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リアクション
第7章 冬の贈り物
「むぅ……お主中々やるな」
「君こそ、良い身のこなしだった」
雪合戦を終え、何やらガシッと拳を交わし合うにゃん丸と義彦。
「二人とも子供みたいですが……楽しそうでしたね」
涼は小さく笑むと、二人にゼリーを手渡した。
ほのかな甘さと冷たさが、火照った身体に心地よい。
「それから、アリアさん……」
「え?」
「先日はお世話になりました」
「私は別に特別な事はしてないよ……でも、ご馳走様」
アリア・セレスティは照れたように微笑むと、貰ったゼリーを持って虹七の元へと向かうのだった。
「はぁ〜い、寄ってらっしゃい見てらっしゃい♪」
「ルーシーそれ、怪しいですよ」
でかでか『フェアリーライト』と書かれた出店。
美少女戦士部所属・紫電の騎士こと一式 隼(いっしき・しゅん)は、ノリノリなパートナー雪花の女豹ルーシー・ホワイト(るーしー・ほわいと)に軽く突っ込みを入れた。
「ん〜、じゃあ安いよ安いよ?」
「それも何だか違いますわ……というか何故にワタシがこんな所でこんな事を……?」
この期に及んで首を傾げるのは、同じくパートナーである機光の姫・三月 かなた(みつき・かなた)だった。
その非難の眼差しは隼に向けられている。
銀の髪をサラリと背中に流して、ウェイトレス然としている隼……平たく言えば、絶賛女装中である♪
大人びたエキゾチック風貌は優美で、何だか妙にムカく。
そんな視線に気づかぬはずはないのに、余裕な感じで笑みさえ浮かべているのがまた、癪に障る。
途中は設営でひぃひぃ言ってたのに。
けれど、反応したのは隼ではなくルーシーだった。
「え〜、お疲れの皆さんに美味しいご飯を食べて貰いたい!、かなただってそう思うでしょ?、でしょ?、でしょお?」
「……う、はい」
笑顔で詰め寄られ、かなたの心が折れた。
「頑張っていた方々もいらっしゃいましたが、それ以上に遊んでいる方々が多かったような……?」
それでも、いじましくぶつぶつ言っているが、それは隼にもルーシーにも黙殺された。
「疲れたぁ……貰ってもいいか?」
「はい、どうぞ」
そうこうしている間に、作業を終えたり遊び疲れたりした面々が集まりだし。
すかさず隼がソツない笑顔で料理を手渡す。
前日から仕込んだ、ルーシー特製おでんとキムチ鍋である。
日が落ち、気温が下がってきた中、身体もぽかぽか温まるというものである。
「ほらほら、かなたも! スマイル、スマイル♪」
「いらっ、しゃいませ……どうぞ……」
ぎこちなく笑顔らしきものを浮かべるかなたに、ルーシーは気付かれぬようは隼にこっそりVサインを送った。
少々強引なこれが、人見知りなかなたを他の人と触れ合わせよう!、な内緒企画だと知っているのは、計画者のルーシーと隼だけである。
「まぁそう急にはいかないでしょうけれど」
それでも、少しずつこういう機会を、他者と接する機会を増やしていって上げたいと、隼は接客しながら微笑んだ。
「お好みで七味唐辛子をどうぞ」
粕汁を振舞うのは、綺人だ。
「ありがとう、いただく。紗月はどうする?」
「もらおう。いい加減お腹が空いた」
「どっどうしましょう、ユーリさん。大根のあの不揃いさ、私のですよアレ」
物陰からクリスが凝視する中。
「……うん、美味しい」
「変わっているが、何とも懐かしい味だな」
朔と紗月は笑みを交わし合いつつ、嬉しそうに口に運んだ。
少しだけ不揃いで、心のこもった料理を。
「良かっ……たぁ」
「……俺が付きっきりで教えたんだ、マズいものが出来るわけないだろう」
ほぅっ、とクリスの肩の力が抜けるのを見て、ユーリは少しだけ声を柔らかくした。
「……とはいえ、頑張ったな、クリス」
クリスが見あげた時にはもう、いつもの無表情だったけれども。
「……それより皆、大分腹が減っているらしい。手伝ってやらないと大変そうだぞ」
「ああっ本当です。アヤ、直ぐに手伝うから」
「お腹すいた〜。豚汁とかないかな〜?」
「お疲れ様です、どうぞ召し上がって下さい」
クゥ、と可愛らしくお腹を主張させたティアに、翔は温かな豚汁を差し出した。
「……ん! タツミこれ、すごく美味しい!」
「本当だ。身体がぽかぽかしてくるね」
巽達の嬉しそうな顔に、翔も自然と笑みを浮かべていた。
隠し味に入れたカラシ油。
暖かくなれるように、それでいて辛いものが苦手な人でも安心して食べられるように、との配慮だ。
野菜の大きさもゆで加減も、全て食べる人の為の配慮がなされている。
「ヒロくん、すごく良い香りがするよ」
「じゃあ、いただこうか。今日はたくさん遊んで疲れただろうし、たくさん食べてね」
「うん♪ あ、おにぎりもあるね」
「はい、どうぞ」
フィサリアに乞われ、おにぎりを渡す翡翠。
「ていうかさ、もっと暇でもいいと思わないか?」
「ははは、皆さんたくさん身体を動かしてお腹が減ったんですよ」
「一つもらおう」
「天音、本当にもうそろそろ帰ろう。というか目的の店は閉まってる頃なのでは?!」
「些細な事だよ、ブルーズ。それよりこの豚汁は中々上手いぞ」
文字通り飛ぶように減っていく豚汁や甘酒、おにぎり。
「既に宴会の様相を呈してきましたね」
翡翠は苦笑交じりに肩をすくめながら、おにぎりを握るのだった。
「ね、カラフルなの楽しいでしょ」
満面の笑顔で氷雨が差し出した椀の中には、赤やピンクの浮かんだうどん。
「悪い……止められなかった……とりあえず、毒は入ってないし、味は保証するから」
沈痛に項垂れるバロ……が!
「とても可愛いし……美味しいよ? 温まるし」
にっこり笑む美羽や朱里。
女の子受けが予想外に良かった。
これで味が壊滅的なら話は違っていただろうが、そこは翔先生お墨付きの品である。
「そんな……バカな……」
「えへへ、ありがと〜」
嬉しそうな氷雨を横目に、バロは髪(?)をかきむしったのだった。
「はい、夜魅さんも美羽さんもお疲れ様でした」
花壇の雪かきも無事に終わった一同に、ベアトリーチェはカップを手渡した。
「……美味しい!」
コクンと嚥下した夜魅の顔が輝く。
「お気に召しましたか?」
「これっ、これ何? 飲んだ事ない」
「ホットチョコレートです」
「ほっと……ちょこれいと?」
「はい。美味しいですよ」
「今こうして楽しい時間が過ごせること……」
そんな些細なやり取りを……ささやかでかけがえのない幸せを見つめ、翔の胸に何とも言えぬ感慨が浮かぶ。
「私の頑張りも一要因だったと、今は自惚れていてもいいでしょうね」
そして思う。これからもこの光景を、見たいと。
この幸せを、守りたいと。
「『件の騒動』を私は存じませんが、少女らの無邪気な笑顔は心和みますな。御二方も、そう殺伐としていては楽しめますまいに」
けんちん汁とお汁粉を給仕中の八織は、やはりどこかギスギスした陸斗と義彦に、椀を差し出した。
「本当にお疲れ様でした……本当に、本当に」
カースが涙ぐみそうになるのは、皆の仕事ぶりを称える為だけでなく、こうして無事に八織の給仕を見られたからだろう。
雪合戦横断中、何度もうダメだと思った事か。
「ですが八織殿、やはり俺も手伝った方が……」
「いいえ、これは私の仕事ですから」
給仕は自分の仕事、と頑なに主張されてしまえばもはやカースに手を出す余地はなく。
それでも、寸胴を抑えたり汁粉用の餅を焼いたり、なカースであった。
やはりそんなカースのいじらしさに八織は全然気づく事は無く。
「余計な節介かとは思いますが、せめてこの器が空になるまでは心穏やかでいて欲しいものですな」
陸斗と義彦に微笑んだ。
八織の心遣いと温かく美味しいけんちん汁と。
「二人とも、このお汁粉美味しいですね」
そして雛子の幸せそうな笑顔を見てしまえば確かに、いがみ合っているのは難しかった。
「とりあえず、休戦だ」
「だが俺も……負けないから」
とりあえず復活した陸斗と義彦とはやっぱり、ちょっと剣呑だった。
「お疲れ様です、クエス」
そんな空気をよそに、サイアスはクエスティーナにティーカップを差し出した。
ウヴァの良茶葉を使用したそれは、クエスティーナを慰労する為の一杯だ。
「でも、良かったです。クエスが結構自然に殿方とお話出来たようで」
「そうですね」
それは或いは、義彦があまり男を感じさせなかったかもしれない、と思う。
もっと迫られたりすれば……冷静ではいられなかっただろう。
現在、その気持ちが雛子に向けられている様子もあるけれども……しかし。
「あれは本当に、あれが本当に恋とか愛とか呼ばれるものなのかしら……?」
呟き、クエスティーナはカップにそっと口付けた。
皆の笑顔と笑い声があふれる中。
「度を過ぎた積雪も、片付いてしまえば寂しく感じるものですな」
八織はポツリと呟いた。
校庭の中、四角く切り取られた広い空間は、もはや雪の名残さえもなく、少しだけ寂しい。
「んふふっ、でもね、本日のメインイベントはこれからなのよ♪」
その囁きを拾ったコトノハはだが、そう笑みを深め。
「じゃあ、点火するわよ」
コトノハの合図により、雪灯篭に次々と火が灯っていく。
キャンドルの灯りが、校庭に光のアートを描き出す。
儚くも美しい、幻想的な光。
「うわぁ……」
夜魅も虹七も皆、口々に感嘆の声を上げた。
だが一番驚いたのは、ルシオンに屋上に招待された刀真と白花と月夜だっただろう。
「……っ!」
雪が撤去された部分、四角く切り取られた地面をぐるりと取り囲む、大きなハート。
ハートマークの真ん中に『刀真』の文字、右サイドには『月夜』と、そして左サイドには『白花』と書かれている。
そう、コトノハとルシオンの『地上の星作戦』……それは刀真達に対するドッキリ作戦だったのだ!
「とても……とてもキレイです」
知らず、白花の頬を伝うもの。
刀真は気づかぬふりで、白花と月夜を抱き寄せた。
「ん〜あったかい、幸せ……」
「はぐ〜♪」
ぎゅっとくっつき合う三人を残し、ルシオンはコトノハの元へとこっそり戻ったのだった。
「なんじゃ、このガラの悪い顔は……バチ当たりな像になってしもぅた」
「何で? イカしてるじゃん」
遂に目にした雪像を見て肩を落とすクレオパトラに、ヴェルチェが楽しそうに笑う。
ライオンの胴体の上、キランと光るオデこ……もとい、環菜。
これは、
「スフィンクスが作りたい」
そんなクレオパトラの願いと、デ校長像を作成しようとしていたヴェルチェの希望が一致した、正に究極の雪像なのだ!
「でも……楽しかったですわ」
クスクスと笑みを零しながらのクリスティの言葉に。
クレオパトラは暫くしてから。
「……まぁ、貴重な体験ではあったのぅ」
憮然とした表情を作ったまま、笑みを形作ったのだった。
「ねーたんねーたん、こたかっこいいれす?」
「うん、カッコいいな」
クルードが作ってくれたマイ雪像を、コタローは飽きる事無く眺めていた。
雪灯篭の灯りもあり、ライトアップされた風情の雪像達は幻想的で。
傍らの樹像を守る様に剣を手にしたコタローの雪姿は、周りの聖獣達にも劣らぬほど、凛々しいものだった。
「いつの間に……」
「抜け駆けだよなぁ……」
ニコニコと笑みあう樹とコタローの背中を、ジーナと章は羨ましそうに見つめていた。
「うわぁ、あれってあたし……? って、違うか」
「いや、夜魅ちゃんだぜ、あれは」
紗月はビックリしたように目を見開いた夜魅に、大きく頷いてやった。
正直、クルードのような芸術性はない。
それでも、朔達と作ったそれは、巨大な雪像の夜魅は楽しそうな笑顔で。
不思議と見る者を温かな気持ちにさせた。
「嬉しい! ありがとう!」
息を弾ませ頬を紅潮させた少女に、紗月と朔は照れたように顔を見合わせた。
「多分、俺一人じゃ出来なかった。鬼崎さんと一緒だったから、あんな良いモンが出来たんだよな」
ありがとう、吐息で告げる紗月に朔は頭を振った。
「私こそ……こんな楽しい思い出をもらえて、感謝してます」
「良かったな、夜魅」
瞳を潤ませた夜魅は誠治に頭を撫でられ、ただ大きく頷いた。
「カワイイ巨大夜魅ちゃんに、精霊さんも喜んでいるであります」
ふと虚空に視線を向け、スカサハが頬を緩めた。
恥ずかしがり屋さんなのか精霊はその姿を現さないが、何と無くその存在を感じられて。
「……楽しかった……けふ……また遊ぼうね? せいれいさんも、また来年よろしくね……こほこほ」
無理をしたせいだろうか、小さく咳をした虹七。
その時。その周りをふわりと温かな風が通り過ぎて行った。
「精霊さん……? 何でそんな……哀しそうなのでありますか……?」
ふと感じたスカサハの呟きに応えるモノはなかった。
「へぇ、すっかり片づいてるな」
皆から離れて一人、政敏は花壇に佇んでいた。
雪はないが、この季節に時間だ、吐く息は白い。
夜の中、つい思うはこの向こう……断絶された空間に取り残された存在の事。
「親(本体)からも離されて、一人異世界に居るんだよな」
いつか影龍も救えたのなら、それは夢想に過ぎないのかもしれない、それでも。
願わずにはいられなかった。
そして、かけられる声。
「大丈夫だよ、政敏は一人じゃないし……これからも一緒に頑張りましょう」
笑顔のリーンと。
「何かあれば手伝いますよ。それが私の夢に繋がるのですから」
カチェアに軽く手を上げ、政敏は夜空を見上げた。
澄んだ漆黒の空に瞬く星々はキレイで、
(「ともあれ、この地とあいつ等は守ってみせる……やっと芽吹いた種はさ」)
そう、心に誓うのだった。
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担当マスターより
▼担当マスター
藤崎ゆう
▼マスターコメント
大変お待たせいたしました、藤崎です。
今回は皆で仲良く雪遊び、です。
関連して蒼空学園キャンペーンシナリオが2月末日より始まりますので、もし気に行っていただけたならよろしくお願い致します。
ではではまた、お会いできる事を願って。