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ホレグスリと魂の輪舞曲

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ホレグスリと魂の輪舞曲

リアクション

 まっぷたつになりかけたむきプリ君にヒールをかけてホテルに運んでいると、そこに幻奘とノヴァがやってきた。ノヴァは大きな鞄を抱え、ぜいぜいと息を切らせている。
「て、手遅れだった!? せ、せっかくホレグスリを振り撒……護衛しようと思ったのに!」
「あ、お久しぶりですぅ〜。ござるの人は一緒じゃないんですかぁ〜?」
「サルは蒼空学園で待機してるアル! まだ交渉の連絡はしてないアルか?」
「そうだ!」
 そこで、むきプリ君ががばっと起き上がった。
「安全な部屋で交渉をする! それが1番確実なんだ。引きこもりと呼ばれても構わん! ホレグスリをばら撒こうとすれば怪我をする! もう学習したからな。 ん? この前、味方をしてくれた者達ではないか! 今日は何用だ?」
 あっさりと見捨てられたことは忘れているらしい。
「今回も味方するよ! さあ、共にホレグスリ研究所を設立し愛の国を築けあげようよ!」
「よし、蒼空学園に電話だ!」
 ホテルの部屋に戻る一同。ドアを開けた途端、何だかとんでもない匂いが鼻についた。匂いの発生源は、謎の鍋であった。ピノと煌星の書が、カーペットの上で楽しそうに鍋を掻き回している。中を覗くと、そこには泥のような色になった液体が入っていた。
「あ、むきエビ君おかえり!」
 ここでもまさかのむきエビ君である。ちなみにこちらはわざとである。
「……な、何を入れたの?」
 ぷりりー君が恐る恐る聞くと、顔を上げた煌星の書は数種類の草を見せた。隣には使い終わったすりばちが置いてある。
「ん? これだよ。たぶん副作用が無くなるやつとー、たぶん笑いが止まらなくなるやつとー、あ、あとこのキノコ入れたね!」
「たぶん……? キノコ……?」
「人質が楽しそうでアルが……」
「ぴのちゃんがじゆうにうごきまわってるとかさっかくですよ〜」
 明日香がソファに座って寿司を食べながら言う。ノヴァはどこか羨ましそうだ。
「のんきにお寿司……! いいなあ……」
「あげませんよ〜。ヒールして疲れましたぁ〜」
「ねえねえ、ネトってしてきたよ! もういいかなあ!」
「あ、じゃあ火術でもっかい熱してっ……と! ホテルって台所が無いから不便だよねえー」
 よく見ると、カーペットが焦げている。
「な、何てことを! べべべ、弁償しなきゃいけないじゃないか!」
 慌てるぷりりー君。煌星の書は、籠からまた別の草を取り出した。
「これ入れたらたぶん効果倍増でー、これ入れたらたぶん時間超過ー。ねえ今度はどうする? どれ入れる? にひひひひっ」
 こんなんでいいのだろうか。

 いいのである。
 ということで、蒼空学園校長室。
 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、通報を受けてそれをラスに伝えて以降、誘拐事件のことなどはすっかり忘れて仕事に励んでいた。別に、ピノがどうでもいいからという訳ではない。空京の一般調査会社に情報を集めさせたら、ピノは友人達と非常に楽しそうに遊んでいて、むきプリ君はただの荷物持ちと化している。しかし女子3人に使われるのはまんざらでもなさそうだ的な報告が入ってきたからだ。そして、未だむきプリ君からの連絡は無い。
 交渉役として校長室に入った光太郎は、電話の前にスタンバっていた。しかし掛かってくるのは仕事上の連絡事項ばかりで、完全にもうただの電話番である。おかげで環菜の仕事は捗っているようだ。
「写真泥棒の犯人は捕まえなくていいでござるか?」
「ピノちゃんが持ってたんでしょ? 犯人なんて判りきってるじゃない。そっちの方の対策は打ってあるわ」
 その時、目の前の電話がぷるるるるっと鳴った。また業務連絡かと思いつつ受話器を取る。
『ムッキー・プリンプトさんからお電話です』
 環菜に報告してスピーカー機能をONにする。
「むきプリ君でござるか?」
『む、校長ではないのか? 校長を出せ』
 全ての事情を知った上で、むきプリ君はそう言った。意外と演技は上手いようだ。
「環菜校長は手が離せないでござる。用件なら拙者が聞くでござるよ」
「…………そちらの生徒を預かっている。返してほしくば、蒼空学園にホレグスリ研究所を作ることを確約してもらいたい。ホレグスリを作る環境を整えてくれるだけでも良い。匿ってくれ」
 いきなり譲歩しようとするむきプリ君。そんな、最初から日和っちゃ駄目でしょう。足元見られますよ。しかも本音が出てますよ。
「そんな如何わしい物を学園で認めることは出来ないわ」
『ピノ・リージュンがどうなってもいいのか?』
「どうなるっていうの?」
『もしも要求を無視した場合には……ピノ嬢を朕の彼女にしてしまうアル!』
「お師匠様!?」
 そこで、光太郎は大げさに驚いてみせた。環菜に狼狽した視線を送って、あたふたという態度を取る。
「お師匠様! 誘拐に協力してしまったでござるか? そこまで追い詰められていたなんて知らなかったでござるよ……」
『サル! ちょうどいいアル。弟子として環菜に伝えるアル』
 伝えるも何もスピーカーで筒抜けである。
『ホレグスリ研究所の設立と、朕への彼女の紹介は絶対アル。紹介してくれなければピノ嬢は朕のものアル!』
 というものの、幻奘は計画が失敗した時の為に、既にホレグスリのレシピのコピーをもらっていた。
『ねずみさんの彼女になれるの? 嬉しい! これでジェットコースターも乗り放題だね!』
『…………』
 幻奘は驚いてピノを見た。持ってきたホレグスリを1本あげて買収し、彼女に協力を頼んだわけだが――嫌がる演技をすると思っていたら、まさかこうくるとは。
(だ、台本を作っておくべきだったアル……!)
『と、とにかく! このようにピノ嬢もノリノリでアルからして、要求を呑まないとどうなるか分かるアルね?』
「…………」
 光太郎はわざと間を取り、環菜に対して困ったような顔を見せた。そしてうるうると涙を浮かべる。
「環菜校長! お師匠様達はフラレ続けたショックで、自棄になったり頭が可哀想な人になってしまったのでござる! 今回の暴挙はそれ故のもので、治療が必要なのでござるよ! そんなにホレグスリが欲しかったなんて……! 許してやって欲しいでござる」
「許すも許さないも……くだらなくて何をする気も起きないわね。とりあえず、こう伝えなさい」
 言われるままに、光太郎は環菜の回答を幻奘に伝えた。それはもう、忠実に。
「ピノちゃんを彼女にして、その後どうするのかしら。帰ってくるのよね? ここに。蒼空学園に。送ってくれてご苦労様くらいは言ってあげるわ……」(注:光太郎の声)
 その時、電話の向こうから悲鳴が聞こえた。何かが殴打される音も伝わってくる。
「お、お師匠様!?」
 素で慌てて、電話口に呼びかける光太郎。こんな打ち合わせはしていなかった筈だが。
『……………………プツッ。つー、つー、つー……』
「…………」
 しばし呆然と受話器を見詰め――
「何があったか見てくるでござる!」
 光太郎も、また空京へと向かったのだった。