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女空賊に憧れる少女を救出せよ!

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女空賊に憧れる少女を救出せよ!

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●7:船を、そして人質を巡る攻防

 前方を走るヴィルベルヴィント号から爆発が起こり、その速度が急激に落ちる。そこへ3隻の船が徐々に距離を詰めていく。
 次の瞬間、ヴィルベルヴィント号から十数の小型船が発進する。乗り込んだ空賊はそれぞれ得意とする得物を手に、近づいてきた飛行船を落とすべく巧みな操船技術で迫る。最も接近していた船を射程に捉えかけたところで、船から大量の紙吹雪や爆竹、花火といった撹乱用の道具がばらまかれる。
(想定していた事態とは少々異なりますが、ともかく為すべきことをしなければなりませんね)
 リネン・エルフトと共に撹乱行動を行っていたユーベル・キャリバーンが心に思うように、当初は戦端が開かれてしばらくした後に戦場に滑り込み、撹乱して船に奇襲をかける算段であった。しかしヴィルベルヴィント号が『つむじ風』の名の如く大逃げをうち、全速で追っている内に先頭に飛び出してしまった――追う船の中では最も速度が速かったため――のだ。
「今日は番狂わせばっかりね! まあいいわ、あたしたちで尖兵を片付けるわよ! シャーウッドの森空賊団、出撃!」
 団長であるヘイリーの号令に従い、次々と冒険者が大空へ飛び出していく。
「何だ、空賊の割には大したことないな、これなら私にも代わりが務まるな」
「このっ、好き勝手言いやがって! テメェごときヒヨっ子が空賊を語るんじゃねぇ!」
 斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)の挑発に乗せられて、空賊の一人が編隊を外れ、背後を取るべく船を滑り込ませる。流石に空賊を語るだけあって動きは俊敏であり、徐々に距離を詰めながら邦彦の船を射程に捉える。
「落ちなっ!」
 空賊の放ったボウガンが邦彦を撃ち抜くかと思われた、その直前にネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)の駆る船が割り込み、矢は強化スーツに阻まれ威力をなくし、気流に飛ばされていく。
「ちっ!」
 獲物を仕留め損なった空賊が、舌打ちして再び二人を射程に収める距離へと飛空艇を操る。
「危なっかしいですね、落とされていたかもしれませんよ」
 背後の機影に警戒を払いながら、ネルが横を飛ぶ邦彦を心配する。
「このくらいのことをしなければ、敵の陽動という目的を果たせないと思ったのでな。……私が落とされることはあり得んな、ネルが私を守っている限りはな」
 そう言い残して、邦彦は手にした銃で威嚇射撃を行い、より多く、より長く空賊を引き付けようとする。
(まったく……しかし、そうやって任せてくれるのも、悪いことではないですね)
 微笑を浮かべて、ネルが邦彦の後を追い、邦彦に向けられる攻撃を防ぐべく立ち回る。
「今度こそ落ちなっ!」
 そこに、先程攻撃を加えた空賊が必中の確信を得た表情で、引き絞られたボウガンの矢を放つ。矢は邦彦の乗る飛空艇の動力炉を撃ち、推力を失った飛空艇は重力に引かれて落下し、浮遊する岩にぶつかって爆発する。
「へっ、ざまあみろ!」
 ネルに助けられる邦彦を見下ろして悪態をつく空賊のすぐ傍を、練り上げられた気が飛び過ぎる。慌てて回避行動を取る空賊を、気を放った百々目鬼 迅(どどめき・じん)が悔しがるように声をあげる。
「くそっ! 地上なら確実にぶっ飛ばせたのに、空中だと勝手が違っていけねえ」
 地上では無類のドラテクを持っている迅も、空中ではその技量を完全には生かせない。現に迅は、シータ・ゼフィランサス(しーた・ぜふぃらんさす)の操る箒に同乗して戦闘に参加していた。どこか蛇行して飛ぶ箒は、どこから見ても『的』でしかなかった。
「せっかく『波羅蜜多百鬼夜行団』の宣伝になるかと思ったのに、これじゃ名を上げられねえ! おいシータ、もっと速く飛べねえのか」
「無茶言うなよ、二人乗ったらその分重くなるに決まってるだろ」
 空を飛ぶ箒も小型飛空艇も、複数人数を乗せることはできても、それで十分な機動力を確保出来るわけではない。ましてや相手の空賊は一人、機動力において太刀打ち出来るわけがなかった。
「次はアイツをやるぞ! 俺についてこい!」
「おう!」
「いくぜ!」
 それに気付いた他の空賊たちが、大挙して一斉に二人のもとへ船を寄せていく。迅とシータの後ろにズラズラと並ぶ空賊の飛空艇、遠くから見ればその光景は『百鬼夜行』と見えなくもない。
「おお! 今この瞬間、俺は百鬼夜行を従える者として君臨しているぞ! この調子で波羅蜜多百鬼夜行団をパラ実一大勢力に――」
 迅の言葉は最後まで紡がれることなく、次々と放たれた矢に撃ち抜かれた二人はふらふらと浮遊岩へと不時着する。空飛ぶバイクなんて代物があれば、また違った結果が生まれたかもしれないが。
「へっ、俺たちシュヴァルツ団をナメるなよ!」
「情報以外はからっきしとか思ってると、痛い目見ることになるぜ!」
 3機を行動不能に至らしめ、調子づくシュヴァルツ団の空賊たち。しかし、戦闘の結果一所に集まる結果を導き出せたことは、それ以降の展開に大きな役割をもたらしていた。
「おい、また来たぜ。今度は女だ、それもかなりの上玉だぜ!」
「おいどこだよ、教えろよ」
 空賊の一人が、彼らに近づいてくるクラヴィス・ヴァード(くらう゛ぃす・う゛ぁーど)を認め、周囲にいた空賊たちがこぞってその見目麗しい女性へ野蛮な眼差しを向ける。
 そして、クラヴィスの蒼と紅に煌めく瞳と、空賊の瞳が合わさった直後。
「……うおっ!?」
「な、なんだ……目が見えねぇ……」
「何も分からねぇ……おい、今俺はどうしてんだぁ!?」
 空賊たちが混乱をきたし始め、瞬く間に編隊は乱れ、そこかしこで空賊同士のニアミスが発生する。
「……私の呪いをその身に受けるがいい……さあ、私の眼を見ろ……」
 目を合わせることで相手の五感に支障をきたす『呪顕の魔眼』を武器に、クラヴィスが空賊へ混乱を与えていく。
「ちっ、ワケ分かんねぇ真似しやがって! 散開しろ、まとまってたら一網打尽にされるぞ!」
「……もう遅い……」
 慌てて命令を飛ばす空賊へ、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)の乗る船が迫る。恐怖に怯える空賊の瞳とクルードの瞳が合わさった直後、空賊の視界がブラックアウトし、周囲の情報を何も感じ取れなくなる。
「な、何も見えねぇ、何も感じられねぇ……や、やめろ、やめろぉぉぉ!」
 叫び散らす空賊の飛空艇は、すれ違いざまに呼び出され、振り抜かれたクルードの光条兵器『銀閃華』に二分され、爆散する。後にはパラシュート姿で気流に流されていく空賊が残った。
(くっ……まだ力の制御が上手くいかないか……)
 襲い来る疲労感を、クルードが頭を振って堪える。一瞬の判断が勝負を決める場において絶大な効果を発揮する魔眼の力は、使用者に多大な負担を強いるのであった。
「ナメた真似しやがって!」
 混乱から回復した空賊が、徒党を組んでクルードに迫る。振り切れず射程に捉えられたクルードの背に、空賊の放ったボウガンが突き刺さる。
「これでテメェもオシマイだぜ!」
 満足気な笑みを浮かべる空賊、しかし撃ち抜かれたはずのクルードの身体は、次の瞬間には霧が晴れるように、気流に流されて消えていった。
「な、何だぁ!? おい、ヤツはどこに消えた!?」
「……彼ならもうここにはいない」
 短い沈黙の後に声が聞こえ、振り向く間もなく空賊は、上空に回り込んだアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)の片手に持つ銃から放たれた光に飛空艇を撃ち抜かれ、航行不能に陥らされる。
「お、俺の船ぇぇぇ!」
 遠くなっていく空賊を無視して、アシャンテがここまで飛行手段として用いてきた巨大甲虫『ザイフォン』の制御を担う。
「『シャーウッドの森の霧幻術師』たるわたくし、そして主様のお力を知らなかったあなたに、相応しい末路ですわ」
 背後に乗るエレーナ・レイクレディ(えれーな・れいくれでぃ)が、丁寧な口調でさらりと悪態をついて、アシャンテに向き直る。
「主様、計画通りに?」
「……ああ」
 アシャンテが頷いたのを確認して、エレーナが出現させた縄で自らを縛り、『アシャンテに捕縛された侵入者』を装う。その間にアシャンテは『幻惑の霧』を自らに纏い、シュヴァルツ団団員であるかのように振る舞う。……シュヴァルツ団は全員男性なので不自然さが残るが、この異常事態でいちいちそれを気にはしないだろう。
 そうして、先にヴィルベルヴィント号へ向かった者を追うように、二人も甲虫を走らせていった。