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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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【第十幕・決死の流血戦】

 陽は完全に沈み、校内は夜の暗さの中にぽつぽつと松明や提灯が点っていく。
 そんななか利経衛はひとり、一階の下駄箱近くに座り込み考えこんでいた。
(確かに、今までの戦いは……)
 分身姉弟だけでなく、スィ、たつろう、コジ、SABAKI三号。
 それらの内どの戦いをとってみても自分はまるで役立たずで。
 シェイドの時も、運良く手裏剣が命中しただけだった。
 サクラの時も、彼女の厚意で丸薬を貰えたに等しい。
 そして卍子にはあっさりと敗北を喫してしまって。
 光に至っては、直接会うことすら叶わなかった。
「やっぱり、拙者は……ダメな忍者でござる」
「なぁ。さっきからなにひとりで黄昏てんの」
 と、そこへ闇咲 阿童(やみさき・あどう)が声をかけてきた。パートナーのアーク・トライガン(あーく・とらいがん)もその隣にいる。
「おまえ……もしかして、掲示板に載ってた……確か、ウッチャリだっけ。そいつだろ」
「え、あ、そうで、ござるが」
「やっぱりそうか。で……当事者がこんなとこでなにしてんの」
「それは、その。拙者が戦っても、何も変わらないでござるから」
「はぁ? おまえが戦わないんなら、これ何のための試験なんだよ」
「う」
「もしかして、他の人が全部終わらせてくれるのを待ってるとか? あのさ、万が一それで全部終わったとしても。おまえ自身は得るもの何もないんじゃないか?」
「そ、そんなこと、わかってるでござる!」
「ふーん。あっそ、まあ俺達は単に忍者と戦わせてくれるって掲示板を見て参加しに来ただけだから……好きにすればいいとは思うけど」
 と、そのとき外からバサバサと蝙蝠が数匹飛んできた。かと思うと、そのままアークの腕にとまって更に腕と同化した風に利経衛には見えた。
「阿童ちゃん、やっと例のアキラってやつ見つけた。そんなやつほっといて行こうぜ!」
「ん……ああ、わかった」
 終始やる気なさげながら説教し通した阿童と、こっちに見向きもしてなかったアークはそのまま外へ駆けて行ってしまった。
 残された利経衛は自身の両頬を叩いて気合いを入れ、ふたりの後を追いかけていった。行為こそ真剣そのものではあったが、
「なんだか、まるでお相撲さんが土俵入りするみたいだったね」
「ああ。どーにもしまらない感じなんだよな、あいつ」
 陰から様子を伺っていた歌菜とスパークに、厳しい意見を述べられていたりした。

 ところ変わって、校舎裏。
 そこでは朔、アルフレート、テオディスが神妙な顔つきで身構えていた。朔とアルフレートは殺気看破、テオディスはディテクトエビルを使って相手の出方を待っている。
 夜の闇の中、ひとつの影が急激に間合いを詰めてきた。
 狙われたのはアルフレート。しかし彼女はすかさずバックステップで距離を測りにかかった。そのおかげで右腕に刃がかする程度で済み。そこをすかさずテオディスがサンダーブラストによる攻撃を繰り出し、朔も高周波ブレードにアルティマ・トゥーレを使って斬りつけにかかった。
 が、その影は体操選手も驚きの勢いでバク宙をして攻撃をかわしていた。
「夜は忍者のゴールデンタイム……狩りの始まりといこうじゃないか」
 月明かりに照らされたその姿は、ニヤリと笑った口元に八重歯をのぞかせる、美形ながら怪しげな印象も併せ持った青年。紫の忍び装束に身を包んだ吸血鬼、アキラ。
 彼は着地と共に短刀をぺろりと舐めながら殺気を放ち、三人に改めて緊張が走る中。
 そこへ阿童とアークが駆けつけてきた。その後ろには利経衛、そのまた後ろには歌菜もついて来ている。
「あいつがアキラか。さて、どう攻略す「俺様が始末してやるから覚悟しやがれ!」
 阿童のセリフも終わらぬまま、アークがアキラに飛び掛っていった。
 それにアキラはカウンター気味に短刀を突き出すが、そこですかさずアークは腕の関節を掴むと、そのまま通常曲がらない方向へと捻り上げようとした。
 が、そこで再びアキラは身体の方を回転させて、アークの喉元めがけて逆の手を突き刺そうと繰り出してきた。それをすんでのところで身体を仰け反らせてかわすアーク。
 そんな吸血鬼同士かなり危険度の高い戦いを展開し始めて、利経衛は焦りを見せる。
「く、このままでは彼が危ないでござる! なんとかして隙を作らないと」
「そういえば、自分はこういうものを持っているんですが」
 そんなとき、朔が取り出したのはなぜか保健体育の教科書。
「は? なんでござるかその本? 戦術書のたぐいでござるか?」
 受け取った利経衛はペラペラとページをめくって、つられてアルフレートやテオディス、歌菜も覗き込む。そのまま何ページか進んだところで、とある行為が載ったページが開かれた。
 直後、物凄い勢いでアルフレートと歌菜は頬を染めてそっぽを向いて。利経衛とアルフレートは思わず鼻血を噴出していた。
(ああ、パートナーから貰ったあの教科書……やっぱり話に聞いた通り、そこまでエロイのかな。自分はそういうの嫌いだから、結局見なかったけど)
 ともあれ、そんなふたりの鼻血にアキラが、目の色を変えて動きを緩めた。
 その隙を狙い、アークは後ろから抱きつくような形でアキラを拘束し、そのまま七首によってその首を掻っ切ろうと腕をスライドさせ――ようとした直前、アキラはすかさず左手につけた手甲を首に添える形で防御していた。
「くそ、こいつ……!」
 攻撃を防がれたアークに今度は隙が生まれた。そこをアキラは短刀で脇腹を斬りつけ、拘束の力が緩んだのを見計らいそのまま背負い投げでアークを阿童の方へと投げつける。
 飛んで来た相方に、阿童はやる気の無さそうな顔で、ほんの少し身体を捻って受け止めずにあっさり回避する。
 更にそのまま突っ込んでくるアキラの短刀を、その場からほとんど動かないままルーンの剣を抜いて受け止める阿童。そこからも軽く剣を動かしたり、半歩下がるなど最小限の動きでの攻防を繰り返すふたり。
 そこへまたアークが脇から血をにじませながらも、特攻して戦いに加わっていく。
 そうした血が舞い散る攻防が繰り広げられている一方。
 ひとり、その戦いに恐れをなしてじりじりと後ろへ下がる人物がいた。
 それは様子を伺っているアルフレートとテオディスではなく、同じくどう戦いに加わるべきか思案している風の朔でもなく。
 あろうことか、利経衛だった。
(やはり、こんな熾烈な戦いでは拙者など……とても役に立てないでござる……!)
 そんな後ろ向きの考えがぬぐい去れず、戦いから背を向けて逃げ出した。
「おいコラ。まだ戦いは終わってねぇぞ? 敵前逃亡は許さねぇ!」
 と、ちょっと走ったところですぐさま誰かに腹を殴られ、足を止めさせられていた。
 それをしたのはブラックコートを着、更に隠れ身で身を隠していたスパークだった。彼は姿を晒すと、がっちり利経衛の襟首を掴んで離さない。
「な、なにするんでござるか」
「なにかしようとしてるのはそっちだろ」
「そうですよウッチャリ君、まだ勝負は付いていませんよ?」
 それに歌菜も気づいて、逃がすまいと利経衛の前へ回り込んだ。
「まさか本当に逃げるつもり? ここまでだって頑張ってきたんでしょ?」
「し、しかし……拙者の力では何の役にも……」
「そんなのやってみないとわからないってば。やる前から諦めてどうするの! 諦めたら、そこで試合終了だよ!」
「うん、まったくその通りだよねぇ」
 と、そこへ新たに姿をみせたのは清泉 北都(いずみ・ほくと)と、パートナーである白銀 昶(しろがね・あきら)
「黙って聞いてれば、おまえなんて情けない奴だよ」
「…………」
「まあまあ昶。でも、実際のところウッチャリさんだって、このまま終わらせたくないって思ってるんだよねぇ?」
「……それは、そうでござるが」
「だったら僕らも力を貸すからさ。なんとかやってみようよ。あ、でも甘えちゃダメだよ? 僕らはサポートはするけど結局は自分で戦う意思を見せないと、意味ないんだから」
 その北都の言葉に、ぐっと唇をひきしめる利経衛。
「……わかった、でござる。もう一度、やれるだけやってみるでござる」
「うん! その意気だよウッチャリ君!」
 純粋な笑顔で喜びを見せる歌菜に、利経衛はクナイを取り出して強く握った。
「さって。じゃああの吸血鬼さんをこっちに誘い出さないとね、あの混戦状態じゃ、加勢に入ると逆に危険そうだし」
 戦闘中の様子を見ながらそう判断した北都は、おもむろに利経衛のクナイで自身の腕に傷をつけた。
「痛っ……」
「!? お、お主なにを?」
「ああ。こうして血を流せばきっと臭いに惹かれて寄ってくると思ってね。とにかくここからが本番だよ。気を引き締めてね」
 そうして一歩前に出る北都。
「先に言っとくがな」
 そして昶は利経衛の肩をぎゅうと強めに掴んでから、
「北都にここまでさせて、これで男を見せなかったらタダじゃおかねぇぞ。くそっ、大体相手も気にいらねぇ……なんでよりによってアキラなんて名前なんだよ」
 それだけを告げて北都の隣に並び立った。
 そうした真剣なふたりの様子に利経衛は、一度深呼吸をしておいた。
 ポタポタと北都の腕から流れ出る真紅の液体……それは確かに鼻を刺激する鉄臭さを辺りに漂わせていく。鼻のいい人間はそれを敏感に察知し、吸血鬼は更にそれを上回る嗅覚で感じ取る。
 現にアキラはぴくりと鼻を動かした。
 阿童やアーク相手でも血は流れ出ていたが、アキラの目は既にギラギラと平静を失った煌めきでこちらを捉えていた。
 新たに漂ってきた美味そうなその臭いに、アキラは阿童達との戦いを放ってまさに狙い通りこちらへと向かってくる。それはまるで獲物を前にした獣のような、鋭く、しかし隙の多い動きだった。
「ぐっ!」
 そして一気に北都の腕へと噛み付いてきた。
 歯が直に腕に食い込んでくる痛みに思わず顔をしかめる北都。しかも不気味に笑う男の顔がそこに付属されていれば、尚更だった。
「ホラ! 今こそウッチャリ君の出番ですよ!!」
 歌菜の叫びと同時に、利経衛は鈍足の足で駆けた。狙うは当然左手に装備された手甲。
「ウゥゥ……ウゥウウウウウ!」
 アキラは噛み付いたまま唸り声をあげ、紫色に輝く手裏剣を投げてきた。
 このまま突っ込めばよけられない。あれは確実に毒を塗ってある。どうする、どうする!
 そうした思考が利経衛の頭を駆け巡ったが、しかし足を止めることはしなかった。
 それはがむしゃらな特攻精神によるものではなく、
 超感覚で敵の動きを察知していた昶とスパークが、それを止めると察したからだった。
「さっさとやっちまえ!」
「上手く当てろよ、ウッチャリ!」
 そして。
 弾かれた手裏剣はあさっての方向に飛んで、
 利経衛のクナイがアキラの左腕を刺しぬいて、
 痛みにうめいたアキラは北都から歯を外されて、
 そのままふたりはもつれあいながら地面を転がった。
 それらがスローモーションのような流れで利経衛には見えた。
 しかしまだ終わってはいない。手甲はまだアキラの左手にはまったままだった。
 急いで外そうとする利経衛だが、アキラの方もしぶとく暴れ続け腕に噛み付き、人体の急所を狙っての打撃を繰り出してきていた。もはや半狂乱状態なので、ろくに当たってはいなかったが。これまでに受けた傷も重なって、一瞬気が遠くなりかける利経衛。
「私の力を貴方に……。ウッチャリ君、ヒールです! これでまだまだ戦えますよ♪」
 それを察した歌菜はすかさず援護を行なっていく。
「っ! ありがとうでござる! うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 おかげで体力を回復した利経衛は、気合いの叫びと共に渾身の力を振り絞って腹に全体重をかけての拳を叩き込んだ。
「ごはぁ……!」
 そしてついに、アキラは意識を途絶えさせた。
 それを確認して、はぁはぁと息を切らせつつ、ようやく左手から手甲を外した利経衛。
「やっ、た……やった! やったでござる!」
 最後は高らかにそれを掲げて、喜びの叫びをあげていた。
「ウッチャリ君、がんばったね!! 凄いよ!」
 歌菜が満面の笑顔で喜んだのを皮切りに、スパーク、北都、昶も笑みをみせ。そして阿童とアーク、朔にアルフレートにテオディスも近づいてきて、心からだったりなりゆき混じりだったりの拍手と歓声を送っていた。

 そうした彼らの様子を、遠目に眺めている人物がいた。
「……やっと闘争心に火がついたという所か。後は、自身の資質に気がつくだけだな」