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遅咲き桜と花祭り

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●第1章 食べ物屋台を巡れば

 花の溢れる公園に、人の賑わいが広がっている。
 その一角には、食べ物を扱う屋台が並んでいた。
 花をモチーフにしたお菓子などを取り扱っており、ところどころにテーブルと椅子も並べられており、花見をしながら食べることも出来る。

「まずは何があるか見て回って、気に入った物を選んで食べよう」
 そう告げながら、清泉 北都(いずみ・ほくと)は傍らの白銀 昶(しろがね・あきら)へと視線を向けた。
「そうだな。半分こすれば、その分、沢山の種類を食べられるぜ」
 頷く昶を確認して、北都は屋台が向かい合う、間の通路を歩き出す。
 互いの誕生花は押さえておきたいと、北都は彼の誕生花であるナズナと昶の誕生花であるマツバギクをモチーフにした菓子を探した。
 『キク』と大きな分類としてモチーフにしている菓子はあれど、そこから更に細かく分類しているものは少ない。
 唯一扱っているとしたら、客の注文するものをモチーフに作成していく飴細工屋台くらいだろう。
「まずはあれにしよう」
 告げて、北都は飴細工の屋台へと近付いていく。
 ナズナとマツバギクを注文すると、店主は熱した飴を手にするとまずは形を整え、筒状の棒へと差す。そして、手際よく握りばさみで摘んだり、伸ばしたり、刃を入れながら、あっという間にマツバギクの花を作り上げた。
「すごい、早いな」
「うん。昶の誕生花のマツバギクの方だねぇ」
 手際の良さに声を上げた昶に、北都も頷き、店主から受け取ったそれを昶へと差し出した。
 続けて、ナズナの花も作り上げられる。
「食べるのがもったいないくらいだけど、食べないからには感想も述べられないからね」
「早速、いっただきまーす」
 見た目を存分に楽しんだ後、2人はその飴細工を口にする。
 ほんのり淡い甘い味が口の中へと広がっていく。
「美味いな」
「うん、とても。お兄さん、いい仕事してるねぇ」
 素直な感想を店主へと告げた後、全てを食べ終えた2人は次の屋台へと向かった。

「お花のお菓子がいっぱいあるね!」
 影野 陽太(かげの・ようた)を差し置いて、彼のパートナーであるノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は1人、空京を散策していたところ、公園で花祭りが開催されていることを知り、訪れていた。
「お花のお菓子を食べ回るよー!」
 屋台を見回して、声を上げたノーンはぐっと拳を握り、意気込んだ。
 まずは何から食べようかと、1つ1つの屋台を見て周り始める。
 多くの菓子や食べ物に視線を奪われ、前方のことを気にしていなかったため、ノーンは前を歩く人とぶつかってしまった。
「わわ、ごめんなさいっ」
 反射的に謝罪の言葉を告げ、見上げると、泉 美緒(いずみ・みお)が佇んでいた。隣にはフェンリル・ランドール(ふぇんりる・らんどーる)の姿もある。
「いえ、こちらこそ立ち止まってしまっていましたので……もしかして、ノーン様でしょうか?」
 美緒が見上げてくるノーンの顔を見て、訊ねてきた。
「ワタシのことを?」
「ディーヴァとしてのご活躍のお噂は存じております。お会い出来て光栄ですわ」
 微笑む美緒に、ノーンは嬉しそうに笑み返す。
「良ければ、共に回らないか?」
 フェンリルの言葉に「喜んで」とノーンは返事した。
「お花そっくりでキレイだから、食べるのもったいない気がするね!」
 いくつかの屋台を見て回った後、砂糖菓子や飴などの花の形が良く分かるものを手に、ノーンは声を上げる。
「そうですわね。でも、食べてみないと折角の味も分かりませんわ」
 笑みながら、美緒は小さな砂糖菓子を口へと運ぶ。
「ふむ。見た目に負けず、味も良いな」
 先に食べ始めていたフェンリルは頷きながら味の感想を口にする。
「こっちのお菓子も美味しいよ!」
 食べて食べて、とノーンは2人に次々と菓子を勧めていった。

 そんな美緒とフェンリルの様子を探る影が1人。
 ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)だ――。
 フェンリルのパートナーであるウェルチへと2人の様子を伝えようと、探っているのだ。
 彼女のことが最近気になっていて、報告をすることで仲良くなることが出来ないだろうか、と考えた結果だった。
(互いのパートナーの仲は過去のことも含めて険悪のはず。2人の仲が発展しようものなら、面白いことになるんだよね)
 様子を窺いながら、そんなことを思う。