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大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!

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第3章 カノンを守れ!

「ヒャッハー! ウラー!」
「きゃー!」
 森の中のあちこちから、依然として蛮族の雄叫びがとどろいている。
 雄叫びに混じってときおり響く悲鳴は、女性がついに脱がされてしまったのだろうか。
「あっ、ずりー! 貞操帯なんかしやがって! これ、どうやって外すんだ?」
「もしかして、貴重な下着ってこれのことか?」
 貞操帯を発見して戸惑う蛮族たち。
 貞操帯のあるなしが運命をわけたという女性も、多いことだろう。
「カノンさん、私たちの側を離れないで!」
 アル・ルヴィエッタは設楽カノンの前方をかばうように歩きながら小声で注意する。
「アハハハハハ! 大丈夫ですよ。変なのが襲ってきたら殺しちゃいますから」
 ハイな気分が続いているカノンには、微塵も恐怖がみられない。
 ガサガサッ
 アルの前方の茂みが音をたてる。
「カノンさん、隠れて!」
 アルが叫ぶ。
「大丈夫。味方だよ」
 茂みから現れたのは、平等院鳳凰堂レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)たちだった。
 アルは、思わずホッとする。
「カノン先輩! 僕たちがあなたを必ず守ってみせるよ!」
 レオはカノンに熱っぽく語った。
「ありがとう! でも、そんなに力まないで。楽しくいきましょう。アハハハハハハ!」
 カノンは病的な笑いを続けている。
「先輩、今日はいつになく元気だけど、本当に大丈夫なんですか?」
 レオは心配そうにカノンを見守った。
「だいぶ不安定になっているようだわ。あっ!」
 アルが声をあげた。
「こんなところに、上玉がうようよいやがったぜー!」
 どこかからわいてきたパラ実生が、飛び上がって斧を振り上げ、カノンを狙ってきたのだ!
「貴様、先輩に触れるな!」
 カチーン!
 レオが指を弾くと、10円玉大の光の円盤が超高速で打ち出され、パラ実生が斧を握る手元にぶち当たる。
 硬貨型光条兵器【ゾディアック・レイ】である。
「うおお! やってくれるじゃねえか!」
 光条兵器の衝撃で手から斧を離してしまったパラ実生は、悔しそうに歯を剥き出して、レオにつかみかかってきた。
「はあっ!」
 気合とともにレオは抜刀した。
 身を引いて刃をかわしたパラ実生の肩を、イスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)がつかんだ。
「お、お前は!?」
「顔を洗って出直すがよい、この未熟者が!」
 イスカはパラ実生を一喝して、剣の柄でその頭をぶっ叩き、身体を抱えて茂みの向こうに放り投げてしまった。
「はわー」
 地面に転がって失神するパラ実生。
 だが、敵は1人ではなかった。
「んだ、こらー! いい度胸だ!」
「泣かしたるぞー!」
 四方八方からわいて出てくるパラ実生たち。
「しまった、囲まれたか!?」
 レオはカノンたちを背にして、恐るべき蛮族に刀の切っ先を向ける。
「ガキが! んなもん、怖かねえんだよ!」
 死さえも恐れぬパラ実生の略奪魂が燃え上がろうとしていた。
「レオ! こうなったらっ!」
 久遠乃 リーナ(くおんの・りーな)がブロードソードを構えてレオの右隣につく。
「みんなで特攻ですねー!」
 世界の全てを記録した 最古の硬貨・マキナ(しんせかいのかみになる・じんせいはかいがたまどうしょ)もまた、レオの左隣についた。
「ほらほら、ワタシは耐久性に自信がないから、イスカさんが盾になって下さいねー」
「なんじゃと!? まあ、よかろう」
 イスカはぶつぶついいながらもマキナの前に立つ。
 対峙したレオたちとパラ実生たちは、互いの隙をうかがうかのように睨みあった。
 バチバチバチ
 視線と視線がぶつかり、激しい火花を散らす。
「少しだけチャンスをやろう。女どもはいますぐ服を脱いで、レアな下着を差し出せ! でなきゃ皆殺しにしてやるぞコラァ!」
 パラ実生たちは牙を剥いて吠えた。
「すっぽんぽんになって、生まれたままの姿をさらすんだよ! 後は俺たちが丁重にかわいがってやるから、安心しな! ぐへへ」
 下品な笑いが広がった。
「アハハハハハハハハ! 面白い人たち!」
 カノンが笑いながら、レオたちを押しのけて前に出ようとする。
「先輩、ダメです! 僕たちの後ろにいて下さい!」
 レオはカノンを押し戻そうとするが、カノンは無防備な状態でパラ実生たちに近づいていった。
「うん? こりゃまた、うまそうな姉ちゃんじゃねーか。やせてるのが気に入ったぜ」
「んだな! おい、俺たちに降参して脱ぐのか?」
 パラ実生たちはカノンの身体の細部に視線を注ぎ、よだれをたらし始めた。
「脱ぐ、ってー?」
 カノンは首をかしげた。
「とぼけてんじゃねえよ! 脱がねえなら、俺たちが脱がしてやらあ!」
 カノンの直近にいたパラ実生が、日本刀をびゅんびゅん振りまわして、カノンの衣服を切り裂いた。
 ズバズバズバッ
 衣服の切れ端が飛び散り、カノンの肩や、お腹や、太ももが露になっていく。
「きゃ、きゃああっ!」
 カノンは驚いたように身をひいた。
 自分の肌が露になったことよりも、いきなり切りつけられたことにショックを受けたようだ。
「せ、先輩! 大丈夫ですか!?」
 レオは思わず声をあげていた。
「カノンさん! こっちへ!」
 アルは慌ててカノンの肩をつかんで、レオたちの後ろに引っ張っていく。
「へへへ、思ったとおり、いい身体だぜー」
「その丸みがたまらねえなー」
 パラ実生たちは、暴力によってカノンの肌をみられたことに興奮している。
「あ、ああ、こ、この人たちは、何なの!?」
 精神が不安定な状態が続くカノンは、パラ実生たちに乱暴されたことが深いトラウマとして心の奥底に刻まれたようだ。
「ゆ、許せない、いやらしい男たち! 許せない、殺す、コロス……」
 カノンの目が裏返って、白目をむく。
「い、いけない! 精神が崩壊する危険があるわ!」
 アルは慌ててカノンの背をさすり、なだめにかかる。
「く、くそー! お、お前ら、ぜ、絶対に許さない!」
 レオの怒りは、爆発寸前だった。
「聞け、蛮族ども! 僕の能力と存在と絆の全てをかけて、僕はカノン先輩をあらゆるものから守り抜く!」
 レオは【ゾディアック・レイ】をパラ実生たちに撃ちこみながら駆け出して、刀を振りまわしながら敵のただ中に突進していく。
「うわー!」
「上等だ、この野郎! ここまでやってただで済むと思うなよ!」
 パラ実生からは、切りかかられたことによる悲鳴と、特攻に対する怒号とが同時にまきおこる。
「ふん、口の減らない蛮族どもが! ごちゃごちゃ抜かすでない! 言いたいことがあるならまず剣で語れ!」
 イスカも剣を抜いて、レオとともにパラ実生たちに切りかかっていく。
 このような修羅場は、イスカは何度もくぐり抜けてきていた。
「レオが行くなら私もっ! 久遠のリーナ、この剣に誓って、絶望を断ち切りますっ!」
 久遠乃もまた、レオ、イスカとともにブロードソードを振りまわし、パラ実生たちを次々に薙ぎ倒してゆく。
「ぐ、ぐわー! さがれー!」
 レオたちの気迫に押されたパラ実生たちは、傷だらけの顔に手をやりながら後じさっていく。
「はーい、離れた敵にもワタシが容赦なく仕掛けますよー!」
 イスカの後ろにいるマキナが、距離を置こうとするパラ実生たちに魔法で炎の玉や雷をつくりだして攻撃していった。
 ちゅどーん!
 どごーん!
 森の中に炎が弾け、雷の光が閃く。
「カノンさん、レオさんたちの後について、この場を脱出するわよ」
 アルは目の色が変わっているカノンの手を引いて、レオたちを追うように駆け出していく。
 そこに。
「残念でしたー! ここでいきなり、待ち伏せしていた俺様が攻撃、って、おわー!」
 茂みの中でカノンを待ち構えていたかのように襲いかかってきたパラ実生が、グラヴィン・ガインの大きな腕に身体を捕えられ、軽々と持ち上げられてしまう。
「や、やめろー! 話せばわかるー!」
「アル、カノンを、守る……だから、僕も、守る…………!」
 ぽーん
 グラヴィンは暴れるパラ実生を天高く投げ飛ばしてしまった。
「ひえー!」
 投げ飛ばされたパラ実生の身体が森の梢を抜け、空の彼方に消えていく。
「さあ、行くわよ!」
 アルはカノンの背中を押してゆく。
「許せない……コロス、コロス…………女に乱暴する男たち!」
 カノンは、呪文のように同じ言葉を呟いていた。

「激しい闘いが始まっているようですね」
 眼下の森からわきおこる雄叫びや悲鳴、そしてあちこちからあがる煙を目にして、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)は呟いた。
 ガートルードはサイコキネシスで身体を浮遊させ、レッサーワイバーンに騎乗する仲間たちとともに、編隊を組んで森の上空を飛行しているところだった。
 高空飛行は結界に邪魔されてできないので、森の梢の先に足がつくかつかないかの、低空飛行で森の様子を観察してまわっている。
「やはり、私の予想どおり、パラ実生たちは当て馬にされたとみて間違いないでしょう」
 パラ実生たちの多くは、襲撃を仕掛けた相手がピンチの中で、超能力そのほかの戦闘スキルを普段よりも向上させてすさまじい反撃を仕掛けるため、次々に倒されている模様だった。
「これが学院、いや、コリマ校長の思惑、というわけか」
 編隊の左翼に配置されているネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)がいった。
「そうです。金の指輪を持った超能力者が観光目的でこんなところを訪れるなど、不自然もいいところの噂を流し、短絡的なパラ実生たちの襲撃を誘っているのです。学院にとっては低コストで気楽に呼びこめる訓練材料というわけですね」
 ガートルードはうなずく。
「それで、騙される方が悪い、ということなんでしょうか?」
 右翼に配置されているパトリシア・ハーレック(ぱとりしあ・はーれっく)が尋ねる。
「まさか。私もパラ実生です。仲間の弱点をついた、天御柱学院の卑怯な行為は到底許せません」
 ガートルードは、攻撃魔法の呪文を唱え始めた。
「そうですわよね。きっと、ガートルード様ならそうおっしゃるだろうと、思いましたわ」
 パトリシアも、強化魔法の呪文を唱え始める。
 編隊を構成する全員の力が、パトリシアによって高められていく。
「じゃ、パラ実生を守るために、天学生たちを殲滅するとしようか」
 ネヴィルは気合を上げて、拳をかたく握りしめる。
「コリマの思い通りにはさせないんじゃ。容赦なく攻撃して死なすぞ!」
 編隊のセンターを務めるシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)もレッサーワイバーンの手綱を引き絞る。
 ぐるるるるるる
 シルヴェスターの騎乗するレッサーワイバーンが唸り声をあげた。
「う、うわー、助けてくれー!」
 眼下の森から、パラ実生の悲鳴が響く。
「そこをどけ! 僕たちは、道を切り開くんだ!」
 平等院鳳凰堂レオたちの熱い叫びがわきあがる。
「威勢のええ奴が、攻めてきよったな。こっちも攻撃開始じゃけん!」
 ガートルードたち4人は、ガートルードを底辺の位置に置いた、三角形のかたちに編隊を組んでいた。
 ガートルードを底辺とした、頂点に位置するシルヴェスターが、レッサーワイバーンを駆って眼下の森林にダイブする。
 ぐいん
 急降下した飛竜が、いまやカノンを中心に隊列を組んで突き進んでいるレオたちのまっ正面に鼻面を突き出した。
「うん、何だ!?」
 思わぬ敵の登場に、レオは刀を止める。
 しぎゃー!
 吠え声とともに、レッサーワイバーンは炎のブレスを吹きかけた。
「うわー!」
「レオ、さがって!」
 炎に巻かれて苦悶の叫びをあげるレオに、久遠乃リーナが回避を求める。
 速攻で攻撃を仕掛けてから、ワイバーンは上空に急上昇し、シルヴェスターとともに編隊に復帰する。
「いかん。上から仕掛けてくるぞ!」
 イスカ・アレクサンドロスが切迫した声をあげる。
「攻撃しまーす」
 世界の全てを記録した最古の硬貨・マキナが、上空に向けて火球の攻撃を放つ。
 だが、上空の編隊はあっさり火球をかわした。
「そんなものには当たりませんよ」
 呪文を唱え終わったガートルードが、炎の攻撃を振りおろすように放つ。
「ファイアストーム!!」
 炎の全体攻撃が、暗い森の中のレオたちに覆いかぶさる。
「うわあ!」
「こりゃ、たまらんわい!」
 レオやイスカが悲鳴をあげる。
「続いて!」
 ガートルードは、雷撃を放った。
 ぴしゅう、ぴしゅう
 突き刺すような光が森の底の地面を焼き焦がしてゆく。
「くそ、とにかくカノン先輩を安全な場所に連れていかないと! みんな、走るぞ!」
 レオの指示で、森の中の生徒たちはいっせいに走りだした。
「アハハハハハハ! 木が燃えてる! 空がぴかぴか光ってるわ!」
 パラ実生の襲撃のショックから回復したのか、カノンがハイな気分に戻って笑い声をあげている。
「逃がさないぞ!」
 ネヴィルはレッサーワイバーンと一体化して宙を駆け抜け、レオの隣に舞い降りた。
「くらえ!」
 ネヴィルは至近距離からレオに拳の連打を放つ。
「させませんっ!」
 久遠乃がネヴィルに側面から斬りかかる。
「負けるもんか!」
 レオは、身をひいたネヴィルに硬貨型光条兵器を放つ。
「ふん!」
 ネヴィルの拳が、10円玉大の光の円盤を弾いた。
「いっ! あいたたたたたた!」
 拳に走る激痛に悲鳴をあげて、ネヴィルは飛竜を上昇させる。
「そろそろ、この部隊にとどめをさすんじゃ!」
 シルヴェスターが、再び降下した。
「くらえ、クロスファイア!」
 そのとき。
「お姉さん、私も遊ぶわ! アハハハハハハ」
 カノンの身体が宙を舞い、レオたちの前に飛び出して、シルヴェスターと向きあったのだ。
 クロスファイアの炎がカノンを包み込む。
「うん!?」
 シルヴェスターは驚愕に目を見張った。
 カノンがニコニコ笑いながら両手を突き出すと、鏡が光を反射するように、地獄の炎がたやすく押し返されたのだ。
 サイコキネシスで風か、あるいは、炎を操っているのであろうか。
 真相はともかく、押し返された炎を避けて、シルヴェスターは上昇しなければならなかった。
「どこに行くのかしら? もっと遊びたいわ!」
 カノンが後を追ってきたので、シルヴェスターは少々焦りを覚えた。
「私はガートルード・ハーレック。あなたの名前は、何というんですか?」
 編隊のすぐ側にまで上昇してきたカノンに、ガートルードは尋ねた。
「私は設楽カノン。天御柱学院所属の強化人間よ」
 カノンは答えた。
「私たちは、天御柱学院の生徒には容赦しません。覚悟してもらいますよ」
 ガートルードはカノンを睨みつける。
「わー、怖いー! アハハハハハハ!」
 カノンは笑いながら、森の中に舞い降りて、走り去るレオたちに合流していく。
「設楽カノン様とおっしゃるんですね。かなりの強敵ですわ。ガートルード様、ひとつの部隊を深追いすべきでしょうか」
 パトリシアの言葉に、ガートルードはうなずく。
「天学の生徒が潜むこの森全体に、空中から攻撃を仕掛けてまわります! 旋回開始!」
 ガートルードの指示で、編隊は森の上空を旋回しながら、炎や雷の攻撃を連発していくのだった。
 森の中は、いまや大混乱に近い状態である。