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荒野の大乱闘!

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荒野の大乱闘!

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「邪魔が入っちまったけど、それでタイマンは考えてくれた?」
「言いそびれたが、この状況で今更『タイマンやります』って言って、それを全員が聞くと思うか?」
 ルカルカと久が戦闘に入ったのを見計らい、悠司は再びげんだと相談を始める。
 確かにげんだの言う通り、何百人もの人間がまとめて乱闘を繰り広げている中で、突然「げんだと要のタイマンをやるぞ!」と言ったところで聞いてもらえるかどうかが怪しい。意見が受け入れられないというのもそうだが、乱闘中に誰かの話を聞いていられる余裕があるのかどうか、そこが厳しいのだ。
「だったらさ、その高島要だけをこっちに呼べばいいんだよ。それでこっちで勝手にタイマンやるんだ。それで決着がついたら、自然と収まるだろ」
「むぅ……、それもまあ言えてはいるが……」
 なかなか答えを出せないげんだだが、そんな彼の元にまたしても(?)邪魔が飛び込んできた。
「宗次郎さんを守るための力として、D級四天王いただくわよ!」
「E級四天王の1人、けんぷう(剣風)のうつのみや。D級四天王争奪喧嘩祭りがあると聞いて殴り込みに来たわよ!」
「そ、そんな話は無いいいいっ!?」
 愛車のスパイクバイク「愛羅武勇」を乗り回し突っ込んでくるのは、種族的には守護天使だが元レディース「吉祥天」の初代ヘッドにして、現在木崎 宗次郎(きざき・そうじろう)とパートナー契約&結婚18年目――しかも18歳の子供がいるという鬼姉御木崎 鈴蘭(きざき・すずらん)
 一方でビッグバンダッシャーを乗り回し突っ込んでくるのは、元教導団憲兵科にして空京大学の史学科学生、そして現在は葦原明倫館に史学研修のために留学中、その上E級四天王でもある宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)
 2人分のバイクが同時にげんだ――ついでにその場にいた悠司を狙って突撃してきたのである。しかも祥子の方は、最初は様子見の上、不良の数が少なくなってきたところを狙って乱入するという策士っぷりだ。
 だが今度はこの2人――鈴蘭のバイクの後ろに乗っていた宗次郎を合わせれば3人か――を邪魔する影が飛び込んできた。
「ようやく出番到来だよ!」
「このまま自然消滅は格好がつかん!」
「強さ自慢の乱暴者はこの場から退場していただきます!」
 2台のバイクの運転手に向かって突撃したのは、先だってげんだの護衛を行うと宣言した小鳥遊美羽、ガートルード・ハーレック、シルヴェスター・ウィッカーの3人だった。
 そのまま6人は空中でもつれ合い、地面に投げ出される。乗っていたバイクは操縦者を失ったため、そのままふらふらと走り去っていった。きっと途中で転倒して止まってくれるだろう。
「今まで待ち構えていた甲斐がありましたね。さっきのは明確に硬派番長を狙ったわけではなかったのでちょっと不安でしたが、明らかに狙うのが出てくれて少し嬉しいですよ」
「このまま誰も来なくて出番が無かったらどうしようかと思ったしね」
 立ち上がり、それぞれ武器を構えるガートルードと美羽。シルヴェスターに、鈴蘭や宗次郎、祥子もようやく立ち上がる。
「さすがに何の障害も無いとは思わなかったけど、こうも見事に壁が出てくると、かえって怖いわね」
「仏恥義理」と名付けた金砕棒を両手に構え、鈴蘭はシルヴェスターを見据える。
「ま、それだけそこのD級が慕われてるってことでしょ」
 レプリカビックディッパーを構え、祥子は美羽と対峙する。
 さて、残った宗次郎はガートルードの相手ということになるのだが、当の本人は鈴蘭の近くでナイフを握り締めた状態で所在なげに目を泳がせていた。
「……随分と強面なのにやたら頼り無さそうですね。それともそれは演技なのでしょうか?」
「あ、えっと、その……」
 ガートルードの言葉に宗次郎は挙動不審を繰り返すしかできない。
 彼女は知らなかったが、この宗次郎という男、怖いのは見た目だけであり、その中身は対人恐怖症であり「あがり症」であり、さらに臆病ときているのだ。まともにコミュニケーションが取れるのはパートナーの鈴蘭だけであり、それ以外では普通の会話すら困難なのだ。
 そんな彼が鈴蘭と共に荒野にやってきたのは、ひとえに彼女を守るためである。初対面でのとある事情により、宗次郎は鈴蘭のことを「泣き虫な子」と認識しており、そんな彼女が傷つくのが見ていられないのである。
 鈴蘭の方としても、普段はヤンキー口調だが宗次郎の前では可愛くあろうとするため、その当時の誤解はいまだ解けないままなのだ。もっとも、本人たちにしてみればこのまま解けない方がいいのかもしれないが。
「まあいいでしょう。邪魔するなら私も全力で応戦します。それなりの覚悟で臨んでくださいね」
「古き良き昭和の同士を、こがぁなところで潰すわけにゃぁいかんからな。全力で相手しちゃる」
「D級四天王になれば、それだけ宗次郎さんを守る手段が増えるのよ。そのためにもここは引き下がるわけにはいかないわ」
「……いや、ちょっと待って。D級狙いは私もなのよ。そうじゃなきゃ争奪戦に参加した意味が無いわ」
「パラ実にだってね、かっこいい人はたくさんいるんだよ。せっかくの硬派な漢をこんなところで失うわけにはいかないわ」
 そして数瞬のにらみ合いの後に、全員が同時に戦闘を開始した。
「アウトローの仁義のためにも、ここは引き下がらんぞ!」
 シルヴェスターの乱撃ソニックブレードが唸りをあげ、
「彼女を守るためなら、いくらでも盾になってやる!」
 ナイフを構えた宗次郎がそれを受け止め、吹き飛ばされる。
「宗次郎さん!? てめえ……、マジにブッ潰してやる!」
 愛する夫を攻撃され、鈴蘭が金砕棒による等活地獄を披露すると、
「そんな攻撃が私に通用するとでも思いましたか!」
 ガートルードがその動きを読んで、自らの皮膚を龍鱗に変えて防御する。
「勝ったらここの連中は全員私の舎弟よ! けんぷうと呼ばれる所以、見せてやるわ!」
 大型剣を水平に構えた祥子が、自分を中心に回転し、竜巻のごとき動きを見せる。しかも持っている剣にサイコキネシスを上乗せし、さらに轟雷閃まで発動させた。
「そんなもの、私の拳で全部はじき返してやるわよ!」
 怪力の籠手をはめた手に光のオーラを纏わせ、さらに剣士特有の怪力まで上乗せした美羽が、祥子の竜巻にパンチの連打を浴びせる。
 6人分の嵐はしばらく続き、その間、周囲にいた学ランたちが巻き添えとなり2桁は軽く倒されていった。

「おいおいおっさん! これはマジにやばいんじゃねえか!?」
 惨状を目の当たりにした悠司はげんだに再度相談を試みる。いや、それはもう相談ではなく、まさに説得と呼べるものだった。
「おっさんを守ろうとする奴、おっさんを倒しに来る奴がうまく人数調整されちまってる! このままどこかで決着つけないと色んな意味でやばくなるぞ!」
「お、おう! それもそうだな!」
 同じく惨状を見せられたげんだも、いい加減心が動いてきたらしく、悠司の案に乗ろうとしていた。
「それに、校舎も穴開いちまったしなぁ……」
「まあ偶然とはいえ、な……」
 クド・ストレイフの奇怪な行動のおかげで、げんだのハリボテ校舎には人間大の穴が開いてしまっている。風雨をしのぐことはできるようだが、それよりも「これ以降、後者にダメージが与えられる」ことの方が怖かった。立て直せばいいだろうという声もあるが、不良以外にやる事の無い彼らには、再建のための資金が無いのだ。
「仕方が無い。ここはタイマンに乗るか。変なところで被害が増えるのはさすがに困る」
「よく言ったぜおっさん」
 げんだの了解を得た悠司は、すぐさま乱闘の場へと向かう。
「それじゃ、高島要連れてくるから、そこで待ってなよ!」

 かくして、要とげんだの一騎打ちの場が用意されていった。特設の舞台等は無いが……。