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S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

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S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

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04:整備して 仲間の応援 オーディション(その1)



「うーん。やっぱりイコン弄りたいなぁ」
 朝野 未沙(あさの・みさ)は機晶姫の整備・修理・改造専門店【アサノファクトリー店主】である。その興味は機晶姫だけではなく機械類全般に及んでいるようで、以前からも何度かイコンの整備の手伝いなどをしていたこともある。その縁で今回もイコン整備を出来ればと思ってやってきたのだが……
「おう、未沙ちゃんじゃないかい」
「あ、班長」
 そうしてイコンの格納庫にいくと整備班長が未沙に声をかけてきた。
「班長、あたしもイコンの整備手伝いんですけど……スピーカーの取付とか」
「それだったら問題ないさーね。未沙ちゃんはうちの整備課の連中にも負けない技量を身につけてきたし、大歓迎だよ」
「そうですか? やったーっ! ところで、ソニックスピーカーはイコンからの電源供給だよね?」
「??? そうだよー。だからちょっと技術いるけど、未沙ちゃんなら大丈夫でしょう?」
「はい」
「今回は急遽ってことで外部取り付けだけど、いずれは肩とか脚部に内蔵させたいよね。デッドスペースがあればその空間を音の反響に最適な形に加工してあげれば見た目もスマートになって良いんじゃないかな」
「そのアイデアはいいと思うよ。具申しておこう」
「ありがとうございます」
「未羅もお手伝いするの」
 朝野 未羅(あさの・みら) もやってきて重機でスピーカーを持ち上げたりなどの手伝いを行う。
 そして格納庫に備え付けられたモニターから流れてくるオーディションの映像を見ながらその内容を覚えておく。
「電装系の接続等はお任せくださいぃー。ある程度激しい運動をしてもぉ、コードを擦って線が切れたりしないように対候性のインシュロックで線をまとめてぇ、可動域に触れないように固定しますぅ」
 朝野 未那(あさの・みな)もスピーカー接続の手伝いを行う。未那のスキルならそれくらいのことは朝飯前であった。
「あ、パパが出てるよ」
 ここで言うパパとは朝野三姉妹が実父のように慕っている、ルース・メルヴィンのことである。
「パパー、頑張ってー!」
 未沙も思わず歓声を挙げる。
「こらこら、整備の手がお留守になってるよ」
「あ、班長ごめんなさい」
 整備班長が苦笑する。
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)も本職の整備科としてその作業を手伝っていた。
「戦闘、人殺しの横でアイドルが歌われたら、私はイライラしそうだけど、何か音波兵器でも開発しているのかしら?」
「さぁ、そういう話はきかないけどねえ……」
 整備班長が答える。
「会場のスピーカーもソニックスピーカーにしたけど、大音量をだすってこと以外にとりたてて特徴がないのよねえ……何を考えてるのかしら」
「案外、今不調な芸能ジャンルを活性化させることだったりしてね」
 整備班長がそう言うと彩羽は苦い顔をした。
「それだけのためにこのイベントが利用されているのだとしたら、たまったもんじゃないわね」
「そうですね……でも、このイベントが一助になるならそれでもいいと思うんですよ」
「そんなもん」
「そんなもんです」
 その言葉を聞くと彩羽はおとなしく整備作業に戻った。

「せいっ!」
神村 理緒(かみむら・りお)が剣を振るう。
「はっ!」
不破 修夜(ふわ・しゅうや)がそれを受け止める。
 今度は修夜が下から払うように剣を振るう。
 理緒はそれを飛び退ってかわすと体勢を立てなおして突進する。
「ふん!」
 修夜はその剣を払うと理緒の剣が大きく空中で放物線を描いて地面に落ちる。
「ここまでだな」
「……まだまだね」
「上達した」
「そう?」
「ああ……」
 ぶっきらぼうな修夜の物言いに、理緒は嬉しそうに
「よかった」
 と呟く。
「じゃあ、シャワー浴びてこよう?」
「そうだな」
 これが30分ほど前である。
 そして二人がシャワーを浴びて外に出ると、海京の巨大モニターにオーディションの様子が映されていた。
「なんだろ、あれ?」
「アネックス海京でやっているイベントらしい。行くか?」
「修夜が誘うなんて珍しいね。でも、行く。確か定期飛行船が出ていたはずだから、デッキの方に行こう」
「ああ」
 そう言うと理緒は修夜の腕をとって歩き始めた。
(これってデートっぽいよね)
 そんなことは思いつつも口には出さずに。
 そしてイベント会場に来た二人は出店を楽しみながらイベント会場を回り始めた。至る所にモニターがある。そして出店は100G均一で量の少ない食べ物という出店が多かった。このほうがいろいろな食物を食べて回れるだろうという考えの元発案されたものだ。
 そんな中エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)は一つ400Gの高級ちゃんちゃん焼き2020冬限定版を販売していた。
 ネイビーブルー一色に塗装されたイーグリットを会場設営の資材と一緒に搬入し、周辺のモニュメント的なものと同じ仕様のものをダミーで作成。
その中にイーグリットを隠蔽して緊急事態に備えている。
 ちなみにちゃんちゃん焼きは秋鮭をふんだんに使い味噌風味の味付けになっていた。
 エルフリーデは巫女衣装を着て売り子をしており、青髪の彼女と違和感を与えることでそのギャップを狙っていたりした。
「さぁっ!天御柱学院 海洋生物学研究会名物、シャチの浜焼き2020冬限定版だよっ! 取れたて素材をふんだんに使った海鮮焼きそばが味わえるのは今日だけだ! これを逃すと損するよっ!」
 そう叫ぶのはラグナル・ロズブローク(らぐなる・ろずぶろーく)かつて勇名を馳せたヴァイキングが、今ではただの職人肌で頑固そうな焼きそば職人だ。
 ちなみに「あぁ素敵だよレベッカ……」とか鉄板磨きながら囁いていたとの目撃証言があります。かなりいっちゃってるようです。
 ラグナルは一人で秋鮭・海老・イカ・ホタテなど海鮮たっぷりのちゃんちゃん焼き風焼きそばを黙々と手際よく焼きながらパック詰めをエルグリーデに任せお客の呼びこみをしていた。
 リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)は巫女服を着ながら一見13歳の幼女の姿で尻尾を巫女服からはみ出しつつ歩きまわっていた。
 ちなみに売り文句は
「シャチの浜焼き2020冬限定版販売中。
 当会場限定!!
 主催:天御柱学院 海洋生物学研究会
 協賛:オルカ システムエンジニアリングス」
 であった。
 これが案外功を奏し、売上につながっていくのだがそれはまた別の話である。
 夕条 媛花(せきじょう・ひめか)トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)でぇとをしていた。
 以前ちょっとした事件で知り合った二人はトライブが偶然会場にいたのを発見した媛花に誘われてデートという運びになったのだった。
 人が多いからはぐれたら困るだろうとトライブは媛花の手を握り歩いていた(トライブ本人に深い意図はないが媛花には十分に深い意図に感じられただろう)
 そしてオーディション会場。
「ん〜。中々、美人揃い……ああいや、媛花の方が可愛いぜ?」
「そうですか?」
 頬に両手を当てもじもじする媛花。本気にとっている。

 十七夜 リオ(かなき・りお)は一ステージが終わるごとにアンプやスピーカーの位置の微調整をやっていた。
「こういう仕事まで整備科に回されてもなぁ」
 リオが文句を言うとフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)はさらにぼやいた。
「校長もなんでこんな企画、許可したんだろ」
「イコンの力を引き出す為でしょ?天御柱が超能力とイコンを研究してるのも、両者に因果関係があるからだろうし。ま、漫画みたいに『強い意志の力でイコンの真の力を引き出す』とかは有りそうだよ」
 それを聞いてフェルクレートは更に悩んだ。
「うーん……それと今回のオーディションって何か関係あるの?」
「静かな音でリラックスしたり、逆に激しい音で興奮したり、音楽が人の精神にあれこれ影響を与えるのは判ってるし、それを利用してパイロットとイコンの力を引き出そうってのが狙いじゃないかな? どーせ、このやりとりも聞いてるんだろうし、そこの所どうなんです、校長先生?」
(まあ、まだ時期ではないがやっておくだけ無駄ではない……)
「そうですか……」
「リオはオーディションに参加しないの?」
「ロックをするのもバンド組むのも、まぁいいけどね、アイドルなんてのは柄じゃないし、選ばれるかどうかも判らないし、それに自分の組むメンバー位は自分で探したい」
「……よくわからない」
「そういうフェルは出ないの? 結構歌うまいと思うけど」
「演歌部門があったら、考える」
「演歌っ!?」
 パートナーの意外な一面を発見したリオだった。

「こちらファング。格納庫へ」
「こちら格納庫の佐野 誠一(さの・せいいち)。どうしました?」
「機晶エンジンに出力の異常が見られる。整備に戻りたい。オーバー」
「了解した。いつでも待ってるぜ」
 そう言って通信は切られた。
 そのころ、現場では。
「……ということで出力が不安定だ。こんな状態では戦闘できるかわからん。一度整備を受けてくる。【ミッシング】あとは頼んだぞ」
「【ミッシング】了解!」
 その言葉を受けると美幸は【ファング】を操作して格納庫へと向かった。
 そして格納庫。
「【ファング】今帰った」
「お疲れ。とりあえず下に降りてきて冷たい飲み物でもどうだい?」
 誠一がそう提案すると
「悪くない。いただこう。美幸の分も頼めるか?」
「ああ、もちろん」
 そのころ星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)はただの乗機から愛機に変わった自分カスタムのイーグリット【アイビス】を整備していた。
「いつもすまないな。俺の操縦特性で、お前の機体特性(剣)を潰しちまって」
 智宏はそう言うとまず火器管制システムを念入りにチェックし、次いで腕周りの調整を行う。
「新装備のアサルトライフルは両手持ちだからな。腕はしっかりメンテナンスしておかないと」
 足場を動かしながら腕のいたる部分の調整を行い、最後にコックピットに乗り込んでアサルトライフル(ビーム式)を装備させる。
 そしてイコンを完全に起動させると
「こちら【アイビス】。出撃許可を求める」
 と管制に通信をいれる。
「こちら管制のリーンです。【アイビス】にはパートナーが同乗していないようですが?」
「新武装のテストをやりたいだけだ。戦闘には参加しないからお目こぼしをくれ」
 それから通信装置の向こう側で何言かやり取りがあった。
「【アイビス】許可します。ただし、絶対に戦闘には参加しないこと。パートナーがいないイコンは公道を走る、素人が運転するF1レーシングカーに等しいです。十分に注意してください」
「了解だ。【アイビス】、星渡 智宏出る!」
 【アイビス】は発進すると何もいない空間に向かってエネルギー出力を絞ったビームアサルトライフルの連射を行ったり高出力で頭の中に描いた仮想標的に精密射撃をする。
「ふむ。こんなもんか……これからも共に空を駆けようぜ、相棒」
 イコンは沈黙したままだったがそれが智宏には心地良かった。
 再び格納庫……
「しかしこんな可愛らしいお嬢さんがパイロットとはねえ。良い世の中になったもんだ」
 誠一がそう言うと
「ナンパのつもりか? あいにくと私は何派な男は好かん。男はやはり硬派でなくては」
 と、菜織に一蹴されてしまう。誠一のナンパは失敗したようだった。
「まあ、それはともかく、電装系が海風で腐食してるね。天沼矛っていう環境は機械には良くないな」
「なおりそうか?」
「まあ、5分もあれば治るよ。それより今後は他の機体にも海風による腐食というトラブルが出てくるだろうから、メンテナンスには気を付けないとな。今回どこの整備士が整備したかは知らんが、こんな重大な欠陥を見逃すなんてどうかしてるぜ。ったく」
「まあ、そう言うな。整備士も人間。ミスを犯すこともあるだろう」
「そうは言うがな、パイロットさん。俺達の整備不良でパイロットが死ぬようなことになったら困るんだよ。自衛隊の13秒後のベイルアウトってしってるかい?」
 そう尋ねる誠一に、菜織は知らんと答えた。
「ある時自衛隊の戦闘機が基地上空でトラブルが起こった。パイロットたちは態勢を立て直そうとしたが無駄だった。そして一旦ベイルアウトを宣言したんだよ。それなのに彼らはベイルアウトしなかった。下が都市部ということもあり、彼らは戦闘機が落下しても被害が落ちない河川敷まで戦闘機を誘導するために頑張ったんだ。そして13秒後再度ベイルアウトを宣言してベイルアウトした。だが、その時には脱出しても落下傘で助かる高度じゃなかったんだよ。それを知りながら彼らがベイルアウトをしたのはなぜだと思う?」
「なぜだ?」
「整備の人間に負担を掛けたくなかったからさ。自分たちの整備不良で脱出できなかったんじゃなかったかって思わせないためにな」
「そうなのか……」
 菜織は呆然と答えた。
「整備の人間はそれだけ整備に命をかけているということなのですね?」
 美幸がそう言う。
「ああ、そうだ。整備だって命がけなんだよ。整備不良で死人が出ないようにな。だからお前らも、棺桶で帰ってくるなんて真似はやめてくれよ。寝覚めが悪いからな」
「努力しよう」
 菜織はそう答えると修理が終わったイーグリットに乗って再び発進した。