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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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7-05 夜襲(1)

「刀真? おまえ、大丈夫なのか? もしかして……酔っておるまいな」
 テバルク弟(てばるくおとうと)刀真に話しかけてくる。
「大丈夫ですよ。俺は、お酒などは」
「……そうか。ならばいいのだが。
 お頭(シェルダメルダ)が、心配しておったぞ。戦いのとき以外、あまり姿を見せぬとな。ふっふ、少しは顔を見せてやってはどうかな?」
「ええ……」
 船の方に歩いていく刀真。玉藻も、以前より不敵な笑みを湛え、それに続く。
 いよいよ、夜襲の日だ。
 湖賊や、教導団の兵が次々に、それぞれの船に乗り込んでいく。
「刀真」
「お頭」刀真はもちろん、冷静さをきちんと保っている。シェルダメルダに、砦および周辺防備をしている湖賊から、更に船を回してもらう兵を出してもらえないかという要望も出してあった。教導団と一緒に動いてもらい、シェルダメルダが抜ける分の穴埋めをしてもらおうということだ。



 今回、黒豹小隊は黒豹小隊のみで、軍議にても触れた通り二隻の船に乗り込む。
「迷信ではなく、この゛おまじない゛はオルレアンの聖女より聞いたものでしてね……」アルチュールが、共にロイの船に乗るにゃんこらに何やら言って聞かせている。「矢玉が体を避けてくれるというあり難いものなのですよ!」
 ゛おまじない゛それはつまり、ディフェンスシフトのことだった。
 ジャンヌの船には、ニャイールが乗り込む。ロイのパートナー、アデライード・ド・サックス(あでらいーど・どさっくす)はロイの船に乗り込むが、ジャンヌのパートナーのビーワンビスは本当にお留守番となった。全備重量3.2トンの戦車っ娘なのだから、船に乗るというわけにもいかない。
「しくしく……(あ、そうだわ。しかし、対岸から砲撃するという手が……!)」
 ビーワンビスは、こっそりと、がらがら移動し始めた。
「よし。準備は万端だ」
 ジャンヌは、この日までに船を整備してきた。
 船A(ジャンヌ、ニャイール)は、矢盾を両舷にジグザグで張り、装甲としている。こちらだけで二門の迫撃砲(*ぶどう弾(対人榴弾))を用意。さながら、ガレー船といった趣に仕立ててある。こちらにはスモーク等が積んである。
 船B(ロイ、アルチュール、アデライード)は、船Aが追い立てた敵を各個撃破する船であり、火力が搭載されているのである。
 さすがに水戦に手練れた準備の仕方であることが窺える。彼女らを推挙した比島少尉の目にも狂いはなかった。
 この二隻は今回は遊撃的な位置に就くことになろうか。
「ローザマリア殿等、本隊の戦い振りも見せてもらうとしようか」



 夜襲の本隊には、ローザマリアが乗っている。
 これは、湖賊から借り受けた正規の船で、やはり乗り手にも湖賊の手馴れた漕手が集められた。
 それにシェルダメルダら湖賊と、舟艇白兵隊として沼舟を用いた切り込みを任務とする奇襲船が、本隊に隠れて移動し、夜陰に紛れて待機することとなる。こちらには、刀真、玉藻、セオボルト達が乗り組んでいることになる。

 そして、最も小回りで船足の早いみずねこ船だ。
 みずねこ船の活躍の出番は、早速訪れることとなる……

 夜襲の開始だ。



7-06 しびれっこ作戦

 斥候の船によると、ブトレバの船団の本隊に行き当たる前に、敵側の見張りというべく小船団がいるようであるとのこと。
「……何ですって」
 ローザマリアの用意した策は、敵船団に致命傷を与えようという大掛かりな策だ。
「……」
 敵旗艦に知らさせる前に、殲滅できるだろうか……敵数は少ないが。
「俺が乗り込んで、皆殺しにしてきましょうか?」
 暗がりの河面。隣の船から、刀真のそう言う声。
「三隻……んー」
 派手な戦いもまずい。
「どうした?」
 みずねこ船が近付いてくる。ミューレリアの声だ。
 ミューレリアは、件のしびれ粉の策を持ちかけた。
 しかし、風向きが悪い。
「カカオの魔法の箒に二人乗りする。風上に回るぜ。魔法の箒は、夜のステルス仕様で黒色塗り、飛行の邪魔にならないなら、ブラックコートも巻きつけて、隠密性をアップしよう。これなら、完璧だろ? 麻痺ってるトコに、攻撃を仕掛けてもらえるかな?」
「わかった。頼める? 本隊は待機しましょう。一緒に麻痺っちゃったらお終いだわ。
 小さめの舟に、河の横に付けておいてもらって、しびれ粉が効いたら一気にやってもらうとするわ。……これでいいかしら」
「白兵する奴は、要マスク! 準備はしてあるぜ」
 こうして敵の見張りである小船団の排除がまず行われた。
 白兵も、そのままミューレリアと共にあるみずねこが行うことになった。
 沼舟の一隻と、ロイのB船も、戦力の予備に、付近で待機することになった。
 時間が経過する。
 そろそろ、ミューレリアのしびれ粉の大量散布が行われている頃だろうか。
 後方では、ローザマリアが少々気持ちを焦らされつつ待っている。
「余裕を持ってきたけれど……タイミングが大事だわ。夜が明けてしまっては何にもならない」
 付近。
「風向きは……変わってないな」ロイが、前方の河を見つめている。「しびれ粉は、ここまで飛んでは来ないだろうなぁ?」
 むっ。ロイはよく目を凝らした。
 光。ミューレリアの合図だ。
 ぎりぎりに見えている敵船影は、どれも動いていない。しびれ粉は効いているのか。
 小さな船が幾つか、近付いていくようである。みずねこ達だ。
 ロイは、にゃんこ達にマスクをさせ、手を挙げた。
「俺達も、行くか。後方の本隊にも、合図だ」
 ロイの船が接近しても、敵の船はもう動くことはなかった。
 みずねこ達はもう船の外へ出てきているところだ。
「もう、終わったのかよ?」
「みずねこ仕事早いよにゃ」
「敵船員は……全部殺したのか?」
「縛りあげたにゃ」
「……。ミューレリア殿の姿が見えんな。もしかして、散布したまではいいが、自らも被って水中に落下してるってことはないだろうな?」
 船の灯りは少なく、辺りは暗がりである。ときどき、にゃーというみずねこの息洩れのような声が聞こえるくらいだ。
「……どうなのだ? ミューレリア殿は」
「ここにいるぜ」
「おぉ、ミューレリア殿。お手柄だな」ロイはほっと溜め息を付いた。
 船の縁に、少女の影姿が見えている。
「しかしミューレリア殿。貴官、影だけ見てると、猫と見紛うな。仔猫ちゃんってところかな?」
「ああ。超感覚で、猫耳がマイブーム、なんだぜ」
「……ふむ」
 最初の想定外の障害は、こうして静かな作戦のもとに無事排除された。
 本隊が追いついてくる。