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空に轟く声なき悲鳴

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空に轟く声なき悲鳴

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17:00 誰もいない機関室






 
「止まらない事は、計算済みさ」

 五月葉 終夏はにやりと笑った。機関室には誰もおらず、ボイラーは真っ赤になっていた。ニコラ・フラメルは知っていたような口ぶりに首をかしげた。

「何でそう思ったんだ?」
「この列車が、魔法で隠されていたから、ですか?」

 道明寺 玲が機関室の扉を明けがてらそういうと、五月葉 終夏は頷いた。

「魔法で姿を消していたのに気がついたのはさっき。大方、人目に付かせるために無人駅に一旦停車したんだわ」
「今日は何故止まらないんだ?」
「私が……乗っているからです」

 同じく機関室の扉を開けたのは、ルーノ・アレエだった。その後ろには、夢野 久らがいる。

「ボタルガの炭鉱まで、運んでもらわないといけないんです」
「たったそれだけのこと、何でわしらに頼まんのじゃ!!」

 聞き覚えのある怒声に、ルーノ・アレエは驚いて振り返った。そこにいたのは、ガートルード・ハーレックのパートナーで兄貴分のシルヴェスター・ウィッカーだった。その後ろには、同じ学び舎で時を過ごした仲間がいた。怒り、あるいは悲しげな表情を向けられて、申し訳なさで胸がいっぱいになった。

「兄貴、ヴァーナー・ヴォネガット、ロザリンド・セリナ、フィル・アルジェント、シェリス・クローネ……」
「どうして頼ってくれなかったんですか?」
「ボクたち、ルーノおねえちゃんの親友ですよね!?」

 フィル・アルジェントは進み出ると、無言のままルーノ・アレエを抱きしめた。泣き出しそうになるのを堪えているのがわかり、ルーノ・アレエは背中に手を回して震える身体をさすった。その二人を、さらにカチュア・ニムロッドが抱きしめた。その暖かさに包まれて、しばし目を閉じていた。

「ごめんなさい……また、私は皆に助けられてしまった」
「まだ、終わりじゃないけどな」

 緋桜 ケイは機関室の窓から、その行く先を眺めながら言う。鉱山は目の前に来ているというのに、スピードが落ちる気配はもちろんなかった。

「鉱山の中から聞こえる超音波、無人の列車、目が覚めない機晶姫……謎はまだ全部解けてないんだ」

 ルーノ・アレエは緋桜 ケイの言葉に力強く頷いた。
  
「無理じゃな。操縦用のパーツは動かぬ」
「魔法がかかっとるようどすなぁ……ただ、これでは麿たちではどうにもできまへんなぁ」

 悠久ノ カナタの言葉に、イルマ・スターリングが言葉を付け足す。操縦用のパーツの上から何か魔法陣のようなものが無理やり覆われていて、それをはずすための術式を探し見つけるのが先か、終着駅で爆発するのが先か、どちらかといった状態だった。

「そこで、私に任せてほしいのだよ」

 五月葉 終夏はにんまりと笑っていた。アシャンテ・グルームエッジは携帯電話を閉じると、御陰 繭羅に目線を送って合図した。

「彼女に任せて、降りる手段を探したほうがいいかもしれないね」
「いい、のですか?」
「やってみたいことがあるからね。むしろ、試させてくれるだけでもうれしいから気にしないで」

 ルーノ・アレエは深々とお辞儀をすると、客車に他のメンバーと共に戻っていった。五月葉 終夏は、最大級の氷術を放つために精神集中を始めた。

「タイミングは、よろしく」
「任せておけ」
 
 ニコラ・フラメルは眼鏡をくいっとと持ち上げて微笑んだ。客車に戻ったルーノ・アレエたちだったが、幽霊列車を調べていた仲間以外にも新しく乗り込んだ仲間がいるのに気がついた。ケイラ・ジェシータ、水無月 睡蓮、閃崎 静麻とレイナ・ライトフォードだった。彼らは眠っている黒い鎧尽くめに見える機晶姫、鉄 九頭切丸を起こそうと躍起になっていた。

「なんで? 九頭切丸!!」
「明らかに様子がおかしいよ……なにか、機晶姫によくないものがこの中にもあるんじゃないかな?」

 ケイラ・ジェシータの言葉に、閃崎 静麻とメイベル・ポーターが貨物車両への扉へ向かって歩き出した。

「お、なんだ。あんたらもわかってたのか?」
「ふふふ、もう目星つけてあるんですよぉ〜」

 のんびりとした口調のメイベル・ポーターより先に進み出て、閃崎 静麻は貨物車両の扉を開けた。そこには麻布に被った何かが多数置かれていた。麻布を乱暴に引き剥がすと、これまた魔法文字が刻み込まれた装置がおかれていた。

「乗った機晶姫たちが目を覚まさなかったのは、機晶石からエネルギーを吸い上げる装置があるんじゃないか、そう思ったんだよ」
「私もですぅ〜、実際に乗っているところを確認するまではなんともいえなかったのですが〜、単純に眠らされた機晶姫さん達が昼過ぎまで意識がなかったことを考えると、恐らくは力を吸い上げられていたのではないかと〜」

 そう説明しながら、互いに武器を持ち出してその装置を叩き壊そうとするが、魔法文字がシールドの役割も果たしているらしく、一筋縄ではいかないようだった。

「なら、任せてもらえるか?」

 斎藤 邦彦は無精ひげを触りながら、魔法文字に臆することなく触れた。ネル・マイヤーズが驚いた様子でそれを見守っていた。

「ふむ、魔法に詳しいやつ、ちょっと手伝ってもらえるか?」
「そやったら、麿がお手伝いいたします〜」
「わしも手伝おう」

 イルマ・スターリングとシェリス・クローネが進み出ると、斉藤 和彦と少し話し合い、イルマ・スターリングがまず魔力を装置に注ぎ込む。後からまた違う魔力をシェリス・クローネが注ぎ込むとそのうち、硝子が割れるような音がした。すかさずピッキングのスキルを使ってすばやく中身を取り出した。取り出したコアのような箱をネル・マイヤーズに向かって放り投げると、彼女は自らの武器で速やかに破壊した。

「うおおおおおお!! ジェーンさん! 身体が軽くなったであります!」
「おお、そうかそうか。それはよかったのぅ」

 ファタ・オルガナははしゃぐパートナーの頭をよしよしと撫でてやる。そのうち、客車で眠っていた機晶姫たちが目を覚まし始めた。

「ううん、ここは?」
「あれ? 何でこんなところに……」
「……………」
「九頭切丸!!」
  
 水無月 睡蓮は身体を起こした鉄 九頭切丸に押し倒さんばかりの勢いで飛びついた。だが、まだ意識が朦朧としているのか反応が鈍かった。

「この列車に乗っている負荷は取り除けただろうが、元凶はこいつじゃないんだろ?」

 斉藤 和彦の言葉に頷いたのは、アシャンテ・グルームエッジだった。口の動きは小さいが、それでもしっかりと聞き取れる声で彼女は言った。

「……恐らく、ルーノが呼び出された場所にあるはず」

 窓の外は、既に鉱山の入り口に差し掛かっていた。ニコラ・フラメルが合図を送ると、五月葉 終夏は詠唱を開始した。長い詠唱が終わる頃には、大地の裂け目に駆けられたレールの所まで数十メートルといったところだった。








 


「……音が、増えたわね」

 九弓・フゥ・リュィソーは水晶球の中に増えた3つ目の虹を眺めながら、興味なさそうに呟いた。視線だけを鉱山にやる。九鳥・メモワールは夜色のコートをさらに着込むようにうずくまると、「寒い」と文句を言い始めていた。

「でも、犬達は静かになったわよ?」
「その音は、もう別の音になっているのよ」

 水晶球の中に煌く虹の色合いは、じっと見ていないと判別がつかない。マネット・エェルは「綺麗です〜☆」といいながらその水晶球が色を変えていくのを眺めていた。

「ワンコたちは静かになったけど、鉱山の中がずいぶんと騒がしくなったね」

 霧雨 透乃は霧雨 泰宏の服のすそをぎゅっと握って鉱山を見上げていた。


 藤原 和人は落ち着いた様子のタマを飼い主に戻すと、小鳥遊 美羽たちと鉱山の入り口で待機していた。超音波は収まったようで、浅葱 翡翠はアリシア・クリケットに飲み物を買ってきて彼女の隣に腰掛けた。いまはただ、仲間が帰ってくるのを祈るしかできなかった。

「美海ねーさま、大丈夫ですよね?」
「ええ。あの妙な音が収まったんですもの」

 久世 沙幸の不安を、藍玉 美海は払拭するように抱き寄せて髪の毛にキスをする。このときばかりは、テレで拒絶したりすることはしなかった。
 そのときだった。鉱山の入り口から、黒いスライムたちが沸いて出てきたのだ。

「な、何コレ!?」
「透乃ちゃん、武器!」
「や、翡翠くんっ」
「アリシア、下がってくださいっ!」

 浅葱 翡翠は星輝銃を構え可能な限りアリシア・クリケットの回りからスライムを遠ざけるように弾丸を放つ。小鳥遊 美羽は美脚を生かした蹴りでスライムたちを撃破していくが、なかなか数が減らない。

「コレは、金葡萄杯で出てきた奴と一緒ですね」
「なんだ、知ってるのか?」

 藤原 和人の言葉に、こくりと頷いた浅葱 翡翠はパートナーを鉱山の入り口から遠ざけながら弾丸を放ち続けた。

「こいつら、強くはないですが足を掴まれると厄介です。気をつけて!」
「それなら!」
「一気に燃やしてしまえばいいのですわ!」

 霧島 春美と藍玉 美海はそれぞれ呪文の詠唱を始めると、炎術で民家に影響が出ない程度に鉱山の入り口を焼き尽くした。

「春美! すっごーい!」

 ディオネア・マスキプラがぱたぱたと耳を動かして喜んでいると、スライムたちは煤になって風に乗って消えていくのが見えた。だが、スライムたちはさらに鉱山の中から沸いて出てきた。

「……これは」
「中の人たちが元凶をやってくれるまでの消耗戦ですわね」