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リアクション
・すいません、そろそろタイトルネタ切れなんです
北エリア。
(直線距離で缶に近づけないのは厄介だな)
国頭 武尊(くにがみ・たける)は手近なところで見つけたダンボールを被り、北エリアの氷迷宮に入り込んでいた。
缶の場所はトレジャーセンスで大体の目星はついている。もっとも、その目で確認しない限りは確実ではないが。
一番の問題となるのは、この要塞とも迷宮とも取れる北エリア内に、他の攻撃陣の姿が見えないことである。
下手に動けばすぐに察知される。カモフラージュ、テイクカバー、さらに自分の姿も見えないように光学迷彩と徹しているが、それでも見抜かれないとは限らない。
(待てよ……?)
思えば、この缶蹴りは基本的に皆ユニフォームか水着、つまりスパッツ、ブルマ、スク水と選り取りみどりなのだ。
(ふひひ、これはラッキーだぜ。活かさない手はない)
ダンボールの中で彼はビデオカメラの準備をする。
女子学生の姿を収めるために。
まだそれほど多くは集まっていないが、混戦になればきっといい映像が撮れる。揺れる乳やポロリという意味で。
作戦変更、彼は今回の撮影係(女子限定)になることをここで決意した。
と、いうわけで缶の側がベストポジションと考えそこを目指す。
缶を蹴るわけではないので、殺気看破で彼を察知することは出来ないだろう。ただ、その邪な心はある意味危険なので(女性に限り)ディテクトエビルや禁猟区で察知されそうだが……
(これは何もそんなんじゃない、ただ激しい戦いを映像に収めるためなんだ!)
と正当化してエロい目で見なければ大丈夫だろう、きっと。
* * *
カランカラン、と鳴子の音が響く。
「来ましたね」
赤羽 美央(あかばね・みお)はその音を聞き、攻撃側を迎え撃ちに行く。超感覚で音と臭いを判断する。
その姿はすぐに見つかった。
コンテナの後ろをムーンウォークしながら伝っていく、縞模様のワンピース型水着の男だ。しかも仮面を被っているその姿は異様でしかない。
「ポウッ!」
掛け声ともに鳴子を鳴らす、というよりわざわざ強化光条兵器を呼び出して破壊している。
足下が氷術で出来た氷のためよく滑るらしく、やたらスムーズに音を立てずにスライドしていっている。
その正体は東條 カガチ(とうじょう・かがち)なのだが、この時点で気づけというのは無理があった。
(……怪しすぎます。囮ですか)
ここまであからさまな行動をしている相手は疑ってかかりたくなるものである。
(しかし、時間的にも相手が罠を仕掛けている時間はないはずです)
ただ、その時別の影が映った。狼である。
(狼、誰が?)
別に自分に襲い掛かってくるわけでもない。撹乱か、とまずは考える。
そうしている間に、仮面の男と目が合った。合ったのはあくまで仮面とだが。
「ねえ、あんたきのこ派? たけのこ派?」
「何を言ってるんですか?」
「たけのこ派なら俺の敵」
すっと、取り出したのはブブゼラだ。
ブォォオオオ、とブブゼラの音が聞こえる。
超感覚で聴覚が高まってる美央にとっては、この距離で聞くのは辛い。そして、音はそこだけではなく別の場所からも響いていた。
耳を一度押さえ、黒壇の砂時計を使い、逃げられる前にタッチする美央。
「いいのかなー、俺の相手なんかしちゃっててー」
最後まで癪に障る物言いをしてくる相手だ。
そして、別の場所でブブゼラを吹いたのは椎名 真(しいな・まこと)だ。彼もまたカガチと同じ格好をしている。
「来るぞ、真!」
原田 左之助(はらだ・さのすけ)が殺気看破で守備の動きを察知する。
向かってきたのはアンデッドのゾンビ達だ。
「こいつらにタッチされても駄目なのか?」
「分からない。けど、ゾンビならこっちから攻撃しても大丈夫だと思う」
その言葉を受け、左之助が応援旗を振るう。
しかし、そのゾンビの出現こそが罠だった。
「!!」
前に出すぎたために、トラップの装置を作動させてしまい、しびれ粉をまともに浴びてしまう。
「兄さん!」
完全にマヒするわけではないが、大量に浴びたせいで身体がろくに動かない。
だが、ゾンビを使役している以上、そう遠くない場所に守りがいる。
ブブゼラを鳴らし、なんとかおびき出そうとする。
(来た!)
もはや逃げられないが、鬼崎 朔(きざき・さく)が捕まえにやって来た。
カガチがどう動いているか彼が知る術はないが、この時守りがわずかに手薄になったのである。
* * *
上空。
(今のうちや!)
七枷 陣(ななかせ・じん)は飛空挺ヘリファルテで北エリアの上空にいた。ブブゼラの音が響き、それまで上空に繰り出されていたブリザードも今は収まっている。SP消費を考えれば、そう長時間使い続けるわけにはいかないということだろう。
顔は巽から受け取った仮面ツァンダーソーク1のマスクで隠している。
そして、上空から倉庫の屋根に向かって、天のいかづちを放った。
「ライ、デ――」
後半はブブゼラによって聞き取れないが、何か呪文的なものを叫んでいるようだった。
穴の開いた屋根に、飛空挺で突撃していく。
「来おったか!」
だが、そこにはファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が待ち構えていた。
凶刃の鎖を操り、飛空挺ごと捕縛しようとする。
「甘い!」
それを避け、倉庫の屋根ギリギリで静止する陣。
「仮面ツァンダーソークー1、ろくりんピックフォーム見参!! 缶は我が蹴らせてもらう」
なお、彼は偽者である。
そしてわざわざこうしたのには狙いがあった。
「く、こやつ幻覚は効かぬか」
ファタが放ったその身を蝕む妄執を回避し、逆に彼が幻覚を見せる。
その隙に缶を蹴りに一気に攻め込む。が、そこで飛空挺のバランスが崩れる。奈落の鉄鎖を受けたのだ。
「く……!」
飛空挺から飛び降り、地面に着地する。サイコキネシスで氷の上で滑ってしまわないようにした上で。
着地後、彼を阻んだのは三体のゴーストだ。
「どけっ!!」
天のいかづちでゴーストを怯ませ、缶のある場所へ近付いていく。
だが、そこで気付いた。缶の守りが思ったよりも厳重であったことに。
武者人形と改造ゴーレムがそこへ至るまでの道を塞いでいる。壊すのは難しくはないが、それでも缶の近くにまだ守りが二人いる。
彼一人ではさすがに厳しい。
だが、そこで思わぬ助っ人が出現する。
「コンテナ!?」
物凄い勢いで障害物を壊しながら突き進んでくるのは、貨物コンテナだった。その上には仮面を被った人物が仁王立ちしている。
「我はツァンダー。仮面ツァンダーソーク1。缶を蹴る拳なり!」
「アーンド、仮面ツァンダーユースティ。只今見参!」
本物の仮面ツァンダーソーク1こと風森 巽(かぜもり・たつみ)とティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)だ。
氷術の壁は容易く破壊し、同じコンテナの壁は爆炎波で耐久力を落した上で、突っ込んでいく。ただ、衝撃はあるので次第に減速していってしまう。
「いくらなんでも無茶苦茶デス!!」
缶のそばで守っている守備の一人、ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が思わず叫んだ。彼は奈落の鉄鎖で少しでもコンテナを減速させようとする。
「無駄無駄無駄ァ!!!」
しかし、その位では止まらない。
だが、目の前にはゴーレムが立ちはだかる。彼が持ってきたのと同じオリヴィエ博士の改造ゴーレムが。
「何!?」
だが、ゴーレムは押し潰されてしまう。だが、自身の犠牲でコンテナを停止させることが出来た。
「だが、缶はもう我の手に――」
缶を見て目を見開く。外から見たら表情は変わっていないが。
そこには複数の缶がある。しかも、メモリープロジェクターで投影されているために、本物のドクターヒャッハー限定缶と見分けがつかない。
これは体内に直接仕込める機晶姫であるがゆえに、持ち込めたものだ。
しかし、それでも彼はめげない。
「ふ、そう来たか。ならば我らも――分身!」
同じように仮面を被った陣を横目で見て、二人が並ぶ。ティアも入れれば三人だが、その場でトリプルツァンダーとなる。背丈がバラバラなのを気にしてはいけない。
三人が別方向へ飛ぶ。
だが、本命狙いは巽だ。
「燦・缶・倒! 疾風迅雷蹴り!」
盛夏の骨気の熱、爆炎波、轟雷閃を合わせた蹴りを繰り出す。
その威力は、ダミーも含めて目に映っている缶をかき消した。
地表の氷も溶かし、彼の蹴った軌道の跡がくっきりと残っていた。
「勝った……!」
しかし、缶が倒れた際の連絡は来ない。
「まだであります!」
着地した際、背後から、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が加速ブースターで接近してきた。
「……!」
実際、倒そうとそうでなかろうとすぐに移動しなければいけないが、完全に不意をつかれた。
「缶は倒れてないでありますよ」
そう、本物ごとまとめて吹き飛ばしたはずが、そこにあったのは全部偽者だったのである。
まんまと騙されたわけだ。
「く、じゃあ本物は?」
氷が解けたこともあり、バーストダッシュですぐに離脱して缶を探そうとする陣。
だが、段々と霧が濃くなって来て――
「アンドラス、今だ!」
離れた場所から叫び声が聞こえてくる。
次の瞬間、サンダーブラストが炸裂した。
氷、霧、さらには溶けた部分の水分、しかも元は海水。電気はよく通る。
アンドラス・アルス・ゴエティア(あんどらす・あるすごえてぃあ)が禁じられた言葉と紅の魔眼で高めたそれは、北エリアを迸った。
* * *
(あの缶は全部偽者。ってことは本物はどこなのかしら?)
倉庫の屋根の上。四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は一部始終を眺めていた。
彼女は攻撃側であるが、実は攻めようとはしていない。
そこへ、狼の遠吠えが聞こえてくる。
(美央ちゃんを見つけた?)
遠吠えで、友人である美央の居場所を掴む。攻撃側として参加することになったのだが、彼女は守備をしている美央の手伝いをしようと動いているのだった。
まさか攻撃陣営で寝返る人がいるとは誰も考えないだろう。それは守りの人からしてもそうであるが。
だからこそ、隠れてサポートしようと窺っているのである。
だが、直後地表をサンダーブラストの電撃が走った。
それ以降、狼からの連絡は途絶えてしまう。あとは、最後の手掛かりを元に自力で見つけ出すしかなさそうだった。
そうこうしているうちに、他のエリアの缶が蹴られたと知らされることになる。
他のエリアの攻撃、守備で生き残っている者はここに集う。
だが、ここに到達することの出来る人は何人いるのだろうか。
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