校長室
学生たちの休日6
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★ ★ ★ ひゅんと、風が唸った。 タシガンの霧が、そのたびにかき乱される。 風の主はクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)だ。 「遅れる、遅れる、遅れる、遅れる!」 まるでどこかの白ウサギのような台詞を叫びながら、クライス・クリンプトはバーストダッシュを駆使しながらタシガンの商店街を駆け回っていた。 もう、クリスマスのパーティーまであまり時間がない。だいたい、こんな日のこんな時間まで補習をさせる教師がいけないのだ。 「えーと、タシガンって美術品が名物だったよね!」 ということは、民芸品だ! 短絡的に考えて、クライス・クリンプトは走った。 短絡的と言っても、長考する余裕なんてあるはずがない。 「おじさん、このジェイダス人形浴衣バージョン……」 飛び込んだお土産物屋で人形をつかんだものの、はたと考える。 「あの面子だと、普通の物贈っても意味あるかな? てゆうか、ネタに走らないと空気読めない気がする!」 ジェイダス人形なんて、タシガンではあたりまえすぎるじゃないか。 「とはいえ、とりあえずは押さえておきましょう」 ジェイダス人形を買い込むと、クライス・クリンプトは民芸店を飛び出していった。 超特急で走って、別の店へ飛び込む。 「すいません、人を女装させる様な輩が喜ぶ馬鹿騒ぎ用の品物はありますか!? あ、できれば手で持てるサイズで!!」 ★ ★ ★ 「なんだか、走り回っている人がいますね」 「師走だね」 香住 火藍(かすみ・からん)の言葉に、芥 未実(あくた・みみ)がしみじみと言った。 「こっちも、あまりのんびりしてはいられないのだが」 久途 侘助(くず・わびすけ)が、二人をうながしてデパートの中へと入っていった。 「何かいい物が見つかるといいんだがな」 これから、恋人の別荘へとお呼ばれである。さすがに、手ぶらはまずいだろうということで、プレゼントを買いに来たというわけだ。 リビングフロアに行くと、ちょっと洒落た食卓のディスプレイがしてあった。木製のテーブルに、古風なテーブルクロスがかけてあり、ティーセットがおかれている。 「これも売り物なのかな」 そこに敷いてあったテーブルクロスがあまりに気に入ったので店員に聞いてみると、これも売り物だという。あっさりと、久途侘助はそれをお土産に決めた。 パートナーたちは、同じ場所で見かけたティーセットから連想して、紅茶を贈りたいと言いだした。 「さて、どんな紅茶がいいですかね」 「まあ、ミルクティーなら、ブロークンタイプのブレックファストなんかだが。ストレートなら、オレンジペコかな」 香住火藍に聞かれて、久途侘助が答えた。 「オレンジ味の紅茶なのか?」 「いや、茶葉の大きさの違いだったはずだが……」 芥未実のボケにも、久途侘助がちゃんと答える。 「へえ、あんたは緑茶にしか興味がないんだと思ってました」 ちょっと揶揄するように香住火藍が言う。 「お前らが聞いてきたんだろうが! このやろー」 久途侘助に怒られて、結局二人は自分たちで選ぶことにした。 香住火藍がこのデパートオリジナルのマサラティーで、芥未実はカラメルのフレーバーティーだ。 「ふふ、紅茶飲むのが楽しみだな」 言ってしまってから、久途侘助は何かが足りない気がした。そうだ、ケーキだ。 「うん、ケーキの作り方の本も買って帰ろう。」 思いたった久途侘助は、書籍売り場へと走っていった。 ★ ★ ★ 「じゃ、俺はクリスマス・デートに……」 「ちょっと待て……」 ごく自然に出ていこうとしたアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)を、エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)が呼び止めた。 「まだ約束はとりつけていないんだろ。逃げるな」 アルフ・シュライアの首根っこを押さえて、エールヴァント・フォルケンが言った。 「今日は大掃除の日だからな。一年の埃をすべて綺麗に落とすぞ」 できれば、アルフ・シュライアの女性関係も綺麗にしてほしいところだったが、さすがにエールヴァント・フォルケンもそれを口に出してまでは言わなかった。 「嫌だと言ったら?」 「言うこと聞かないと御飯作ってあげないよ」 その一言に、アルフ・シュライアが負けた。 「とりあえず、キミには超能力があるから高い場所の窓拭きとかをしてもらおう」 そう言って、エールヴァント・フォルケンがグラスターとぞうきんを渡した。レビテートでガンバレというわけだ。 その間に、水回り関係はエールヴァント・フォルケンが綺麗にする。 「晩飯のためとはいえ、まったく……。終わったぜ」 おざなりに窓ガラスや桟を拭いたアルフ・シュライアが言った。 「どれどれ……やりなおし!」 指先で汚れを確かめたエールヴァント・フォルケンが容赦なく言い渡す。 「どこの小姑だ!」 「飯抜き!」 「やるよ、やりますよ!」 地味な戦いが夕暮れまで続き、アルフ・シュライアは報酬としてやっとローストチキンをもらったのだった。