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またゴリラが出たぞ!

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 シュールストレミングとは世界一臭い食べ物と呼ばれるニシンの塩漬け缶詰のことである。
 その強烈な臭いは魚が腐った臭い、生ゴミを直射日光の下で数日間放置したような臭いとも言われる。Wikiより。
 そんじょそこらの異臭物との格の違いを見せつける缶詰に、宴の席は阿鼻叫喚、まさに地獄絵図の様相を呈した。
 ほかのお客さんも巻き込んでの大パニックである。
「今のうちに殿をお救いするのだ……!」
「お気を確かに! 傷は浅うございます!」
 混乱に乗じた鍋奉行たちはぐるぐるロープから将軍を救出する。
「ええい、もう我慢ならん!」
 将軍は腰元の刀を抜き払い、シュールストレミングをひと太刀の元に窓から外に吹き飛ばした。
 それから今度はアゲハ達に刃を向ける。
「これまでの数々の狼藉……まこと許しがたい! 貴様らの作ってるのは鍋じゃない! 手打ちにしてくれる!」
「はぁ!?」
 その一言に、葛葉明はキレた。
 将軍のあたまを引っ掴むと、先ほどから放置されてる将軍……と言う名のムキムキ漢鍋にダンク!
「理想(鍋)を抱いて現実(鍋)で溺死しろ!」
「あぶぶぶぶ……く、くさい! ええい、放さんか!!」
 明はキッと将軍を睨みつける。
「てめーで作った鍋を放置してるくせに何様だ! 食べ物を粗末にするなっ!」
おまえらに言われたくないわ!
 憤慨する鎧武者に続き、奉行たちも抜刀。
 チェーン居酒屋『和民(かずみん)』空京センター街店はめくるめく乱闘の渦に飲まれていった。
 その最中、鍋奉行のひとりの刀が仕切りのつい立てを倒した。
 向こう側で一人鍋を楽しんでいたリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)に直撃し、彼は顔面から鍋に突っ伏した。
「むぅ……、そんなところにも悪の鍋を楽しむ狼藉者が潜んでおったか!」
「クックック……!」
 ゆっくりと鍋から顔を上げて、リュースは不気味に笑った。
「オレは誰にも迷惑をかけずひとりで……ただ鍋を楽しんでいたんですよ……。鍋将軍……そんな声がちらほらと聞こえてきましたが、はっ、知りませんよそんな悪魔将軍みたいなアホ……と無視していたのが間違いだったようですね……」
 ゆらりと立ち上がり鳳凰の拳を将軍の両頬に叩き込んだ。
「ぶほっ!!」
 その顔は先ほどまで愛おしそうに鍋を見ていたリュースではない。鬼だ。
「オレの邪魔をした以上、己の末路は分かってるよなぁ……、ククク……!」
「ちょ、ちょっと待って」
 バキボキと拳を鳴らし処刑を行う。
「た、大変だ……! 奉行Aに長身の外国人の魔の手が……!」
「ぶ、奉行B! そんな悠長なことを言ってる場合ではござ……はぶっ!」
 小鳥遊美羽のハイキック一閃。
 ミニスカをひらりとなびかせ、ヒットと同時に足を振り上げカカト落としの連続攻撃。
 普通のおっさんが経営する店とは違い、ここにいるのは各校の武闘派たち、たやすく潰せると思ったら大間違いだ。
「よくも私の鍋にケチをつけたわね! 騒乱罪etcに加えて、美羽ちゃん侮辱罪@懲役100年を言い渡すんだから!」
 どことなくジャスティシアの職権乱用をしつつ、ゲシゲシと容赦なく奉行をこらしめる。
 そうこうしてると、入り口のドアが勢いよく開いた。
空京センター街パトロール隊KCGPです! 美食連盟『鍋の会』そこまでです!」
 なだれ込んできたのは風紀員然とした格好のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)だ。
 本日は彼女、空京センター街の自警団を結成するのに根回しで動いていたのである。
 古き良き時代の無法者たちの暗黙のルールは『堅気に手を出すな』だった。だがそれは任侠道とか高尚な物ではない。職業・無法者達にしてみれば、搾取対象を傷つけたり減らすのは捕食者たる自分の損となるからだ。
 しかし、最近幅を利かせる鍋将軍一派は職業・無法者とはほど遠い、趣味・無法の分類・暴れ者。
「かつて本家、渋谷センター街を荒廃させたギャルやチーマ達と同じ最低ランクの汚物です」
 職業・無法者を目指すハーレックとは相容れない。
 そのため、渋谷センター街パトロール隊SCGPにならって自らの自警団を立ち上げたのだった。
「け……警察じゃないのか。ならば、貴様らを倒して逃げ切ればよいわっ! ものどもかかれぃ!」
 将軍の指揮のもと、奉行たちが斬り掛かる……だが、
「まだたった二人の自警団だが……、少数精鋭じゃけぇ!」
 パートナーのシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)は乱撃ソニックブレードで奉行を一掃する。
「な、なんだと……!?」
「警察? そんなもん頼りにならんけぇ、わしらが来たんじゃ。昭和の日本じゃトラブル対策はもっぱら自警団、それを生業にする者が地回りになってヤクザ組織になったんじゃ。まあ、今じゃただの暴力団やマフィアになっちまったがのぅ」
「空京に組を構えるには、まずここから……。あなたたちを倒して地元の信用を得ませんとね……」
 悪を制するのはまた別の悪なのだ。
「うぬぬぬ……そこをどけぃ!!」
 追いつめられた将軍は刀を振り回し強引に脱出を試みる。
 しかしその瞬間、ガートルードの手が閃き、一枚のゴルダが正確に将軍の眉間を射った。
 神速のゴルダ投げである。
 ドスンっと床を鳴らして倒れた彼を見下ろし、ガートルードとシルヴェスターは静かに微笑む。
「これにて一件落着」