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リアクション
御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の命令――もとい、依頼を請けた学生たちは夜を待って行動し始めた。
人魚姫の物語の夢を見る小谷 愛美(こたに・まなみ)をハッピーエンドへと導くために――。
第1章 豪華客船、嵐に遭遇〜救出
海に浮かぶのは、立派な帆船だ。
船上のホールでは、パーティが開かれていた。
貴族たちが食事し、踊り、談笑しあっている。
浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)は、旅の絵描きとして、乗船していた。
パートナーの魔道書、白乃 自由帳(しろの・じゆうちょう)へと人魚姫の物語を描く。
「こら、そんな所に絵を描かないで下さいませ!?」
自由帳はそう声を上げながらも抵抗することが出来ず、翡翠に描かれるがままになっていた。
さて、絵本が出来上がったところで、どう接触したものか。
旅の絵描きが、いきなり王子に接触するのは難しいことだ。
翡翠が悩んでいると、手にした絵本に興味を持ったのか子どもたちが集まってきた。
子どもたちの間で、話題になれば王子も来るだろうか。そう考えて、翡翠は絵本の読み聞かせをし始めた。
実際の人魚姫の物語とは少しばかり違うもの。
海の中には、それはそれは美しい人魚の姫君が居て、姉妹や魚たちと楽しく暮らしているのだという人魚姫を紹介するような物語だ。
物語を聞いた子どもたちは人魚姫に興味を持って、海を見ようとホールを出て、甲板へと向かっていく。
その様子を見ていた王子、ソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)もまた、物語に興味を示して、翡翠へと近付いてきた。
「絵描きのお嬢さん、僕にもその絵本の物語、聞かせてくれませんか?」
訊ねながら近付いていくと、翡翠は「喜んで」と顔を綻ばす。
翡翠としては、この物語で人魚姫に興味を示してくれれば嬉しいことなのだから。
「そうして、人魚の姫君は、魚たちと海の中で楽しく暮らしていくのでした」
読み終えて王子の顔を窺う。
「どうでしたでしょうか?」
「素敵な物語ですね。子どもたちが甲板に出て、人魚姫に逢いたくなったのも分かりますよ」
ソルファインはそう告げると「僕も逢ってみたいものです」と呟いて、側近と共にホールを出て行った。
一方、その帆船から少しばかり離れた水面に、人魚姫――愛美は顔を出していた。
今日は15の誕生日。初めて、海上へと昇ってきて、目にしたのは大きな帆船であった。
帆船からは賑わいと、楽しげな音楽が聞こえてくる。
近付きすぎて、見つかってもいけない。けれど、好奇心は抑え切れなくて、愛美は帆船へ、そっと近付いた。
そこへ現れたのが、王子、ソルファインだ。
相手はまだこちらに気づいていない。今の内に海の中へと潜ろう、と身を沈めた。
潜っていきながらも愛美の脳裏には彼の顔が浮かぶ。
運命の相手なのかしら……。
そんなことを思う愛美の頬は赤く染まっていた。
*
翌日も帆船はそこに居た。
数日間航行しながらパーティが開かれているのだ。
けれどもその日、海は時化ていた。
もう一度顔を見ることが出来たらと帆船へと近付いた愛美であったが、このような天気では甲板に出てくるような人は居ない。
「今日は見れないわよ、帰りましょう?」
姉であるリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)に促される。
残念、と顔をしかめ、引き返そうとしたところで、急に帆船の上が賑やかになった。
「王子が落ちてしまった!!」
「早く、ボートを!!」
「この波では、無理だーー!!」
甲板へと出た人間が高波に飲まれてしまったようだ。
愛美も慌てて、辺りを見回した。
少し先で、昨日見た人間が波に流されるままになっている。
急ぎ、泳いで近付いた愛美は、彼を抱きとめた。近くで見ると益々かっこいい。
「見とれていないで。彼は海の中では息が出来ないわ」
ぼぅっと王子の顔を見る愛美に、リカインは呆れたように言った。
「そ、そうね」
答えて、帆船を仰ぎ見る。
ボートだ、浮き輪だ、と叫んでいるけれど、時化た海にそんなものを下ろしたところで、役に立つはずがない。
「上に戻すのは難しいわね。浜へと運びましょ」
リカインが告げる。
愛美は、気を失ってしまっている彼の様子に、近くの浜へと連れて行くべく、急いだ。
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