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リアクション
★ ★ ★
「うそぞよ」
追いかけられて、鷽が通路を逃げていく。
「面倒ごとは嫌いなのだがな。まったく、でたらめな生物がパラミタには多いとはいえ、こんな鳥がいようとは。そもそも、ちゃんとした世界観が確立していないのではないか。まったく、もっと解説書的な物とかレポートのような物をドンドンと発行してでだなあ……」(V)
エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)は、鷽を追いかけながらぶつぶつと愚痴をつぶやいていた。
「まあまあ、そんなことを言っても始まらないであろう。男であれば、ドーンとぶつかっていくのみ。なあ、サンチョパンサ」
アロンソ・キハーナ(あろんそ・きはーな)が、単純明快に言う。
「誰がサンチョパンサよ……。そんなことだから、あなたは存在自体が灰色だといつも言われるんじゃない……」
ヴァレリア・ミスティアーノ(う゛ぁれりあ・みすてぃあーの)が、これでも魔道書から擬人化したときに、れっきとした女として生まれたのだと怒りを顕わにした。
「何を言う。英霊であるかどうかは、人の心に残っているかどうかによる。その意味で、我輩はれっきとした英霊であるぞ。サンチョパンサ」
「だから、違うって……」
ゆるぎない自信で胸を張るアロンソ・キハーナに、再びヴァレリア・ミスティアーノが言い返した。
「それもこれも、すべては解説書が不足しているからだ。このイルミンスール魔法学校には大図書室があるのだろう。蒼空学園には巨大データーベースもある。調べられないことがある方がおかしいではないか。もっと、読むのに困るぐらいの膨大な量の解説書をだなあ……」
そう言ったとたん、エリオット・グライアスは何かの壁に激突して吹っ飛んだ。
「ぐあっ、なんだこれは」(V)
尻餅をついたエリオット・グライアスは、メガネの位置をなおしながら、自分を妨害した物の正体を見た。
「私と同類の、本のようね……。蒼空のフロンティアマニュアル……とか、極秘設定資料……とか表紙に書いてあるみたいだけど……」
飛び散った数冊の本を手にとってヴァレリア・ミスティアーノが言った。
「こんなにあるなら出し惜しみしないで……いや、そういう問題じゃない。なぜ、このような物が突然通路に……」
「うそぞよ」
エリオット・グライアスの疑問に答えるように、鷽が甲高く鳴いた。
「あ奴の攻撃のようであるな」
してやったりという顔の鷽を見て、アロンソ・キハーナが言った。
「うそぞよ〜!」
反撃だとばかりに、鷽がマニュアルの塊をエリオット・グライアスたちに投げつけてきた。尋常な量ではない。直撃を受けたら、怪我ではすまないだろう。
「我輩は無敵の騎士。痛みなど感じぬ!!」
アロンソ・キハーナが、飛んできたすべての本を跳ね返して叫んだ。
「みよ、我輩の、敵の攻撃を一度だけ妄想にして無効にできるヒロイックアサルトの力!!」
「まちなさい……、ここに落ちていたスキルマニュアルには……、ヒロイックアサルトは技による攻撃の強化であって、防御には無効とあるんだけど……」
拾ったマニュアルの一節を読みあげながら、ヴァレリア・ミスティアーノが突っ込んだ。
「なんの。今は我輩が無敵と信じるのであるから無敵なのである!」
アロンソ・キハーナが自信を持って言い切った。
「だいたい、貴公の名前こそ、本の名前でもなんでもないではないか」
「それは言わないお約束でしょ……、ごにょごにょ……」
予想もしない反撃を受けて、ヴァレリア・ミスティアーノが口籠もった。
「まったく、そういう記載があるならちゃんと公にしろと……。おお、これは、今後の予定表と書かれた本。これさえ読めば、こちらとしてもちゃんとした対応が……。うおおお、開かん。魔道書か、こいつは!!」
拾った表紙に極秘資料とハンコのある本を開けようとして、エリオット・グライアスは顔を真っ赤にして力を込めたが無駄だった。
「どうあっても、貴様は私たちに敵対したいようであるな。よかろう、灰になるがいい。ファイエル!!」(V)
怒り心頭に発したエリオット・グライアスが、火炎放射のように炎を掌から噴き出して鷽を攻撃した。
「うそぞよ〜!」
負けじと、鷽もマニュアルを投げつけてくる。
火の燃え移ったマニュアルが、ヴァレリア・ミスティアーノめがけて飛んできた。
「こ、こら、燃えちゃうでしょうが……!!」
思わず、自分の本体でガードしながらヴァレリア・ミスティアーノが叫んだ。だが、彼女の本体の表紙はダマスカス鋼でできている上に、太い鎖で縛られている。その程度の炎は難なく弾き返した。
「往生際が悪いぞ」
エリオット・グライアスが火力を上げた。
投げつけたマニュアルごと、鷽が炎につつまれて灰となる。
「うおおおおお、全身が痛い……」
鷽時空が消えて、襲いかかってきた痛みにアロンソ・キハーナがのたうった。
「簡単に倒しちゃってよかったの……。まだ、マニュアルの中身を読んではいなかったのだけれど……」
ヴァレリア・ミスティアーノがエリオット・グライアスに訊ねた。
「私が求めるのは、こんな間に合わせのマニュアルではない。これからも、私は正式な答えを求め続ける!!」
エリオット・グライアスは、確固たる意志をもってそう叫んだ。
★ ★ ★
「なんだか、今日は世界樹中が騒がしいみたいだけど、何があったんだ?」
修練場でペンデュラム型の光条兵器の訓練を行っていた佐伯 梓(さえき・あずさ)は、突然開いた扉を見て怪訝そうに言った。
「うそなんだな」
いきなり現れた大きな鳥に、思いっきりペンデュラムが反応した。引きよせられるように、ほぼ真横に引っぱられる。
「うわぁ、なんかきたー。なんなんだ、あの化け物鳥は?」(V)
漂ってくる怪しげなピンクの光を見て、佐伯梓は叫んだ。と、突然、右目からビームが発射された。
「うわわわわ、な、なんだあ」
狼狽した佐伯梓があちこちをむいたので、修練場の壁や天井にビームの跡が縦横無尽に走る。
「ははははは、おもしろーいね」
それまで退屈そうに佐伯梓の修行を見ていたイル・レグラリス(いる・れぐらりす)が、持っていたカエルのぬいぐるみをブチブチと引き千切りながら面白がった。
「笑い事ではない状況のようじゃがのう」
宣教師の格好をしたディ・スク(でぃ・すく)が、すぐ横の床がビームで削られるのを横目で見ながら、ズズズズと渋茶をすすった。
「えー、だって面白いよね。梓がビームなら、ボクは口からバズーカだ」
そう言ったとたん、本当にイル・レグラリスの口から砲弾が飛び出した。ヒュルヒュルと飛んでいったロケット弾が、鷽の近くの壁にあたって爆発する。
「うそなんだな!!」
鷽が怒った。翼を広げて、なにやら甲高い声をあげる。
すると、床の一部が不自然に盛りあがり、いくつかの奇怪な物が動きだした。見れば、それはあちこちを引き千切られたぬいぐるみたちだ。取れかかったボタンの目をブラブラとゆらし、真綿の内蔵をずるずると引きずっている。
「あっ、あれは、ニコ一号。二号も、三号もいるよ」
「イルは、今までいくつのぬいぐるみを虐待してきたのじゃ」
「分からないよ」
けろりとディ・スクに答えてから、再びイル・レグラリスが口からバズーカを放った。迫ってきていたスプラッタぬいぐるみたちが、あっけなく吹き飛ばされる。だが、それは逆効果だった。千切れ飛んだぬいぐるみの破片が、それぞれ新たなぬいぐるみとして再生し、数を増やして再び迫ってくる。
「イルったら、何やってるんだ」
振り回したペンデュラムでぬいぐるみを殴り飛ばしながら佐伯梓は叫んだ。だが、これでは敵の数が多くて追いつかない。
「こうなったら、強化魔法いくよ」
そう言うと、佐伯梓は腰のディスクケースから、光学ディスクを取り出した。それが、ディ・スクの本体である、魔道書ディスクである。それを、今頭につけているヘッドフォンのスロットにさし込んで再生すべく、目の前に掲げた。
目からビーム。
手に持っていたディスクが粉々に砕け散る。
「ノオォォォォ!!」
ディ・スクが悲鳴をあげた。
「ああ、ごめんごめん、これ違うディスクだった。今度はちゃんとやるから」
佐伯梓は正しいディスクを取り出すと、それを見ないようにしてヘッドフォンのスロットにさし込んだ。ローディングされたディスクが再生され、ヘッドフォンからディ・スクのありがたい説教がえんえんと流れ出した。
「うあああああ、こんな内容だったのかあ」
佐伯梓が悶絶する。
「ありがたいお話じゃ。聞けば魔力も上昇しよう」
しれっとディ・スクが答えた。
「聞きたくなーい。さっさと終わりにするぞ! こんなもんでどーだ」(V)
佐伯梓が、目から極太ビームを発射して、ぬいぐるみ軍団と鷽を一気に薙ぎ払った
ボンという音とともに鷽時空が消え去る。
「うああああ、目が目がー」
目から極太ビームは、反動も凄まじかったらしい。佐伯梓は、床の上を転げ回った。
「ああ、わしのディスクが飛び出す。折れる。ぎゃあー」
ディ・スクはあわてて駆けよると、自分の入ったヘッドフォンの安全を確保した。
★ ★ ★
「鷽って、一匹じゃなかったの?」
「なんでも、分身しちゃったらしいですよ」
世界樹の中をうろうろしながら、蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)とヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)はのんびりとした会話を交わしていた。蒼空学園の生徒である二人としては、今ひとつ危機感は薄い。
「それにしても、ひどい有様だわ。これって、ちゃんと直せるのかしら」
行く先々で、ビームの跡とか、ビデオカメラの破片とか、ブチ撒かれた小麦粉の跡とか、なぜかキャタピラの跡とか、溶けたテーブルとか、脱ぎ捨てられた着ぐるみとかを見つけて蒼空寺路々奈は混乱していた。いったい、現場では何があったのだろう。
「あっ、あんなところに<ピー>が」
「なによ、<ピー>って。ちゃんと言ってよ」
「だから、<ピー>ですってば」
そう言うと、ヒメナ・コルネットは、通路の隅に落ちている楽器に駆けよった。
「こ、これは伝説の<ピー>じゃないの」
「そうでしょう。でも、なんで、名前を言うと<ピー>になるんでしょう」
「きっと、商品名だからだわ。どこからか、妨害電波がくるのよ」
「えー、受信したくないです」
「あたしだって嫌よ」
「あー、あんなところに<ピー>社製の幻の名器と呼ばれるギターの<ピー>が」
「本当だわ、拾うのよ、拾ってしまいましょう」
「ああ、あちらにも」
「全部拾うのよー」
なぜか次々に見つかる名前を言えない楽器を、二人は狂喜乱舞して拾い始めた。
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