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女空賊に憧れる少女を救出せよ!

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女空賊に憧れる少女を救出せよ!

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 一方、ヴィンターリオのいる操縦室付近でも、混乱した展開が繰り広げられていた。
「あんたは強いのか? 強いなら俺と相手しろ!」
 虚ろな目をした駿河 北斗(するが・ほくと)が、シズル救出へ向かおうとした冒険者に立ち塞がり、その掌から電撃を放つ。
「……あのね、いつもそんなことばかり言って、ホント馬鹿ね。……ま、付き合う私も相当なんだろうけど」
 やはり虚ろな目をしたベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)が、氷の礫を発生させて冒険者へ見舞う。
「最初っからこうすればよかったのよ! それそれ、全部燃えちゃえー!」
 やっぱり虚ろな目をしたクリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)の発生させた炎が、冒険者を阻む。
「うふふ、ちょーっと、効きすぎちゃったかしらぁ? まぁいいわぁ、存分に戦うといいわぁー」
 三人を操りにかけた張本人、オリヴィア・レベンクロンが口の端から滴る血を舌で掬い取って、恍惚とした表情を浮かべる。意図としては、既に敗色濃厚なヴィンターリオを殺させないため、向かってきた冒険者の中で操りやすそうとオリヴィアが踏んだ者に術をかけ、冒険者の相手をさせることでヴィンターリオに向かう戦力を減じる、というものであった。事実、シュヴァルツ団の所有する飛空艇はその殆どを落とされ、各地で抵抗する空賊も、その絶対的戦力の差にいずれ投降するほかない状況であり、『空賊は滅する!!』と意気込んでいる者がいつヴィンターリオを手にかけるか知れない状況であった。
「……ここにヴィンターリオがいるはずだ。退け、さもなくば斬る」
「刀真、何か様子がおかしい。気をつけて」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)から光条兵器『黒の剣』を受け取り、樹月 刀真(きづき・とうま)が今この場で戦いに馳せ参じているはずのフリューネ、彼女と交わし合った信念を貫くため、静かに剣を構える。
「強いヤツは歓迎するぜ!」
 北斗の放った電撃が、刀真の動きを鈍らせる。すかさず懐に潜り込み、男なら悶絶必至であろう箇所を蹴り飛ばす。
「…………この程度、この身に刻まれた痛みに比べれば、何ということもない!」
 しかし刀真は表情を変えることなく、射程に入ってきた北斗へ漆黒の剣を振り下ろす。その一撃を、地面を蹴って北斗は回避する。
「へっ、そうこなくっちゃな。しかし驚いたぜ、あんた、実はタマついてないんじゃないのか?」
「下品よ、馬鹿。黙りなさい」
 小馬鹿にする北斗に、ベルフェンティータのツッコミが炸裂する。既に刀真は、フリューネと彼女に何かと関係してくるヨサークとの関わりの中で、指を折られたり腕を折られたりしていたので、痛みには慣れていた。……戦闘で負った傷でないような気がするのは、気のせいである。
「……はぁ。付き合ってられない」
 一連のやりとりを見ていた月夜が溜息をついて、何かあった時のために船の下に飛空艇と共に退避する。
「もっと燃やさせろー! ついでにあなたも燃やしてあげるわ!」
 すっかり放火魔と化したクリムリッテが、両の掌に炎を湧き起こらせて一つにまとめ、刀真にぶつける。
「…………この程度、この身に刻まれた痛みに比べれば、何ということもない!」
 革製の衣服は案外燃えにくいというのもあったが、それ以前にまるで炎が刀真を避けるように、刀真が無傷でその場に立ち尽くしている。
「信念を貫くか何か知らないけど、暑苦しいのよね。さっさと凍っちゃってくれる?」
 さらりと悪態をついて、ベルフェンティータの発生させた氷が、刀真を貫く。……どうでもいい話だが、可憐な風貌して毒舌悪舌なのはトレンドなのだろうか。これと同じような性格をした女性を、他に何人も見ている気がする。
「……この程度、この身に刻まれ……た……」
 低温で顔を青くした刀真が、ゆらりとぐらつきそのまま甲板に倒れ伏す。実のところは最初、北斗に金的攻撃を受けた際に刀真の意識は既に吹き飛んでおり、これまで倒れなかったのはひとえに、その身に刻まれた痛みが教える信念所以である。
「おらぁ!! イルミンスールの紅蓮の魔術師たぁ俺の事! ウィルネスト様の名前をよーっく覚えておきやがれ! 刻み付ける脳細胞が足りてたらの話だがな!」
 部屋の反対側では、次にオリヴィアの標的となったウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が、虚ろな目ながら威勢のいい声を上げて、船に乗り込んできた冒険者の相手をしていた。
「うふふ、言ってることはカッコいいけどぉ、当の本人が一番脳細胞足りてないわよねー♪」
 オリヴィアの茶化すような言葉には耳を貸さず、ウィルネストがそこかしこに電撃を放っていく。
「これじゃ痴話喧嘩のつもりが本気の戦いになりそうね。他の人のことを考えると、私がここで黙らせた方がいいのかしら」
 先に船に潜入していた宇都宮・祥子が、ウィルネストの元へ飛び込んで行くと、彼女を認めたウィルネストがたいそう慌てた様子で祥子を指して喚く。
「うっわ! オマエ、なんでこんな所にいるんだ!? もうオマエとの間には何も無かった事になってんだよ!!」
「……それは忘れてないのね。いえ、実際にあったことと勘違いしているようね」
 溜息をついた祥子の手足に、闘気が炎となって湧き上がる。
「オマエの力は俺がいただいた! 二度と俺の前に出てこられないようにしてやるぜ!」
 ウィルネストの魔力で発生させた炎が、本人の周りに沿うように燃え盛る。二人の痴話喧嘩? が、空賊とは全く関係の無いところで勃発しようとしていた。
「え〜と、一体何がどうなってるのかな? シズルさんはどこにいるんでしょうか?」
「……私の推測ですが、倉庫のようなものに捕らえられているかと。ここにはいないようですし」
 すっかり混乱の渦に巻き込まれたフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)の戸惑いを多分に含んだ声に、操縦室を一瞥したセラ・スアレス(せら・すあれす)が自らの判断を口にする。
「わしはコソコソするよりも派手にする方が好きなのじゃ。バトルが起こせそうでワクワクするのじゃ♪」
 どこか楽しげに呟くシェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)の視界前方に、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)の姿が映る。奥にある船内への入口へ向かうかと思いきや、ゆらり、とフィルたちに振り向いたかと思うと、
「とにかく大暴れだー!」
 いきなり、大型の剣を振り下ろしてきた。その頭部だけが少女の瞳は、操られている者同様虚ろに濁っていた。
「ロボットの血は美味しくないわぁー。もうお腹いっぱいになっちゃったしぃ、やーめたっと♪」
 オリヴィアが円の元に戻ると同時に、術をかけられた様子のエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)も戦闘に参加し、それぞれ得意なスタイルを取る。ロートラウトは重装甲、重装備を活かして前面に出ての接近攻撃、デーゲンハルトは箒にまたがり魔法による支援及び回復、そしてエヴァルトはショットガンを手に、二人の間に位置する。
「フィル、下がって。事情はよく分からないけど、好きにさせるわけにはいかない」
 フィルを守るように、セラがブレードを携えて前面に出、ロートラウトと対峙する。
「わしはこやつの相手をすればよいのじゃな。戦いたくてウズウズしておったのじゃ、覚悟せい!」
 パラソルをロッドに持ち替え、シェリスが宙を舞うデーゲンハルトを牽制する。
「そんな! 味方同士で争い合うなんて――」
「空賊の世界ではそういうこともあるのだろう。……抜け、さもなければ撃たれるのはお前自身だ」
 剣を交えるロートラウトとセラの合間を縫って、エヴァルトが手にしたショットガンの引き金を引く。咄嗟の挙動でそれらを回避したフィルが、断腸の思いでライフルを構え、エヴァルトの足元を狙って撃つ。背後に飛び退いたエヴァルトに合わせるように、着地した箇所を狙って引き金を引き、エヴァルトを遠ざけていく。
「雷は苦手だけど、この雷は平気なんだからね!」
 ロートラウトが剣に雷を宿らせ、振り抜く動作で雷撃を走らせる。対抗するようにセラも雷撃を走らせ、放散した雷が飛行船を損傷させていく。
「ちょこまか飛び回って、メンドウなヤツじゃのう!」
 空を飛ぶデーゲンハルトに翻弄されつつも、その軌跡を先読みしてシェリスが火弾を飛ばす。
「……!」
 飛び荒ぶ魔力の塊に、デーゲンハルトは自らの魔力で生み出した炎を、障壁代わりにぶつけて相殺させる。お返しとばかりに打ち出された氷の礫は、張り巡らされた氷の壁で防がれる。飛び散った魔力の余波が飛行船のあちこちに穴を穿ち、板を吹き飛ばしていく。
「あの、このままだとこの船、沈んじゃいますよ! 私たちはシズルさんを助けに来たんじゃないんですか!?」
 訴えと共に撃ち出されたライフルの弾が、体勢を崩したエヴァルトのヘルメットを掠めて飛び去っていく。
「シズル……? どこかでその名を……そうだ、空賊団に攫われた人質……ハッ! 一体俺は何を!?」
 衝撃で術が解けたのか、あるいは彼自身の精神力が高かったのか、エヴァルトが瞳に光を取り戻して状況を確認する。
「おい、何をしている! やめろ、彼らは敵じゃない!」
 力でセラを押し返したロートラウトの攻撃が放たれる直前、エヴァルトが背後からその頭を殴りつける。
「いたっ!! ……あれ? ボク何してたんだろ?」
「……どうやら我も、何者かに操られていたようだ。この場において何たる不覚……!」
「と、とにかく元に戻ったみたいで、何よりです」
 ほっと息をつくフィル、体勢を立て直したセラが剣を収め、不燃焼気味のシェリスがつまらなそうな顔をしつつも、杖を再びパラソルに持ち替える。
 と、突然、飛行船が大きく傾き、衝撃を一行が襲う。
「……まずいな、船がもう持たない」
 呟いたエヴァルトは、船内へ向かっていく複数の人影を確認する。彼らならきっと、人質であるシズルを救出して帰ってくるだろう、そう読んだエヴァルトは、この場に残っている冒険者を退避させるべく、フィルたちに話をつけた上で行動を開始した。