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リアクション
15:10 聞こえる悲鳴は誰のもの
丁度そのときだった。
超感覚をもってこの調査に挑んでいたメンバーが、急に身をうずくまらせてしまったのは。
「どうしたんだ!?」
アリシア・クリケットはふわふわのピンク色の髪を鷲づかみにしながら蹲ってしまった。浅葱 翡翠はすぐに駆け寄るが、パートナーの顔は苦痛にゆがんでいた。背中をさすり、幾度も問いかけるが、頭を振って何かを振り払おうとしているようだった。
「変な音、ずきずきする……」
「タマ! どうしたんだ!?」
「うううぅ……わんわんっ」
「わんわんわん!!」
「わおぉーーーーんっ!」
レイヴン・オーヴィルから預かった獣達も一斉に吠え出した。小鳥遊 美羽と久世 沙幸が驚いていると、バサバサっと音がして空を見た。先ほどまでオブジェだったと思っていた蝙蝠が動き出して飛び交っているのだ。壁にぶつかり、そのまま大地へと転落していった。藤原 和人も大慌てでタマをなだめようとする。そんな中、霧雨 透乃は犬達とならんで四つんばいになると真横で遠吠えをまねしていた。
「透乃ちゃん! 恥ずかしいからやめてって!」
「わおわおーんっ……って、あれ? みんな鉱山に向かって吼えてるよ?」
「沙幸さん! ミュージックを!」
「はい、美海ねーさま!」
「手伝うよ!」
すぐさまヒーリングミュージックを流し、犬達の鳴き声がわずかに治まっていった。それでも治まらないのは、どうやら鉱山により近い場所にいる動物達のようだった。
九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )が手にしていた水晶球に、虹色のきらめきが発生する。マネット・エェル( ・ )はそれをうっとりとした様子で見つめる。
「綺麗なのです〜☆」
「どうやら、騒音の原因が動き出したみたいね」
「それだけじゃないわ」
九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)の言葉に、九弓・フゥ・リュィソーはゆっくりと瞼を閉じながら言った。足元にわずかながら感じる振動も、水晶球には二本目の虹として発生した。
「もう一つ、動き出したみたいよ」
口元を歪める姿は、まるでこの騒動の全てを知っているかのようだった。
「始まったか」
「え? え?」
「そのようだね」
四条 輪廻と高村 朗は互いに顔を見合わせると、急に駆け出した。アリス・ミゼルは何がなんだかわからずに「もおお!!」といってその後を必死に追いかけ始めた。
「九頭切丸!?」
ボタルガ付近まできて待機していた水無月 睡蓮は鉄 九頭切丸が急に動き出したのをみて驚きの声を上げた。だが、ケイラ・ジェシータに止められ、彼が進むままに任せてみた。案の定、ボタルガに向かって歩いていくようだった。 意識を取り戻さない程度に後を付けていると、閃崎 静麻(せんざき・しずま)、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)の二人が飛空挺で到着したのが見えた。
「あれれ? 夜に動くんじゃなかったの?」
「なにやら動きがあったようですな。後は気をつけて」
閃崎 魅音(せんざき・みおん)とクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)は、閃崎 静麻たちを見送ると、すぐさまその場を離れてしまった。レイナ・ライトフィードが水無月 睡蓮たちに気がつくと、駆け寄って微笑みかける。
「機晶姫を調査している方たちですね。応援に参りました」
「ま、俺たちの本命はあれなんだけどな」
そういって指差した先には、蒸気を勢いよく吐き出しながら走る、蒸気機関車が見えた。一体どこから出てきたのかわからないくらい、目視できるところを走っていたのだ。鉄 九頭切丸は列車に向かってまっすぐ走っていた。列車に併走していると、そのうち扉が開いて、そこに飛び乗っていくのが見えた。
「あれが、噂の幽霊列車か?」
「ああ。それと、アレにあんたらのパートナーは乗る気らしいな」
「……そのようです」
固唾を飲み、水無月 睡蓮は無意識に顔のタトゥーを撫でる。目を閉じて、心の中でパートナーへ必ず助けることを誓うと、ケイラ・ジェシータの手をとった。
「いきましょう! みんなを助けに!」
「ああ!」
機晶姫を探しているメンバーは、ボタルガ鉱山が怪しいという情報を受けて旧ボタルガの町から、線路沿いに鉱山の中へ入ろうとしていた。
「ここか?」
ゲー・オルコットは先頭を切って鉱山へと入ろうとしていた。本心は「あわよくば、攫われた機晶姫を仲間に」なので誰よりも早く中に入りたかったのだ。ドロシー・レッドフードも後ろについて入っていく。灯りは魔法で灯されている様子で、カンテラは必要なさそうだった。ただ、道が入り組んでおりどこから手をつければいいのかさっぱり分からない状態だった。
「ううむ、困ったなぁ……地図がないと危なっかしくては入れない」
「必要ないわ」
クコ・赤嶺が前へ進み出る。スン、と鼻を利かせると迷うことなく入り組んだ洞窟に入っていく。赤嶺 霜月はその後を追いかける。
「大丈夫なのか?」
「アイリスの香りだもの。間違えるわけがないわ」
にっこりと笑う隻眼の獣人の言葉を信じ、その後をついて歩いていった。だが先頭を進む彼女の顔は、苦痛にゆがめられていた。
数分歩くと、わき道から声と数人の足音が聞こえた。
「よし、抜けた!」
「皆さん、足元に気をつけてください!」
掛け声をかけながら出てきたのは、六本木 優希と一式 隼だった。ルーシー・ホワイトはリシル・フォレスターに肩を借りなければ歩けない状態となっていた。
「どうしたんだ?」
「なんか、嫌な音が鳴り出したのよ。耳鳴りがして頭が痛いわ」
エース・ラグランツの問いかけに、ルーシー・ホワイトは苦笑しながら答える。エオリア・リュケイオンは少しでも痛みをやわらげられるように、とヒールをかける。六本木 優希が地図を差し出して、影野 陽太がしるしをつけて現在地を説明すると、クコ・赤嶺も素直に頭痛を訴えてヒールを要求した。集中して嗅覚で追うことすら困難な状態に陥っていたのだ。
「影の中から、黒いスライムが湧き出してくることがある。気をつけろ」
「たいして強くはありませんから、地道に潰していけば大丈夫です」
ヴィンセント・シルバーバーグとアナスタシア・グランシェリがそう呼びかけながら、あたりを警戒する。先ほどの大群の後は出てくる様子がない様だったが、気を抜けない。特に薄暗い場所を行くときは足元と壁に注意を払って奥に進んでいった。
15:30 眠る客車
旧ボタルガの無人駅では、待ってましたとばかりに箒を構えた者たちがいた。
「やっと出たわね、幽霊列車!」
「それにしても、本当にどこから出てきたんだ?」
五月葉 終夏(さつきば・おりが)が眼鏡を光らせている横で、ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)も箒にまたがり、蒸気機関車を追いかけ始める。その後をファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)も箒にまたがりジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)を連れて追いかけ始めた。
「ジェーンさん、あの列車を調べるであります!」
「今日も、かわいこちゃんは乗ってるみたいじゃのぅ〜」
列車の窓の中には、やはり眠っている少女(男性も混じっていたのだが)が多く乗っていた。誰もが列車の中で熟睡している様子だった。邪魔されることなく道明寺 玲(どうみょうじ・れい)とイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)は列車に飛び乗ることができた。風によって乱れてしまった銀髪を手櫛で整えると、道明寺 玲は辺りを見回した。客車はもう少し前のようで、ここは貨物室のようだった。誰もいる気配はなく、荷物も何も乗っていなかった。
「……これは蒸気機関で動いているようですね」
「そうどすなぁ……こないに古い列車、麿もはじめて見ますわ」
柔らかな金髪を同じく手櫛で整えると、イルマ・スターリングは褐色の指でものめずらしげに列車の中を触れて回っていた。客車を目指して先に進むと、客車には数人の機晶姫たちが窓側に座らされており、苦しげな表情で瞼を閉じていた。その中には鉄 九頭切丸もいた。
「ううん、おかしいですなぁ……誰も起きへんよ?」
「無理やりたたき起こすのも、彼女達に失礼でしょう。まずは、この列車を動かしている誰かに伺うとしましょうか」
「全く同感じゃな」
客車で女の子達を舐めるような視線で愛でていたのは、ファタ・オルガナだった。だが、先ほどまで奇声を上げていたジェーン・ドゥが客車の座席に座り込み、うずくまってしまった。
「む? どうしたのじゃ?」
「……ジェーンさん、なんだかとても疲れたであります……」
「休ませてやったほうがいいかもしれないぜ」
同じく乗り込んでいた夢野 久(ゆめの・ひさし)は、黒い手をジェーン・ドゥの額に当てる。熱があるわけではなさそうだが、呼吸が荒くなり、とても苦しそうなのが目に見えていた。
「ルルール、なにか薬とか持ってないか?」
「ああん、寝てる美少女がこんなにいるなんて、なんでもシたい放題ヤりたい放題じゃないのぉ〜♪」
「このエロ魔女!!! まじめに働けよっ!」
金髪の魔女、ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)身を捩じらせながら眠る機晶姫たちの頬を指先でつついて何かを妄想して楽しんでいたが、夢野 久に怒鳴りつけられて、しぶしぶとジェーン・ドゥの側による。やらしい顔つきになるのもすぐににらまれて押さえ込むと、短くヒールを唱えた。
「ううん、ジェーンさん、少し元気になったであります」
「ふむ、何かおかしいな」
佐野 豊実(さの・とよみ)はジェーン・ドゥの変化を見て唸り声を上げる。
「何がおかしいんだよ?」
「……ここの機晶姫たちは、何故目を覚まさないのでしょうか?」
「忘れたの? ボタルガの町から今朝どんな依頼があったか」
「あの騒音の原因が関係しているのか?」
「ま、わからないけどね」
突然、客車の乗車口が開いて一人の女性が飛び込んできた。赤い髪に褐色の肌をした、百合園女学院の制服をまとう機晶姫だった。
「む、なんじゃ?」
「……え、あ、あの……」
ルーノ・アレエは困惑した表情でその場にいるメンバーを見つめ返した。何かにピン、ときたファタ・オルガナは、ルーノ・アレエに手を差し伸べて客車に引き上げる。
「おぬし、ルーノ・アレエじゃな?」
「なぜ、私の名前を……」
そういうと、ファタ・オルガナは懐から1枚の紙と、旧式のデータボードを取り出した。でこぼこした突起に情報が書き記されており、ある機械に入れるとデータが読み込めるようになる代物で、レコードやオルゴールなどに近い代物だった。それは、歩いてここへ向かう途中、なくしてしまった地図と手紙だった。
「助けを求める乙女がおるならば、わしは助力を惜しまぬぞ?」
「あらら、あなたがルーノ・アレエ? やーん、なかなかいいスタイルしてるじゃな……」
「エロ魔女は引っ込んでろ」
夢野 久に邪魔されてルルール・ルルルルルは口を尖らせておとなしくなった。いつもどおりの掛け合いに苦笑していた佐野 豊実は、ふと窓の外を見た。無人駅が近づいているのにもかかわらず、何故かスピードが落ちないのだ。
「……ねぇ、暴走族達は無人駅で一旦とまったって言ってましたよね?」
「ああ、それがどうかしたのか?」
「止まらないんですが……?」
その言葉が言い終わる前に、窓の外の景色の流れの一つに無人駅が数秒間だけ映し出されていた。
「あの列車か!?」
「やっぱり、ボタルガの列車みたいだなっ」
国頭 武尊とラルク・クローディスは、突然聞こえた汽笛に大急ぎで無人駅へとやってきていた。メイベル・ポーターやミューレリア・ラングウェイ、本郷 涼介も駆けつけるが、列車の勢いは納まらないようだった。百合園から駆けつけた仲間もそこにいた。真っ先に駆けつけた二人は、互いに顔を見合わせて声を張り上げた。
「いいか、相手が幽霊じゃないなら飛び乗れるはずだ!」
「飛べるやつは箒で、それ以外は一発勝負だ!!」
無言で頷くと、おのおのの方法で列車に飛び乗ることに成功した。
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