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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

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激突必至! 葦原忍者特別試験之巻

リアクション

【第六幕・うつつと幻の男】

「ようやくこれで五つでござるな……ふぅ」
 腰につけた巾着には、まだ奪取すべき道具はまだ半分も入っていない。
 先は長そうだなと手に入れた鱗を見つめ溜め息をつく利経衛。
「ん?」
 すると、掌の鱗が突然羽虫に姿を変えた。
「わっ! な、なんでござる!?」
 慌てて払いのけると利経衛の影からにょきりと伸びてきた手が、その羽虫を掴み取った。
「ふぉふぉふぉ……やはり未熟じゃのう、ウッチャリ」
 そしてそのまま影からずるりと出てきたのは、鼠色の忍び装束を着込んだ英霊コジ。
 頭巾で覆面をしているため顔どころか年齢も不明な不気味なその男が、そんな度肝を抜く登場の仕方をしてきたものだから、その場の全員が戦慄をおぼえていた。
「コジ殿! お主の幻術でござったか!」
「ご名答。では次は、これでどうかの?」
 コジが両手で印を結ぶと、その身体がみるみるうちに小さくなっていく。かと思うとそのまま本物の鼠へと姿を変えて、たつろうの忍鼠に混じってしまった。
「ああっ!? く、くそ、どこいったでござる?」
 焦った利経衛の隙をつき、鼠の一匹が道具の入った巾着を奪い取ってしまった。
「し、しまった! 待つでござるよ!」
 そのまま校舎へ向かって逃走する鼠を追う利経衛。
「もう次の相手が登場か。ああもう、めんどくさいなぁ」
「せ〜ちゃん。そう言いつつ、実は結構乗り気でしょう?」
 誠一とオフィーリアも後を追い。
 それに三郎や永太達も続こうとしたが、
「ぐおおおお! うがあああ! いでぇ、いでだよ! よくもおらの鱗をぉぉお!」
 早くも目を覚ましたたつろうが暴れ出し、それを残った全員で彼を取り押さえる羽目になってしまうのだった。

 校舎内に戻ってきた利経衛、そして誠一とオフィーリア。
 彼らは追いかける途中に遭遇したエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)とパートナーのロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)、更にアルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)とパートナーのテオディス・ハルムート(ておでぃす・はるむーと)らと共に、鼠を追いかけて疾走していた。
「それにしても、鼠に化けるなんて幻術ってなんでもありだな」
「ニンジャって奥が深いんだね! でも、ホントにあれがそのコジくんなの?」
 エヴァルトとロートラウトのやりとりに、
「だろうな。さっきから殺気看破で気を配ってるけど、あの鼠から何かこう……ヤな空気がにじみ出てるからな」
 アルフレートが言葉を返していた。
 コジ鼠が角を曲がり、七人もそれに続く。
「お?」
 すると、突然その姿が消失していた。
 近くを見渡してもそれらしい影は無く、ただ木目の廊下が続いているばかり。
「どこでござる、コジ殿! 姿を見せるでござるよ!」
「ふぉふぉふぉ。シノビに向かって姿を見せろとは、なんとも間抜けな発言をするのう」
 声はすれども姿は見えず。アルフレートとしてもコジの気配は感じているのだが、どこにいるのかの見当がつけられないでいた。
「余計なお余話でござる! 拙者は急いでいるんでござる、いつまでも追いかけっこをする気は――ぉわ!?」
 と、一歩歩み出た利経衛が何かに躓いて転んでいた。
 足元を見るとそこにあったのは単なる箒。だが、そんなものは先程までどこにも無かった筈だと思わず首を傾げる利経衛。
「これは、光殿のトラップ……?」
「ふぉふぉ、あんな小娘の陳腐な罠と一緒にされるとは心外じゃな。ここら一帯にはわしの幻術が施してある。ある筈の無いものが存在し、ない筈のものが現れる。これぞわしの忍法、幻惑道の術じゃ。どこになにがあるかも知れんからせいぜい気をつけることじゃの」
 その小馬鹿にしたようなセリフを受けて、すかさず誠一はトレジャーセンス、テオディスはディテクトエビルを使って周囲に気を張りめぐらせる。
「よし。俺が先頭に立って幻術を確かめるから、後についてきてくれ」
 そう言ってテオディスは、エンシャントワンドを杖代わりにして床や壁などをコツコツと叩き、探り探りの進んでいく。利経衛ら六人はそれに続き、亀のごとくゆっくりの前進を始めた。
「ここ、気をつけろ。何の変哲もない廊下に見えるけどそれらしい感触が無い。おそらく落とし穴だ」
 テオディスの注意のおかげで惑わされずに道を進むことはできていた。
 だが突如、廊下の木目が黒い蛇へと変貌し彼らの足へと巻きついてくる。
「うわ!」「な、なにこれ!?」「へ、蛇でござる!!」
「落ち着け皆。この蛇からは殺気を感じない、ただの幻だ」
 アルフレートの冷静な一言で、焦った皆はそう言われれば確かに足に蛇が絡むような感触が無いことに気がついた。幻覚とわかれば、多少気味が悪いのを我慢すればなんということもなく。少し時間が経つとその蛇は消えうせていた。
「成る程。これで慌ててしまうと、別の罠にかかってしまう訳でござるな」
「あの、すいません」
 と、分析する利経衛の背後から声がかけられた。全員が振り返ると、そこにいるのは明倫館の制服を着た女生徒。
「さっきから何してらっしゃるんですか? そこ通りたいんですけど」
「ああ、一般生徒の方でござるか。すまんでござる、この先は今拙者の試験のせいで危険ゆえ、別の道から行って貰えぬでござるか」
 彼女を見ながら、アルフレートはテオディスの肩をトントンと二回叩いた。
「そうだったんですか……わかりました」
「本当に申し訳ないでござるな」
「いえ。こちらこそ、お邪魔してしまってごめんなさいでした」
 ぺこりと頭を下げ、にこりと笑顔を見せる女生徒。
 アルフレートとテオディスは何やらアイコンタクトをして、こくりと頷いた。
 直後。テオディスが光術を放ち、
「!?」
 怯んだ彼女の脳天めがけて、アルフレートはドラゴンアーツによる会心の一撃を叩き込んでいた。そんなことをすれば当然彼女は下に叩きつけられ、床板を粉砕させていた。
「おっ、お主たち。何をやってるでござるか!?」
「馬鹿、相手をよく見るんだ」
 ふたりの行動に驚く利経衛だったが、ふらふらと立ち上がるその女生徒の顔がぐにゃあとありえない程ひん曲がっているのを目の当たりにして更に驚かされた。
「うっわなんだこれ、気色悪……」「スゴーイ! まるでCGみたいだね!」
「女の子に化けるなんて、やってくれるねぇ」「なんとなく不穏な気配はしたのだよ」
 エヴァルト、ロートラウト、誠一、オフィーリアらが驚きの声と歓声を漏らす中、そいつは顔つきや服装を更に歪ませ、鼠色覆面に忍び装束のコジへと変貌を遂げた。
「い、今のはコジ殿の幻覚だったんでござるか」
「く……さっさとケリをつけようと考えたのが、裏目に出てしまったようじゃの」
「フン。顔で笑ってても、あそこまで邪念を持ってたら普通バレるぞ」
 冷ややかなアルフレートの言葉にコジは舌打ちをひとつすると、近くの美術室へと逃げ込んだ。この機を逃すまいと、七人は続いて中へ突入する。
 そこには浮世絵やこけし人形など日本の文化を思わせる展示物がいくつか見られるが、彼らは互いにそれを鑑賞する余裕は無かった。
 特にコジはさっきもらった一撃の影響で足元をふらつかせつつ、机の上にあった冊子を手に取ると、何やらブツブツと呪文らしき言霊を唱えて筆を手に何かを書き込んでいく。
「幻覚忍法……本の虫の術!」
 すると、冊子がバララララ……と風も吹かないのに次々めくれあがっていき、その間から十匹二十匹と羽虫が飛び交いはじめていく。
「む、どうせまた幻でござろう。こちらもそうそう何度も騙されたりは……」
「う、ぁ。―――――――――――――――――――――!」
「えぇ!?」
 突如、エヴァルトが声になっていない絶叫をした。
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ! これは幻覚、ただの幻だよ!」
 ロートラウトが落ち着かせようとするも、エヴァルトは平静を失って爆炎波をそこかしこに乱発させていく。それでどうやら虫が苦手らしいと誰も目にもわかった。
「……このままじゃ、火事になりかねないねぇ」
 そこで誠一は雅刀を手に幻覚の虫の中を突っ込み、コジの手から冊子を弾き飛ばした。すると虫が一瞬でまた消えうせる。
「大道芸はこれでおしまいですか?」
 誠一がコジに挑発交じりに問いかけると、
「ふふ、この術はここからじゃよ」
 そのコジの身体自体が突然無数の羽虫と変化した。
「!!!!!!!!!!!!!!」
 再度絶叫するエヴァルト。もっとも人間が丸々虫に変わった気色悪さは他全員も同様に感じて、若干吐き気を覚えた。
「さあて、わしを捕まえられるかの?」
 また声だけになったコジ。そして室内を埋め尽くさんばかりの勢いで広がっていく羽虫達。かと思うと、その虫達が集まって巨大な拳の形を形成させ、一気にアルフレートとテオディスにぶつかっていく。
「なっ――!」「痛っ!」
 殺気を感じて回避しようとしたふたりだったが、すぐさま軌道修正したその虫の拳に壁際まで弾き飛ばされる。その衝撃は幻ではなく確実に本物だった。
 ふたりが膝をつき、そしてもはや気絶寸前のエヴァルト。彼らの代わりにロートラウトは、虫達へ向けて六連ミサイルポッドで攻撃を仕掛けるが。相手はミサイルをよけるように散らばり、そしてまた何事もなかったかのように集合していた。
「嘘っ! そんなのあり!?」
 利経衛はコジの本領発揮にさすがに焦りを感じ始める。とはいえ、集めた道具を奪われたままゆえ撤退するわけにもいかないとわかっていた。
「皆! あの虫はあくまでも幻覚、コジはそれに隠れて攻撃を繰り出してきているだけでござる!」
「ふふ、その通りじゃのう。しかしそれがわかっても、どうしようもないであろう!」
 羽虫達は再び集合して拳を作り、利経衛のどてっぱらに突撃した。その衝撃に悶絶する利経衛。
 そして次は何十もの手裏剣の形に変わった羽虫達。今度は誠一に狙いを定めて飛び交い腕や足をかすめていく。するとやはり現実に切り傷を負わされていた。
「せ〜ちゃん!」
 オフィーリアはバニッシュで虫達を追い払い、誠一へヒールをかけていく。
「まったく世話が焼けるのだよ」
「はは、悪いねぇ。リア」
 しかしやはり虫達は何事もなかったかのように集結し、今度は刀へと形を変える。
「大道芸も、ほどほどにして欲しいものですねぇ」
「ふん。そのへらず口、閉じたほうがいいぞ?」
 飛び掛ってきた羽虫刀を、誠一は器用に自身の雅刀で受け止めた。傍から見るとまるで刀を持った透明人間と切り結んでいるかのようだった。
「くっ! ぐ、あっ……!」
 だが、縦横無尽に飛び交う虫相手に誠一は劣勢を強いられて肩や腕を切り刻まれて。そしてついには刀を弾き飛ばされてしまう。
「ふ。これで丸腰じゃな、一息にとどめを刺してやろう!」
 無防備になった誠一めがけ、虫達は刀のまま直進し――
 誰もが息を呑んだ。
「う、ぐ……」
 そして。刃が肉を貫いていた。
 誠一が隠し持っていた光条兵器の刃が、見えないコジの右肩を見事に。
 羽虫刀は誠一の顔面スレスレでボロボロと崩れ、ただの小刀へと正体を現す。
「く、くく、やってくれたのう。わしに確実に攻撃する為、やられたふりをしていたとは」
 徐々に、隠形の術で姿を消していたコジの姿が肉眼で見えてくる。
 右肩を押さえ、よろよろと壁際に背をついたその姿はもはや戦えそうになかった。
「肉を切らせて骨を絶つ、戦いなんて結局騙し合いですよ?」
「ふ。騙しが専売特許のわしに、言ってくれるわい。仕方ない、こいつはくれてやるわ」
 そして、筆とさっきの鱗、そして奪い取った巾着を放り渡して。
「さあて。それではわしは退席するとするかの」
 コジはそう言うと、波が描かれた掛け軸へと自身の血を使ってさらさら船の絵を描き上げていく。すると、その船が実際に中から飛び出してきた。
 利経衛らが驚く暇もなくコジはそれに乗り込むと、船はまた元の掛け軸へと戻って行ってしまうのだった。
 その後よくよく絵を見ると、微かに船上に人らしき影が乗っていたという。
「はぁ……最後まで心臓に悪い相手でござった。ともあれ、道具は取り返したでござるし。コジの筆も奪取できた。やっとこれで半分でござるな」
 ようやく折り返し地点に来た利経衛は、ほっと一息……

 チャラ〜ラ ララララ ラッラララ〜ララ〜

 つく間も無く、また昔なつかし忍者アニメの着メロが鳴った。
「も、もしもし?」
『あ、ウッチャリ君ですかぁ?』
 今度の連絡はメイベル達からだった。
『急いで購買に来てくださいですぅ、お相手の方を見つけましたぁ』