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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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第9章
王子



 黒羊郷との戦いひいては、その後のヒラニプラ南部統治を見据えたところに、戦後の南部を纏める存在として浮かび上がってきた最南の王家。種々の交渉手段を持ってこの地を訪れることになる教導団……

 最南の地(南部諸国)へ向かう教導団・外交使節の船。そこに乗り込んでいるのは……
昴 コウジ(すばる・こうじ)であります!」
 今回、使者として外交の表舞台に立つ。
 一方船の一室には、この男がいる。
 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)。【ノイエ・シュテルン】きっての冷徹な男。
 この度の重大な任務を引っさげ、外交使節の一団を率い意気揚々、船の舳先へこれより向かう最南の地を見やる昴。対し、マーゼンは船室の椅子にもたれ、いつもの重苦しい雰囲気を纏ってじっと目を閉じている。外交の表向きを昴に一任し、彼はその裏で動くことになっているのだが……彼はどのような任務を秘めているのか。
 船には、もちろん、南部諸国の王子が乗っている。無論、複雑な思いであり、不安でいっぱいであろう。本来なら自分が統べるべき南部諸国は今や分裂状態にある。(実際にはついこの数ヶ月のうちに、教導団出身の異端児・南臣光一郎が南部諸国一帯を見た目には糾合するという事件が起こっているのだが……教導団外交使節は、この情報をすでに察知していることになる。)
 南へ、蛇行して流れていく大河を船の上から眺めている王子。
「王子」
「月夜……さん……」
 もともとは第四師団の傭兵としてこの地へ入り、独自の調査から湖賊に協力することになった樹月刀真。そのパートナーとして、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)もまた、彼女自身の視点でこの戦いを見てきた。
 黒羊郷の事件で、王子を敵の手から直に救ったのが、刀真達であった。(『黒羊郷探訪』第3回参照)
 三日月湖に滞在する間も、刀真が湖賊と共に敵水軍と戦っていたとき、月夜がいつも傍にいた。王子は月夜によく懐いているし、月夜をお姉さんのように思いもしかしたら少し甘えたいところもあるのかも知れない。まだ、ほんの子どもに過ぎない年齢だ。
 また、教導団が三日月湖に滞在する南部勢力の者達と会同を持った際に、交渉を行った皇甫伽羅の英霊となっている劉協とは似た境遇のため、劉協は彼に共感と理解を示しているところだろうか。それは王子も感じとっている筈である。(前回(『ヒラニプラ南部戦記』序)参照)
 そんな王子に、更に一際の思いを持つものが、ここに。
「殿下よう!」
「殿下……? ぼく?」

「可哀想やないけー!」
 声をかけてきたのは、態度の悪いただのオッサン……ではなく、平 教経(たいらの・のりつね)であった。昴の英霊としてこのような姿で復活している。
 月夜の傍にじっとしている王子。
「あ、あれ? こわがらんでもいいんやで?」
 声をかけたのは、口ではそうとしか言えず上手く説明できないが、王子のことを聞いてノリさんなりの思いが湧き出してのこと。
「可哀想? そうなのかな、ぼく……?」
「ああ。なんで、て、そら……」
 ノリさんの上手く説明できない心情は、王子の身の上と共に教導団の持ちかけている策略をも端的に表しているので、引用させて頂こう。
 ノリさんは……(以下・解説)年端もいかないのに、事実上南部の王としての役割を果たすことを求められ、更に周囲では政略結婚の話まで進んでいる。という彼の姿に、ノリさんはかつて仕えていた幼い王(安徳天皇)の姿を重ね合わせその心中を思いやっているのだ。
 ノリさんの心情において初めて示されることとなった――政略結婚。
 そう、ここに明らかになることであるが王子には、政略結婚の話も持ち上がっているのだ。他にも……すでに教導団の様々の策略が張り巡らされ始めている。
「こんなちっさい子ぉがなあ。事実とは言え……くくっ」ノリさんは、独りごちながら、甲板を歩いていった。殿下よう……波の下とは言わん!「いつか安心できる都に、おっちゃん達が連れてったるさかいになあ!」
 ……
 無言の王子。見守る、月夜。
 政略結婚……月夜は、この船に同船して、初めて知った話であった。
 月夜も、月夜個人として、決意を固めつつあった。

 様々の思いを乗せた船が、南へ向かう。