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リアクション
8章 瞑須暴瑠、絆!!
8回表、勝負は1−1で変わらず。前回が104対103であることを考えれば随分試合になっている。7回は両チームとも目立った動きはなく、ピッチャーが朔に変更された程度だった。
タイタンズのルイはだいぶ雰囲気がつかめ、自分も魔球の類を放ってみたいと和希に相談を持ちかける。
「おう、任せたぜ!」
「は〜っはっは♪ 血が沸き肉踊るとはこの事を言うのですね!」
「レフトは死守する、安心して思いっきりやれ!」
簡潔な答えだが、それは相手を信頼してのものだ。
背後にキラキラしたオーラをまとい、薫に挨拶しつつ自陣に戻る。自分を父と慕うマリオン・フリード(まりおん・ふりーど)と、楽しいことが大好きなシュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が自分の姿を見つけてかけよってくる。2人を二の腕にのせてコンパスのようにぐるぐる回ると、タイタンズに微笑ましい雰囲気が生まれた。
「お父さんの為に、あたしも頑張るのぉ!」
「うむ、マリーはロリっ娘成分たっぷりで可愛いな〜♪ お姉ちゃん大満足!」
セラエノ断章は、以前図書館で応援には正装で行く必要があると書いてある本を見た。その本の通り、胸にひらがなで名前を書いた体操服を着てマリオンと休みなく応援しているのであった。
「さぁ、タイタンズの皆を応援しようか!」
前日、ビニールのひもを丁寧に裂いて作ったボンボンを手に持つと最前線に走る。ルイ同様、野球の試合もみたことはない。ブルマのすそを直しながら遅れてついてくるマリーと手をつなぐと、マウンドに向かって子供特有の高い声を出した。
「ふれ〜ふれ〜、タイタンズ〜♪」
「ルイお父さん頑張れぇ〜♪ それと、えっと……ぱらみたタイタンズの皆頑張れぇ〜♪」
そのやり取りを遠目に見ながら、千歳も素振りに励んでいる。ひゅん、と風を切った。そのりりしい横顔をうっとりと見詰めながら、焦げ茶のを風に揺らして朝倉 リッチェンス(あさくら・りっちぇんす)はため息をついた。
「私もダーリンと一緒に野球やりたかったですよ」
「私は剣道をやっていて抜刀術の心得もあるからな。ばっとーじゅつだけに、バッティングなら……」
「ダーリン……」
「いや、なんでもない……」
ダーリンの為ならホールインワンも狙えたです……!
しかし、重度の腰痛持ちの彼女では難しいだろう。ラフプレーもあり得るこの試合は酷過ぎる。そのためイルマ・レスト(いるま・れすと)を補欠として起用しようとしたが、リッチェンスの激しい反対があって保留になった。
「何が悲しくて炎天下の中、瞑須暴瑠などという暑苦しい競技をしなければいけないのですか……」
「イルイルとか他のモブキャラはどうでもいいのです!」
「……はぁ? 五月蠅くてしかないですわ……」
「と、いうかはっきり言って邪魔なのです!!」
一日限定肉球愚連隊専属メイドとしてベンチ入りし、千歳達のスパイクにアルティマ・トゥーレの滑り止めを施していたイルマはぴたりと動きを止めた。つかつかとリッチェンスに近づくとその耳元で怒りを抑えた低い声を出す。
「怒らせてどうするんですか。少し黙りなさい。でないと……」
「パラミツかバラジツか何か知りませんが、コテンパンのギッタンギッタンにしてやれぇなのです!」
「パラミツでも、バラジツでもなくパラジツです」
イルマはリッチェンスの頭を、うちわ側面で軽くチョップする。はぁ、こう暑くては怒る気もしない……。紫外線対策に日焼け止めを塗っておかないと……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
8回裏が始まった。
ストレッチをして意欲のある表情をしている和希。学帽を目深にかぶり、ガイウスにエールを送った。
「頼りにしてるぜ!」
「この戦闘訓練、非常に有意義」
高潔な武人のガイウスは、正々堂々と戦うことをよしとする。全力でドラゴンアーツの送球を行い、有事のための訓練として挑んでいた。
敵チームを全て倒せば勝利となる格闘技……なのだから。
「マッスルボール一号!」
パワーブレスで肉体強化を行ったルイが大きく振りかぶる。打席に立っている千歳はそのプレッシャーに思わずごくりと唾をのんだ。このボールにはパワーだけではなく、父としての愛もこもっているのだ!!
「ダーリーン!! 頑張るですよ!!」
リッチェンスの声援を受けながらも、千歳はこの球を打つのにためらいがあった……。なぜなら、ルイの2人の子供たちが熱意のこもった応援をしているからだ。
「私には、こ、このボールは打てない!!」
ラフプレーに対しては気を引き締めていたものの、こうなっては話が別だ。ルイが放つスマイル、マリーたちが放つ愛。この2つが密接に絡み合い、巨大な力となっていた。
「目には目を、歯に歯をですわ!!」
遠くからイルマの声が聞こえる。困り顔で振り向いた千歳は、リッチェンスが大声でこちらを応援しているのを見た。
……厳しいが、三振では無様すぎる!!
「マッスルボール一号! おかわり!」
「…………!!」
千歳は思い切って、バットを無理やり剣道の持ち方に握り直した。中段の構え、バットの先をやや右上にあげる。本来なら正面をむきたいところだが、やむなし。小指、薬指、中指の3本に力を込めた。
「私も、本気でお相手する!!」
爆炎波を応用して、千歳はボールを思いきり突いた。この技は非常に危険とされており、一般的に中学生は使うのを禁じられている。芯を捉えられたボールは、思いきりはじけた。
「……」
「……」
こういった場合、どうすればいいのか分からずキャンディスを見る。キャンディスはやや考えて、こう判断した。
「メンドーだから、出塁ネ!!」
「な、なにか釈然としないが……まあいい」
千歳は複雑な気持ちで1塁に走った。リッチェンスとイルマに軽く手を振りながら。
宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)は今回の試合、何度も貧血で倒れそうになった。それは暑さが原因ではなく、試合の激しさによる心配からである。セイはテディからファーストを受け継ぎ、休憩ごとに宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)が作った塗り薬を使う面積が広がっていた。
「ほれ膝小僧を出せっ! 潔く!!」
「いってーなぁ……。なんで塗り薬なのにしみんだよ!」
並木にゴビニャーの似顔絵刺しゅうを入れたスパッツを渡し、喜んでもらえたのは嬉しい。しかし、それ以上にセイに書ける言葉を探していた。おそらく、彼が打席に立つのはこの回が最後だからだ。みらびはなんとなく、そんな気がしていた。
「みらび、どしたのさ?」
自身の薬局の宣伝をしながらけが人の手当てにあたっていた煌星の書は不思議そうな顔をしている。この孫は先ほどから上の空で、ドジをするのはいつものことだが顔色がずいぶん赤いようだ。
「な、なんでもないです」
そう言って、みらびはセイの似顔絵がついたアップリケ付きタオルを後ろに隠した。レモンの蜂蜜漬けも、作ってあるのだが……。
エヴァルトが犠牲バントで千歳を2塁に送り、樹の打順で盗塁を決め3塁に進んだ。2アウトで、3塁に1人。そしてセイが打席に立った。
「ここは攻めの球だ!」
「了解です☆ マッスルボール二号!」
則天去私を追加したルイの必殺球が和希の合図で投げられる。初めてみるボール……初回は見送ることにした。煌星の書はゴビニャーに紫外線対策の毛づや薬を手渡しつつ、内心これを打つのはちょっと無理じゃないかと思っていた。
「……」
セイは何も言わないが、眉間のしわを深くしている。
「死ぬ気で打ってください!!!」
背後からよく知っている大きな声がした。振り向かなくても、誰の声だか知っている。だから振り向かずに、ルイの球筋を見定めようとすっと目を細めてにやりとした。
……無事に戻って来て、よりはいいな。
「ああ、この試合は愛があふれています!! 私、涙が止まりません。だからこそ、この1球に己の最大限をこめましょう!!」
「そうこなくっちゃな!!」
セイは死ぬ気で挑むために、自身にディフェンスシフトをかけた。ルイのボールは風圧のせいか、前側がへこんで「く」の形を描いている。辺りの塵を巻き込み、200キロを超えるスピードで地面をえぐっている。
「「いっけえええええ!!!」」
みらびの声が重なった。
「させるかぁぁ!!!」
打球はレフト前に飛ぶ、軽身功を利用しスカートをひるがえしながら高く飛ぶ和希。……指の先、届かない! バウンドしたボールをドラゴンアーツで3塁のガイウスに送った。
「頼む!!」
「うむ!!」
走る千歳の背中を追いかけるように、ガイウスは火術を混ぜて威力を付けた球を1塁に投げた。スライディングで砂煙をあげる千歳と、火の粉を飛ばすボールがついたのは同時に見える。
「セーフネ!!!」
ふう、と和希は軽く息をはいて肉球の陣地を見る。ピンク色の髪の女の子が日射病で倒れたようだった。先ほどの打者は次の回でアウトを取られ、その女の子を大事そうに抱えると救護テントに向かっている。
「……まだ、勝負は終わってねーぞ! 気合入れてけ!!」
「「「おー!!!」」」
番長はいつでも希望を捨てない。それが栄光の波羅蜜多タイタンズ14番の誇りだからだ。和希は並木の元へ行き、先輩として何かアドバイスをしたいと思った。
「試験はどうだ?」
「はい、全種族そろいました!」
「そうか。……新人を助けようかと思ったが、自分が一番楽しんじまったな。よっしゃ、おもいっきり行ってこい!」
「了解です!!!」
8回裏、1−2で逆転。
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