違います」
 超感覚によってそれは幸が知っている存在ではないと判断した。
 どうやら霧が発生した時に入れ替わってしまったらしい。
「なんでですか?私は私・・・何も違いませんよ。さぁもう一度手をつないでください。幸姐さんはぜぇーんぶ私の物です、誰にも渡したくないんです」
「お断りします」
 笑顔で片手を差し出す彼女に、幸は強い口調できっぱり断る。
 下卑た笑い声に幸は不愉快そうに顔を顰めた。
「で・・・それで私のかわいい歌菜をまねているつもりなのですか?笑わせてくれますね」
「そう・・・私の物になってくれないんですか」
「嫌ですね」
「だったら殺して奪いますね♪」
 ドッペルゲンガーの歌菜が、ハルバードを手に襲いかかる。
「殺した後ちゃんときれ〜いに、剥製にしてあげますから」
「うぅっ」
 光条兵器でなんとか防ぐものの、相手のパワーに押し負けそうだった。
「幸姐さん・・・死んで永遠に私の物になってくださいよ。・・・あっははは♪」
「まるで人形が欲しいような言い方ですね」
「だって言うこと聞いてくれないならそうするしかないじゃないですか?それに私、もう1人の幸姐さんと一緒にここから出るんです。だから眼の前にいる幸姐さんは、観賞用でもいいかなーと思って♪」
「それ以上喋らないほうがいいですよ」
 人間を物のように扱う言いように、幸は底知れぬ怒りを覚える。
 轟雷閃の雷光を光条兵器に纏わせハルバードを砕き、忌まわしき存在を真っ二つに斬り裂く。
「偽者の歌菜が現れたということはもう1人の私も・・・。歌菜ーっ、どこにいるんですか!?返事をしてください、歌菜ーー!!」
 必死に呼びかける声は真っ白な霧に飲まれてしまい彼女へ届かなかった。



「うーん前がよく見ない・・・何でしょうねこの霧」
「人為的に作られたヤツかもしれませんよ?」
「えっ・・・そんなこと可能なんですか?」
 歌菜は傍らで呟くように言う幸の方を見て首を傾げる。
「だって・・・・・・私が氷術と火術で作り出したんですから」
「どういうことですか・・・それ」
 ピタッと足を止め、彼女は顔を強張らせて幸から離れた。
「ねぇ幸姐さん、写し切れないものって何だと思います?」
「そんなこと聞いてどうするんですか」
「答えてください・・・」
 ドッペルゲンガーかどうか確認するために、幸たちと決めていた質問に答えようとしない眼の前の彼女を警戒し始める。
「―・・・賢さですか?」
「違います・・・幸姐さんじゃないですね」
「フフフ・・・この姿に相応しいことを思い浮かべて答えてみたんですけど、間違えてしまったようですね」
 メガネをかけ直し、ドッペルゲンガーの幸はクスリと笑う。
「何のために霧を作り出したんですか・・・」
「あなたたちを分断するためですよ。その方が仕留める確立が上がると思いましてね」
「私たちになり代わろうということですか」
 ハルバードを握り締めて睨みつける歌菜に、もう1人の幸は無言で頷く。
「幸姐さんはもっと素敵です!あなたはその代わりになれない・・・絶対に!」
 確実に仕留めようと、首から上を狙いハルバードを振り回す。
「おやおや・・・接近戦に持ち込んでいいんですか?」
「えっ・・・」
 小さく声を上げた瞬間ドッペルゲンガーがハルバードを掴み、氷術をかけ凍らせていく。
 このままでは得物を握っている手まで凍らされると重い、ぱっと得物から放してしまった。
「逝きなさい!」
 真っ二つにしてやろうと妖刀村雨丸を振り下ろす。
「そう簡単に倒されてたまるもんですかっ」
 歌菜は刃から間髪避け、相手から得物を奪い返した。
「闇を照らせ、我が光よ!」
 標的へ光術を放つ。
「(―・・・やったかな?)」
 ありったけの力を込めて放ち、偽者の幸の姿が見えなくなった。
「早く幸姐さんと合流しないと・・・」
 彼女はふぅっと力を抜き、探しに行こうと氷の破片を踏み顔を上げた瞬間、何者かに背後から腕を掴まれる。
「あなたの力はそんなものですか?」
「しまったっ・・・あぐっ!」
 倒したと思った相手に不意を付かれ、刀の刃を喉元に突きつけられてしまう。
 歌菜が術を発動させたのと同時に、火術と氷術で霧を発生させて薄い氷の壁に自分の姿を映し、囮にして逃れていた。
 踏んだ氷の破片はその時に砕いたものだった。
「歌菜ー!どこにいるんですか、歌菜ー!」
 本物の幸が歌菜を探して叫ぶように声を上げて呼びかける。
「幸姐さん・・・幸姐さん来ちゃ駄目です!!」
 囮にされると思った彼女は来てはいけないと叫ぶ。
「あぁ歌菜・・・・・・そんなところにいたんですか」
「来ちゃ駄目ぇえっ」
 ようやく探し出した彼女の喉元に、鋭利な刃が突きつけられていた。
「誰が私のかわいい歌菜を酷い目に遭わせているのかと思ったら、よりによって私と同じ姿をした者ですか」
「私の歌菜を殺したんですね・・・」
 鮮血のついた幸が手にしている光条兵器へ視線を当て、もう1人の幸が憎々しげに言う。
「可哀想な歌菜・・・どんな怖い思いをして死んでしまったのでしょう」
 刀を持つ手を震わせながら、ぽろぽろと涙を流す。
「今からあなたにも、その悲しみを味わってもらいます。さて・・・そこから解剖してあげましょう。その綺麗な目を抉りましょうか?それとも心臓を引きずり出してあげましょうか・・・」
「歌菜を離しなさい!」
「私から大切な者を奪っておいて、今更なんですか?」
「そ・・・それは・・・・・・」
 敵とはいえ大切な存在を奪ってしまったことに、幸は顔を俯かせてしまう。
「絶望の海に沈みなさい♪」
「やめて・・・やめてくださいー!!」
「あーっははは♪逝ってしまぇええ!」
 歌菜の喉を突き殺そうとしたその瞬間、ドッペルゲンガーの幸の腕がボトンッと草の上へ落ちた。
「なっ何事です!?わ・・・私の腕がぁああっ」
 アスクレピオスのヒロイックアサルト、水蛇が偽者の幸が刀を持つ片腕を噛み千切った。
「なんとか間に合ったようだなっ」
 ハーフムーンロッドで片手をトントンと叩き、覆い茂る草むらの中からアスクレピオスが姿を現した。
「大丈夫か?歌菜・・・」
 隙をついてブラッドレイが敵の腕の中から歌菜を助け出す。
「―・・・えぇなんとか・・・」
「傷を負っているようだな。俺が治してやろう」
 首元の刀傷をヒールで治してやる。
「そんな水蛇ごときでこの私が倒せるとでも!?」
「あぁ、簡単にな」
 刀を拾い上げ、向かってこようとする彼女に、アスクレピオスは勝ち誇ったようにニッと笑う。
「ではその身に恐怖を刻んであげましょうっ」
「やってみろよ。まぁ出来ればだけどな」
「わ・・・私の身体の中に何かが・・・ぁあっ・・・・・・うぁああ゛ーー!!」
 1匹の水蛇に腕を食い千切らせ、残りの蛇を体内に侵入させて中を食い荒らさせたのだった。
「2人に質問です。写し切れないものとは何ですか?」
 ドッペルゲンガーかもしれないと警戒し、幸は光条兵器を構えたまま、アスクレピオスとブラッドレイに合言葉の質問をする。
「それは智だぜ!」
「俺の答えは仲間との絆だな」
 本物だと分かり、幸と歌菜はほっと安堵する。
「幸姐さん、あっちに何かあります」
 術で作り出された霧がようやく晴れ、歌菜が指差す方を見ると50cmほどの淡い水色のクリスタルが、宝石のような美しい輝きを放っていた。
「綺麗ですね・・・宝石のようですが、まったく違う素材のようです」
 幸が触れてみようとすると、クリスタルは漆黒の色へと変わった。
「どうして突然色が・・・?」
「何かを恐れて変った感じだな」
「ピオス先生・・・それって私が怖いということですか?」
「いや、そういうことじゃねえよ!誰かに触れられるのが怖い・・・っていう感じだな」
 アスクレピオスが触れようとすると、クリスタルは闇色の光を放った。
「とりあえず破壊してしまおう」
「そうねレイ」
 ブラッドレイに促され、歌菜はハルバードを握る。
「粉々に砕けて無くなれ!貫け、私の閃光っ」
 轟雷閃でクリスタルを粉々に破壊した。
「あぁっ!私の研究材料が〜」
 破壊されたクリスタルは破片すら残らず、消えていく研究材料を見ながら幸は悲しそうな声を上げた。
「ごっごめんなさい、幸姐さん!」
 しょんぼりする幸に歌菜が必死に謝る。
「(破片すら残らないのは妙だな・・・歌菜は幸が欲しがっているのを知っているはずだ。跡形も残らないなんて・・・)」
 クリスタルのあった場所の前にしゃがみ込み、アスクレピオスはそこを睨むように見つめる。
「まるでここに何もなかったかのような・・・・・・儚く消える物・・・。儚く消える物といったら何だろうな・・・」
「何やってるんですかピオス先生!早く他のも壊しに行きますよ!」
 まだ研究対象にできる鏡が残っていることを思い出した幸は、元気を取り戻した。
「んっ・・・あぁ」
 アスクレピオスは疑問を残しながらも、パートナーの幸に呼ばれその場を離れていった。