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うそ

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うそ

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    ★    ★    ★
 
 キュルキュルキュル……。
「戦車、戦車♪ 強いぞ戦車、空飛ぶぞ戦車。戦車、戦車、僕らの戦車♪」
 念願の戦車を手に入れて、アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)は御機嫌だった。
 古今東西の戦車の格好いいところをすべて寄せ集めたごつい戦車は、あろうことか世界樹の幹を垂直にキャタピラで上っている。
 中からでは鷽の位置は分からないが、どうも戦車のどこかに留まっているようだ。これなら、どこに移動しようと戦車は健在のままである。
「標的発見! 0時方向、正面!」
 外部索敵モニタを見ていたアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)が叫んだ。モニタには、枝の上を逃げる鷽を追いかけるファタ・オルガナと立川るるたちの姿が映っている。
「鷽をやっつけさせるわけにはいかないよ。すぐに援護だ。クリス、砲塔回せ! パオラ、装填手伝ってやってくれ!」
 すぐさま、アクィラ・グラッツィアーニが戦車をそちらへとむける。
「はははは……。おっ、止まりましたね。暗黒魔王、クロセル・ラインツァート参上!!」
「正義の味方じゃなかったの〜!!」
 上から落ちてきたクロセル・ラインツァートと日堂真宵が、再び魔王化して空中に浮かんだ。
 ちょうど、世界樹の幹を地面にしたような感じで、アクィラ・グラッツィアーニたちの乗る戦車と上下を合わせたような格好で、暗黒のオーラと鷽時空のピンクの光につつまれながら正面に立ち塞がる。おかげで、日堂真宵はチャイナドレスの裾がめくれないように必死に押さえなければならなかった。一部重力だけ嘘にするだなんて、とんでもない手抜きである。
「どけ、俺たちは鷽を掩護射撃するんだ。邪魔をするな」
 上部ハッチを開けて半身を出すと、アクィラ・グラッツィアーニは叫んだ。
「だとしたら、なおさらさせるわけにはいきません。あなたは、撃ってはいけない!」
 なぜか、自信満々にクロセル・ラインツァートは言った。
「なんだか変なことになってるわね。それにしても、なんで自動装填にしなかったのよ。この砲弾って重い……」
「こっちの方が戦車らしいって、アキラが言ってたからですぅ……」
 パオラ・ロッタ(ぱおら・ろった)に協力してもらいながら、クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)がなんとか砲弾をセットした。
「急げ。アキラが敵の気を引いているうちに、発射準備を整えるよ」
 アカリ・ゴッテスキュステが、二人を急かした。
「準備オッケーですぅ」
「照準微調整。仰角+二、速度そのまま。よし!」
「撃ちまーす。発射!」
 クロセル・ラインツァートの忠告を無視しする形で、戦車から砲弾が発射された。
 派手な爆発音とともに、立川るるたちの足下が吹っ飛び、全員が枝から落ちた。さすがに鷽時空の範囲から外れ、モヒカンたちが忽然と姿を消す。
「えーっ、D級四天王は嘘じゃないのにー」
「手下がいるというのは、嘘だったようじゃのう」
 落ちる立川るるに、もどかしげにのばした手をわきわきとさせながらファタ・オルガナが言った。そのまま、なんとか途中の生い茂った葉に突っ込んで、かろうじて墜落だけはまぬがれる。
 一方、気持ちよく砲撃したはずのアクィラ・グラッツィアーニたちも、なぜか生身でクロセル・ラインツァートたちとともに落下していた。
「なぜだあ! 俺の戦車がー! 返せー、戻せー」
「だから、砲身の中にちっちゃな鷽がいると教えてあげようとしたのですが」
「早く言いなさいよ!」
 アカリ・ゴッテスキュステが、クロセル・ラインツァートにむかって叫んだ。砲弾で鷽を吹っ飛ばしてしまったため、鷽時空ごと戦車が消滅してしまったらしい。
「ああ、落ちるの嫌ですぅ!」
 クリスティーナ・カンパニーレが、お下げを風に振り回して泣きながら叫んだ。
「まったく、こんなときだけ私が役にた……うぐぐ、重い」
 ハーフフェアリーであるパオラ・ロッタが、仲間たちを空中で捕まえるが当然三人もぶら下げて飛べるはずもない。
「うう、むりー」
 かろうじて減速したかに見えたが、すぐに落下を始める。
「うぎゅう」
「痛いですぅ」
「むぎゅ」
「あん」
 そのまま地上に真っ逆さまかと思われた四人だったが、間一髪、アクィラ・グラッツィアーニとアカリ・ゴッテスキュステの呼んだサンタのトナカイの橇の上に折り重なるようにしてなだれ込んだ。
「はははは……、また会おう、諸君!」
「いやあぁぁぁぁ……」
 クロセル・ラインツァートと、彼にしがみついた日堂真宵は、さらに下へと落下していった。
 
    ★    ★    ★
 
「追い詰めたぞ、鷽め。このままおとなしく、俺のペットとなれ。さあ、力を合わせて捕まえるよ、梅琳」
 枝の先にあるテラスの一つに鷽を追い詰めた橘 カオル(たちばな・かおる)は、隣に寄り添う李 梅琳(り・めいりん)にむかって言った。
 ここまでの戦闘で鷽の羽根にダメージを与え、飛んで逃げることはできなくしてある。さすがは、李梅琳である。射撃の腕は正確きわまりない。
「ああ。私たちの力が一つであることを証明しようよ」
 李梅琳が、力強くうなずいた。実際はこんな場所に今いるはずはないので、鷽が作りだした幻影か、強制的に空間転移させられてきたのであろう。恐るべし、鷽時空である。
「待ちなさい、そうはさせないわ」
 いざ鷽を捕獲しようとした橘カオルたちの前に、突如床からせり上がるようにして姿を現したカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が立ち塞がった。床に穴など開いてないはずだが、まるで見えない出入り口があるかのような出現のしかただった。
「これは、ボクの物なんだもん!」
 カレン・クレスティアが言い切った。
「勝手なことを、邪魔だあ」
 自分のことは顧みずに、橘カオルが叫んだ。
「ふふっ、そう簡単にいくものですか。すでに、星は揃ったわ。今こそ、旧支配者の眷属を呼びよせるとき! このみなぎる魔力、すべて開放するよー!!」(V)
 カレン・クレスティアが両手を広げて叫ぶ。
 テラスの床に、星空を写した漆黒の穴が突如開いた。その中から、幾何学的には実にでたらめでおぞましいオブジェがせり上がってくる。それは、何かの祭壇なのか、あるいは入れ物なのであろうか。
「いでよ深淵より、おぞましき魔手の混沌よ!」
 カレン・クレスティアの言葉とともに、目の前のオブジェに罅が入って、中からどろりとした物が溢れ出した。スライムかと思ったが、本体は巨大な蛭のようにある程度の形を持った物のようだ。だが、その背中というか表面には、びっしりと触手のような物が蠢いている。不規則に伸縮する触手が、一斉に橘カオルたちの方をむく。その先端に、次々に眼球と牙が現れ、しとどに粘液のような物を振り散らしながらガラスのこすれるような不快な音をたてた。
「はーひゃああああ。これは、すばらしいぃぃぃ。暗黒に祝福をぉぉぉ……」
 額に「正気レベル0」と書かれた藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が、ふらふらとその場に現れた。どうやら、カレン・クレスティアの呼び出した名も無き者の狂気にすっかりあてられたらしい。
「RAKE! RAKE! RAKE!」
 叫びながら、およそ人間の足取りではない動き方で、よろよろと藤原優梨子が進んでいった。
「さ、さすがは正気レベル0。半端ないわね……」
 思いっきりどん引きしながら、カレン・クレスティアが引きつった笑いを浮かべようと努力した。
 ――おお、なんということです。だごーん様、どこにいらっしゃるのです。今や、約束の時なのです!!
 誰の目にも見えない姿で、いんすますぽに夫(†)は感涙に咽んでいた。だが、誰にも見えないのでかまってもらえない。
「さすがに、見苦しいですね」
 すっと藤原優梨子の前に現れたガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、妖刀の柄頭で正気を失っている彼女のみぞおちを突いた。
 倒れた藤原優梨子が、床の上で泡を吹いてピクピクと震える。
「大変なんだもん。早く早く、こっちへくるんだもん」
 遅れてやってきた栂羽 りを(つがはね・りお)が、イルミンスール魔法学校風紀委員たちを手招きした。
「まったくもう、人使いが荒いんだから。迷惑の根源はどこよ」
 風紀委員を率いてきた天城 紗理華(あまぎ・さりか)が、ちょっと苦々しそうに言った。本来なら、命令を出すはずの立場なのに、なぜか他校である蒼空学園の生徒に顎で使われてしまっている。分かってはいるのだが、逆らうことができない。
「ううっ、この惨状は何。だから、クトゥール学科なんて物は早く廃止するべきなのよ」
 ――なんですとぉ!! なんというだごーん様に対する冒涜!! こ、この恨み、覚えましたぁ!(V)
 いんすますぽに夫(†)は怒りを顕わにして叫んだが、全員に無視された。
「まあ、そう言わないでよ。このまま世界樹が魔樹と化せばそれはそれで面白いじゃなあい?」
 抜き身の刀を持ったガートルード・ハーレックが、面白そうに言った。
「あなた、なんてことを言うのよ」
「だってえ、その方が面白いじゃない。超必殺技で暴れ回りたいんだもん」
 思わず、ガートルード・ハーレックが、駄々っ子のような口調で言った。それが本性なのか、鷽時空の影響かは分からないが、思いっきり中二病全開である。
「魔樹の世界を生き抜けるのは、魔剣士たるフェルブレイドだけ。闇を切り、闇を纏う、この私、魔人ガートルード・ハーレックだけなのよ」
 独特の構えで妖刀の刃を燦めかせながら、ガートルード・ハーレックが言った。
「もしもーし、今、クトゥールの世界のはずなんですがぁ……」
 ちょっと自信なさそうに、カレン・クレスティアが突っ込む。
「魔樹で生きられる者は、闇に耐えられる者のみ。さあ、資質を見せなさい」
 ガートルード・ハーレックが、その身を蝕む妄執で風紀委員たちをつつんだ。
「うぎゃあ、スライムが、スライムがぁ!」
 思いっきり、風紀委員たちのトラウマスイッチが入る。
「情けない。そのようでは……」
「あはははははは」
 言い捨てようとしたガートルード・ハーレックは、のほほんとしている栂羽りをを見て唖然とした。
「まさか、馬鹿に怖い物はないのか!?」
 鷽時空で陽気さに拍車のかかった栂羽りをには、ガートルード・ハーレックの悪夢も無力だったようだ。
「い、今よ。アドバンテージを、こちらに取り戻しなさい」
「きしゃあぁぁぁぁぁ!!」
 カレン・クレスティアに言われて、名も無き者が数倍に膨れあがって立ちあがった。
「させないぜ。いくよ、梅琳!」
「はい!」
 迫りくる怪物の前に、橘カオルと李梅琳が立ち塞がった。
「二人のこの銃が真っ赤に燃える!」
「幸せ射止めよと――」
「――轟き叫ぶ!」
「爆烈!! ゴッドファイヤー! ラブラブ天驚弾!」
 かけ声とともに、二人がトミーガンを乱射した。爆炎波を乗せた炎の弾丸が、スプレーショットで怪物の全身を貫いた。
「二人の愛の前に燃え尽きろぉぉぉぉ!!」
 橘カオルの叫びとともに、怪物が灰となり、さらには澱んだ闇となって床に吸い込まれていった。
 ――のおぉぉぉぉぉぉ!!
 いんすますぽに夫(†)が悲鳴をあげるが、誰にも聞こえない。
「まだよ。まだ鷽はやらせないんだもん。思いっきり、いくからね〜! ジュレ!」(V)
「はーい、なのだ」
 カレン・クレスティアに呼ばれて、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が降下してきた。機晶姫であるジュレール・リーヴェンディは、身体の各所に姿勢制御用の追加ブースターを取りつけ、小柄な自分の数倍はありそうな超ロングバレルの機晶姫用レールガンと一体化していた。
「発射シークエンス開始。死にたくない者は避難するのである」
 右腕を被い尽くすレールガンから、ターゲットスコープがポップアップして、ジュレール・リーヴェンディの右目を被う。動き回る色とりどりの輝点が、スクリーンの上でターゲットをロックした。
「機晶石、エネルギーラインバイパス接続。レーザー振動対滅冷却機構解放。磁性誘導体カートリッジ装填……」
 レールガンが変形し、広がったスリットから白い蒸気をあげて廃熱を行う。それにしても、やたら手順が長い。
 徐々に、耳を刺すような高周波が高まっていく。膨大な熱と磁場が、レールガンの砲身をとりまいて鮮やかなフラクタル模様の発光現象を引き起こした。
「ファイ……」
「はははははははは……」
「きゃー、いやー!」
 まさに発射しようとしたその瞬間、頭上から落下してきた何者たちかが、ジュレール・リーヴェンディをかすめた。
「はわわわわわ……」
 思わず、ジュレール・リーヴェンディがバランスを崩す。
「あっ……」
 撃ってしまった。
 ソニックブームの音が大気を切り裂いた。
 続く爆発とともに、テラスの半分と、そこにいた鷽が一瞬にして吹っ飛んだ。
「やってもうた……」
 全員があれよあれよと思う間に、鷽時空が消えていく。
「パージなのである!」
 ジュレール・リーヴェンディの全身に装着されていた追加装備が、弾けるようにしてパージされ、そのまま粒子に分解されて消えた。
「ジュレ!!」
 ジュレール・リーヴェンディが墜落したと思って、カレン・クレスティアがあわてて下をのぞき込む。
「大丈夫であるぞ」
 ふよふよとゆっくり宙を漂いながら、ジュレール・リーヴェンディは無事カレン・クレスティアの許へと飛んできた。機晶姫は、最低限の飛翔能力なら標準装備されている。
「ああ、マイ・スイート・ハニーがいなくなってる」
 橘カオルが、あわててそのへんの瓦礫をひっくり返して捜しながら叫んだ。
「うーん、じゃー、次いこー。ついてくるのだー」
 栂羽りをが、天城紗理華たち風紀委員に命令した。
「あんた、誰よ」
 腰に手をあてた天城紗理華が、栂羽りをを睨みつけた。
「はれれ!?」
 まずいと、栂羽りをが腰を引く。
「不審者だわ。拘束しなさい」
「はっ」
「はははは、また今度ねー」
 唯一生来の特技である俊足を生かして、栂羽りをが逃げだした。
「あ、こら、待て。すぐに追いかけなさい!」
「はっ」
 風紀委員の一団が、栂羽りをを追いかけていく。
「えーっと、これ直るのかしら……」
 ジュレール・リーヴェンディをだきしめたカレン・クレスティアは、無残に破壊されたテラスを見て、呆然と立ちすくむのだった。