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リアクション
第6章 決戦! ティファニーチームvsハイナチーム
運動場では、第3回戦の準備が始まっている。
フィールド内における積雪の偏りをなくしたり、そもそも雪を周辺から持ってきたり。
幸い、葦原島に降る雪は適度な水分を含んでいる。
雪玉はもとより、雪だるま、かまくら、ちょっとした雪像くらいならそのままつくれてしまうほど。
そんないそいそした雰囲気のなか、気配を殺して救護班へと近づく者があった。
「おはろ〜ゲイルくん、この前はどうもぉ」
「ぉっ、これはアスカ殿。
こちらこそ、あのおりは世話になりましたな」
後方から足音も立てずに迫り、ゲイルへタックルをかましたのは師王 アスカ(しおう・あすか)である。
以前ゲイルの修行に同行したことがあり、そこで絵のモデルになってもらったことが出逢い。
それ以来、アスカにとってゲイルはお気に入りになっている。
「お前は男に簡単に抱きつくな、さっさと離れろ」
「はいはい、鴉は固いなぁ。
今回はパートナーのティファニーちゃんをしっかり守ってあげるからね〜任せてちょうだい♪」
「まったく……っと、久しぶりだな、ゲイル。
お前が試合にでねえのが少し残念だな……これが終わったらまた手合わせ願いたいもんだ」
「そうだな……軽くなら、大会の終了後にでも構わないが?」
「あ、ゲイルくん、また機会があったら描かせてね〜そのときはルーツ特製の白玉あんみつをご馳走するわ〜」
「我の拒否権はなしなのか……料理好きだからいいけど。
この前はアスカがお世話になったみたいで、すまないが……房姫というのは貴方かな?」
「えぇ、そなたは?」
「初めまして、アスカのパートナーのルーツ・アトマイスというものだ」
「そうでしたか、初めまして。
葦原房姫と申します、以後お見知りおきを」
「これは餞別だが、よかったらみなのお茶菓子に使ってくれ」
「あら、なんでしょう?」
「紅イモのきんつばなんだが……我がつくったんだ、美味しいぞ?」
「まぁ素敵、私にはつくれませんわ。
こんなによいものをいただいてありがとうございます、早速みなでいただくとしましょう」
アスカのパートナー、蒼灯 鴉(そうひ・からす)がゲイルからアスカを引き離した。
鴉は鴉で、ゲイルのことをよき好敵手だと思っている。
雪合戦のあと片づけ終了後に、ちょっと戦ってみる約束をかわした。
直後、アスカによって引き合いに出されたルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)。
ゲイル同様、絵のモデルになってくれた房姫へ、手製の土産を準備していた。
たいそう喜ばれたことに一安心だが、言いようはちょっと引っかかったのである。
「よっし、今回は勝ったら女性陣の絵をGETよ〜♪」
「お、その絵にはミーも描いてくれるのカ?」
「えぇもちろん!
これで優勝してティファニーちゃんや佐保ちゃん、ハイナ校長をモデルに描かせてもらうのよ〜!
タイプの違う美人揃い!
うん、描きがいがあるわぁ!
そのためにも負けられないわ〜」
「おぉ、それはがんばらないといけないのネ!」
整列するアスカは、野望を胸にるんるん気分。
独り言のつもりで発した言葉に、ティファニーがのってきた。
モデル候補に入っていることを知り、本人にも気合いが入ったようである。
いよいよ最終戦、第3試合の火ぶたが切って落とされた。
「相手への攻撃に使えずとも使い道はある!」
「先手必勝!
みんなガンガンいくよ〜!」
(さすがに俺が鬼神力使うといい的になっちまうから、今回は無理だな)
「ルーツがつくった氷壁を利用して敵チーム狙うか」
笛の音と同時にルーツは、味方が少しでも有利になるよう、数箇所に【氷術】で氷壁を構築。
アスカも鴉も、最近の氷壁に姿を隠す。
『彗星のアンクレット』で仲間全体のすばやさを上昇させたうえ、みずからも鬼神化するアスカ。
スキル【鬼神力】のパワーも借りつつ、雪玉を投げまくる。
ちなみに鴉も同じスキルを使えるのだが、今回は使用を見送った。
「大丈夫!
痛くない、痛くないからぁっ!」
「アスカのストレート、ルーツの変化する球に加えて上からの適当球まできたら相手も混乱するだろ」
「よし、1つめだ」
アスカが標的へと、強烈な雪玉とメッセージを送る。
しかしいくら痛くないと言われても……勝負だし、逃げるよね。
さらに鴉も、攪乱のために敵の頭上数メートルへと雪玉を放り投げる。
落下予測の難しさに、みな上空から眼が離せない。
さらにさらに、アスカや鴉の投げた雪玉をルーツが【サイコキネシス】で操作。
もはや軌道不明な変化球で、相手を確実にしとめていく。
普段から仲よしさんなだけあって、3人のコンビネーションは最高だった。
「優勝あるのみ!!」
だがもちろん、唯一ストレートで優勝のかかったハイナチームにも気合いの入った者はおり。
「師匠!
拙者の力を見ててくれでござる!」
「修行の成果をみせつけてやるでありんす、龍漸!」
ハイナを師と仰ぐのは、杉原 龍漸(すぎはら・りゅうぜん)である。
龍漸は、むしろ氷壁を利用してティファニーチームの面々を強襲していた。
「うおぉぉぉ!!」
「危険察知に幻影のコラボならあてるのは難しいわよ〜?」
「む、分身の術か!?」
「さあ、本物は誰でしょ〜」
しかしながら、たいするアスカも負けてはいない。
【イナンナの加護】と【ミラージュ】の効果で、龍漸の雪玉を見事に回避してみせた。
「こんなのもあるぜ!」
「なっ、まぶしい!」
「紙風船はつぶさせていただくのだよ」
「そんな簡単にはやらせませんわ!」
アスカと龍漸のあいだにわって入ると、鴉は【光術】を発動。
眼をくらませている隙にルーツが狙い撃つパターンか……と思いきや、救世主現る。
「わたくしのスピードについてこられますか?」
ルーツの雪玉を撃ち落としたのは、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)だった。
アイテム『琴音の耳』の効果により、素早い動きでアスカ達を撹乱する。
加えて【シャープシューター】での雪玉攻撃が、ルーツの紙風船へ炸裂。
防寒に『革手袋』を装着している両手を、ぐっと握りしめた。
(腰につけた紙風船がターゲットだとすると、わたくしの身長って実は有利なのではありませんか?)
【殺気看破】で奇襲を警戒しながら、ふと、エリシアは考える。
確かに117センチという低身長ゆえ、たいていの者からはその腰が狙いづらい。
逆にエリシアからすれば、みなの腰がちょうど視線の高さかそのすぐ上下にあるのだ。
そのため照準をつけやすく、一石二鳥な有利さを誇っていた。
「鴉さん、敵が近づいてるぜー」
「え、ありがとう」
「たいしょ〜、敵が攻めにまわり始めたぜぃ」
「なんと、了解ネ!」
フィールドのぎり外から、七刀 切(しちとう・きり)が仲間へ危険を知らせてくる。
「弾幕薄いぞーなにやってんですかー」
クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)も一緒なのだが、2人は自作のかまくらへ身を収めていた。
なぜかまくらか……それは、大会開始前までさかのぼる。
〜回想はじまり〜
「呼ばれて飛び出てお兄さーーーん!
というわけで、はい、どうも、蒼空学園のクドお兄さんです。
今回もまた、切ちゃんにお呼ばれしてやってきました葦原明倫館」
「休日なんで今日は部屋でゆっくり寝てようと思ってたんだけどねぇ。
暇つぶしによさそうだったんで、ちょっとクドも呼んで参加することにしたと」
「そして始まる雪合戦!
さあ!
がんばりましょうぜ切ちゃん!」
「ワイはティファニーさんにつかせてもらいますかなぁ」
「お兄さんも切りちゃんと一緒でティファニーさんがわにつかせていただきますよっと。
ささ、かまくらでもつくりましょう」
「風船をわられないためには、雪の壁も欲しいですよねぇ」
ということで、大人2人が入れるだけの立派なかまくらと、出入り口を護る壁が完成した。
「いやーがんばったがんばった。
お兄さん汗かいちゃったよー」
「でもさすが、いいのができましたねぇ」
「ささ、かまくら入りましょー入りましょー」
そして、いまにいたるわけである。
〜回想おわり〜
「雪合戦と聞いてワクワクが止まらないのだ。
ここはハンニバルさんの特技【投擲】の出番なのだ!
投げるのだ!
バンバン投げるのだ!」
「ハンニバルちゃん、とっても元気なのネ−!」
「一応、戦術家の英霊らしくそれなりの策は考えてあるのだよ。
だがしかし、今回は純粋に投げて投げて投げまくって楽しみたい感じなのでな。
ほかの者達には悪いがちょっと黙っておくのだ!」
「せっかくの雪合戦です、楽しくやれればそれで充分ですよね?」
ハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)が放出する雪玉の勢いときたら、ほかの誰よりも猛烈。
ティファニーったら、思わず感心して声をかけるほどだった。
そんなハンニバルには、リゼッタ・エーレンベルグ(りぜった・えーれんべるぐ)も同意する。
変にスキルや戦略を使うよりも、無心でやった方がきっと面白いと思った。
「しかし、切くんが参加するのであればやってみようかと思って参加したのですが。
戦場に切くんがいないような……」
第2試合のときにはちゃんといたのになぁ、ときょろきょろ。
リゼッタは、かまくらのなかにパートナーとその友人を発見した。
めずらしく真面目に、大声なんか出しちゃっているではないか。
「……まぁちゃんとやっているのであればあれもいい仕事?
なのでしょうね……きっと」
仲間へ指示を送る切に、安心感を覚えるリゼッタであった。
「がんばれ〜ちょうがんばれ〜……ぐぅ」
「ずずっ、ん敵が来とるぞー……あぁうどんうめぇ」
あれ?
「クドそっち焼けたんじゃね?
あぁ、敵さん守りを固めてるよ。
あちち、やっぱ餅は海苔つけて醤油かけて食うのが一番だねぇ」
「もちうまー」
「ぬ?
クド公に切め。
やつら、例によってまたさぼっているな……リゼッタ!」
「これはまた……試合後にお仕置きですね、ハンニバルさん」
「うむ、ちょっととっちめてやるのだ」
「ウフフ」
そんなこんなで試合終了、結果はティファニーチームの勝利となった。
ということは、気になる優勝は残った紙風船の数で決まるわけだが。
2試合分の合計が最も多かったのは、なんとティファニーチームだった。
「おぉっ、勝ったのネ!?」
「ってことはチョコがもらえるんだな!」
?「……しかし、彼女のチョコレート大丈夫なんだろうか」
「そうね……【イナンナの加護】で危険がないか調べなくっちゃ……」
「拙者がいながら……師匠、申し訳ないのでござるよ」
「謝らずともよい、妾も楽しかったゆえな」
「ふむ、ナラカに赴く前によい腕試しができました」
空腹と喉の渇きをいやそうと、みな食事用テントへ歩くなか。
「今日はなかなか楽しめましたわ、ありがとうございます」
エリシアは、その場の全員へ礼を述べ、そそくさと帰ってしまった。
ともに来ることのできなかった、パートナーの影野 陽太(かげの・ようた)を心配して。
きっと恋人につきそってがんばっているのだろうと、エリシアは想いを馳せるのであった。
「いやー、今日も楽しい一日だっ……」
「2人ともお疲れさまでしたね、楽しい楽しいお仕置きの時間がやってきましたよ……」
「って、あれ、ねえねえ切ちゃん?
なんかリゼッタさんが怖い笑みを浮かべてるんですガッ――」
「え、ちょまっ、今日は真面目にしてたでしょ!?
なんでお仕置きなのリゼ!?」
「カクゴしてくださいね……」
「ちょカマクラ壊さないで……アッー!」
「埋めるのだー超埋めるのだー!
へいへい!
へいへいへいっ!」
「って、ちょっ、ハンニバルさん!?
埋めないでっ!!
これ以上埋めないでっ!!
うああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
クドと切が出てくる前に、リゼッタが【サイコキネシス】でかまくらを破壊。
さらにハンニバル、スコップを使いその上にすごい勢いで雪をかぶせた。
放置されること数時間。。。
「ぐわっ、生きてたっ……これリアルに死ねる……」
「救出されたあとはリゼッタさんのお説教ですかそうですか」
(ルルが来てない今日もまたお説教されるなんて、お兄さん達ってばとことんついてないなー、とほほ……)
今日も明るいハンニバルと腹黒モード全開のリゼッタに説教されつつ、汁粉で身体を温めた切とクドなのでした。
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