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ミッドナイト・シャンバラ3

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ミッドナイト・シャンバラ3

リアクション

 

俺の必殺技を聞け

 
 
「俺の必殺技を聞け!
 さあ、久々にやってきましたこのコーナー。今日はお電話が繋がっています。
 もしもし?」
 ツー。
「もしもし?」
 ツー。
(ちょっと、調整室、何やってるのよ。早く電話繋ぎなさい!)
 カフを下げると、素早くシャレード・ムーンが怒鳴った。
「今繋げマース。待ってくだサーイ」
 何やらぼろぼろになっているアーサー・レイスが、シャレード・ムーンにむかってキューを出した。
「とりあえず、先にお手紙から紹介しましょう。
 ペンネーム、夢は立派な魔法使いさんからです。
 シャレさんこんばんは! いつも楽しく聴かせて頂いてます。
 前回はハガキを読んでもらえてとっても嬉しかったです!
 さて、実は私、先日のイコン博覧会で、パートナーと一緒にイコンの模擬戦に参加してました。
 試合はイコンのパンチが上手く決まり、勝利を収めることができましたっ。
 この経験を活かして、今後も精進していこうと思ったのですが……
 その後、パートナーが提案したのが『2人で必殺技名を叫ぶ特訓』だったんです!
 なんでもロボットに乗ったからには叫ぶのが熱いんだとか何とか……
 正直よく分かりませんでしたが、パートナーと気持ちを合わせるのは確かに大切ですので、2人で特訓してみました!
 その名も必殺『シャイニングベアクロー』です!
 良かったら、電話で声を直接お届けしたいと思います

 ということですので、やっと電話が繋がったみたいですから、さっそく実演してもらいましょう。
 もしもし。もしもーし、夢はりっぱな魔法使いさんですか?」
『くまー!!』
「げ、元気ですねぇ」
『ち、違います。今のは私じゃありません。もう、ベアったら……』
『ふっ、俺が最強の存在「超プリチーな白熊」だ。くまーっ!!』
「元気、ありあまってますねえ。そんなに叫ばなくても大丈夫ですよー。それに、あまり大声を出されると音が割れて放送事故になっちゃいますから。さあ、さっさと必殺技を出してください」
『分かったぜ』
『ちょっとベア、まだ準備が……』
『何言ってやがる御主人、こういうのは乗りと勢いだぜ』
『だから、心の準備が……』
「もしもーし。電話のむこうで相談しないでくださーい。みんな聞こえちゃってますよー」
『えっ、ええーっ!!』
『えーい、こうなったら覚悟を決めやがれ、いくぜ御主人』
『もうっ、悪い人達はお仕置きしちゃいますよっ!』(V)
『次でお前は粉々だぜ』(V)
『いきますよっ!』(V)
『おらー!ぶっ飛びやがれ!』(V)
 なんだかノリノリの声と、恥ずかしそうな声が交互に聞こえてくる。そして、最後は二人が声を揃えて叫んだ。
『シャイニングベアクロー!』(V)
『しゃいにんぐべあくろ〜!』(V)
『違うだろ、御主人。そこは、シャイニングベアクローだ!』(V)
 何か、どこか間違っていたらしく、電話のむこうで二人がもめ始める。
『シャイニングベアクロー!』(V)
『シャイニングベアクロー?』(V)
『シャイニングベアクロー!!』(V)
「どうもありがとうございましたー」
『ああっ、ちょっと待て、まだ決め台……』
 きりがないと、シャレード・ムーンが勝手に電話を切った。
 
    ★    ★    ★
 
「何か、メールが届いていますう」
 やっと日堂真宵を縛りあげて転がしたアーサー・レイスに、大谷文美が局のパソコンに届いたメールを指し示した。
「そんなものは無視デース。うちの番組には、リアルタイムのメール投稿コーナーはありまセーン」
 勝手に決めつけると、アーサー・レイスは武神牙竜からのメールを無視した。
 
    ★    ★    ★
 
「おかしい。さっきの投稿は読まれたのだろうか……」
 外の様子をうかがいながら、武神牙竜がつぶやいた。
 何やら、外で犯人が他の者としゃべっている様子が聞こえてくる。
 ラジオから聞こえてくる意味不明の雄叫びにかき消されて会話の内容までは聞こえないが、多分、犯人が依頼主と相談しているに違いない。
 武神牙竜は、諦めずにまたメールを送信した。
 「獅子座を想う者から再び投稿です!
 どうやら、黒服の人に依頼した誘拐犯と黒服の元締めが話をしてるようです!
 現金の受け渡しが済んでしまったようで、これから俺は何処へ連れて行かれるのでしょうか?
 恐怖でどうにかなりそうです!

 ぽちっとな。送信っと……。ああっ、間違えて、同報メールにしちゃったぜ。まさか、さっきのも……。まあいいか。誰か気づいてくれ、頼む!」
 相当焦りながら、武神牙竜は天に祈った。
「何か、ごそごそと音がしない?」
 宅配会社ゆる猫パラミタの集配場で、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が、周囲を見回して軽く顔を顰めた。
「それにしても、さすがは橘社長。みごとな手際です」
「いえいえ、リリィさんからお茶菓子までもらっちゃいまして、すみません」
 橘恭司が、営業スマイルで恐縮する。
「ああ、あの馬鹿、ラジオに投稿して助けともらおうとしているんだもん」
 リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が、自分の携帯に今し方届いたメールを龍ヶ崎灯に見せて言った。
「何ですって?」
 龍ヶ崎灯が念のために自分の携帯を確かめてみると、同じようなメールが二通届いていた。
「許せませんね。こんな投稿なんてこうです!」
 龍ヶ崎灯が、カチャカチャとメールを打ち始めた。
「先ほどの【PN.獅子座を想う者】のパートナー【PN.ストーカー】です
 どうも拉致されたと思い込んでるようですが、単に家に連れて帰るために配送業者に荷物の手配を頼んだだけですので、シャレード様が心配なさるような犯罪ではありません」

「ああ、灯お姉様、段ボールが逃げます!」
 リリィ・シャーロックが、ゴトゴトと箱全体をゆすって移動を始めた武神牙竜入りの段ボールを指さして叫んだ。
「逃がしてはなりません。このまま段ボール箱を家に持って帰るのです。中身は二の次ですわ」
「分かりました!」
 龍ヶ崎灯に言われて、リリィ・シャーロックが思いっきり段ボール箱を蹴り飛ばした。