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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第7章 お食事を食べるのとは別腹

「面白そうな絶叫がいっぱいあるね♪」
 マップを広げた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が、どれから乗ろうか選ぶ。
「陽子ちゃんと遊園地に来るのは初めてだよね?」
「えぇ。といっても、契約前のことが分からないですから・・・。行ったことがあるのか、ないのかも・・・」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は彼女とパートナー契約する前の記憶がまったくなく、遊園地で遊んだ記憶があるのかないのか、まったく分からない。
「じゃあとりあえず、今日が始めてってことにしない?」
「そう・・・ですね。透乃ちゃんと来たのが始めてということにします」
 過去よりも今を楽しもうと笑顔を向ける彼女に微笑み返す。
「ここからじゃ何を話してるのか聞こえないな」
 2人のいちゃつきを観察しようと、こそこそと霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)が彼女の後をつけている。
「あまり近づくと気づかれるわよ」
 目をギラつかせる彼に、月美 芽美(つきみ・めいみ)はふぅとため息をつく。
「(はぁ〜。やっちゃんと芽美ちゃんがいるっぽい感じがすると思ったら、やっぱり・・・)」
 観葉植物の陰に隠れている2人の姿がちらりと見えた透乃は眉を潜める。
「(陽子ちゃんには黙っておこうかな。せっかくの雰囲気が台無しになりそうだもん。それに、他のカップルにも迷惑だし)」
 真っ白な雪が血に染まる恐怖を、イブに見せるのはさすがにと思った彼女は、黙って好きにさせることにした。
「あれ面白そうだよ!陽子ちゃん、乗ってみようっ」
「直角に落ちたり登ったりするだけじゃないんですね」
 透乃が指差す方を見ると直角に落ちたりするだけじゃなく、くるくると回転しながら猛スピードで落下したり登ったりする絶叫マシーンがある。
「か、回転するのかっ。しかもあんな過激に!!」
 ど派手にリバースしそうな絶叫系に泰宏は思わず顔面を蒼白させる。
「まるで洗濯機みたいね。上の方と真ん中で止まって回ったりもするみたい」
「うぅっ見ただけで無理だ・・・。芽美ちゃん、後は頼む!」
「分かったわ。あんなところで撒き散らされたら、乗ってる人だけじゃなくって下にいる人にも迷惑だもの。まぁ、それ以上にこのデジタルビデオカメラの中に美しくないものが録画されるのは嫌だわ」
 これでもかっというふうに、芽美はボロボロに言い放つ。
「お世辞にもキレイなんて言えないからな。反論出来ないぜ・・・」
「泰宏君はそこで待っていてちょうだい。私がビデオを撮ってくるから」
 そう言うと彼女は彼をそこへ残し、2人から離れたところへ並ぶ。
「(正直、2人が少し羨ましいわ。バートリの時の夫は戦争にいってばかりだったから)」
 そんなことを思いながら柱の周りに設置された椅子に座り、安全装置のベルトをつけて彼女たちへビデオを向ける。
「登り始めたよ!―・・・って、わぁあぁ〜っ!?いきなり落ちるのーっ!!?このスリルいいねぇ♪」
 透乃は椅子の手摺から両手を離し、嬉しそうに叫び声を上げる。
「無重力感が最高ですねっ。きゃぁぁあああ〜♪」
 身体が宙に浮くような感じに陽子も大喜びする。
「回る〜回る〜」
 垂直に落下するそのスピードは、椅子からお尻が数cmも浮いてしまうほどだ。
 彼女たちが楽しんでいる一方、小さな子供たちがきゃーきゃーと泣き喚いている。
「終わっちゃった!んーっ、楽しかったね。次はどこへ行こうかな、陽子ちゃんはどこか行きたいとこある?」
「私ですか?えーっと・・・」
 本当は遊園地の外にある橋の下で誓いを立てて、縁を強くしたいと考えていたが、透乃はそういうものに頼ることを嫌うからと言い出せないのだ。
「向こうに食べ物のアトラクションがあるみたいですから、そこへ行きませんか?」
 気をつかったのか透乃は透乃が好きそうなアトラクションへ行ってみようと提案する。
「え、食べ物!?どこどこっ」
「マップによるとフードショックマンションみたいですね」
「行こう、今すぐ行こう!どんなのが出るのかな?楽しみだねぇ♪」
 絶叫も好きだが美味しいアトラクションはさらに大歓迎と、透乃はじゅるりとヨダレを飲み込む。
「よし、私たちも後を追おうぜ」
「待って。ガイドブックによると、部屋の中に多人数が入るのよ。つまり乗り物系じゃないし、動くのはその一室だけだからばれる可能性が高いわ」
「じゃっ、じゃあどうするんだ」
「変装していきましょう」
「これで!?」
「何もないよりかはマシよ。私だって恥ずかしいんだからこんな格好・・・。でも、まさか私たちがこんな格好してるとは思われないでしょう?」
 パーティー帽子を被り鼻眼鏡をかけた芽美と泰宏が、2人の後を追いかける。
 可笑しな2人組みがいると、幼い子供たちが指差をしているにも気づかずに・・・。
 一方、フードショックマンションに入った透乃たちはモードを選択している。
「2つあるみたいだね。リイシューとシュタルク・・・。隣に和訳があるね、簡単と・・・強い?食べ物で強いってなんだろうね、面白そうだからシュタルクでいいや」
「それと3種類の中から選ぶようですけど何にしますか」
「アオスシュテルベンにしようかな」
「分かりました、シュタルクのアオスシュテルベンですね」
 難易度とメニューを選んだ彼女たちは部屋へと入り、彼女たちの様子を見ている2人も慌てて中へ入る。
「テーブルと椅子があるよ、席に座るのかな?」
 席についたとたん、どこからかアナウンスが流れ始める。
 “本日はご来店いただき、ありがとうございます。まもなく料理が運ばれますのでしばらくおまちください。”
 扉が開かれメイドの格好をした従業員たちが、香草を詰めてこんがりと焼いた豚を乗せた皿や、ピラフやパスタが運ばれてきた。
 “ごゆっくりとご堪能ください”と言い残し、トレイを持って部屋を出て行った。
「うーん、いい匂い♪ねぇ、もう食べていいの?」
 透乃がそう言うと再びアナウンスが流れ、“さぁ、皆様。冷めないうちにどうぞ、召し上がられてくださいませ”と流れた。
「召し上がられてって・・・召し上がれの間違えじゃないの?」
「きゃあぁあっ、透乃ちゃん!料理が、料理がーっ!!」
「料理がどうしたの陽子。―・・・な、何これぇええっ」
 陽子の叫び声に料理が盛られた皿を見た透乃も、思わず声を上げてしまう。
 料理たちに尖った牙が生え、部屋の中にいる人々をぎょろりと睨む。
 ガジガジと歯を噛み合わせて、どれから喰らおうか獲物たちをじっと見る。
 それを見たバカップルたちが隅っこできゃぁきゃぁと騒ぐ。
「いやぁあ〜ん、だぁりーんこわぁい♪」
「はっはっは♪オレの傍にいれば安心だよハニー」
「典型的なバカップルね」
 遠くから透乃がその様子をついでに録画する。
「あ、喰われたわ。焼き豚に」
「きゃぁああーっ、だぁありぃいいん!!」
 彼氏がばくりと丸呑みにされた瞬間を目の前にした女が、びぃーびぃーと子供のように泣き叫ぶ。
「お料理が相手だと攻撃しづらいですねっ。透乃ちゃんのお口に入る前に、残飯みたく無残になってしまいそうですし。―・・・そんなっ、後ろと上から同時になんて!きゃぁああーっ」
 食べ物に食べられてはたまらないと陽子は床へ転んで逃げようとするが、ぱっくんちょとこんがりと焼けた丸いパンに喰われてしまった。
「よ、陽子ちゃぁあんっ。パンのくせによくも陽子ちゃんを!陽子ちゃんを食べるのは私なんだよっ」
「夜にならないうちからさらりと言ったわね透乃ちゃん」
 名シーンを泰宏にあげたり、陽子をからかうために使おうと芽美はビデオを回し続ける。
「とぉおうっ!はぐぅうっ」
「パンをかじちゃった!まさか中の陽子ごと!?」
「ふかふかで美味しい♪じゃなかった、今助けるからね!」
 アトラクションだということを忘れて透乃はパンをかじり、中にいる彼女を助けようとする。
「わぁあ、何!?お米が襲ってきたっ。痛くないけど・・・邪魔するなら食べちゃうよぉお」
 マシンガンのようにはりついてくるバターライスに襲われ、身体についたその米を指で取ってむっしゃむっしゃと喰らう。
「ふぅ。邪魔者はいなくなったね。早くこのパンから救出してあげなきゃ。はむっ、あむぅう」
「と、透乃ちゃん。私まで食べないでくださいっ」
 ぱくっと噛みつかれた陽子が手足をばたつかせて騒ぐ。
「あぁっ、ごめんね!でも美味しかった♪」
「こんなところでそんなことっ」
「えへへ〜、でも陽子ちゃんが助かったよかったよ」
「透乃ちゃん・・・言いづらいんですけど。これ・・・アトラクションですよ?ノリで食べられてみただけですから、消化なんてされないんですよ」
「え?あ、そうだったね。ついムキになっちゃってね。でも本当に食べられるんだね、おなかいっぱーい♪」
 恥ずかしそうに言う彼女に対して、透乃はいつもの調子でまんぷくの腹をさする。
 フードショックマンションをを出ると、すっかり日が沈み透乃はちらちらと観覧車がある方を見る。
「(あの顔は何か企んでいますね。それが何か分かりませんけど・・・。よくないことなのか、それとも嬉しいことなのかが・・・)」
 不安と期待が陽子の心の中でミックスされる。
「ねぇ、陽子ちゃん。あれ、乗りに行こう♪」
 密室空間の観覧車を指さした透乃がニヤッと笑う。
「乗るんですか・・・」
「行こうよー、ねぇってばぁ」
「分かりましたからスカートを引っ張らないでください!」
「わぁいやったぁ♪」
 透乃は嬉しそうにはしゃぎ、陽子の手を掴んで観覧車へ突っ走る。
 長蛇の列に並び2時間後、ようやく観覧車に残り込む。
 後をつけている2人組みはその1つ後に乗り込んだ。
 10分後、てっぺんにさしかかってきた頃合を見計らっていた透乃が陽子の傍へ寄る。
「陽子ちゃん、何だかいい匂いがするね、さっきのパンの匂いかな?」
「えっ、そうですか?―・・・きゃっ、何するんですか透乃ちゃん」
 動物が人間を舐めようにぺろりと舐められ、顔を真っ赤にして仰け反る。
「んふふっ。下について扉が開くまで逃げられないよ♪」
 透乃は嫌がる彼女の服の中に手を入れて撫で回し、その様子をしっかりと芽美がビデオに収めている。
 窓に自分の姿が映されているとも知らず録画し続けている。
 いつもは優しい陽子の表情が、恐ろしい形相へ変貌してしまう。
「お2人共、覚悟は出来ていますか?」
 観覧車から降りた彼女は憤怒のオーラを纏い2人へ近づく。
「甘いわね、泰宏君でガードするわ!」
「へっ?わわわ私ーーー!?ひぎゃあぁああぁ〜っ!!」
 盾にされた泰宏がゴスッと雪の中へ沈めれ、道に滑り落ちた鼻眼鏡に鮮血が飛び散る。
 その後、録画されたビデオのバックアップが、陽子によって破壊されたようだが・・・。
「それを破壊しようとも、私の記憶までは無理みたいね。フフフッ♪」
 不運なことに芽美の脳内メモリーにしっかりと焼きついてしまい、結局絵に描かれる度にからかうネタにされてしまった。