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新キマクの闘技場

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新キマクの闘技場

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「ひゃっはあー、キマクの穴、D級三銃士の黎明華20歳♪ か弱い女の子だけど今日も頑張るのだー!」
 愉快に拳銃の禍心のカーマインを撃ちまくる黎明華の弾丸を、難なくかわしながら、唯斗が問う。
「D級って凄いのか?」
「ひゃっはあー、カップ換算だと中々のもんなのだー!」
「……?」
 黎明華の宣言を聞いた唯斗は試合開始時に、「陰陽拳士、紫月唯斗、参る!!」と正統派っぽく宣誓して試合を始めた自分を少し恥ずかしいなと思った。
 唯斗は日々適当に生きる青年でありながら、面倒だと言いつつも内心は燃えている熱血漢という一種のツンデレキャラなので、こうも正々堂々と名乗る人間はあまり得意ではない。
「(王も金の工面を急ぐなら、ちゃんと給料前借とかそーいう風にすれば問題無かったと思うんだよなぁ。ま、起きた事は仕方ない。とりあえず黎明華の相手をして時間を稼ぐか……)」
 ヒョイと黎明華の【スプレーショット】の乱れ打ちをかわした唯斗が、【奈落の鉄鎖】で自分にかかる重力を調節し、高速移動をする。
「む!」
 黎明華は唯斗の動きに気づき、慌てて横へ走りだす。
「遅い! こっちだ!」
 残像を残しながら出現した唯斗の手刀が黎明華の胸に、まるで水平チョップのようにヒットする。
「きゃあ!」
 叫びをあげながらも、片手で地面を叩き、受身を取る黎明華。
「……成程。確かにD級か……」
 ヒットアンドアウェイの要領で、一瞬で後ろに下がった唯斗が黎明華の胸を叩いた手を見ながらポツリと呟く。
「おのれ、黎明華の大事なお胸を触るなんて?!」
「……叩いたんだ。そこは訂正してくれ」
 観客の大半は、この試合は早く終わるだろうと考えていた。それほどまでに黎明華と唯斗の実力には差があったからである。
 唯斗が黎明華に問いかける。
「だが、黎明華は何故キマクの穴に入ったんだ?」
「むう、黎明華はいつも生活費がギリギリなのだ。そこで、パラ実美少女戦士としてキマクでなめられないように頑張ってここで名前を売り、就職したらちょっとは真面目に働いて、稼ぐつもりなのだ〜!」
「貧困ゆえに高額な報酬を求め、キマクの穴へ入ったのか……」
 苦労しているのだな、そう声をかけようかとも思った唯斗だが、
「有名になったら、子分をいっぱいつくって左団扇の生活をおくるのだ。ビンボー生活さようなら?なのだ! ひゃっはぁー!」
「……」
 ちなみに、黎明華の「ひゃっはあー♪」は、パラ実先輩に精神の教えを乞うて得たものである。ひゃっはぁー……。
「(やれやれ。黎明華に勝つのは容易いが、それは本当の勝利ではないしな……エクス達、うまくやってくれよ)」
 黎明華が唯斗を睨み、銃を構える。
「何をさっきからブツブツと言っておるのだー! ひょっとして黎明華をナメているのか? ならば、目にもの見せてくれるのだー! ひゃっはぁー!!」
「!?」
 狙いを定めた黎明華がうって変わった精密な射撃をして、唯斗を狙い始める。
 咄嗟に反応した唯斗のオールバックの黒髪のすぐ横を弾丸が通貨していく。
「シャープシューターか!?」
「そう逃げてばかりでは、このD級四天王の黎明華には永遠に勝てないのだー!!」


 一方、唯斗のパートナーである剣の花嫁のサイオニックのエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)とアリスの冒険者紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は、唯斗のセコンドとしてパスを貰った利点を生かして、闘技場のバックヤードを自由に走り回る事ができた。
「唯斗兄さん、無事かなぁ?」
「唯斗なら心配無用であろう。だが、わらわ達の調査のために時間を稼ぐと言っていたからな、不意をつかれなければよいが……」
「さっき、行った控え室。誰もいませんでしたよね?」
「……うむ、キマクの穴から直々に派遣された者から話を通して貰おうと思ったが、早計であったか? 一体、誰がそうなのかだが……」
 少し前にエクスと睡蓮は、今回の事を話し合うため、キマクの穴の選手控室へと潜入した。
 だが、そこには選手は誰一人おらず、もぬけの殻であった。
 やがて、キマクの穴のボスを名乗る髭を生やした信長が来たのであるが、エクスはその赤い瞳でこれをフェイクとあっさり見抜いていた。
「偉い人……キマクの穴の人……あ、国頭さん? 確かS級四天王って言ってました!」
 睡蓮がパッとエクスに振り向くが、エクスは首を横に振る。
「選手控室がもぬけの殻だったのだ。もうこの闘技場にいるわけはないであろう?」
「……オレが何だって?」
 振り返る二人の前に、国頭が立っている。
「国頭さん!? 帰ったのでは?」
「シャワーを浴びていたからな。オレ以外は帰ったみたいだが、何か用か?」
 エクスがズイと一歩前に出て、
「さて、時間も無いのでな手早く済ませよう。話というのは今回の王の件だ」
「……聞こう」
「こちらの希望は今回の王の独走をキマクの穴が特例として許し、ランドセルの回収等はしない事。そしてこちらから提案する条件は未払い金と違約金についてだ。流石に今すぐ即金でとはいかんが完済するまで王をタダで使える、でどうだ?」
「その話、王は知っているのか?」
「説得する。約束しよう」
 エクスを見て苦笑する国頭。
「参ったな。組織に仇なす者と戦うのは、構成員として当然の仕事だろ?」
「主らとて評判が上がるに越した事はなかろう? しかも王程の戦士をタダで使い放題だ、完済するまでだがな。悪い条件では無かろう?」
「……オレに組織と話をつけろ、という事か」
 セミロングの金髪を揺らした睡蓮も国頭に話しかける。
「お願いします!王さんも悪気があってやったんじゃないんです! ちょっと短慮で勢いだけで行動しちゃっただけだと思うんです! ちゃんと事情を説明して待って貰うようにお願いするとか、やり方はしっかり皆で教えて勝手に判断しない様に言い聞かせますから! だから今回は許してあげて下さい!」
 どこか怯えた目で国頭を見るのは、睡蓮が国頭と初めて会った時、彼がパンツを釣っていたりダイブしたりしていたという第一印象のせいである。
「も、もしよければ、私のパンツ、あげますから!」
「は、恥ずかしいが……わらわのもつけてやろう!」
 ほぼ同年代の少女達の「パンツあげる」宣言にも国頭が顔色一つ変えないのは、彼が代々軍人の家系に生まれているからであろうか?
 国頭が静かに二人を見つめる。
「……いいか、今から話す話は、あくまでオレの……友人のパンツマシーン1号という男から聞いた只の噂話だ。キマクの穴という組織は、実在し、且つ実在しないものだ」
「!?」
「どういう事だ?」
「闘技場の裏で行われている今や公然の秘密となっている闇賭博の胴元には、少々頭のおかしなヤツが何名かいるそうだ。その中の一人が、ある日こう思ったらしい。「もっと激しい試合が見たい、そのためには巨大な悪の組織が必要だ」と。そのために、悪の組織を創り上げるためにはどうすればよいか? 答えは簡単だった。人の正義心を代弁する強者がいればよい。それは誰が適任か? で、白羽の矢がある男に立った」
「……王さん?」
「今回はという話だ。最も、そのパンツマシーン1号という選手も、組織とは手紙のやり取りが数度あっただけだ。その手紙もよくある勧誘のパターン、うまい話、理想や主張等は一切なく、ただ金、報酬の話と王のランドセルの一件が記されていただけの簡素なものだった。返事を書くのも簡単だった。「従うか? YES/NO」だけだ」
 正義感の強いエクスが、胸の奥から込み上げてくる得体の知れない気持ち悪さを感じて、口を手で覆う。
「だからな、オレ達は所謂アルバイトに近い形で召喚されたってわけだ。だから組織への交渉ってのは無しだ、お嬢ちゃんども。それにな、パンツマシーン1号なんか目じゃないくらい残忍な野郎が最後に待っている」
 国頭は固まった睡蓮のオデコに軽くデコピンをかましつつ、「あ、パンツはまた後日でも!」と付け加えて去っていった。
「……」
「……」
 睡蓮とエクスは国頭が去った後もしばし呆然としていた。
「勝てます……よね? 私たち!?」
「……キマクの穴、組織の正体は、人の持つ歪んだ好奇心そのものだと……?」
 青ざめた顔で蹲るエクスを睡蓮が庇う。
「エクスさん!」
 その時、試合が行われている会場から歓声が響いてきた。
「(唯お兄さん、負けないで!)」
 エクスを介抱しながら睡蓮は強くそう思うのであった。