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【ろくりんピック】駆け抜けろ、2人3脚トライアスロン!

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第2章 水泳戦!


 葦原島の砂浜では、すでに選手達がスタンバイ済み。
 14名の足は、『たすき』という名の紐でパートナーとしっかり結ばれています。


『さぁこちらは、スタート地点上空です。
 各組の泳者をご紹介していきます!
 まずは東シャンバラチームの組から……あれ、組の名前がありませんね。
 ん〜よし、【東】でいきましょう!』

 実況を伝えるために置かれた巨大スピーカーから、美羽の声が響きます。
 曰く、東シャンバラチームの1組目を【東】と命名。


(大好きな弥十郎さんと一緒に2人3脚、燃えないわけがありません。
 弥十郎さんとなら普段の何倍もがんばれる気がします!)
(いつも想っている人がいます。
 その人は今日、隣にいます。
 その人の前ではいつもカッコつけていたいです……だから、おらに力を)

 2人して想うのは、隣に立つ恋人のこと。
 【東】の泳者、水神 樹(みなかみ・いつき)佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)ペアです。
 触れ合う肩から、そして足から、鼓動が伝わってきます。

「がんばるぞっと♪」

 樹の耳にだけ聞こえるように、そっとささやいた弥十郎。
 ともに赤らんだ顔を見つめ、手を繋いで海を眺めるのでした。


『さてお次も東シャンバラチームですが……うん、【イーシャン】ってことにしちゃいましょう!』

 東シャンバラチームの2組目も、美羽によって【イーシャン】と命名されました。
 お判りのことと思いますが、『イーシャン』とは『イーストシャンバラ』の略称です。
 なんでも、東シャンバラチームのなかで自然発生的に言われ始めた言葉だとか。


「唯乃さん、私達【イーシャン】ですって!」
「いい名前じゃない、ねぇ美央ちゃん!
 さぁて、私達のコンビネーション見せてやろうじゃない!」

 そんな【イーシャン】の泳者が、赤羽 美央(あかばね・みお)四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)です。
 同じ下宿に住んでいる両者は、いつも行動をともにしているということで息もぴったり。
 もちろん、本競技にも自信を持っています。

「目指せ優勝!」
(この経験をつうじて、もっともっと唯乃さんと仲よくなりたいです。
 私も唯乃さん大好きですし!)

 両の拳を握ると、隣を振り返る美央。
 すると唯乃は、何やら難しい表情をしています。

「やるからには優勝……といきたいんだけど、妨害とか穏やかじゃないわね。
 まぁ、慎重に急いで行きましょ。
 多少のトラップなら美央ちゃんいるし大丈夫だろうけど、念のため『護国の聖域』を張っておくわ」
「えぇ……競技中は、かなりの妨害が予想されますよね。
 まずは、相手の妨害を受けないことを目標としましょう。
 私も『超感覚』を使っておき、常に危険に警戒しておきます」
「トラップは、まぁ完全に隠せる人はそういないだろうし。
 多少心得があるから、何とかなるかしら?
 人が乱入してこない限り大丈夫でしょ、多分。
 あとは堅実に進むだけね」

 唯乃の言葉に、美央も気を引き締めました。
 双方の足にスキル『パワーブレス』を使用し、脚力の増強も完了です。


『続きまして、西シャンバラチームの組を紹介します!』


「クレアや千ぃ姉、垂と一緒に競技できる……光栄の至りだわ」
「がんばろーねっ、ローザ、ライザ」

 胸に手をあて、仲間へと想いを馳せるローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)
 シルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)も、お〜っと両腕を天へ突き出しました。
 この2名が、西シャンバラチーム【WWW】の泳者です。

「祭典は愉しむことが第一だが、負けては意味があるまい」
「大丈夫、私たちマキャヴェリ一家はみんな泳ぐの大好きだから。
 水泳なら負けないよっ♪」

 応援に駆け付けたグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が、シルヴィアをたしなめます。
 ですがシルヴィアも、何も考えずにはしゃいでいるわけではありません。
 自身が鯱(しゃち)の獣人であることを踏まえたうえで、勝てるであろう見込みのもとに話しているのです。
 ただ鯱の姿になると2人3脚ができなくなるということで、今回は獣化が認められませんでしたが。
 ちなみに、ローザマリアも水泳を特技としています。

「よいか、其方らにできぬことなどない。
 我ら、力を合わさば必ずや栄光はこの手に掴まれるのだからな」

 朝からずっと、ローザマリアとシルヴィアの緊張をほぐすことに努めていたグロリアーナ。
 ドリンクを準備したり、脚をマッサージしたり。
 そして最後に、精一杯の激励を贈ります。

「元教導団員としてベストを尽くして、このチームで栄光を勝ちとりたいものね」

 ローザマリアの脳裏には、風にはためく星条旗。
 自身と同じく、アメリカ出身であり葦原明倫館所属の、ハイナやティファニー達のためにも、勝利を誓うのでした。


「ろくりんピックの大舞台、真面目に優等生としてがんばるわ。
 無茶して失格しないように気を付けて、絶対に泳ぎきるのよ!」
「彩羽〜がんばろぉ〜」

 隣で気合いを入れているのは、天貴 彩羽(あまむち・あやは)天貴 彩華(あまむち・あやか)の【UPW】。
 双子な関係性とスキル『精神感応』の効果から、息の合った泳ぎが期待できそうです。

「スポーツも勝負もキライじゃないし、がんばるわ。
 チームに誘ってくれたから勝ちたいわね」
「うん」

 腕を組み、彩羽は自信満々の微笑を見せます。
 真似をして腕を組むと、彩華も笑顔でうなずくのでした。


「目指すは優勝! ならば1位をとるためにがんばるのは当然です」
「はい、そうですね。
 それに全力で優勝を目指しあって切磋琢磨することで、東西各チーム同士の信頼関係が深まるといいな、とも思います」

 眼をつむり、精神統一をはかりながら決意を述べる樹月 刀真(きづき・とうま)
 影野 陽太(かげの・ようた)も、沖に漂う浮きを見つめています。

「陽太、改めてよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします、刀真さん。
 足を引っ張らないよう、必死にがんばります」

 互いに礼儀正しく挨拶を交わし、関係も良好。
 【西シャンバラ】の2名は、冷静に、そしてしたたかに、12時間後の優勝を思い描いています。

「陽太の組んでくれたスケジュールさえあれば、【西シャンバラ】は無敵でしょう」
「えぇ、ですが机上の空論どおりにいかないのが道理です。
 想定外の事態やトラブル、妨害に遭遇するたびに適宜、脳内スケジュールをアドリブ修正して対応していきます」

 刀真の言うスケジュールとは、陽太が『ナゾ究明』、『博識』、『財産管理』のスキルを駆使してつくり出したものです。
 最適なペース、推定優勝タイム、コースどりなど、勝利のためのスケジュールとも言えるでしょう。
 陽太は、先の3つのスキルに加えて『記憶術』、『防衛計画』、『根回し』も装備してきています。
 スケジュールの修正時には、すべてのスキルを最大限活用していくつもりのようです。


『う〜ん、西シャンバラチーム4組目を紹介したいのですが……また名前がありませんね。
 西ですし、【ウエスト】とかで構いませんかね?』


「やるからには徹底的にだ、パートナーと一緒に絶対に優勝してみせる!」
「俺達に勝てるやつなんていないことを、ここで証明してやるぜ!」

 最後の泳者は、二色 峯景(ふたしき・ふよう)氷室 カイ(ひむろ・かい)の2名。
 はりきりすぎて、【ウエスト】と名付けられたことにすら気付いていない様子です。

「水泳は他の競技よりも特殊な環境で行われる……不測の事態に対応できるように、頭を常に冷静にして、機会を伺うことが大切だな」
「おうよ、リタイアしないように、配分を考えてきたんだ。
 信頼してるぜ、最後まで泳ぎきろうな!」

 完走ならぬ完泳を、峯景とカイは腕を打ち鳴らして誓います。
 峯景が装備しているスキル『セルフモニタリング』とカイのペース配分が噛み合えば、最高のコンディションで泳ぐことが可能となるかも知れません。


『西シャンバラチーム、最後の1組は……選手の名前の頭文字を繋げて【こりいとさ】で!』


「安易な……」
「まぁまぁ、せっかく考えてもらったんだぜ?」

 付けられた名前に、 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は思わず一言。
 西シャンバラチームに助っ人として呼ばれた、山葉聡は苦笑います。
 【こりいとさ】の2名、何となく馬が合いそうな予感です。


 紹介のあったうち、【東】、【ウエスト】、【こりいとさ】の3組は選手数が足りていません。
 そのため、【東】には山葉 涼司(やまは・りょうじ)が、【ウエスト】と【こりいとさ】には聡が助っ人として参加します。


 さぁ、スタート2分前です。
 どの組も気合い充分で、スタートラインにつきました。

「主ら、分かっておろうの。
 死ぬ気で競技に挑み、魂を賭して戦友(とも)を応援するでありんす!」
「正々堂々、すべての力を出してがんばってください」

 まさかの登場は、ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)葦原房姫(あしはらの・ふさひめ)です。
 砂浜を臨む岩の上から、選手達へと檄を飛ばします。

「鉄砲隊、前へ」
「これ、ぼさっとせずに位置につくのじゃ。
 いくでありんすよ!」

 房姫の指示により、背後に控えていた鉄砲隊が2人の前へと移動しました。
 空砲をこめた火縄銃が点火され……一斉に、重音が鳴り響きます。
 さすがは葦原島、スタートの合図に火縄銃を使用するとは。

「さ、あつ……忙しいし帰るかのう」
「そうですね、またゴールにてお目にかかりましょう」

 すべての選手が泳ぎ始めたのを認め、きびすを返したハイナと房姫。
 まさに、決戦の火蓋は切って落とされたのでした。