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大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!

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大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!
大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!! 大決戦! 超能力バトルロイヤル「いくさ1」!!

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第6章 クレアの構想


「生き残るのは俺だ! 死ねー!」
「いや、強いのは俺の方だ! 消えろー!」
 互いを呪詛する言葉を吐きながら、恐るべき闘争を再開する参加者たち。
 強くなって、運命を乗り越える力を得る。
 コリマの主張はシンプルであると同時に普遍性を持っており、コリマの情熱的な呼びかけにより、参加者たちは自分たちの闘争の正当性を信じて疑わなかった。
 対して、海人は理性的でありすぎた。
(強さは確かに必要だ。だが、運命を乗り越える力を得る道は、闘いの中にのみあるわけではない。大切なのは、自分の道を進むことを「迷わない」ということだ。コリマ・ユカギール、奴は、君たちが「闘いしかない」と思い込むように誘導しているのだ。人を傷つけることで強さを得ることが、本当に正しいことなのか?)
 海人の主張は、校長の誘導を指摘してはいたが、一方で、「闘いの中でも強さは得られる」と正直に述べるために、参加者としては、「じゃあ闘ってもいいじゃないか」と思ってしまうのである。
 非常に理性的な性格をした者、知的レベルが高い者なら、海人の主張を虚心に聞いて、海人の指摘する校長の「意図」を理解することもできるだろうが、冷静に考える余裕もほとんどないような状況下で、海人の呼びかけが聞く者の心に届くかというと、非常に難しい。
 まして、精神不安定に苦しむ強化人間たちには、海人の言葉はきれいごとだけの「お説教」にしか聞こえなかった。
「情勢は、海人の側にいるこちらにとっては、不利なようですね。ですが、自分たちも、それなりの覚悟を持って説得にきているわけですから」
 神楽坂紫翠(かぐらざか・しすい)は扇をパチンと閉じると、闘い続ける生徒たちの間に割って入っていく。
「何だ、お前は! 闘いの邪魔だー!」
 バトルロイヤル参加者たちは悪態をつきながら、闘いを続けようとする。
 だだだだだだ!
 神楽坂は無言のまま、銃を乱射した。
「なに!?」
 参加者たちは息を呑む。
 弾丸が参加者たちに当たることはなかったが、神楽坂が巧みにバラまく弾丸は、闘いの流れを止めるのに十分だった。
「おい、だから邪魔なんだよ!」
「そうだ! みんな、合意のうえで来ている! 闘うつもりがないなら帰れ! でなきゃ、殺してやろうか?」
 参加者たちは半ば狂気をおびた目で、神楽坂を睨みつけ、口汚い言葉を並べ始めた。
「生きるか、死ぬか、ですか。まるで戦場のようですね。競い合うのは良いことと思いますが、一か八かでリスクが高いものです。うまくいくかは、わからないのに。それでも続行しますか?」
 神楽坂は、ゆっくりとした口調で、呼びかける。
 だが、参加者たちの返答は早かった。
「無論だ! 本気の闘いを邪魔するなら、まずお前を倒す!」
 参加者の一人が、テレポートを使って神楽坂の背後に移動すると、ナイフを神楽坂の首に突き立てようとする。
 そのとき。
「やめて。少し狂ってきたんじゃないの?」
 橘瑠架(たちばな・るか)が、ナイフを振りあげた参加者の手をつかみ、その頬を平手で思いきりうちすえる。
 ばしっ
「うう!」
 神楽坂を襲った参加者は、呻いて、失神する。
「こ、この野郎!」
 他の参加者たちは、橘の周囲を取り囲む。
「聞いて。私は強化人間よ。一度、精神が壊れたこともあるわ。まあ、私たちの精神は不安定だけど、それはもとはといえば、無理な改造のせいよ。邪魔した奴は殺すだなんて、バトルロイヤルの参加者でもないのに? だいぶ歪んできていると思うわ。あなたちのその闘いは、最悪、死が待っているのよ。大切な人を残して逝くつもりなの?」
 橘は真剣な表情で語りかけるが、既に言葉の途中から、参加者たちは橘を襲い始めていた。
「狂っている? 歪んでいる? それでも結構だ!」
 橘は、殴りかかってきた参加者の拳をかわすと、相手の顔に肘打ちをくらわせる。
 続いて、蹴りを入れてきた参加者の踵をつかんでひねり、地面に転倒させた。
「まずいわね。だいぶ凶暴化しているわ。あの校長は、こうなると知ってて誘導したの? それとも?」
 だが、橘は気づいた。
 自分を包囲する参加者たちが、じわじわとさがり始めていることに。
 理由は単純。
 橘の強さを、目のあたりにしたからである。
「なるほど。説得できないなら、実力行使でいくしかありませんか。校長のことはもう少し観察したいですが、いまこの場の戦闘は止めるしかありませんね。本気で!」
 神楽坂は橘と並び立ち、周囲の参加者を睨みつける。
 たじろいでいた参加者たちだったが、次第に強気を取り戻していく。
 自分たちの人数が、神楽坂たちを遥かに上回ることに気づいたからだ。
「俺たちを、止められるものなら、止めてみろ!」
 参加者たちは、歯を剥き出し、目をかっと見開いて、いっせいに襲いかかってきた。
「いきますよ!」
 神楽坂が弾幕を張る。
 今度は、弾丸は参加者の腕や足を狙っている。
 何人かが弾丸をくらって倒れるが、それでもなお、後から後から多数の参加者が襲ってくる。
「紫翠、さがれ! こ、これはダメだ!」
 シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)が神楽坂の前に現れ、両手を広げて叫ぶ。
「どいて下さい。弾丸が当たりますよ?」
「数が多すぎる。ここはオレに任せろ! 瑠架! 紫翠を連れていってくれ!」
「わかったわ!」
 橘が神楽坂を連れて宙高く跳躍する。
「死ね! 死ね! 死ね!」
 つかみかかってくる参加者たちに、シェイドは敢然と立ち向かった。
「何でそうなっちまったんだ? 頭を冷やして考え直せ!」
 シェイドが呪文を唱えると、かざした両の掌の間から、凍りつくような冷気がものすごい勢いで吹き出し、参加者たちを包み込んだ。
 数瞬後、カチカチに凍りついて彫像のようになった参加者たちを確認し、シェイドは神楽坂たちに合流するべく急ぐ。
「紫翠、とりあえず凍らせたが、術が解ければまた闘い始める! 何しろ相手の数が多いことだし、ここはいったんひいて、他の仲間と対策を考えよう」
「困りましたね。自分たち3人だけではダメですか」
 神楽坂は考え込んだが、他の仲間と話し合うのは正解であるように思えた。
 何といっても、「仲間」の存在は、あの校長の計算を狂わせる不確定要素のひとつであると、確実にいえるように思えたからだ。

(私も、自分の考えが絶対に正しいなどというつもりはない。だが、私には、自分の道に悩む参加者を導けるだけの強さはある)
 校長室から神楽坂たちの様子を念視していたコリマ校長は、状況を分析すべく、思索を続けていた。
(別の考えをあえて主張するなら、主張を貫いて私を打ち負かすだけの強さがなければならない。結局は、どっちが強いかなのだ。絶対的な真理などはない)
(あの橘という強化人間が、一時的とはいえ参加者をたじろがせることができたのは、それだけの強さを示したからだ)
(サンプルXは、強い力を持ちながら、参加者たちに自分の主張を無理に押しつけようとは考えていない。もしかしたら、そんなことはできない性格なのかもしれない。そこに、奴の甘さがある)
(到底、私の相手ではないが、サンプルXの仲間がどう出るか、興味深く見守らせてもらおう)

「うまくいかないわね。参加者たちは数が多いし、本気で闘いをしたいと考えているんだわ」
 戻ってきた神楽坂たちを迎え入れながら、真里亜・ドレイクは状況に憂慮を示した。
「じゃあ、どうするの? 殺し合いを止めるのは、諦めようか? いっそのこと、あいつらを全員殺しちゃえばいいんだけどね。禁じ手だからね。ふふふ」
 横島沙羅が意地悪そうな笑いを浮かべていう。
「諦めるだなんて、そんなことは考えてないわ! それに、殺しちゃえばなんて!」
 真里亜が、「何を考えてるの」という目で横島をみながらいう。
「気を悪くしたなら、すまなかったな。つまり、沙羅は、実力行使あるのみだと考えてるんだよ」
 西城が、真里亜に弁解じみた口調でいう。
「実力行使か。確かに、正面から説得するのは難しい状況だな」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)がいった。
「クレアさん! 何か考えがあるのかしら?」
 真里亜が期待を込めて尋ねる。
「残念ながら、説得することで殺し合いをやめさせる、という方向では、いい考えは浮かばない。むしろ、その方向は無理だと考える。だが、闘い自体は止められないにしても、死傷者が出ないように抑制していくことは可能だ」
 クレアの言葉に、海人の周囲の生徒たちはうなずいた。
 よく考えれば、バトルロイヤル自体が悪いのではない。悪いのは、殺し合いを行うことなのであって、闘いそのものを止めようとすれば、闘いに同意する者たちの反発をくらうのは必至だし、説得の中で主張の正当性を示すのも難しく、なかなか止められるものではない。
 闘いを止めるのではなく、結果としての殺し合いが起きないように抑制すべきだというクレアの考えは、当たっているように思えた。
「それで、どうすればいいのかしら?」
「あくまで私の考えだが、各自のスキルにより、殺し合いを望む者を極力足止めする障害を築くのだ。とにかく好戦的な者は牽制し、パラ実生や蛮族のいる方向に誘導しよう。そして、戦闘は回避して進むという者、あるいは、戦闘はするが殺し合いまでは望まない者を通していく。実際にはうまくいかないだろうが、理想としては、『殺し合いをしていたら指輪を手に入れ損ねる』という雰囲気をつくりだせれば、と考えている」
「ふーん。何だか、面倒くさいね」
「沙羅!」
 面白くなさそうな顔をする横島を、西城がたしなめる。
「いい考えだと思うわ。このバトルロイヤルは、要するに指輪を先に手に入れて、コリマ校長の前にテレポートするのが目的よ。実は、殺し合いをしなくても勝利者になるのは可能ということ。校長も、限界状況に身を置くことが大事だといってるだけで、殺し合いそのものを奨励しているわけではないわ。筋が通ってるし、クレアさんの考えに賛同する人は多いでしょうね」
 真里亜はクレアの考えを賞賛するが、クレアは自分の考えをほめられてそのまま喜ぶようなタイプではない。
 むしろ、自らの考察の弱点を示してみせた。
「あくまで私の考えだ。実際には決して簡単ではないと思われる。先ほどの神楽坂たちと参加者たちのやりとりをみるに、参加者たちは既に冷静な判断力を失い、狂気に染まりつつある。闘いに喜びをみいだしているようにも思え、非常に危険な精神状態だ。牽制は困難となり、戦闘の激化は止められず、死傷者が出ないように実力行使で抑えつけるだけで終わる可能性も十分にあるだろう」
 後に、生徒たちは、クレアの最後の言葉のとおりの展開になることを知って、クレアの予想の正確さに驚くことになる。
 一方で、このときクレアは、周囲の生徒には話さなかったものの、内心疑問に思っていることがあった。
 殺し合いを積極的にしなくても勝てるようなルールを設定したのはコリマ校長だ。
 だが、そのコリマの誘導で闘いに価値をみいだした参加者たちは、超能力の特訓という本来の目的を忘れ、凶暴性ばかりが突出する精神状態に染まっていく。
 コリマは、いったい、何をしたいのだろうか。
 クレアには、コリマが何らかの実験をしたがっているようにも思えた。
 コリマの、カノンの扱い方が、どうも気になるのだ。
 だが、コリマの意図はこうだと断定するのは難しい状況だった。
 とはいえ、コリマが計り知れない人物であるということは、間違いなくいえるだろうとクレアは考えていた。
「よし。要は、殺し合いなんてしてたら出遅れる、と思わせればいいんだな。やってみるよ、隊長」
 エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)は、議論の時間はもう終わったと考え、いっこくも早く実行に移りたくてうずうずした。
 こうしている間にも、殺し合いは進んでいるのだ。
 エイミーは、参加者たちの闘いが行われている現場に向かった。
 もちろん、身を潜めて、慎重に進んでいる。
 シェイドの術が解けたのか、山道では、再び激戦が始まっていた。
 エイミーのみている目の前で、一人の参加者が倒れ、その上にまたがった相手に、ナイフを突きつけられていた。
「よし、やらせるもんか!」
 エイミーは、ライフルで威嚇の射撃を行う。
 チュイーン!
 倒れた相手にとどめを刺そうとしていた参加者は、弾丸にナイフを弾かれ、驚いて飛びすさり、周囲をみまわす。
 エイミーは、さらに威嚇の射撃を行った。
「ちっ、とどめを刺すことにこだわってはいられないか!」
 威嚇された参加者は舌打ちして、倒れた敵を放置し、山道を進むことを優先し始める。
「こういう感じでいいのかな? 罠を仕掛けることも考えよう」
 エイミーは山道を急いで登って先まわりし、好戦的な者がかかりやすいような罠を考案する。
 エイミーだけではない。
 海人の周囲の生徒たちは、みな、クレアの示した方向性に沿って動き始めていた。
「よかったわ。あなたがブレーンになってくれて」
 真里亜はクレアに感謝の気持ちをこめていった。
「別に、ブレーンになるつもりはない。ただ、私の考えに賛同者がついたというだけだ」
 クレアは淡々と答える。
「でも、つまんないね。もっと思いきり超能力を使いたいのに」
 海人の周囲の生徒たちが殺し合いの抑制に動くのをみながら、横島は不満そうに呟く。
「だから、沙羅が本気出したら、相手が死んじゃうって。海人はそんなこと望んでないだろう?」
 そういいながら、西城はふと、海人はクレアの考えをどう思ったのだろうと考えた。
 クレアも海人の真意の確認まではしなかったが、実は海人は、闘いそのものを止めたかったのである。
 海人にとっては、人を傷つける、闘いそのものがNOなのだ。
 だが、実力行使で殺し合いを抑制する以上のことはできない状況であるという事実は、海人も認めざるをえなかった。
「みんな、がんばってますね☆ 私が海人の力にみせかけて威嚇を行ったこと、海人はよく思わないだろうけど、でもそうするしかなかったって、そのことは理解してもらいたいし☆ 海人だって、威嚇するときはあるはずだし、私が代わりにやったと、ねっ×2! 心配しなくても、みんな、海人の本当の考えも、わかってくると思う☆」
 海人の想いが一番よくみえる騎沙良詩穂は、騎沙良自身が集めてきた生徒たちの動きを静観する海人の姿に、どこか切ないものを覚えるのだった。