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狙われた村

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狙われた村

リアクション

「村の人達も皆眠ってる……やっぱこれはただ事じゃないよな」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)は物陰に隠れながら、慎重に辺りを見回す。
「睡眠薬開発のお手伝いでしょうか……」
 朦朧としながらそう言った後、パートナーのルア・イルプラッセル(るあ・いるぷらっせる)はふらりと倒れかかる。
「おい、ルア!?」
 ケイは慌てて、彼女を支えた。
 ルアは友人のルプス・アウレリア(るぷす・あうれりあ)が白百合団に入団し、初仕事に出かけるという話しを耳にして、心配になって追ってきたのだ。
 男性がいれば何かの役に立つかもしれないと思い『実は男だってことバラされたくなかったら、ついてきて』などと、ケイを脅して連れてきたのだ。
「くそ俺も眠くなってきた……」
 ケイはルアを抱えて、急いでその場から離れていく。

 ルプスは少し離れた場所で、班長のロザリンドの指揮下で避難誘導を行っていた。
 彼女は、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)と一緒に、農場への入り口付近での村人の誘導を担当していた。
「泣いたらダメですよ……」
 ルプスは母親に起こされた子供に、声をかける。
 村の雰囲気がいつもと違う。道端で眠っている人々の姿は異様であり、幼い子供の不安を掻き立てていく。
「お姉ちゃんたちが絶対に守ってあげるからね……」
 そう言って、ルプスはルアから貰ったキャンディを子供に差し出した。
 子供はこくりと頭を縦に振って、キャンディをぎゅっと握り締め、母親に抱きついていく。
 母が子供を撫でてあげると、子供は再び眠りに落ちていった。
「こっちですぅ。東側の村への入り口辺りで、救護活動を行っていますぅ」
 村人達が不安にならないよう、メイベルは話しかけながら救護班の方へと村人達を導いていく。
「メイベル、盗賊!」
 セシリアがこちらに向かってくる盗賊に気付く。
「皆様、わたくし達の後ろにお下がり下さい!」
 フィリッパは、村人達を後方に下がらせた。
 盗賊達がこちらに気付き、近づいてくる――。
「金目の物は持っていません〜。お帰り下さいですぅ」
 メイベルが近づく盗賊達に言う。
「金になりそうなモンばっかりじゃねぇか。運ぶぞ!」
 盗賊の一人がそう言い、メイベル達――そう、少女達を攫う為に襲い掛かってくる。
「来ないでください〜」
 メイベルは武器になるようなものを持っていなかった。幸せの歌を歌って、皆のサポートをしていく。
「そう簡単に捕まらないんだから!」
 セシリアは栄光の刀をぶんぶん振り回し、盗賊を寄せ付けない。
「お帰りいただいた方がよろしいと思いますわ……っ!」
 フィリッパは聖剣エクスカリバーで、轟雷閃。
 盗賊の1人が、悲鳴を上げて倒れた。
「私も白百合団員として、守る!」
 ルプスは太ももに隠し持っていたリターニングダガーを盗賊の男に投げつける。
「あつっ、このガキ……!」
 腕を切り裂かれた男が、長剣を振り上げてルプスに迫る。
「やらせません〜!」
 メイベルは則天去私で、盗賊達を吹っ飛ばしていく。
「こっちも行くよ!」
 続いて、セシリアも則天去私で、盗賊達に追い討ちをかける。
「走り抜けますわよ。お子様はこちらに!」
 フィリッパは護国の聖域で皆を守り、子供を受け取って抱きかかえると、村人達を導いて救護班の方へと走りはじめる。
「私も、頑張らないと!」
 メイベル達の姿勢に励まされ、ルプスは戻ったダガーを手に盗賊に挑んでいく。
 起き上がった盗賊達は逃げに転じている。
「深追いは良くないですぅ」
 村人達を誘導しながら、メイベルはルプスに声をかけるが、ルプスの耳には届かない。
 彼女は1人で、逃げる盗賊達を追っていく。

「こっちなのです。倉庫の盗賊と合流しそうなのです!」
 光る箒に乗り、空から盗賊達の動きを探っていた鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)が、パートナー達を導いていく。
「阻むわよ。寝てないで働きなさいよルーキー!」
 光る箒で駆けつけた伏見 明子(ふしみ・めいこ)は、自分の体――魔鎧のレヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)をペシンと叩く。
「……ンだよ眠ィんだよいいだろあと十年ぐらい……痛っ!?」
「技術あんたに預けてるんだからねっ!?」
「いてェよスカーフひっぱんなこのエセ眼鏡!?」
 ぎゅううっと引っ張られ、流石にレヴィも眠っていられなくなる。
 明子はレヴィの発言を無視して、盗賊達の前方に降り立つ。
「こっちには行かせないわ」
 そして、魔道銃を撃ち鳴らす。
「えーいっ!」
 盗賊の背後からはルプスがリターングダガーを投げつけ、盗賊の足を傷つけていた。
 しかし、足を傷つけたナイフは、そのまま盗賊に奪われてしまう。
「こっちの女だけ連れて行くぞ」
 盗賊達は仲間との合流を諦め、ルプスを捕らえて南の方へ撤退しようとする。
「ダメなんだな、それも」
 明子のパートナー九條 静佳(くじょう・しずか)が、軽身功で飛び込んでくる。
「できるだけ捕縛の方針なんだってさ」
 静佳は等活地獄で、盗賊達を明子の方へと打ち飛ばしていく。
「大人しく明子に倒されな」
「ひっ……撤退、だ」
 強烈な攻撃を何度も受けた盗賊達は、バラバラになって四方八方に逃走しようとする。
 既に皆満身創痍であり、転びそうになりながら必死に。
「そっちには行かせない」
「ぐはっ」
 静佳は鳳凰の拳で、逃げようとする盗賊を打ち倒す。
「ええと、なんか出来ること……ディフェンスシフトを発動するなァ俺じゃなくてマスターだし……」
 明子の鎧と化しているレヴィはまだ経験が浅いこともあり、鎧として彼女を守る以外にできることは、状況の見極めくらいだった。
「一番軽傷なのはアイツだ。足を狙え」
「ええ」
 明子は走り出した盗賊の足に向けて銃を撃ち、転倒させた。
 更に、どこからか飛んできた炎と氷の塊が、ルプスの側にいた盗賊にぶちあった。
「大人しくしなさいっ!」
 ルプスはその盗賊に体当たりをして、取り押さえる。
「この辺りの賊はここにいるだけのようです」
 そこに、上空から調べていた六韜が下降してくる。
「それじゃ、捕らえて白百合団のところまで引っ張っていくわよ!」
 言って、明子は銃を撃っていき、盗賊達を転ばせていく。
「むーん。毒は焼く物と私の生まれた時期からのお約束できまっちゃーいるのですが……」
 六韜はちょっと迷うが、火事になっては困るので、炎ではなくアシッドミストで盗賊達を攻撃した。
 盗賊達は立ち上がることも出来ず、ただうめき声を上げている。
「もう逃げられないわよ」
 ルプスは縄で盗賊達を縛り上げる。
「……手伝うわ」
 明子は近づいてルプスを手伝い、一緒に盗賊達を捕縛していく。
 明子も白百合団員ではあるけれど……。
 彼女は訳があって、百合園に退学届けを出していた。
 まだ受理はされていないけれど、されたのなら白百合団からも当然離れることになる。
 世話になった神楽崎優子に礼を言ってから、離れるつもりだった。

「全員倒せたみたいだな」
 ケイは建物の陰でほっと息をついた。
 魔法でした援護は気づかれてしまっただろうか。
「任務に夢中だったから、気付いてないとは思うけど」
「……んん? ルプスは大丈夫ですか……?」
「元気に頑張ってるぜ」
 目を覚ましたルアにそう言うと、彼女は安心してまた眠りに落ちていく。
「さて。俺達も避難するか」
 もちろん、空からルプスを見守りながら。

 村の南の、収穫物が保管されている倉庫の前には、桐生 円(きりゅう・まどか)が、パートナー達と共に、守りについていた。
「今のところ盗賊は来てないみたいだけれど……」
 倉庫の周囲と中に、村人が数人倒れていた。
「起こしちゃだめなんだねー」
 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が青年を引き摺って、倉庫の中に入れていく。
 ここの守りについていなければならないため、救護班の元に運ぶことは出来ず、パニックを起こされても困るので、倉庫の中に並べて寝かせておく。
 全員倉庫に入れて、扉をしっかり閉めた後、ミネルバは扉の前に立ち、円は軽身功で倉庫の上に駆け上がった。
「怪しい荷馬車が数台入り込んでいますね。1台がこちらに向かっているようです」
「馬車より先に、何人かこっちに来そうだよね」
 円が装着している魔鎧――アリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)が、円と共に周囲の状況を把握していく。
「民家に向かった人達は〜、村人運んで救護班の元に向かったみたいー」
 骨の翼で飛び、班長のロザリンドと情報のやりとりをしていたオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が戻ってくる。
「こっちに、賊が何人かくるみたいだけどー、今回は外聞的に殺しちゃ不味いわけよねー」
「倉庫と、人々を守るのが仕事なんです」
 オリヴィアに、円はそう答える。
「そうねぇ〜、円の評価につながるなら、悪くはないわねぇ〜。任せなさーい」
 オリヴィアはふわふわた笑みを浮かべながら、また空へと飛んでいく。
「来ます。準備はいいですか?」
 アリウムは円に問う。
 円は狙撃の体勢を取り、静かに頷いた。
 倉庫はかなり大きい。
 こちらはたった4人。
 他の団員や分校生達が多くの盗賊をひきつけているとはいえ、決して有利ではない。
 狙撃して、殺す、のなら難しくはないのだろうけれど。
 殺さず、死んでしまうような怪我もさせず、倉庫の中に入れさせず、農作物にも、村人にも手を出させない。
 難しい戦いだと、円は感じていく。
 既に盗賊達も契約者達の存在に気付いており、慎重に近づいてくる。
 倉庫の前にいるのが、ミネルバ一人だと確認してから、集団で襲ってきた。
 屋根の上から、円はシャープシューターで狙いを定め、量産型パワーランチャーで盗賊の武器を撃ち落とす。
 その攻撃により、盗賊達はミネルバ以外の存在を知るが、光学迷彩で姿を隠しているため、円の姿を見つけることは出来なかった。
「どけぇ!」
 盗賊達は剣を振り上げて、ミネルバに斬り込んでくる。
「知らないよー? 通ろうとするなら痛い目見るよー?」
 大剣を構え、仁王立ち状態でミネルバは言う。
 構わず、盗賊達はミネルバに剣を振り下ろしてくる。
「えっと、殺しちゃだめなんだよねー。おっけー、おっけー! おっけー♪」
 ミネルバはヒロイックアサルトとランスバレストを併用し、大剣を大きく振って回転斬りで盗賊達の武器を弾き飛ばし、折っていく。
「くそっ」
 盗賊達は体当たりでミネルバを突破して倉庫の中に立てこもろうとする。
 しかし、頭上から振ってきた弾丸に、腕を撃ちぬかれ、ミネルバに大剣の腹で強烈な一撃を与えられ、次々に地に伏していく。
「百合園女学院、生徒会執行部です。大人しく投降してください」
 そこに、ロザリンドが班員を引き連れて駆けつける。
「煩わしい子たちはぁー、石化魔法で石にちゃいましょ〜」
 オリヴィアも、円の元へ戻った。
 円はほっと息をつくが、銃口は盗賊に向けておく。
 そして、ロザリンドに飛びかかろうとした盗賊の肩を撃ちぬいた。パワーランチャーではなく、今度は黒薔薇の銃で。
 盗賊は、がくりと膝をついてその場に倒れた。
 他の盗賊達も逃走を諦め、手を上げていく。