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ひな祭り…ほのぼのと過ごす? それとも段を占領?

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ひな祭り…ほのぼのと過ごす? それとも段を占領?

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第2章 ひな祭りをより華やかにするために

 ひな祭り用の料理を作ろうと、生徒たちは食材を抱えてイルミンスールの家庭科室へ入った。
「こういうのはやっぱり、見た目も鮮やかにしないとな」
 ちらし寿司の具を作ろうと本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)はピーラーで人参の皮を剥いていちょう切りにする。
 椎茸の石づきを取って薄切りにし、その2つの材料と小口切りにした干瓢を甘辛く煮る。
「これくらいの甘さがいいか」
 スープンで少しすくい味見してみた。
 酢ばすを混ぜたやつと桜デンブを混ぜた2種類の、2層にして軽く押し固める。
 その上に錦糸玉子やさやえんどう、海老とサーモン、マグロなどを綺麗に盛り付ける。
「もう出来たの?早いね!」
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)は涼介が作ったちらし寿司を見て目を輝かせた。
「おにいちゃん、早く私たちに長命寺餅の作り方を教えてほしいですわ」
 ちらし寿司の完成を待っていたエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が涼介に駆け寄る。
 長命寺餅とは江戸風桜餅のことで、なぜ江戸風かというと涼介が東京の人間だからだ。
「クレアは記事の方を、エイボンは餡子を作ってくれ。まずはクレアから教えるからこっちに」
「うん!」
 元気よく返事をしたクレアは彼の傍へ寄る。
「その白玉粉に小麦粉を混ぜるんだ」
「えーっと、これ?」
 麦粉の入った袋を棚から取り出す。
「あぁそれだ」
「白玉粉はこれかな」
 クレアとエイボンは粉を振るい、銀色のボールの中にを入れる。
「混ざったら食紅で色つけするんだ」
「うん、分かった!」
「綺麗な色ですわね、クレア姉さま」
 食紅を加えると綺麗なピンク色になった。
「次は生地を焼こう」
「こんな感じかな?」
「そうそう、上手だな」
 教えてもらった通りにクレアは生地をお玉ですくい、フライパンでクレープのように焼いていく。
「次はエイボンに作り方を教えよう」
「私は餡子の方でしたわね」
「一晩水につけておいた小豆がそこにあるだろ?小豆が浮いたら今度は沈めるために、水を差して湯の温度を下げるんだ」
「分かりましたわ」
 エイボンは鍋に小豆を入れ、中火で煮始めた。
 教えてもらった手順で餡子を作り、鍋の水を切って砂糖と塩を鍋の中へ丁寧に入れていく。
 あら熱を取るために軽く絞った布巾の上に広げる。
「後は丸めるだけですわね」
 生地に丁度いい大きさになるようにエイボンは餡子を丸める。
「さて、そろそろ潮汁を作るか」
 彼女たちが順調に作っているのを確認した涼介は潮汁作りにとりかかった。
 前日から砂抜きしてあるハマグリを流水でこすり洗いして鍋の中に入れる。
「おっと、これを一緒に入れないとな」
 昆布も入れて火にかけた。
「ハマグリが口を開き始めたな」
 鍋の中から昆布を取り出してアクを取り酒と塩、薄口醤油を加えて味を整える。
「やっと出来上がったな」
 器にハマグリと三葉と盛り付けて完成させた。
 その頃、クレアとエイボンも長命寺餅を作り終えた。
「出来た料理をカフェへ持っていこう」
 涼介たちは作った料理を、カフェのテーブルへ運んだ。



「えーっと、まずは鱗をとるんですよね。結構、力いりますね。これ・・・」
 押しずしを作るために神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は包丁で鯛の鱗を取る。
「それで次は食べやすいサイズに切り分けるんでしたっけ」
 魚を骨を取り、切り分けていく。
 家庭科室にやってきたレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)は翡翠の傍へ行き、菊の花を間に挟み鯛の白身が乗っている押し寿司を見る。
「さすが、上手いな。美味そうじゃないか・・・。本当に、嬉しそうに楽しく作るよな?お前は・・・」
 楽しそうに料理を作る翡翠に、レイスは関心したように言う。
「いえ、自分なんか、まだまだですよ?他の人とは、比べ物になりませんよ?下手すぎて・・・」
 褒められた翡翠は顔を真っ赤に染める。
「俺もやらないと駄目か?」
「―・・・いえ、あなたには、料理以外してもらうので、平気ですよ」
 手伝ったほうがいいか?と笑いかける彼に微笑み返す。
「そうか、じゃあここで待っているとするか」
 レイスは椅子に座り、料理の完成を待つことにした。
「デザートもあったほうがいいですよね」
 イチゴのムースを作ろうと翡翠は鍋で煮溶かした寒天に、ジューサーにかけたイチゴと砂糖を加える。
 火を止めて冷めないうちに泡立てた卵白と、生クリームを順番に混ぜていく。
 よく混ぜ終わったら、食器棚からガラスのカップを取り出し、その中にムースを流す。
「少し冷ましますか」
 あら熱を取るためにサクランボを乗せたムースを冷蔵庫に入れた。
「そろそろだしが出た頃ですね」
 鍋からかつおぶしを取り出し、あさりを入れる。
 あさりの口が開いたのを確認して器に盛り、その上からミツバを散らした。
 出来上がった料理をトレイに乗せて会場内に持っていく。
「うう、皆さん上手ですねえ・・・それに比べると、あまり上手く無いので、恥ずかしいかも」
 涼介のちらし寿司を横目で見て呟いた。



「雛祭りかぁ・・・・・・じゃ、それっぽい料理でも作るかなぁ」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)も生徒たちにちらし寿司を作る。
「イクラがあるね。これも使おうか」
 飾りつけにイクラを盛り付ける。
「干し椎茸の汁も使ったし、見た目だけじゃなく味もばっちりね」
「ハマグリの口が開いたよ」
 鍋をじっと見ていたイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)がミルディアに教える。
「あ、火止めなきゃ!」
 ミルディアは慌ててコンロの火を止めた。
「桃の花茶は・・・うん、丁度いい濃さね。あまり出すぎるとしょっぱくなっちゃうし」
 急須に入れたお茶をカフェへ運ぶ。
「これだけあれば、66人分足りるわよね。さすがに重い・・・」
「手伝うよ!」
 イシュタンと一緒にハマグリの汁が入っている鍋を持って行く。
「量が量だけに持って行くのも大変ね」
 家庭科室に戻りちらし寿司を持って、落とさないようにカフェの方へゆっくりと歩いた。



 料理クラブでどこまで上達したかたしかめようと、因幡 白兎(いなば・はくと)は鶏肉の料理作り始める。
 半分はアルカリリィ・クリムゾンスピカ(あるかりりぃ・くりむぞんすぴか)に命じられて作っている感じだ。
「唐揚げ用のやつを使いますか」
 冷蔵庫を覗いて鶏肉を探す。
「ひな祭りですし、和風にしましょう」
 鶏肉に塩と胡椒で下味をつけ、包丁で野菜を詰める隙間を空けた。
 ささがけにしたゴボウを細切りにし、生姜と人参も細切りにし、包丁で切り込みを入れた鶏肉に詰めて唐揚げにする。
「スープはこんなもんですか」
 かつおぶしでスープ用のだしを取り、醤油とごま油で味を整えて味見してみる。
 お皿に唐揚げと一口サイズの焼きネギを盛り付け、その上からスープを注ぐ。
「一品目の完成ですね。デザートは桃系にしますか」
 小皿に桃を乗せた焼いたワッフルを置き、その周りをホイップクリームで飾りつけ、クリームの上に抹茶のパウダーを撒く。
「食べやすいように、ナイフとホークもテーブルに持って行きましょう」
 白兎は作った料理とそれらを持ってパーティー会場に向かった。



「こた、ねーたんのおりょーり、みうー」
 ひなあられを作っている林田 樹(はやしだ・いつき)の傍へ林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が駆け寄る。
「樹様・・・何をなさるおつもりですか?って、それは作り方が違・・・!!」
 米を膨張させて作った物に砂糖と水を、鍋で溶かした蜜にからめている樹を、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が慌てて止める。
「樹様、作り方が違います!正式には干し飯を油で揚げるんです!!あぁ・・・お飯が」
 鍋の中のお飯を見たジーンは沈んだ表情をする。
「・・・え。ああ、分かった」
「今回は楽に出来るよう、切り餅を細かく刻んだ物をご用意しましたのにー!!」
 ジーナが持ってきた切り餅は袋の中に放置されている。
 ハマグリのお吸い物作りに熱中するあまり、樹の行動までは見ていなかった。
 作り方を教えようとジーナは樹の傍へ行く。
「れ?じにゃがおこってう。ねーたん、まちがいちったお?」
「(怒られてしゅんとしている樹ちゃんも可愛いー)」
 叱られてしょんぼり顔の樹を緒方 章(おがた・あきら)が横目でちらっと見る。
「あんころ餅は樹様見てないで仕事!!」
 樹をじーっと見つめてちらし寿司作りをしていた手を止めている章に向かってジーナが怒鳴った。
「・・・はいはい、分かったよカラクリ娘め。樹ちゃん、頑張ってねー」
 ジーナに聞こえないように小声で呟き、彼女への態度とはまったく異なる笑顔で樹を応援する。
 ふぅっと疲れたようにジーナはため息をつき、樹の方へ顔を向ける。
「良いですか。これを焼いて蜜をからめたら、ココアパウダーとミルクパウダーをからめるんですよ樹様!」
「あられって、オーブンで焼いた餅でも出来るんだな」
 ジーナの知識に、樹は関心したように言う。
「ひなありゃれ、おいしー?」
 コタローは可愛らしく首を傾げて言う。
「あぁ美味いぞ」
「こた、たのしみいー」
 それを聞いたコタローはにこっと笑った。
「つくうのてつだうお」
「それじゃあ、こたちゃんはひなあられの焼き加減を見てください」
「こた、じにゃのゆーとーり、おーうん(オーブン)れ、ひにゃあられつくうのてつらうお」
 コタローはオーブンをじーっと見つめ、ひなあられを焼いているオーブンを応援する。
「こた、みつつくうお。もえにゃいよーに、がんばるお。ねーたん、おーうんがんばえー」
「おう、コタローも頑張れ」
 樹も焼き加減を見ているコタローを応援した。
「じにゃ、ねーたん。ひにゃあられやけたお」
「良い焼き色になりましたね。こたちゃん、このボタンを押してオーブンを止めてください」
「上出来だ、よくやったな」
「えへへー。こた、ちゃんとみてたお」 
 褒められたコタローは嬉しそうに笑う。
「コタロー、一緒にテーブルへ運ぶぞ」
 樹とコタローは出来上がったひなあられを、カフェのテーブルへ運んだ。



 生徒たちの美味しい料理を振る舞おうと、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)はちらし寿司を作り始めた。
「味だけじゃなく、見た目も綺麗なちらし寿司にしようかな」
 ピーラーで皮を剥いた人参を千切りにし、かまぼこと金糸玉子も同じように包丁で切る。
 小さく切った鶏肉と共に、水で戻した乾燥椎茸を醤油と砂糖で甘辛く煮る。
「うん、今回も美味しく出来たかな」
 スプーンですく、味をチェックした。
「あとはれんこんと絹さやを・・・。ふぅ、完成っと」
 弥十郎は出来上がったちらし寿司を生徒たちが待つカフェへ持っていく。