百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

激戦! 図画工作武道会!

リアクション公開中!

激戦! 図画工作武道会!

リアクション







第二章:トーナメント始まる!! (後編)



 熱戦の続く『図画工作武道会』の第一回戦のトーナメントも残すところ七試合となっていた。

 第一リングでは、美羽の工作で木製パーツで作ったイコンのイブニングムーンが、ラピスとるるの埴輪天使ハニワエルと激戦を繰り広げていた。

 埴輪天使ハニワエルは、拾った埴輪がベースとなっており、頭に丸形蛍光灯、背中に紙製の翼が付与され、胴部には天使をイメージしたという紋様が描かれている。
また、その片手にパラミタがくしゅうちょうがしっかりと握られており、ラピスがこれまで描いた絵でいっぱいである。

 るるはラピスが次々とハニワエルに出す指示に頭を抱えながら、今回の彼女の持つ野望についての思慮が欠けていた事に苦悩していた。

「(やっぱり本当は絵がよかったのかな、精一杯の妥協なんだね。あー、しかも勝負しないでノートのページばかり見せてるよー)」

 そうジト目でラピスとハニワエルを見守るるるであったが、予想外にハニワエルは健闘していた。

「あー、もう、イブニングムーン! 何やってるのよー!!」

 プンプン怒る美羽、
 それもそのはずイブニングムーンの二つの武装、木工用ボンドを発射するライフルと工作用ノコギリのサーベルをハニワエルは巧みに回避していくのである。

「ハニワエルの回避能力の高さは凄いですね、アイムさん?」

「ですが、我々に、あのノートの絵ばかりを見せても、イブニングムーンは倒せません……しかも、あの絵、あんまり上手くないですし寧ろ……」

「審査員アピールなんて必要ないのに! もー!」

 るるがラピスに注意するが何処吹く風である。

 実は数回、イブニングムーンの攻撃がヒットしているのだが、スキルのリカバリによって多少の傷を治してしまっていたのだ。

「(ノート……?)そうか! イブニングムーン、ノートを狙いなさい!!」

 美羽の指示で、急加速したイブニングムーンがライフルを乱れ打つ。
流石にこれにはラピスが慌てて指示を出す。

「ハニワエル! ノートだけは守って!! みんなにお披露目出来なくなっちゃうよー!!」

 しかし、時既に遅く、イブニングムーンの弾丸の幾つかがノートに当たる。
ノートを捲ろうとするハニワエルであるが、ボンドがこびりついたため、ノートが開かなくなる。

「僕の……作品が……見せられないよー」
そう言ったラピスはるるが制止する間もなく、タオルをリングに投げ込むのであった。

「TKO!! 勝者、イブニングムーン!!」

 

 試合後、ラピスにがるるに泣きついている。

「えーん、ハニワエルがー」

「もー、もともとガチンコ勝負なんだから潰されても泣かないの! ……まぁ、ノート以外ピンピンしてるけど……ほら、男の子でしょ!?」

「ハニワエルは女の子だもん、スカートはいてるし」

「埴輪のアレはスカートなのかな……?」

 ラピスを抱きながら、ハニワエルを不思議そうに見つめるるるであった。



「さて、勝敗のついた第一リングの傍の第二リングでは、事実上の決勝戦と言っても過言ではない今大会屈指のカードが行われております」

「お互い背負っているものが大きいですからねぇ。片方は王国、片方は新進気鋭の工場。まさに官民の戦いですねー」


 ただの雪だるまが見過ごせない、或いは一生脳裏から離れることがない、そういう物がもしこの世にあるならば、今ここに降臨した赤羽美央の雪だるま、スノーベイダーはまさにその代名詞となるであろう。

 不気味な黒いマスクを被った雪だるま、と言えばそれまでであるが、何よりその胴体に刺さった(手に持った)ライトブレードと「コー……ホー……」という不気味な呼吸音がこの工作、いや戦士の只者ならぬ感をより一層引き立てている。


 それを直感で見抜くのは、流石、機晶姫の整備・修理・改造専門店【アサノファクトリー店主】の未沙といったところか。
彼女の前には、相当な創意工夫が施された、鉄板で覆われたボディを持つ重量感たっぷりのキャタピラASANOスペシャルが、キュルキュルという走行音を立てて、リング内を所狭しと走り回っている。

「ご覧ください! あの華麗な動き。どうやって仕組んだのか、全く分かりません」

「恐らくプログラミングされたチップを搭載しているんでしょう。先程から障害物には一切当たらず走っていますからねー」

 そう思わずアイムが感心する出来であった。

 
美央が指示を出す。

「スノーベイダー! フォース(サイコキネシス)を使うのです!」

 スノーベイダーのマスクの奥でキラリと何かが光る。

 その瞬間、フワリと宙に浮くキャタピラASANOスペシャル。

「へぇー、美央さん、サイコキネシスを覚えさせたんだねー」

 腕組みしたまま余裕の笑みを浮かべる未沙。

「未沙さん、その余裕はこうされても保てますか……? 叩き落としなさい!!」


――ガンッ!!


「あーっっと、サイコキネシスで持ち上げ派手に叩きつけたスノーベイダー! ……と、ちょっと待ってください……そんな!?」

「……信じられませんね」

 イチローとアイムの驚きは、観客の生徒達のどよめきによって打ち消された。

なんと、4、5メートルから叩きつけられたキャタピラASANOスペシャルであるが、ビクともしない。逆に、リングが少し凹んでしまっていた。

「強化装甲……」
美央が呟くと、未沙がニコリと笑う。

「そうだよ、あたしのキャタは、工作本来の頑丈さに加えてスキル強化装甲で更に頑丈になってるんだもん。壊せるハズないよ?」

 キャタと呼ばれた工作が嬉しそうに「キュルキュルキュル」と軽やかな走行音で応える。

 未沙の工作は、彼女自身が工作キットや生活用品を流用して作る工作じゃ満足出来ないので、自分で一から設計をしたモノを作ろうと思って組み上げた工作であった。

 鉄板を曲げて穴を開けてビスで固定して……、キャタピラはゴムに一定間隔で穴を開けて、鉄板を円形に加工して周囲に一定間隔で突起を設けた物に引っかかるように……。動力は電池とステッピングモーターで動かし、制御はマイコンを使ってプログラミング。動作にはセンサーを用い、工作の平行方向周囲8方向と下部垂直方向8方向に取り付け。障害物に近付いた場合に避けたり、落ちる前に止まったり……。

 未沙がこの気の遠くなるような作業に取り掛かったのがいつからかは明確ではないが、工作のスペックは今大会の中でも屈指の出来であった。


 雪だるま王国女王の肩書きを持つような美央でなければ、そうそうに白旗をあげても誰も責める者はいないであろうこの強大な敵を前に、美央は一瞬で頭をフル回転させ、いくつもの作戦パターンを練りあげていく。
そのどれもが辿りつくのは、絶望という名の敗戦であった。
それでも、美央は決意に満ちた目で未沙を、或いはその更に先を睨む。

「負けるわけにはいきません……あなたが工場を持っているように、私も小さいけれど一つの王国を背負っているのです……」

 美央の決断に、スノーベイダーが胴体に突き刺さったライトブレードを前方へと構える。

『正面からの一点突破』
原始的だが、唯一希望の持てる選択肢に美央は賭けたのである。

「そっか……じゃあ勝負だね。美央さん……」

 キッと美央を正面で見据えた未沙がサッと腕を横に払う。

「キュルキュルキュル」
走行音を立てたキャタピラASANOスペシャルが、スノーベイダーとちょうど対角線になるようなポジションへと移動していく。

「コー……ホー……」

「キュルキュルキュル」

「コー……ホー……」

「キュルキュルキュル」

「コー……ホー……」

「キュルキュルキュル」

 互いに最後の指示を待つスノーベイダーとキャタピラASANOスペシャル。

 未沙と美央がゆっくりと息を吸い込み、

「キャタ! GO!!」

「スノーベイダー! フォース全開!!」

 二人の指示に対し、一斉にスタートを決める両者。
スノーベイダーにこれまで以上のフォースの力が溢れ、白い雪が黒く染まっていく。

 一方のキャタピラASANOスペシャルも今まで以上の力強い走りで迫っていく。



――ギャンッッ!!


 まるで金属の溶接作業のような激しい火花が飛び散る。

 キャタピラASANOスペシャルの強化装甲にライトブレードが一点突破を試みるも、強引なまでの突進で、一気にその差が縮まっていく。

「キャタは当たり負けなんかしない!! 一気に潰しちゃえ!!」



――バキンッッ
 

スノーベイダーのライトブレードを弾き飛ばすキャタピラASANOスペシャル。

「勝った!!」

 未沙が思わずガッツポーズをする。だが、美央の目は死んではいない。

「スノーベイダー!! ライトブレード攻撃!!」

 フォンッという軽い音と共に、先程とは反対の面からもう一本のライトブレードが取り出される。

 それを見ていた未沙が慌てて叫ぶ。

「キャタ!! 早く仕留めて!!」

「コー……ホー……」

「キュルキュルキュル」

 振りかざされるライトブレードと、迫り来るキャタピラASANOスペシャル。



――バキョンッ!!

 
乾いた音と共にリングを転がったのは、キャタピラASANOスペシャルの鉄板の欠片と、スノーベイダーの黒いマスクであった。

「KO!! 勝者、キャタピラASANOスペシャル!」

「「「うおおおおおおぉぉぉー!!」」」

「信じられません……圧倒的不利な状況から、スノーベイダー、最後はあと僅かなところまでキャタピラASANOスペシャルを追い詰めました……流石、雪だるま王国女王の美央選手でした」

「勿体無い! こんな試合は、決勝でやるべきです、ハイ」

「アイムさん……泣いてます?」

「そりゃあ、あなたの方でしょう、イチローさん?」

 観客の歓声と拍手が鳴り止まぬ中、二人は同時にそっぽを向いて、目頭に溜まった涙をこっそりと拭った。

 未沙と美央がリングに立ち、ニッコリと笑いあう。

「お見事です……今回は私の完敗です」

 美央がそう言うと、未沙が首を横に振る。

「ううん、美央さんの最後まで諦めない姿勢……あたしも見習わなくっちゃ! 初めてだよ、少しとはいえキャタの装甲を吹っ飛ばしたのは……もう一手私の指示が遅れていたら……」

「未沙さん、勝負に『たら・れば』はありません。次の試合も頑張って下さい」

「ありがとう! 美央さん!!」
 余談になるが、今大会での気品ある美央の振る舞いにて雪だるま王国は少しまた国民を増やしたらしい。だがその詳細はまだ届いていない……。