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人形師と、写真売りの男。

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人形師と、写真売りの男。
人形師と、写真売りの男。 人形師と、写真売りの男。

リアクション



12


 リンスやクロエから話を聞いた各務 竜花(かがみ・りゅうか)は、斗羽 神山(とば・かみやま)と共に街を歩いていた。
 もちろん、探している相手は写真屋・紡界紺侍である。
 ――困ってるって言ってた。
 ――できるだけのこと、したいな。
 そして、自分に出来ることは犯人探しと写真の流出を止めることだ。
 そう簡単には見つからないと思っていたが――
「!?」
 見付けてしまった。
「おい? 何驚いてるんだ?」
 神山が訊いてきたので、黙って紺侍を指差した。
「あ。あいつら……」
 広場に居たのは紺侍と、それからケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)、ケイラを突き出すドヴォルザーク作曲 ピアノ三重奏曲第四番(どう゛ぉるざーくさっきょく・ぴあのとりおだいよんばんほたんちょう)――通称ドゥムカ――だった。視界の下の方では、バシュモ・バハレイヤ(ばしゅも・ばはれいや)がぴょこぴょこ跳ねている。
 そして紺侍はシャッターを切ろうとしていた。
 ――ケイラさんが盗撮魔の手に!?
 竜花が硬直しているうちに、神山が飛び出して行った。
「神山!?」
「おいコラ写真屋!」
 ケイラと紺侍の間に立って、それからびしりと指差して。
「俺の写真も撮れ! そして売り出せ!」
「ちょ、神山っ!? 何言ってるのよ!」
 唐突な発言に硬直が解け、竜花は駆け寄った。
「あ、竜花さん。竜花さんも紡界さんにお話があってきたの?」
「っていうかケイラさん、写真撮られちゃうよ!? 売られちゃうよ!?」
「ドゥムカさんが囮になれって言うからぽけーっと立ってたんだけど」
「ホイホイ釣れたな」
 ぽえぽえ笑うケイラと、黒く笑うドゥムカ。
 一方で紺侍は、
「うちのせくちーなおしゃしんとってー!」
「つーかなんで俺の写真撮ってねぇんだよ! 撮れ今すぐ!」
「うちがさきやー!」
「俺が先っ!」
 バシュモと神山に挟まれ撮ってコールを受けていて、逃げることも忘れているらしい。
 こほん、と竜花が咳払いして、撮ってコールを一時停止。
「神山、盗撮されても嬉しくないでしょ?」
「盗撮は許せねぇけど俺の写真がない方が許せねぇ」
「話の論点がちょっとズレてるわ……」
「だってよー、俺、顔はいいだろ? いいよな。顔がいい自信あるぞ。なのになんで撮られてねぇんだよ! ほらアルバムのどこにもねぇし! データにもなかった!」
「って!? データ!? 見せてもらえたの!?」
「もらえた。っかしーなー、俺、本当顔には自信あんのに。身長か、身長が低いせいかっ!? 見てろてめぇ、巨大化してやっからな! 50メートルくらいに!」
 ――見せてもらった時にデータを消していればそれで終わりだったかもしれないのに……!
 パートナーの行動に頭を抱えつつ、叫びは訊かなかったことにして。
「とにかく! 紡界さん、これは……盗撮は、れっきとした犯罪よ?」
「それにな、君が写真をばら撒いたことでリンスが参っている。営業に差障りがあっては困るのでな、止めさせてもらうぞ。素直に止めるか、雷に打たれて更生するか――どちらがいい?」
 ドゥムカと二人で、止めに入る。
 ……のだが、
「うちのおしゃしんー! せくちーなおしゃしんー!!」
「くそっデカくならねぇ……! あーもうこの姿でもいいだろー!? 顔だけ撮れば身長なんてわかんねぇよ!」
 撮ってと騒ぐ二人のおかげで、
「なんていうか、緊張感……ないね」
 ケイラが苦笑いした。その通りである。紺侍までもが苦笑いしている始末。
「えぇいバシュモ、少しは黙らんかっ!」
「むぐー! はーなーしーてー!」
「神山も! 真剣な話の最中よ!」
「俺のアピールタイムがー!」
 押さえている間に、ケイラにアイコンタクトを飛ばした。
 ――説得、お願い!
 その想いは読み取ってもらえたらしい。ケイラがこくりと頷いて、一歩前に出た。
「あの、紡界さん。事情はわからないけど、お金稼ぎにしても、ちゃんとリンスさんから許可を貰わなくちゃ駄目だと思うんだ。モデルさんが困るような写真を撮ってたら、自分が困っちゃうよ? もし、リンスさんじゃないといけないような理由があるなら聞くよ!」
 優しい説得。
 だけど紺侍は、
「すんません」
 と一言謝るだけ。
「謝るくらいなら止めろ、今すぐな。落とすぞ? 雷。左腕から感電すると一撃らしいがどうかな?」
「ドゥムカさんっ、それは過激……」
「いえいえ、過激ということもありませんよ」
 ドゥムカの過激発言に止めに入ったケイラをさらに止める者。
「あ、」
クロスさん!」
 にっこりと、それは綺麗に微笑んで立つクロスが居た。
「やっと見つけました。
 初めまして、紡界さん。私、クロエちゃんの友達でクロス・クロノスと申します」
「……エート、」
「写真を撮るなとは言いませんが、盗撮写真を売るのはやめませんか?
 あなたが売った写真の所為で生活に支障をきたしてる人が居るんです。おわかりですよね?」
「……あー、」
「はいかYESでお答えください」
 歯切れの悪い返事の紺侍に、にっこりと再び笑いかけた。
 ――クロスさん……その選択肢、どっちも意味が同じだわ……!
 何気に選択肢を与えないで威圧する、彼女が一番強いのかもしれない。
「……三十六計」
「はい?」
「逃げるに如かず!」
 と思っていたら、紺侍が逃げ出した。
「あっ、こら!!」
「こら待てぇー! 俺の写真撮れよぉー!!」
「うちのせくちーおしゃしんも! せくちーなうちをとってぇー!」
「えぇいバシュモ、静かにしろ! 真にせくちーな女は公衆の面前でそんなことは言わないぞ!?」
「紡界さーんっ!」
「せめてクロエちゃんの写真だけでも全部置いて行きなさい!」
 竜花が、神山が、バシュモが、ドゥムカが、ケイラが、クロスが、それぞれ言葉を発しながら追いかけるが。
 一人という身軽さの有利か、それとも単に足の速さか。
「……まかれた、かぁ……」
「追いかけるには不利でも、捜すには数が多い方が有利だから問題ないさ。手分けして捜そう」
「では、見つかり次第携帯に連絡しますので」
 それぞれ、別れて。
 街中を捜す。


*...***...*


「あら?」
 竜花たちから逃げてきた紺侍を見付けたのは、幸か不幸か知り合いだった。
「フレデリカさん」
「また会ったわね。調子はいかが?」
 兄を捜しています、と書かれたビラを持ったフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)である。
「微妙なとこっスね」
 フレデリカの問いに、紺侍は飄々と答えた。実際微妙である。
 何よそれ、と首を傾げられたが細かく話すつもりはない。それこそしんどい。
「まァまァ。オレのことよりフレデリカさんの方はどうなんスか?」
「私? 私の方は進展なしよ。手掛かりがないの」
 兄を捜していると聞き込みに来たフレデリカに、当時から写真が好きだった紺侍がデータを見せた。そしてそれをきっかけにして、こうして会えば現状報告をするくらいの仲にはなっている。
「兄さん、見かけた?」
「や、見てないっスね」
 フレデリカからは彼女の兄の写真を渡されているが、未だきちんと出会ったことはない。なので首を横に振った。「そう」と悲しそうに言った彼女が少し痛ましい。
「フリッカ、あまり話し込むと私達まで仲間に見られてしまいますよ。紡界さんもどさくさにまぎれてフリッカの写真を撮ったり売ったりしないように」
 喋っていたら、ルイーザに鋭い注意を受けた。そういえば配慮が足りなかったな、と紺侍はフレデリカから距離を取る。
 ――今、仲間に見られたらさすがに申し訳なさすぎるっスからねェ。
 フレデリカは、「もう、そんな言い方しなくてもいいじゃない」とフォローしてくれているが、いかんせん自分自身でそう思っているので離れたままにした。
「……相変わらず、こっそり写真撮って終わりにしてるの?」
「えェ、まァ」
 今回はちょっと違うけれど。
「人を集められる腕があるんだから、本気で写真の道に進めばいいのに」
「そっスねェー」
「いつもその答えだ……あら? 何か落ちたわよ?」
 落とした写真を、フレデリカが拾ってくれたが。
 写真を見てその表情が固まった。
「? なんスか?」
「これ……リンス君じゃない!」
「げっ」
 ――オレだけじゃなくて、向こうとも知り合いっスか!
 即座に走り出した。距離を取っていたのが幸いして、フレデリカはすぐには追いかけてこない。
 ――あーもう、あの人形師引きこもってるわりに友人知人多すぎるっスよ!
 そんな不条理な愚痴を心中で零して、走る。


 一方、取り残されたフレデリカは携帯を手に呟いた。
「さすがにこれは見逃すわけにはいかないなぁ……」
 かちかち、メールを打つ。
 リンスを大事に思う面々――テスラ衿栖鳳明に向けて、緊急メールを。