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リアクション
トラップ・トラップ
「はーい、こちら、コースの状況になりますぅ。現在、罠を仕掛ける人たちが、いろいろ悪さをしているところですぅ。大会のルールとして認められてはいますがぁ、悪い人たちですねぇ」
神戸紗千の運転する痛飛空艇中継車に乗った大谷文美が、レポートを入れる。
「よっしゃあ、いつでも来いやあ。相手になってやるぜ!」
パワードスーツを着た雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、第一区画に仁王立ちになっている。ペットへの直接攻撃は禁止のはずだがいいのだろうか。
「いいんですか?」
大谷文美が、実行委員長であるエリザベート・ワルプルギスに訊ねた。
「傷つけずに威嚇だけならいいですぅ。ただし、かすり傷でも負わせた場合は、私が抹殺するですぅ〜」
軽い調子で答えてくれたのだが、最後の方の言葉は洒落になっていない。
★ ★ ★
「さあ、美味しい物はこっちですよー」
第三十五区画では、月詠司がコース横に様々なペットの餌をおいて準備を進めていた。
★ ★ ★
「いつ来てもいいですよ」
第四十二区画では、空飛ぶ箒に乗った矢野佑一が恐ろしい人面石である怨念石をかかえてスタンばっている。
★ ★ ★
「はっはっはっ、森の氷屋さん、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)、到来! ここはすべて凍らせてかちんこちんです。みなさん、盛大にすべってくださいよー。冬眠してしまってもかまいません!」
第五十区画を氷術で無差別に凍らせながら、クロセル・ラインツァートが楽しそうに笑っているが、そのまま自分まで凍らせてしまいそうな勢いではある。
「うーん、変な仮面の人に追い出されちゃったけれど、こっちでお店開くんだもん」
凍らされてはたまらないと、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は第四十九区画に移動して道端に各種の餌を広げ始めた。
★ ★ ★
「困ったじゃん。こっちの方は来たことがないから、完全に迷子だよ。どうする?」
第五十区画近くで、迷子中の葉月 エリィ(はづき・えりぃ)が困ったようにパートナーのエレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)に訊ねた。どうやら、一応大会とはなんの関係もないらしいが。
「少し、そのへんを散策するのが一番ですわ。もしこのまま遭難ということになりましたら、サバイバルですから、野生動物を襲ってでも血をいただきましょう」
吸血鬼であるエレナ・フェンリルが、赤い下で唇を軽くなめながら言った。
「それはだめだよ」
さすがに、葉月エリィが止めようとする。
「あら、では、そこら辺のキノコでも試してみます? そちらの方がよっぽど危険ですわ」
そう答えると、エレナ・フェンリルは第五十一区画の方へと歩いていった。
「何かぁ、変な人たちもいますがぁ、ルールでは自然の脅威はそのままということになっています。ただし、自然の脅威ですからぁ、本気でやっつけてもいいらしいです。それにしても、中間地点近くは、罠のオンパレードになっているようですぅ。多少は前後にずれているようですがぁ、さすがに一部重なってしまっている罠もあるようですぅ」
ゆるゆると、中継車は進んでいった。
★ ★ ★
「みなさん遅いですね。このままではジェラートが解けてしまいます。しかたないですねー」
第五十二区画で美味しい餌を広げて待っていたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)だったが、待ちくたびれて自分が用意した食べ物をパクパクと食べ始めてしまっていた。
★ ★ ★
「申し訳ないですが、これもフォルテシモのためです」
第五十八区画でせっせとザイルを結んで罠を作りながら、影野 陽太(かげの・ようた)がつぶやいた。狩猟用の罠で、引っかかったら木に吊されるというものだ。どうせ、すぐに誰かが助けるだろうが、充分に足止めにはなる。
★ ★ ★
「くっくっ、しょせんはナマモノ、この香りには勝てまい!」
七輪でサザエを焼きながら、第六十一区画で南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)がほくそ笑んだ。もしこのサザエを食べたら、中に仕込んである釣り針で一本釣りにしてやろうという計画である。
★ ★ ★
「けほけほ、さすがにきついぜ、これは」
焚き火の上になみなみと日本酒を満たした大釜をセットして、アルノー・ハイドリヒ(あるのー・はいどりひ)が言った。第六十二区画はアルコールの臭いが充満して大変なことになっている。
★ ★ ★
「シャカシャカシャカなのだ」
用意した大量の氷を削ってシロップをかけていきながら、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)は御機嫌だった。
第七十五区画は、さながらかき氷屋さんの屋台のようになっている。
「早く来ないかなあ。来るまでに、一つぐらい食べてもいいであろうな。溶けたらもったいないであるからな」
そう自分に言い聞かせると、マナ・ウィンスレットは練乳がけ抹茶金時白玉入りを食べ始めた。
★ ★ ★
「まったく、なんで罠を仕掛けようと思ったところが混み混みなんですか。しかたない、このへんで妥協しましょう」
そう言うと、レーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)は第七十六区画の道の中央に魔法陣型のトラップを設置していった。
本来なら自動発動にしたいところだが、氷術などの魔法に判断力のようなものはない。発動はあくまでも手動だ。もちろん、古代の仕掛けなどには自動発動的な物もあるようだが、今現在学生たちが把握している物にはそのような魔法はない。
ということで、氷術で魔法陣を描いて零下に冷やし、直前の地面は濡らしておくことにする。迂闊にもそのまま進めば足が凍りついて動けなくなるという感じだ。
★ ★ ★
レーヴェ・アストレイが追い出された第七十七区画では、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)が給水所を設置していた。
「メイドに抜かりはありません。さすがに疲れたころでしょうから、みなさんも水分が欲しいでしょうね」(V)
各種ジュースや、謎の栄養ドリンクまで取りそろえて、ナナ・ノルデンはペットたちの来訪を待った。
★ ★ ★
「やっぱり、動物には光り物ですね。これってもろに引っかかりますよ」
第七十八区画に、しびれ粉が吹き出す罠を仕掛けて、その上に光条石をおきながら鬼崎 朔(きざき・さく)はほくそ笑んだ。
「それにしても、何か変な声がするんですが、なんなんでしょうか」
鬼崎朔は、不思議そうに首をかしげた。
同じ第七十八区画で、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)たちはのんびりと歌の練習をしていた。タクト代わりの野球のバットが、ビュンビュンと風を切る。そして、彼女たちはレースのことなどまるで知らなかった。
★ ★ ★
「みなさーん、ごくろーさまデース。しかーし、最後に笑うのはやはりカレーなのデース」
ゴールのライン上に陣どって、カレー鍋をかかえたアーサー・レイス(あーさー・れいす)がニヤリと笑った。まさに、最後の関門である。
「そうデース、辿り着いたペットたちにも御褒美としてカレーを用意しておきますネー。その前に、まずはみなさんにカレーを……」
じりじりと、アーサー・レイスが大会本部の方へと近づいていった。
「後でお仕置き部屋に来たいですかぁ。それとも、退学してパラ実送りですぅ?」
エリザベート・ワルプルギスが、ニッコリとアーサー・レイスに微笑んだ。
「ノーーーーーー!!」
さすがに、アーサー・レイスの足が止まった。
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