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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)
【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回) 【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)

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part2.リフルをとりもどせ!!
 

 仲間が身を挺して時間を稼いでくれている。リフル説得組も必死だった。
 
 透乃たちの予期せぬ登場によってトライブらの足止めを回避した天 黒龍(てぃえん・へいろん)はリフルの元に急ぐ。だが、そこには先客がいた。マコト・闇音(まこと・やみね)だ。
「この間遺跡に行ったときから、そうではないかと思っていた。だが、今こうして実際に向き合って確信したぞ……リフル、我は過去に貴公と戦ったことがある!」
 マコトはリフルと正面から斬り結び、言う。
「目を覚ませ、リフル!! 呪いなどに負ける貴公ではなかったであろう! アムリアナ女王は滅びていなかったかもしれないのだぞ! 復活した時に貴公がいなくてどうする!」
 リフルの攻撃に、マコトが吹き飛ばされる。入れ替わりにリフルの相手になった黒龍は、防戦を重視しながら敢えてリフルを挑発した。
「ゲイルスリッター……いや、リフル。聞けば、お前は古代シャンバラ女王のみを女王として認めていたらしいな。ミルザムが女王に相応しくないから彼女やその護衛であるヴァンガードを襲う、か? 呆れたものだ。力に物を言わせるだけなら獣にもできること。明確な意思があるのなら、この場で口にしてみればいい」
 黒龍がリフルに話しかけている間、パートナーである紫煙 葛葉(しえん・くずは)は黒龍に邪魔が入らないよう周囲を警戒しつつ、リフルに何か変化が起きないか注意深く見守っていた。
 しかし、リフルは動揺一つ見せず、鎌を高飛びの棒のように利用して黒龍の背後に回り込むと、彼に向けて鎌を振り上げる。
(黒龍、危ない!)
 葛葉はいざというときのためにバニッシュを放つ準備をしていたが、リフルが黒龍の後ろにいたのでは意味がない。
 変則的な攻撃に反応しきれない黒龍をフォローしたのは、荒巻 さけ(あらまき・さけ)とそのパートナー日野 晶(ひの・あきら)だった。二刀流スタイルの二人は、計四本の剣でリフルの鎌を押さえ込む。
 すかさずさけのもう一人のパートナー信太の森 葛の葉(しのだのもり・くずのは)が二人にパワーブレスをかけると、さけと晶はコンビネーション抜群のツインスラッシュを放った。鎌を弾かれてリフルが一歩後退する。
 
「掛巻も畏き産霊之大神達の奇しき神霊に依りて
 
 現出座る五柱の一種の元津神は
 
 風の神志那津比古之志那津比賣之命
 
 我の稚児を生幸へ給へと
 
 慎み敬ひも白す」

 絶対にリフルを助けたいと願う葛の葉は、そう祝詞を唱えた。
「裏切りとも言えるわたくしのこの行動……クイーン・ヴァンガードとしては失格ですわね。でも、友達一人守れないような人間が何を守れるというのでしょうか。罰を受けるのも覚悟の上。ここに集まってくださった方々と協力して、なんとしてもリフルさんを救ってみせますわ」
 さけがその決意を言葉にする。
「あなた自らが望んだ道を進むのがいいでしょう。私たちはそれについていくだけです」
 これまで彼女を支え続けてきた晶が、力強い言葉でそれを後押しした。
「俺も助太刀するぜ」
 如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)もさけの近くへとやってくる。
 リフルにこれ以上人を傷つけさせたくない。自分はせいぜい弁当を作ってあげた程度の仲だから、多少の怪我をしてもリフルは気に病まずに済むだろう。少なくとも友人たちを傷つけてしまうことに比べれば。
 佑也はそんな思いから、率先してリフルの行動を止めるために動き、説得は彼女の友人たちに任せようと考えていた。
「あんたたちがリフルとやりあっている間に、背後から攻めさせてもらおうと思う。いいか?」
「リフルさんを攻撃するんですの?」
 佑也の言葉に、さけがやや顔をしかめる。
「いや、別にやっつけようっていうんじゃない。リフルの動きを止めて、説得するための時間をつくるだけだ。……来る、頼んだぞ」
 佑也がさけから離れ、さけと晶はリフルを迎え撃つ体勢に入る。
『危ないところを救われたね、黒龍。どうだい、君は攻撃的な説得を選んだけど、ここは一つ他のやつらに任せてみては。目的とするところは同じなのだし、わざわざ邪魔することもないだろう』
「……少し様子を見るか」
 葛葉がメモを用いた素早い筆談で言い聞かせ、黒龍は身を引いた。

「さてさて、どうしましょうか?」
「どうするもない。とりあえずはあの大鎌を引き離すのが先、じゃろう?」
物陰に隠れた月詠 司(つくよみ・つかさ)の言葉に、パートナーのウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)が答える。二人はリフルたちの様子を一部始終見守っていた。
 ゲイルスリッターの噂を聞いた司は、好奇心から独自に調査を進めているうちに鎌がリフルを操っているらしいという事実を知った。そして、是非とも鎌の秘密に触れたいとわざわざイルミンスール魔法学校からやってきたのだ。
 司とウォーデンの目の前では今、ちょうどリフルとさけたちが戦っている。
「では、そろそろ行きますか!!」
「うむ、行くかのう……!!」
 リフルが自分たちに背を向けたのを見て、二人は奇襲をかける。共に黒い鎌状の光条兵器でリフルに斬りかかった。
 しかし、リフルはまるで予期していたかのようにこの奇襲をかわすと、振り向きざまに鎌で真空波を放つ。
「伏せてください!」
 晶の咄嗟の一言で、司たちは間一髪真空波の直撃を免れた。二人の背後で大木が音を立てて崩れ落ちる。
「さ、さすが私が目をつけた鎌だけのことはありますね……」
 司はその光景を見ながら引きつった笑みを浮かべた。
「やはり、目的を果たすためにはどうにかしてリフルさんの機動力を封じる必要がありますね。あのスピードで動き回られては、彼女を元に戻す前にこちらがやられてしまいます」
 司たちとリフルの攻防を見て、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が言う。その隣でグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)も頷いた。
「そのとおりだ……そして、それについては俺たちに考えがある。協力する気はないか」
 グレンの提案に、遙遠が興味を示す。さけや佑也も二人のところに集まってきた。グレンが皆に作戦を伝えると、一同はその決行に同意する。
「では……今話した通りに頼むぞ」
 グレンの合図でさけ、晶、葛の葉、佑也、遙遠、グレン、そしてグレンのパートナーソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)李 ナタが散り散りになる。まずはさけと遙遠が動きを見せた。
「リフルさん、わたくしはきっとまたリフルさんと教室で穏やかな日々を過ごせるときが来ると信じていますわ!」
(状況を聞く限り、リフルさんの洗脳は不完全なようです。だとすればまだ打つ手はあるはず……!)
 さけがソニックブレードで、遙遠がサンダーブラストで挟み撃つようにリフルを牽制する。晶はそれらを避けたリフルの着地点に光精の指輪から人工精霊を呼び出し、目くらましを敢行した。
「くっ」
 目つぶしを食らったリフルが再び目を開いたとき、彼女の周囲は煙幕に包まれていた。ソニアが煙幕ファンデーションを使用したのだ。ソニアは更に、メモリープロジェクターを使ってナタの姿を投影する。リフルは煙に浮かぶ影を次々と鎌で切り裂いてゆくが、どれも手応えがない。
 本物のナタは事前にリフルの後ろ側へと回り込んでいた。ナタは一呼吸置くと、リフルが気付くようわざと大声を出しながら突撃する。
「こっちだ、隙あり!」
 反射的にリフルが鎌を振り回す。
「グッ……! 掛かったな……奈落の鉄鎖あ!!」
 ナタはリフルの鎌をありったけの力で受け止めると、鎌を掴み、奈落の鉄鎖で鎌と自分自身を重くした。
 グレンも既に行動を開始していた。ソニアが煙幕を張っている間に光学迷彩で姿を隠していた彼は、ナタが鎌を掴むと同時にリフルの両腕を抱え込み、自らの両腕ごと氷術で凍らせようとする。
「シルヴェリア……ッ! ……お前だけに……辛い思いをさせるつもりは……ない……!」
「小癪な真似を」
 リフルはすぐにグレンとナタを振り払おうとする。だが、佑也がリフルの背後について彼女を羽交い締めにした。遙遠もすぐにバーストダッシュでやってくると、リフルの右腕に絡みつく。
「友人なんて言えるほど親しくもない俺には、これが限界だ……悪い、みんな。リフルさんを助けてやってくれ……!」
「この遙遠、例え体が引き裂かれようとも、決して放しはしませんよ!」
 リフルはパワーファイターではない。さすがに四人がかりでこうされては、その動きも鈍くなる。
(洗脳の媒体……もしかしたらあの大鎌の他にもあるのかもしれません。リフルさんがいつも身に着けているチョーカー……確かめてみる価値はありそうですね)
 ソニアがリフルのチョーカーを奪おうと手を伸ばす。すると、リフルは更に激しく暴れた。
「痛っ! ……放すもんか!」
 佑也は鎌の柄を足の甲に叩きつけられるが、必死でこらえる。幾度となく蹴りを受けるグレンも、歯を食いしばって耐えていた。
「なんとか踏ん張っておくれやす。こないな悲しい戦いは早う終わらせましょ!」
 葛の葉はSPルージュで回復しつつ、グレンたちにひたすらヒールやパワーブレスをかけ続ける。
「サンキュー! リフルを救うには生半可な覚悟じゃダメだからな。多少の無理は承知……やぁってやるぜぇ!」
 ナタは気合い十分でそう答えた。
 一方グレンは、氷術に集中すると同時にやりきれないものを感じていた。
 これが人々を恐怖に陥れているあのゲイルスリッターか。確かにその戦闘力はずば抜けている。しかし、自分を蹴り続けているこの細い脚は、そこらにいるかよわい少女のそれと変わらないではないか。
 その思いが、グレンの手に一層力を込めた。

「チャンスです! リフルさんの洗脳を解くためには、今のうちに鎌を奪い取らなくては!」
 奮闘するグレンたちの様子を見て、プリムラ・ヘリオトロープ(ぷりむら・へりおとろーぷ)のパートナー源 紗那(みなもと・しゃな)が言う。それを聞いて、九条 風天(くじょう・ふうてん)が尋ねた。
「しかし、一体どうやって? いくら動きが落ちたとはいえ、そう簡単に奪わせてくれるとは思えませんが」 
「……私がリフルさんの攻撃をわざと受けます。私より身体能力が優れているリフルさんから鎌を奪う機会は、自分に攻撃が当たったときしかないと思っていますから」
「いけません、そのような危険なこと」
「私にかけられるものは命くらいしかありません。でも、かける以上は必ずリフルさんの心を取り戻してみせます!」
 鬼気迫る表情の紗那に、風天は一つ息を吐いて諭すように言った。
「あなたのリフルさんに対する思いは分かりました。でも、例えリフルさんの洗脳を解くことができたとしても、あなたを傷つけたと知ったらきっと彼女は悲しみますよ」
 そして、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の方に顔を向ける。
「小鳥遊さん、ボクがリフルさんの腕を攻撃しますから、そのタイミングであの鎌を思い切り蹴り飛ばしてください」
「えー、ずるいよ風ちゃん先輩。私もゲイルスリッターと戦いたい!」
 風天の言葉に、美羽は不満そうな顔をする。以前ゲイルスリッターに惨敗した経験のある彼女は、雪辱戦に燃えているのだ。尤も、リフルのことを根はいい子だと思っているので武器を使う気はなく、リフルを元に戻した後には負わせた怪我を治すつもりだ。
「あの大鎌を蹴り飛ばすような真似ができるのはあなただけ。あなたの脚力が必要なんです。それに……目立ちますよ?」
 風天にうまく乗せられ、そして何より『目立つ』という単語に引かれて、美羽はまんざらでもない顔をする。
「うーん、そういうことなら仕方ないかな。よーし、派手に決めてきっちり借りを返しちゃうもんね!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 勝手に決められては困ります。リフルさんにそんな乱暴なことをするなんて、私は賛成できません」
 どんどん進んでいく話に、紗那が慌てて口を挟む。
「でも、全く傷つけずに目的を果たすのは無理だよ。あとでちゃんとヒールをかけるし、謝りもするよ」
「そういう問題ではありません。どうしてもというのなら、私は戦ってでもあなたたちを止めなくては――」
 言葉の途中で紗那が崩れ落ちる。風天が峰打ちで気絶させたのだ。
「……すみません。さあ小鳥遊さん、行きますよ」
(ボクを恨む人は少なからずいるかもしれませんね……しかし、それで多くの人が笑顔になれるのなら安いものです)
 風天と美羽はリフルに向かって走り出した。

「む、どうやら動きがあるようですね」
 風天と美羽の様子を見て、影野 陽太(かげの・ようた)が呟く。彼はゲイルスリッターの獲物を狙撃することによって弾き飛ばそうと考え、校舎内の窓際に待機していた。
「これは、逸らずに様子を見ておいて正解だったかもしれません」
 高速で移動する標的に弾丸を命中させるのは至難の業だ。しかも、間違ってもゲイルスリッター本体に命中しないよう注意しなければならない。グレンたちのおかげでゲイルスリッターが自由に動けない今は絶好のチャンスだったが、臆病……いや慎重な陽太はすぐに引き金を引かなかった。
「失礼!」
 風天がグレンの後ろからリフルに接近する。リフルは不利な体勢でも鎌を巧みに扱って風天に刃をむけたが、風天はそれを受け流した。そして、
「……これだけの人が貴女を想っているのです。己を取り戻せッ、『友』を作った貴女にはそうする義務がある……!」
 グレンの脇から差し込んだ刀で、凍りかけたリフルの左腕間接を峰打ちする。風天は確かな手応えを感じた。
「美羽さん、今です!」
「任せて!」
 美羽はバーストダッシュで飛び上がると、超ミニスカートから覗く美脚に盛夏の骨気で炎をまとわせ、急降下キックを放つ。
「おりゃああああああああっ!」
 かわす余裕もなく、リフルは鎌でこれを受け止めた。激しい押し合いが繰り広げられる。
「うぐぐぐぐぐぐ……っ!」
「……くっ」
 もう一押しというところで、なんとかリフルは踏みとどまり続ける。
「今こそ俺の出番だ!」
 陽太はシャープシューターで狙いを定めると、今度は迷いなくスナイパーライフルでリフルの鎌を狙撃する。弾丸は見事に鎌を捉え、一瞬リフルがそれに気を取られた。
 美羽はこの隙を見逃さない。
「いっけえええええ!」
 最後の力を振り絞り、一気に押し切った。
 鎌はリフルの左手から離れ、宙を舞う。
「やったあ!」
 陽太も思わずガッツポーズした。
「晶!」
 荒巻 さけ(あらまき・さけ)の声で、日野 晶(ひの・あきら)は鎌に向かってバーストダッシュする。鎌は月詠 司(つくよみ・つかさ)との足下に落ちた。
「おお、これが……! 確か星鎌ディッグルビーとか言っていましたか? ヒトを操る武器……実に興味深い」
 司が鎌を拾い上げ、まじまじと観察する。
「我にも見せてくれ!」
 ウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)が司に駆け寄る。
「ふむ、我が触っても操られてしまうのじゃろうか?」
 ウォーデンも興味津々で鎌を見つめた。
 そこに、晶がやってくる。
「さあ、再びリフルさんがもつことのないように」
「ん? ああ、そうですね。えーと、どうしましょう……わ!」
 司がその扱いを相談しようとしたとき、急に鎌が動き出した。それは司の手を離れ、リフルの元へと戻っていく。リフルはグレンと格闘しながら、なんとか鎌を右手で受け取った。
「しまった!」
 晶が声を上げる。
「そんなあ! せっかくうまくいったと思ったのに。これじゃあカンナ様に褒めてもらえないよ……」
 陽太もがっくりとうなだれた。

「自動的に戻ってくる武器だと。やはり破壊するしかないな……ようし、やってやろうじゃないか」
 戦況を見て、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が言う。
「だが、その前に……」
 エヴァルトはリフルをびしっと指さすと、彼女に対してこう叫んだ。
「おい、先日はよくも俺のパートナーに怪我をさせてくれたな……装甲だってタダじゃない……学生の懐には大打撃なんだぞ……ぐすん」
「いやー、大変だったよねー……特に経済的に。アニメとかなら、修理ついでに新兵器追加で復活! ってとこなんだろうけど……ここは多少のレベルアップで我慢我慢」
 エヴァルトのパートナーロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)もうんうんと頷く。
「だが、心配無用。治療費は、お前さんを操ったやつに法外な利息を付けて請求してやる! 何十人にもラーメンを奢れるくらいの額をな!!」
「治療費? 修理費じゃなくて?」
「そこはいいんだよ。さあロートラウト、やるぞ」
「よっしゃー! 機晶石エンジン、フルドライブ! 出力全開! ツッコミはNG!」
 エヴァルトとロートラウトがディッグルビーを破壊しに向かう。二人のやりとりを黙って見ていたデーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)は、静かにその後に続いた。
「そらっ」
 エヴァルトは鎌の刃の付け根を狙ってソニックブレードを放つが、剣は簡単に弾かれる。ロートラウトの渾身のパンチも効果がなかった。
「うわ、硬! こっちが壊れちゃうよ」
「ロートラウト殿、あまり無理をするではない。また怪我をしたらエヴァルトが立ち直れなくなるぞ。どれ、今度は我が挑戦してみよう」
 デーゲンハルトが雷術を浴びせる。だが、やはり鎌はびくともしなかった。
「ふむ、魔法でもだめか。強固な素材でできているだけでなく、何か特別な力によって守られているのかもしれぬな」
 デーゲンハルトが考える。と、後ろからブラックコートを羽織った高村 朗(たかむら・あきら)が三人に声をかけた。
「あの」
「わ」
 エヴァルトが体をびくつかせる。
「あ、ごめん。気配を消してるからびっくりさせちゃったかな。今見てたんだけど、あの鎌を壊そうとしてるんだよね。実は俺もそうしようと思ってたところなんだ。どうだい、力を合わせてみない?」
「力を?」
「うん。二人で両側から同時に鎌を攻撃するんだ。そうすれば単独で攻撃するのに比べて遙かに衝撃が増すだろう。まあ、この程度じゃ壊せないかもしれないけど……試してみたいんだ」
「分かった」
「ありがとう」
 エヴァルトの承諾を得ると、朗はリフルを挟んでエヴァルトの反対側に回る。そして、かけ声をかけた。
「それじゃあいくよ。いち、にの……さん!」
 朗が刀型の光条兵器で、エヴァルトがバスタードソードで鎌にソニックブレードを叩き込む。激しい音が響き渡ったが、それでも鎌に傷をつけるまでには至らなかった。
「う……おお……」
 腕のしびれにエヴァルトがうめき声を上げる。
「だ、大丈夫? くそう、やっぱりダメか……」
 これ以上策の浮かばない朗が、悔しそうな声を上げる。
「あの鎌、手放させても戻ってくるし、やたらと頑丈だな」
「かといってリフルさんは説得に応じるような状態じゃありませんしね……」
 朗の顔を見て、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は自分たちがいかに困難なことに挑戦しているかを再認識した。
「元々傷だらけの身体だ……この身体がズタズタになろうとも諦めるつもりはない……」
「ま、俺がそうはさせねえけどな!」
 それは グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)李 ナタも同じだ。二人は仲間を、そして自らを奮い立たせるような頼もしい言葉を口にするが、全力でリフルを押さえ込んでいる四人の体力が限界に近づいているのは紛れもない事実だった。
「ふん、往生際の悪いやつらだ。……しかしここまでてこずるとはな。少々侮りすぎたか。そろそろ終わりにしよう……はあっ!」
 リフルが全身に力を込める。両腕の凍りが溶け始め、これまでとは比べものにならないほど強力で禍々しいオーラが彼女を包み込んだ。
 まずい。誰もがそう思って身構えたときだった。異変が起きたのは。
「なに……!」
 突然リフルが膝をついて崩れ落ちたのだ。
「馬鹿な……」
 体からどんどん力が抜けていき、やがてリフルは地面に倒れ込んだ。