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【空京百貨店】書籍・家具フロア

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【空京百貨店】書籍・家具フロア

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■ガチャポンコーナー&星の勉強会


 自動販売機近くのガチャポンコーナー。色とりどりのカプセルの中には心がときめくようなものが納められている。何が出てくるのか分からない、そんな要素が誰かの心に火をつけていた。
 大量に小銭を用意してガチャポンに挑んでいる小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)を、デート相手のはず……のコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)はおっとりとした表情で見守っていた。
「ガチャポンて難しいねぇ」
「ドーナツ、ドーナツ。うぅー、何かの神様〜……っ!」
 美羽が狙っているドーナツの携帯ストラップは、すでに1個手に入っている。2つ欲しいのだ。自分とコハクでおそろいにしたいのに! 出ないんだも〜んっっ。さっき崩した1000円札もあっという間になくなってしまった。
 偶然、美羽の前を通りかかった九条 風天(くじょう・ふうてん)白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)は夕飯の材料を買った帰りだった。今回は油揚げを買ってもらえたのだろうか。
「はっ!!」
「どうした、風天」
「……何でしょうねこのボクにポイントを狙い済ました様な商品はっ。すみません白姉、これちょっとお願いします!」
「何か気になるものでも……あ。あー……」
 セレナはいきなり荷物を預けられ、日頃落ち着いている風天をそんなに熱くさせるものは何だろうと驚いた。『お菓子ストラップ』の隣には『本物志向! 世界の武器コレクション!』という武器のミニチュアフィギュアがあった。食玩、という奴か。
「この銘刀シリーズを……」
「……ふふ。まあ、たまにはいいものだ」
 左に美羽、右に風天。2人とも真剣なまなざしでガチャガチャと……あれ、この娘。100円パンダの娘か。ふむ。
「おぬし、長く待っているのか?」
「僕ですか? そうですねえ。張り切っていますねぇ」
 セレナは横にいたコハクに話しかけると、のんびりとした笑顔で返された。仏か! しかし、珍しく必死にガチャりまくっている風天を見ると自分も穏やかな気持ちになった。
「ボウガン、モーニングスター……こういうのじゃなくて、銘刀でないでしょうか」
「うぅっ。シュークリームなら10個以上あるのに〜」
 美羽のガチャポンは3桁に手が届きそうな所まで来ているのだが……。

 ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャ……。

「くっ、なんですかコレはこれだけやって出ないなんて……もう1回両替してきますっ!」
「うるうるうる。お金なくなっちゃったよー、コハクー」
「泣かないで、美羽。僕も1回やってみるよ」
 ふと、セレナの頭にひらめくものがあった。コハクが近づいていくガチャポンの1つをじっと見つめる。
 カタ、カタタ。
 サイコキネシスを使ってドーナツが落ちるように細工をした。これで上手くいくだろうか? ずいぶん使っているようだし、このくらいしてもバチは当たらんだろう。
 カチャリ。ガチャガチャ。ポンッ!
「あー!!」
「美羽が欲しいのってこれだよね。出ちゃった」
「コハクーっ、ありがとう〜!! 付けて付けて♪」
 2人は楽しそうに携帯電話におそろいのドーナツのストラップを付けた。えへへ、と嬉しそうにはにかむ美羽を見てセレナも満足そうにしている。キツネ耳を誇らしげにピンと立てた。
「ああ、おめでとうございます。よしっ、僕も」
 味をしめたセレナは風天の方にも『ほんの少し』いかさまをした。ガチャリ。取っ手を回した風天の顔がパッと明るくなる。
「こ、これは! クレイモア、虎鉄、干将・莫耶!? はぁぁっ、小さいと可愛らしいですね」
「そうかそうか、それは良かったな。さてと、帰って飯にしようか」
 セレナは空腹のため帰りたくなった。風天の頭をなでると空のカプセルを片づけ、いそいそと帰り支度をする。今日のご飯も楽しみだな。
「と、とりあえず欲しいものは手に入りました。えへへ」
 帰ってからじっくり眺めるとしましょう♪
 鼻歌を歌いながら歩く風天のポケットは武器の食玩でいっぱいだ。
 

 御子神 鈴音(みこがみ・すずね)は家具フロアを通りかかった際、面白いちらしをひろったようだ。そのチラシによると家具フロアがミニチュアドールハウスのガチャポンを製作したらしい。
「アルには丁度いい……?」
 自分の頭の上で、手乗りサイズの機晶姫のサンク・アルジェント(さんく・あるじぇんと)がもぞりと動いた。ちらしを高くあげてサンクが読みやすいようにしてやる。
「鈴と一緒に居れれば私はどこでもいいんだけどね〜。でも椅子とか机あったら便利かも?」
「……私の部屋は和風だけど、出てくるのは何風なんだろう」
「まぁ、何でも嬉しいけどっ!」
 微妙に素直じゃないサンクだが、結構興味はあるようだ。鈴音はそう考えると、トコトコとガチャポン前まで歩いて行った。歩きながら財布を確認すると、100円玉が5枚入っている。……うん。

「何をいただこうかしら」
「僕が買いますよ。何にします?」
 蓬生 結(よもぎ・ゆい)に誘われ空京百貨店にやってきたイハ・サジャラニルヴァータ(いは・さじゃらにるう゛ぁーた)は、珍しそうにあたりを見ていた。星の勉強会に興味があるのだが、その前に喉が渇いて自動販売機で飲み物を買うことにする。
「イハさん、少し涼しいところへ行きましょうか。何飲みます?」
「私は甘いものを。あの、あちらも見てもいいかしら。がちゃぽんって言うのでしょう? うふふ」
 イハにアイスロイヤルミルクティーを渡すと、2人はそちらに向かって歩いて行った。鈴音が黙々とハンドルをひねっているのが可愛らしい。
「たしかにストラップやミニチュアは可愛らしいものが多いですね、造りもとても精巧ですし」
 鈴音はすでに2回挑戦しており、猫足の椅子とアンティーク風のドレッサーを獲得していた。あのサイズならサンクが使うのにちょうどいいだろう。
「とても可愛らしいストラップがありますわ……っ」
「お菓子のストラップは人気があるみたいですよ、苺のショートケーキはシンプルだけどイハさんにとても似合……」
「『厳選・世界の防具ストラップ』可愛いですの」
「そっちですか」
 鈴音は結とイハに気づきながら、3回目の挑戦でチェスト、4回目の挑戦で猫足のテーブルを手に入れた。ダブりなしで順調であるが、片目をつぶってのぞいてみたところベッドはないらしい。ガチャポンなので大きいものは作れなかったようだ。残念……。
「あら? あなた、どうなさったの?」
「いつまでも、机の上にお布団じゃ……。かわいそうだな、って……」
「いいのよっ。私、椅子だけでも十分だから!」
 イハは小さくため息をついた鈴音に気が付き、その理由を聞いた見た。どうやら彼女は頭の上のパートナーにベッドを贈りたいらしい。どうにかならないかとイハが結に目で訴えかけたところ、結は苦笑しながら説明文を指さした。
「……このガチャポン、当たるとベッドがもらえるの?」
「ここにそう書いてありますね」
 結は鈴音に、『あたり』の紙をミニチュアベッドに引き換えてくれると説明してあげた。サイズが大きいためそのような措置が取られているそうだ。あたりの紙は上から見つけられなかったが、もしかしたら底の方にあってすぐに取り出せる状態なのかもしれない。
「最後の、やってみる……」
「鈴、がんばれ〜っ」
 ガチャリ。
「……」
「あー……。でも、これもいいと思うよ。うん!」
 鈴音が5回目に当てたのは猫足の椅子だった。椅子は2脚あっても困らないものだが、やっぱりベッドに未練が残る……。
「結。私、やっぱりこちらがいいですわ」
「俺はあまり運が良い方とはいえないので、イハさんが回してください」
「ありがとう」
 イハは結から100円玉を受け取ると、鈴音の脇にしゃがんでガチャポンのハンドルをぐるりと回した。ころり。丸いカプセルを取り出し、にっこりと鈴音に渡してやる。カプセルの透明な部分から1枚の紙が見えた。


 書籍フロアの柱の陰で、スーツにメガネの東條 カガチ(とうじょう・かがち)は時計を気にしながらエヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)の様子をうかがっていた。3時から始まる星の神話勉強会で彼女が司会をやると知り、いてもたってもいられなかったようだ。「おねえちゃん、ちゃんとやれるか心配だよねえ……」
 会場では神崎 優(かんざき・ゆう)達や、多くの家族連れがいつ始まるのかと首を長くして待っていた。カガチは、自分のような立場ならともかく働く必要のなかった彼女がどこまでやれるか気が気でならなかった。
「ロマンチックで楽しそう♪」
 水無月 零(みなずき・れい)は勉強会のチラシを見ていた時、優から参加してみるかと聞かれ『えっ』と思わず声をあげてしまった。どうやら彼も興味があったようで、思わずいいのか尋ねてしまう。心を寄せている相手と同じものを見られるのは嬉しかった。神代 聖夜(かみしろ・せいや)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)とも一緒に来ることができ今日の勉強会を零はとても楽しみにしていたのだ。
「なあ、星の神話ってそんなに面白いのか?」
 優の隣で終始笑顔の零に気をつかい、こっそりと刹那に質問する聖夜。彼とは逆に、刹那は星の神話について教えてもらう必要がないほど詳しかった。そのため今日はどの辺を教えるのかに興味を持っているようだ。
「仕方ないですね。ややこしい場所は私が聖夜に教えてあげます」
 聖夜は長いこと1人で過ごしてきたせいか、時々飛び出す初耳の単語の意味が分からず首をかしげている。暗黒星雲って……どこだ? 南十字星って十字架型の星のことじゃ、多分ないよなぁ……。
「わ、わりぃな」
 頭をポリポリとかいて聖夜が礼を言った時、エヴァが登場して会場から拍手が起きた。カガチは身を乗り出して聞きたいのをどうにかこらえ、手近な本を読むふりをしつつ彼女の一挙手一投足にドキドキしながら応援していた。おねえちゃん、がんばれよぉ。ふれー、ふれー。
「こ、こほん。はくちょう座はデネブという一等星を……」
 エヴァにはレジ打ちや棚の整理よりこういった司会の方が得意なようだ。奉仕活動の成果なのかもしれない。大きな絵本を使いながら夏の星座、神話に関する説明をしていく。
「優、『黄道』って何のこと?」
「簡単に説明すると、太陽のみかけの通り道だな」
 優は黄道の説明を分りやすく零に伝えた。その際、自身の持っている天文学の知識を交えながら星の軌道や夏の大三角形の豆知識を混ぜると零は興味深そうにふむふむとうなずいている。
「そうなんだ〜」
 えへへ、と零は楽しそうに笑っている。そんな彼女につられて優もにっこりとほほ笑んだ。聖夜もちんぷんかんぷんという顔をしているが、そちらは刹那に任せるか……。
「なー。ゼウスってさぁ、何だ? さっきからちょいちょい出てくるけど、偉い奴なのか?」
「今までそこを分からず聞いていたのですか」
「うっせぇなあ!」
「ふう、まあいいでしょう」
 刹那はゼウスがローマ神話において人と神の父と考えられ、天空神として様々な気象を司っていたことを教えた。だが、聖夜は生まれた子供を飲みこんでしまうような神々の考え方が分からず納得のいかない顔をしている。
「何でこうなるんだ? おかしいだろ」
「それは私に言われても困ります」
 小さなな声で口論を繰り返していたが、内心、刹那は与えられた知識にそういう見方もあるのか。と再発見するところもあった。絵本の挿絵もきれいだし、司会の女性も頑張っている。女性は考古学の考え方を分かりやすく説明しており、最初は緊張していたが終始にこやかで本当に本が好きなのだな。と思った。なぜか時々向こう側の本棚をチラ見しているが……若い男性が1人いるだけ。あのあたりに時計でもあっただろうか?
「では、これにて勉強会を終了いたします。記念の金平糖をお配りしていますので、どうぞ前の方から順番にお受け取り下さい」
 エヴァはなんとか無事に勉強会を終了させた。カガチは彼女がかみそうになるたびにオロオロして手に汗をかいていた。エヴァはとっくにカガチの存在に気づいていたが、彼が自分の分までソワソワしてくれたためかえって堂々とふるまえたようだ。……隠れているらしいので、ばれているが気付かないふりをする。
「すみません、その本は売り物ですか? とても綺麗ですね」
 優は少し離れた位置から零の様子に気を配っている。今日は彼女が喜んでくれてとても嬉しい。自分も勉強になったが、参加してよかったな。
「ありがとうございます。こちらの1冊は小さなサイズもありますよ。絵本のコーナーにご案内しましょうか?」
「わあ、ぜひ!」
 金平糖をもらいに来た零がエヴァに話しかけ、先ほどの絵本の質問をしていた。本の種類をまだすべて把握していないエヴァだが無事に優たちを目的の場所まで届けることができ、ほっとしている様子だった。見聞を広めるためとはいえ、慣れないことが続いて緊張しているのだろう。
「おつかれ〜」
 俺、今着いたんでさぁ。
 そんな下手な演技をして現れたカガチを見て、エヴァはぷっと吹き出した。バイトが明けたら一緒に飯でも食いに行こう。そう誘ってもらい、カガチは照れくさそうに書籍フロアを去って行く。
「ばれてなかったよ、なー」
 ぽり、とほっぺたをかきながら呟いた。