百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

リアクション公開中!

S@MP(シャンバラアイドルマーセナリープロジェクト)第01回

リアクション




06:警備して 仲間の応援 オーディション(その2)


 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)を立派な女の子、十音・円に仕立て上げるべく、玖瀬 まや(くぜ・まや)はメイクアップに気合を入れていた。
 10分の余裕ができたので更に凝りたいところだ。リボンを結んだり顔にメイクを施したり、男では考えが及ばないところまでメイクしていく。
「ありがとう。まやさん」
「いいのよ。これもすべて円ちゃんのためだもの。はい、これネモフィラの花の髪飾り。お守りがわりね。花言葉は「成功」だよ」
 髪飾りを付けるとレオは立派な女の子に変身していた。
 衣装も<なりきり>を使ってセイニィのものだ。
「イケるっ! これならきっと本物の女の子にだって負けないっ!」
「レオめ、本当に女装してエントリーしおったわ! しかも偽名を使っておる! ふははは! 滑稽すぎて笑いが止まらぬが、パートナーとして歌くらいは用意してやろうではないか。感謝するが良い」
 イスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)が笑いながらそう言うと、レオは指弾で十円玉をイスカにぶつけた。
「あいた。何をしよるか」
「ムカついたからお仕置きだよ」
「むっきー!」
「はいはい。それじゃあ、行ってくるね」

「それでは、準備も整いましたようなので十音・円さんに登場してもらいましょう」

 ――と、暗転。
「みんな、盛り上がっていこー♪」
 ボーイソプラノの声が響く。
 明かりがつくと特技の<トラッパー>で仕掛けたクラッカーを指弾で発動させる。
 ぱん。ぱん。ぱん。ぱん。
 爆発音は警備員の耳には不吉に響いた。
「みんな、動かないで。爆発物が仕掛けられている危険性があります!」
 サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)がそう言って叫びながら飛び込むと、前奏が中止され、会場には軽いパニックが起こる。
「あー、今のはあたしが仕掛けたクラッカーなので大丈夫です」
 円がそう言うと、アポロンが
「こまりますねー、事前承諾なしにそういう事をされると。ただでさえイベント前に爆発物騒ぎがあって警備の人はピリピリしているんですから」
 という。
「すみません。たしかにこちらの落ち度でした」
 円は素直に謝りる。
「きゃーっ! 円ちゃん可愛いーっ♪」
「ありがとうー。それじゃーみんな、今度こそ行くよ! 曲は『Beloved』」です」
 そう言うと演奏が始まる。
 
遠く燃える炎
暗く見えない明日

「覚悟はできてる」
告げる君の背中は遠くて
響く砲火が私の胸を凍らせる

君を失う覚悟なんてできてない
もう一度君と笑い合いたいんだ
さよならなんて言わせないよ

生きる勇気と死すべき覚悟
一緒に抱えて進んでいこう?
英雄になんてならなくていい
ただ生きていてくれるだけでいいの
それだけで君は私だけの英雄だから

 高音域をフルに使って熱唱していく。
 これなら彼女が男だとはバレないだろう。
 
 終了。 
 拍手。

「ありがとうございます。男の娘のにおいがまたしましたが良いステージでした。次は――」
「あたいだよ!」
 そう言って出てきたのはシリル・クレイド(しりる・くれいど)だった。
「なんかあたいをむししてたのしそうなことをしてるじゃない! あたいだってめだちたいんだから! みんなあたいのクールなウタをきけぇー!
 クールという割には熱い。
「じゃまするひとはみんなやっつけちゃうぞ」
 全武装開放、発射体制に入る。
「やめてくださいシリルさん!」
 ネヴィル・パワーズ(ねう゛ぃる・ぱわーず)が止めに入るがそれで言うことを聞くようなシリルなら苦労しない。
 6連ミサイルポッド4基と機晶キャノンジャマをするネヴィルに向かって発射する。
「そーれ、オーバーキル!」
 言葉通りネヴィルはオーバーキルで倒れてしまった。
「ああ、警備班はつまみ出して。回復使える方は回復をお願いします」
 アポロンはもう涙目である。
 端守 秋穂(はなもり・あいお)がやってきてヒールをかける。そして火村 加夜(ひむら・かや)が命のうねりをかける。ネヴィルはなんとか九死に一生を取り留めた形になる。
 そして肝心のシリルはパートナーのアピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)に取り押さえられていた。
「あなたは何をしているのですかこのお馬鹿!」
「だってじゃまするんだもん」
 ガン
 ドラゴンアーツで強化してからランスで殴った。
「オーバーキルしてどうしますか。物事には限度というものがあるでしょう。さっき生命力マイナス行ってたわよマイナス」
「あいったー」
「なうなうつぶやいている場合じゃありません。引き払いますよ。それではみなさん、ご迷惑をおかけしました」
「うー」
「出店を回ってあげます。それで我慢なさい」
「はーい」
「アピス……」
 本当にそれでいいのかとネヴィルは問いたいようだ。
「いいのです。この子の興味を何処か別の場所においておかないと」
「はい」
 そうして三人は出店の群れへと消えて行った。
「ちょっとステージが破損したので応急修理するまでまた10分ほど休憩をいただきます。本当にすぐすみますので。申し訳ありません」
 アポロンが涙目でそう言う。
「私としてもこの状態でのライブはどうかと思うのでアポロンに賛同します。それでは、10分ほど休憩してください」
 フレイがそう言うと人々はまた席を思い思いに立って行った。
 そんな中で動かない人物もいる。山葉 聡と、サクラ・アーヴィングだ。そしてそんな二人に近づく人物が一人。
 加夜だった。
「はじめまして。聡さん、サクラさん、どうですか、楽しんでますか?」
「ん……あんたは確か涼司の……俺達は楽しんでるよ。それよりそう言うあんたはどうなんだ? 今日は涼司が来ていないけど」
「まあまあ、楽しんでますよ」
 そう答える加夜に、聡は
「それなら良かった」
 と言った。
「はじめまして……ではないよね。一回私服のとき聡さんにナンパされたし。ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)です。よろしく。こっちは火村 加夜。ボクの大切な人だよ」
「聡さん、またナンパしたんですか? 聡さん……」
 サクラが鬼のような形相で睨む。
「い、いえ、単なるジョークです。世界で一番サクラさんを愛しています」
 引きつった笑顔を浮かべながら聡がそう言ってごまかす。
「……そう。ならいいの」
 サクラはそれだけで納得したのかボソリとつぶやくと真顔に戻った。
「実は涼司くんから少しお二人の話を聞いていたので、一度会ってお話ししてみたいと思っていたんですよね。そういえば、聡君たちはエントリーしないんですか?」
 加夜の言葉に聡は首を振る。
「ムリムリ。俺らには無理だよ、あんなの。そんなことよりここで見物していたほうが楽しいって」
「そうですか。そういえば、お二人の出会いのきっかけってなん何ですか?」
「俺さ、涼司のいとこで、涼司の良い噂だけが聡の耳に入ってきていたんで、涼司にあこがれてたんだ。新設された天御柱学院に入学したのも、涼司にあこがれてのことだ。サクラとの出会いは、俺が空京に来た時にサクラをナンパして、そのままサクラに押し切られてパートナー契約した。って感じかな」
「私には聡さんが運命の人だと感じました」
 サクラがボソリと付則する。
「私、涼司くんが殺されそうになったことはショックですし、イコンに乗って私も傍で戦いたいって気持ちが強くなって……今日はイコンを勉強しようかなって……」
「ああ、あれは俺もムカついたな。涼司のイコンに細工しやがって。まあ、あの細工じゃ涼司を殺せないことははっきりしていたが……」
「そうなんですか?」
「イコンの整備技術がそれなりのやつでもビームサーベルに数回エネルギーを流したら内部まで爆発させようって言うのは無理だ。発想自体は認めるがな」
「そっか。なんか安心した。もしお二人の邪魔にならないようだったら隣でステージの応援していいですか?」
「ええ、いいですよ。あなたは涼司くん一筋だから、聡さんがナンパする心配もないですし。でも、聡さん、加夜さんのパートナーのノアさんをまたナンパしたら許しませんからね」
 ギロリと睨む。
「はい。もちろんそんなことはいたしません。はい」
 冷や汗をかいている。どうやら尻に敷かれているようだった。
 くすくすと加夜は笑いをこぼす。
「お似合いの恋人ですね、お二人は」
「恋人ぅ!?」
「そうですよね。そう思いますよね」
 聡とサクラの態度が正反対だったのがまた面白かった。
「ま、まあそうだよな……あは……あはははは……」
 またサクラを怒らせても何なので曖昧なジャパニーズスマイルでごまかす聡。
 そうして加夜とノアが隣に座ると、ノアが
「よろしくね」
 と言った。
「おう」
「はい、よろしくお願いします」
 聡とサクラも返事をする。

 天貴 彩華(あまむち・あやか)は妹の彩羽に付き合って会場の警備……ならぬ買い食いをしていた。
 リンゴ飴を買って
「おいしいですぅ」
 などとつぶやいている。

(ユメミ、不審者はいない?)
 秋穂が精神感応で話しかけるとユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)
(いないのー。平々凡々なのー)
(そうか。それはなにより。それより日本の……)
(秋穂ちゃん……見つかりたくない相手って、秋穂ちゃんの……)
 秋穂は資産家の息子であり、なにか見つかりたくない相手がいるらしい。特に日本のマスメディアに。
 なので秋穂は帽子にロングシャツにコート、それから半ズボンという私服姿で会場を警備していた。
 ユメミもそれに付き合って冬物のワンピースの上にコートという格好だった。
(あれ? あれは何かな……)
 ユメミはふと人だかりを見つける。
 近づいていくとグロリアーナがカメラ小僧に囲まれていた。
 コスプレが祟ったらしい。
「すみませーん、ポーズお願いします」
 フラシュ。
「こっちにもお願いしまーす」
 フラッシュ。
 ユメミは近づくと声を張り上げた。
「それじゃ、カウントダウンしまーす。10,9,8,7,6,5,4,3,2,1。解散でーす」
 カメラ小僧達はその合図と共に解散する。訓練されたオタクだった。
「グロリアーナさんだいじょぶー?」
「ああ、問題ない。しかし少々鬱陶しく思っていたのは事実だ。感謝する。感謝ついでに同行を願えないだろうか? また囲まれたら困る」
「うん。いいよー」
 こうして二人は一緒に警備をすることになった。
 途中でイーグリットのキグルミで会場を警備していたエシクとも合流して女三人で雑談をしながら警備を行う。
 と言っても目は常に不審物や不審人物がないかに気を配っていた。
 エヴァルトはコームラントで足元に気をつけながら会場を練り歩いていた。
 やはりイコン自体がまだ珍しいこともあり、動くコームラントには数多くのカメラの砲口が向けられていた。
「何がイコンの力を引き出す鍵になるのだろうな……」
「それが分かったら苦労しないって。ボク達のイコン乗りとしてのレベルが低いからかも知れないよ」
 ロートラウトとコクピット内で会話する。
「ふむう……」
 だが結論が出るはずもなく会話は堂々巡りだった。
 葛葉 杏(くずのは・あん)もまた会場内を練り歩きながらコームラントで警備をしている。
「オーディションかぁ、懐かしいなぁ。あたしも色々受けたっけなぁ。まぁ、今日は夢を追いかける若者達のために警備を頑張るとしますか」
「杏さんは何でエトリーしなかったんですかぁ?」
 パートナーの橘 早苗(たちばな・さなえ)が聞いてくる。
「んー、別にあたしはバンド組みたいわけじゃないからね、ちょっと私の目指す『アイドル』とは違うのよ」
「ほうほう……」
「それに合格=アイドルって訳じゃないわよ」
「なるほど」
「真のアイドルって数えるほどしかいないのよ、今だとミレリア? あの人とか。」
「そうですねー。ミレリアさんはすごいですねえ……」
「そうね……」
 二人はそう話しながら会場を警備していたが、不審者や不審物は特に発見出来ない。
 一方生身で警備をしている高峯 秋(たかみね・しゅう)は、オーディションに出演するパートナーを応援する傍ら、会場警備のアルバイトをしていた。
 しかも何故かコスプレをしたほうが時給が上がると勘違いしてフレイムワンピースにヘアバンド、超感覚で狼耳とかという格好をしていたりする。
 貧乏奨学生でダークウィスパー小隊の一員として、彼は引くわけにはいかなかったのである。
「こちら高峰。不審者、不審物ともに無しです」
『こちらコントロール。了解』
 爆弾に絶対の自信があったのか人が密集する時間になっても爆発が起きる、というようなことはなかった。どうやらあれで全部片付けられたらしい。
「こちら高峰。そろそろ休憩時間終了ですので、ステージの警備に戻ります」
『了解』
 パートナーが出場するとあっては一目でも見ておくに越したことはなかった。
 そうしてオーディションが再開される。