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激戦! 図画工作武道会!

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第一章:トーナメント始まる!! (前編)


 必勝と描かれた鉢巻を額に巻きながらイチローが2つのリングに目を向けると、第一回戦の二試合、やませとその前に立つ金色の脳のような形をしたメロンパン保存器の『最適君』と、茶トラの毛色を持つネコのぬいぐるみ『レオ』が試合開始のゴングを今かと待ちわびている。
 そんな中、レオの発明者であるエースはやませに薔薇を渡して挨拶している。

「素敵なお嬢さん、お手柔らかにお願いしますよ」

 紳士的なエースから薔薇を受け取り、微笑むやませ。

「エース君、敵に塩送ってもいいことないよぉー?」

 そう言いながらまんざらでもない様子のやませに、傍にいた白虎が小さく舌打ちして周囲を見渡す。

「……何だ、この大会は?」

 やませが薔薇をクルクル回しながら白虎に振り向く。

「何って、工作武道会だよ?」

「いや、それはわかっているが……」

 頭を掻く白虎の脳内を自問自答の嵐が通りすぎる。

「(おい……どこから突っ込みを入れりゃぁいいんだ? 変なモノが動いている所か? もしくはそれを使って武道会を開催した奴か? それとも、何も気にせずにその大会に参加しっているコイツ(やませ)等か? ……ったく、俺にどうしろっていうんだ!?)」



 また、その横のリングでは、ザカコの『グラビトンボール』と藤乃の『拷問くん一号』が既に視察戦を展開している。

「またウチの校長が何かやったみたいで、すいませんね」

 ザカコの謝罪に乳白金の長い髪をかきあげた藤乃が高らかに笑う。

「いいのよ、あたいは今そういうこと関係なしに大会を楽しもうと思っているんだから。それはあんたも同じでしょ?」

 その言葉に苦笑いするザカコ。
 お互いベストを尽くしましょうと、がっちり握手してそれぞれのコーナーに戻っていく二人。



「さぁ、今、それぞれの陣営の制作者が各々のリングサイドへと戻りました、いよいよ試合が始まります!」

「楽しみですねー。皆素晴らしい工作達ですから、出来れば破壊せずに終わってくれればよいですねー」



――カァァンッ!


 リング下にいるやませとエースが同時に叫ぶ。

「最適君、サイコキネシス!!」

「レオ! ランスパレット!」

 瞬時に反応する工作、だが素早さではレオの方が上であった。

 本物の猫のように突進したレオが、前足2本を揃えて最適君にランスパレットを叩き込む。

「ニャンスバレストッ」

 稲妻のような速さの攻撃が最適君を襲う。

「よし、決まった!」
そう思うエースの予想は一瞬で裏切られる。


――ガンッッ!!

 鈍い音を立てて弾かれる攻撃。
金の脳みそのような形状の最適君はびくともしない。

 態勢を立てなおそうと着地したレオが最適君のサイコキネシスにより束縛される。

「サイコキネシス!? そんな技を覚えさせたのか!!」
と、思わず驚嘆するレオ。

「甘い甘い! でもメロンパンはもおぉぉっと甘いんだよ?」
リングサイドで笑うやませ。白虎は冷めた目で様子を見ている。

「おおーっっと、最適君、さすが保存器というだけあり、外部からの攻撃にはビクともしません! これなら戦場でも美味しいメロンパンが食べられそうだ!!」

「私はクリームパンが好みなんですがねー」

 解説と実況の声が乱れ飛ぶ中、サイコキネシスで動けなくなったレオへじわじわと歩みよる最適君。

「最適君、がんばって〜」

 やませの応援が飛ぶ中、最適君の声が響く。

「さぁ、この最適に保存されていたメロンパンを食すが良い、そしてその甘美なる味に骨の髄まで酔いしれるが良い!!!」
 パカッと本体が二つに割れ、中から美味しそうなメロンパンが出てくる。

「レオ! 猫パンチで迎撃するんだ!!」

 しかしエースの声も虚しく、動けないままのレオの間近まで来た最適君が、レオの口元へメロンパンを押しこむ。

「ああーっ! 最適君が強引にメロンパンを押しこんでいく!」

「しかし、レオ選手は口が縫いつけてありますからねー、食べられないでしょう?」

 それでも万力のようにじわじわとメロンパンがレオの顔面に押し込まれていく。

「勝ったねぇ」と
笑うやませに白虎が静かに言う。

「……いや、そろそろ限界だろう」

「へ?」

 糸が切れたようにサイコキネシスの効果が途切れる。

「時間切れ!? でも、メロンパンを補充すれば!」

 そう言い、懐からメロンパンを取り出して投げるやませ。

 最適君が補充のために、本体を再び開く。
その一瞬の隙を見逃すエースではない。

「今だ! もう一度ランスパレット!!」

「ニャンスバレストッ」



――ガスッッ!!


 レオのランスパレットが最適君のガラ空きの本体に見事に突き刺さり、
乾いた音を立てて転がった最適君がピクリとも動かなくなる。

「KO!! 勝者、レオ!!」
 レフリーが告げ、歓声が起こる。

「決まりました! 鮮やかな逆転劇! レオ選手、一回戦突破です!!」



「うー、負けちゃったねぇ」

「俺はそもそもの攻撃方法に問題があったと思うぜ?」

 レオとともにエースがやませ達に近づき、握手を求める。

「いい試合でした。貴女の分も頑張りますよ」

「うん、絶対優勝してね!」



「さぁ、健闘をたたえ合う両者の隣のリングでも死闘が続いているようです!」

「こりゃあ潰し合いですねー」

 アイムが言う言葉は嘘ではなかった。
前方には360°回転する万力もとい大量の洗濯板を使い洗濯板のギザギザ部分で痛みを加える簡易的なプレス機を装備し、木の車輪で動きまわる藤乃の拷問くん一号を、ドッヂボール程の大きさのグラビトンボールが巧みに交わしていく。

「まだお互い手の内を見せず、様子伺いですね」

「と、言うと必殺技はまだあると……?」

 イチローがアイムにそう尋ねた瞬間、
ザカコのグラビトンボールが大きく跳躍する。

 リングサイドで戦況を見守っていた藤乃が眉間に皺を寄せる。
「(対空戦は奥の手のサイコキネシスでしか戦えないわ。仕掛ける? どうする?)」

 空中に舞い上がったグラビトンボールに向かってザカコが叫ぶ。

「今です! クロスインパクト!」

 ザカコの声に粘土を固めて形成されていたグラビトンボールが二つの半球体に別れる。

「ぶ、分離したぁぁぁー!?」

 そしてそのままの形で拷問くん一号の直上から飛来する。

「嘘っ!?」

拷問くん一号を挟みこむグラビトンボール。

ギリギリと締め上げる。

「藤乃さんのは確か木製の工作ですよね? 少し時間はかかりますが、このまま破壊させて頂きます」

「……どうかしら?」

 藤乃がそれまでのポーカーフェイスを崩してニヤリと笑う。
「間一髪ね……捕らえられたのはあんたの方じゃない?」

 スルスルとグラビトンボールの間から出てくる拷問くん一号。

「サイコキネシス!?」

「正解。さぁ拷問くん一号、攻撃よ!」

「やりますね、だが……まだです!」

 弾かれるように、二つに分離したグラビトンボールがリングの左右に飛んでいく。

「……そう、奈落の鉄鎖を覚えさせた他に、磁力を使っているの?」

「これがイルミンの技術力です!」

思わず腰を浮かせたイチローが叫ぶ。

「おおーと、絶体絶命のピンチをしのいだグラビトンボール!!」

「磁力を使って、強引にサイコキネシスの呪縛を解きましたねー」

 ザカコが指示を出す。

「サイコキネシスはそんなに長時間は使えないハズ! 重力と磁力を使って、もう一度クロスインパクト!」

 左右に別れたグラビトンボールが再び凄い勢いで拷問くん一号に迫る。

「そう……でも二つに別れたのは失敗だったのよ? 拷問くん一号、片方だけを押しつぶしなさい!」

「何ィ!?」

 クルッと方向転換した拷問くん一号が左にあったグラビトンボールの片割れを挟みこみ、その瞬間、グラビトンボールの片割れが拷問くん一号に喰らいつく。

「これはまさに、喰らい合い!! 拷問器具のミックスサンドの完成だぁぁ!!」

「こうなると、強度の強い方が勝ちますねー」

 ギギギギッと音を立てて、噛み付き会う二つの工作。
観客達も固唾を飲んで、その様子を見守っている。

 永遠かと思われた数十秒の後、


――バキィッッ!!



 乾いた音を立てて割れたのはザカコのグラビトンボールであった。

「KO! 勝者は拷問くん一号!!」


「「「オオオオオォォー!!」」」

 試合後にザカコと藤乃が握手をする中、イチローがアイムに尋ねる。

「しかし、グラビトンボールは断面を鉄板で補強していましたがそれでも拷問くん一号は砕けなかったですね?」

「ええ、確かにサイコキネシスのかかっていない勝負なら一瞬でした。ですが重力による攻撃が減算され、磁力のみになってしまいました。さらに、球体の表面は粘土とアルミのみの補強です。一方、藤乃選手の工作は洗濯板のギザギザを利用した締め付けでした」

「なるほど……技術力ではグラビトンボールが上でも、拷問器具の知識で藤乃選手が優ったということですね」

「しかし藤乃選手は、この工作を一体誰にどういうシチュエーションで使うつもりなんでしょうね?」

「……謎は深まるばかりです。さて、いち早く試合の終わった第一試合のリングでは次の対戦者達が既に登場しています」

 
イチローがリングに目をやると、廃材のパイプや金具、団の機甲科のゴミ箱から部品削り溶接した、膝乗り大のリアル戦車であるルカルカのビートルが既に控えている。

「頑張ろうね」とルカルカがポンポンとその砲台を叩く。

「優勝候補の呼び声の高いビートルが登場です。対するは……」

 入場口から刀真と翡翠が、紙粘土で出来た軽やかなボディに絵の具で塗った真紅の染色
ニスで煌く艶やかな肌にビー玉で出来た円らな瞳……を持つ愛らしい豚さん貯金箱の紅の豚を大事そうに掲げて現れる。

「とんちゃん壊れちゃ駄目だぞ? 必ず無事に帰ってくるんだ」

 そう刀真が言い大事そうに頬ずりするのを見て翡翠が笑う。
「大丈夫、私達のとんちゃんがそんなへたれた根性をしてる訳がない! さぁ、中に詰まったゴルダの如く輝く栄光を掴むんだ!」

 余談だが、重量確保の為、刀真とは別に翡翠もとんちゃんに自分のお小遣いもそっと入れておいたのだ。文字通り、金がかかっている貯金箱である。


「貯金箱の工作というのは微笑ましいですね、アイムさん?」
「ええ、発明にはいつもお金の問題が付きまといますからねー」

 アイムの顔に僅かな苦悩のしるしが見え隠れしたが、イチローは突っ込むのを止めて正面に向き直る。

「さぁ、両者リングイン! 試合開始です」

 ゴングが鳴らされ、両者が動き出す。

「よし、行けとんちゃん! 君の中にあるゴルダの重さを相手に思い知らせてやれ!」

「ビートル! 相手は紙粘土製よ! 重量の違いを見せなさい!」

 ゴングと同時に突進する両者、リングの中央で激しくぶつかる。

「両者一歩も譲らない!!」

「紅の豚には金剛力が装備されてますねー。力比べは五分五分でしょうか?」

 瞬殺を目論んでいたルカルカの顔が曇る。

「やるわね! お金の重さでビートルと勝負するって?」

「パートナーが食費を使い込むからそっと貯めておいた貴重なお金だ! 負けるものか!」

 刀真が叫び、それに呼応するかのようにビートルと競り合う紅の豚が低い声で唸る。

「豚とは違うのだよ、豚とはな」

「しかし見事な美しい豚ですよねー」

 そう言ったアイムを翡翠と刀真がギロリと殺気立った目で睨む。

 その隙にルカルカがビートルに指示を出す。

「距離を取り、相手駆動部に主砲連射」

 ビートルがすかさず、紅の豚から距離を取り、砲身を向ける。

「とんちゃん、よけて!」

 翡翠の指示に動こうとする紅の豚。
しかし、お腹に溜めたお金が災いして、今ひとつスムーズな行動が出来ない。

「仰角10度・距離3Mに焦点収束し撃てっ!」

 ビートルの砲身から次々と発射されるBB弾の集中砲火を浴びる紅の豚。
紙粘土で出来たボディが徐々に傷ついていく。

「とんちゃん!? とんちゃぁぁんっ!」

「こうなったらイチかバチか、突撃だ!」

 刀真の呼びかけに傷だらけのボディでビートルに向かって突進する紅の豚。

「その覚悟……凄くいいわ」

 冷酷さする漂う座った目つきになったルカルカが声高に叫ぶ。

「踏み潰せ!!」

 砲撃を止めたビートルが車輪を勢い良く回し、突進する。



――ぐしゃ



 傷付いたボディがビートルに勢い良く踏み潰され、スローモーションのように金貨のゴルダが宙を舞う。

「あー!?とんちゃんがっ……とんちゃんがぁぁ〜〜〜〜!」
 刀真が叫び、その横で翡翠が涙を拭きながら言う。
「短い夢をありがとう、君の事は忘れないよ」


 暫し後、刀真がポンと翡翠の肩を叩く。

「俺達のゴルダがキラキラ光ってる……とんちゃんの最後の輝きだな」

「うん……」

「サヨナラだ、とんちゃん……マジ短い間だったけどありがとう……翡翠、お金回収しましょう」


「KO! 勝者、ビートル!!」


 試合後、ペシャンコになった貯金箱と、そのなけなしの財産のゴルダを回収する刀真と翡翠。
 
ルカルカの「やりすぎたわ」という謝罪にも、笑顔で「次の試合、頑張ってね!」と返した二人に観客達から暖かい拍手が贈られる。

 回収を終えた翡翠が刀真に微笑む。

「反省会にラーメンでも食べに行きましょうか?」

「……翡翠、俺、豚骨ラーメンが食べたい」

 刀真の言葉に潰れた紅の豚が、最後の力でピクリと身を震わせた。