リアクション
終章
タンカーは海京の港に停泊し、それを送り届けた機体は、学院へと帰投していった。そして、収容された機体が、すぐさま整備に回される。
「あちゃー、さすがに無理し過ぎたか……報告書にまとめなきゃなぁ」
整備班員もあるリオが、戦闘後の疲労をおして、整備に取り掛かっている。
「にしても……あの二機、今度会ったら絶対倒してやる」
自分の機体を追い詰めた敵機が彼女の脳裏をよぎった。
「リオ……一応、仮だけど、レポート。これ、お願い……」
メインで操縦をしていたフェルクレートは、リオよりも大分疲弊していた。
ほとんどのパイロット達は初出撃から解放され、力が抜けたように休んでいる。やはり、皆不安なり緊張を抱えていたということなのだろう。
だが、誰一人欠けることなく、帰って来れたのは喜ぶべきことだろう。今後、もっと厳しい戦いになっていくかもしれないが、今回の任務が糧になると信じたい。
* * *
その頃、タンカー内からは、ついに校長が姿を現すことになる。
教官達やタンカー内部で警備に任についた生徒、及び研究チームの責任者である大佐が、例の扉の前まで来ていた。
「この中だ」
大佐がロックを解除する。中からは冷気が漏れ出してきた。彼女がこの季節だというのにコートを着ていたのは、このためだろう。
「この人が……」
皆が目を見開いた。
そこにあったのは、巨大な氷塊だったのである。その中にはマンモスと――一人の男がいた。
何千年も前から氷づけになっていたのだろう。
「ファーストコントラクター、コリマ・ユカギールだ」
直後、氷塊にヒビが入った。
「な、何が……」
「お目覚めのようだ」
凍結が解除され、マンモスに乗っていた男がふわふわと宙を浮かぶようにしながら、舞い降りてきた。
背中からは水晶のようなものが飛び出しており、身体全体はオーラのようなものに包まれており、それだけでこの人物がただの人間ではないと分かる。
(到着したようだな)
テレパシーによって、男の声が伝わってくる。
(どうやら、長いこと凍っていたせいで、五感が失われたらしい。が、そんなことは大した問題ではない)
それは本当のようだ。会話も出来れば、わずかに宙に浮いた状態で彼は静止している。五感がなくとも、超能力――あるいはパートナーの能力で補完出来るらしい。
「さて、少し説明がいるな。彼は5000年前の、地球人の契約者だ」
大佐が、研究所で知りえた彼の情報を伝える。無論、本人による説明もあるが。
それによれば、彼はシャーマンとして、古王国時代のシャンバラと対等に渡り合っていたらしい。彼の契約者は霊体の状態であり、その数は正確には分からないが、数千、数万と莫大な数に上るようだ。さらに、彼はその契約者達の能力を使いこなせると言う。
シャンバラが内乱で滅んだのを知った後、来たるべき日に備え、自らを凍結して機を待っていたという。
(アムリアナの危機を感じ取ったのでな。そのために、こうやってやって来た。ん……どうした?)
突然、コリマの意識が別の方に向いた。
(すまない。少々、質問を受けたものでな)
どうやら、彼はパートナーとは脳内で会話が出来るようだ。霊体の契約者は、彼の精神と一体となっており、彼の脳内には複数の意識が混在しているのである。そのため、常に脳内でパートナー達と会話をしている状態にあるようだ。
(契約者、「代理の聖像」の戦いは見させてもらった)
「なるほど、艦内からずっと様子を窺っていたのか。何も話さないから、眠っているものだとおもっていた」
どうやら、現代のパラミタに関係する者達を見極めようとしていたようだ。
(あれが、本当にサロゲート・エイコーンなのか? 私が知っているものとはまるで別物だ)
「……どういうことだ?」
(本来の力が全くと言っていいほど引き出されていない。こちらのものも、敵のものも、だ)
衝撃の事実が告げられる。
「中尉、戦闘データはどうなっている?」
「えー、はい、事前に提供されたデータと、今回の戦闘でのデータを比べますと、機体のスペックに対して、平均してほぼ100%の性能が発揮されています。何かの間違いでは……」
そこで、中尉は目を見開く。大佐の言わんとしたことを感じ取ったからだ。
「所詮地球の科学力では分かるまい、ということか……どこまでも馬鹿にしているな」
だが、コリマはそれ以上は言及しない。
続いて、天御柱学院の人間が、口を開く。
「校長室の用意は出来ております。今からご案内します」
彼の誘導で、新校長コリマは、天御柱学院へと向かっていった。
「大佐、積荷について知らせなくていいんですか?」
「あれについては、まだ説明しなくていい。いずれ、その時は来る」
大佐と呼ばれた女性は研究チームに指示を出し、艦を降りていった。
「どちらに行かれるのですか?」
彼女は、パラミタに繋がる巨大なエレベーター、天沼矛を指差す。正確には、パラミタをだ。
「空京大学の知り合いのところだ。インドの小僧も、随分偉くなったようだからな。一度彼らには会っておきたい」
「大佐、これはどうするんですか?」
中尉が、大佐の荷物である大きめのスーツケースを指差す。
「私の部屋に運んでおいてくれ」
それだけ告げると、彼女は目的の場所に向かって歩いていった。
次の日には、極東新大陸研究所からの研究チームと空京大学にある研究機関が合同で、イコンに関する研究を行うという声明が出された。
天御柱学院はこれに対する協力を惜しまない、として応じた。
戦いの準備は、着実に整っていく。
だが、その行方はまだ、ようとして知れない。
(完)
こんにちは、あるいは初めまして、識上です。初の実戦任務、お疲れ様でした。
今回、私にとってもいろいろと初めての経験になるものがあったため、いつもの私らしいリアクションとは異なる仕上がりになってしまっております。ご了承下さい。
新しく登場した、サロゲート・エイコーン、通称イコンですが、事前情報が少なかったため、アクションをかける際に戸惑われた方が多かったと思います。
ただ、PLとしては知らなくても、訓練を受けているPCはある程度知っているんですよね。これが、PC情報とPL情報の違いというものでして、アクションをかける際はイコンがどういうものであり、「こういう風に戦いたい」という書き方をすれば、結構どうにかなったりします。
要は、細かい理論よりも、アクションにおいてPCが「何をどうしたいのか」がしっかりしていれば、キャラクターがあとは動いてくれるというわけです。
今回がアクションを初めて書くという方もいらっしゃったようなので、ちょっとしたアドバイス(お節介)をば。
・口調がステータスと異なる場合は、お書き添え下さいませ。アクションがPC口調なのに、データと異なっている方が多くいらっしゃいました。今回は基本的にアクション優先、加えて推定される関係性からデータの方の口調と切り替えている、として臨機応変に対応しましたが、普段はそこまで出来ませんので。
・確定、断定型でのアクションは、そうならない場合があるため、リスクが高いです。ダブルアクションとの境が難しいところですが、「だろうから、〜しようと思う」くらいの方が、マスタリングでのフォローがしやすいです。
・意図はPLがキャラにさせたいことであり、目的、動機はPCの心情的なものになります。この辺の混同にはお気をつけ下さい。ここも、具体的である方が汲み取りやすいです。
基本的な部分では、このくらいでしょうか。あとは、慣れです。シナリオを通してPCは成長していくと思いますし、どう描写されたかを振り返ることで、次のアクションを書く際に「次はこうしてみよう」と考えることも出来ると思います。慣れるまではいろいろ試すのも一つの手です。
あんまりうだうだ言うのもなんなので、アクションに関してはこの辺で。
さて、リアクションの方ですが、今回は新要素の紹介の面が大きく、物語性はそれほど高くありません。若干説明過多だったり、場面がぶつ切り気味になってしまったのは反省すべき点です。
先に述べたように、今回から始まるロボットジャンルということで、私もまだまだ模索中です。ご考慮下されば幸いです。
なにやらいろいろ伏線っぽいものが見え隠れしていますが、それらは蒼空のフロンティア第二部のストーリーとともに明らかになっていくと思います。お楽しみに。
お知らせはマスターページでも行っております。一応、毎週火曜更新、他リアクション執筆後やガイド公開が決まった際は臨時更新しております。
それでは、宜しければまた次回、別のシナリオでお会い致しましょう。
※8月11日 14ページのイーグリットの機体ナンバーを修正。該当ページの登場機体の番号が1ずつズレておりました。
この度は大変申し訳ございませんでした。