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不思議な花は地下に咲く

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不思議な花は地下に咲く

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 3−守護たる壁を薙ぎ払え ――鋼と魔法の協奏曲――

 それなりの広さの、それなりの洞窟内を、随分と大所帯であるく面々。愛美班――。
専ら彼女たちの話題は、愛美の事に集中している。
「それで、愛美はコウフクソウ? だっけ? を手に入れたら、何をお願いするの?」
 特に神妙な感じもなく、随分砕けた感じに愛美へと質問をする美羽を、隣にいるベアトリーチェが苦笑ながらに見つめていた。
「愛美さんのお願いですよ、私たちが聞かなくてもいいと思いますけど」
「えー、知りたいよぉ!」
「確かに俺も、それは気になるところだな」
 ベアトリーチェと美羽の会話に、後ろに控えていたエヴァルトも会話に混ざる。
「えー……っとね」
「愛美さん、困ってますよ」
 愛美が言葉に濁っているのをみた綺人が苦笑しながらやんわり静止する。
「でもさ、話によると結構危険だとか、何とか言ってたからね。それを冒してまでって言うのは気になるじゃない」
 光術で辺りを照らしながら先頭を進むリディアが、何の気もなしにそう呟いた。
「まぁまぁ。人それぞれ願い事ってあるもんだと思いますし、それが叶うならやっぱ探したくなるんじゃないですか?」
 和輝が笑う。
「そうそう、あんまり言いたくないお願いだってあるんだよ。みんなさ」
 アニスが少し顔を赤らめて、和輝の言葉に賛同した。
「実際、願い事がなきゃ話にはなりませんけどね」
 横からすっと、そんな事を言うスノー。当然その場にいる全員が苦笑を浮かべたのは、言うまでもない。と、どうやら何かしら決心がついたのか、愛美が「あのね」と切り出した。
「笑わない?」
 恐る恐る、と言うよりは様子を見るように呟く彼女。一同は黙って頷く。
「えっとね、私、どこかにいると思うんだよね。私の運命の人。それで――……その人と早く出会えたらいいなって、思ってて」
 彼女の言いかけた言葉に、数名の女性陣が反応を見せる。
「わかる! その気持ちすごくよくわかるよ!」
 最初はアニスだった。
「恋は大事、ですからね。うんうん」
 冷静ながら、隣のスノーも何処か感慨深げに頷いている。
「そうなのかなぁ……ボクにはよくわかんないんだけどさ」
 レキは少し不思議そうに首を傾げて言った。
「考え方は人それぞれ、と言う事ですよ」
 うんうん、と続けるかの様にカムイは頷いている。
「そんなもんかなぁ……」
 納得出来ていない様に腕を組み、レキは難しそうな顔をしたままに黙ってしまった。
「と、兎に角。私の願い事はその運命の人と早く出会うって事かな。みんなはあるの?」
 愛美が話題を切り替えようとそう言ったが、特に誰が返事を返すでもなく、結果その質問は沈黙のままに終わった。
「えぇ、私だけ言ったのってちょっとズルい気がするけど……」
「みんなないんじゃないの?だから何も言わないって事だと思うんだけど」
 至って普通に、ルクセンが呟く。
「でも、さっきみんながあるって……」
「それは仮の話、だろうな」
 エヴァルトは頷きながら言った。
「そっかぁ……」
「兎に角、この中の数名は、ただただ不思議な花を見たくて来てる、って人いますしね。もし願いがあるとしても、それは追々でいいじゃないですか」
 今まで黙って話の流れを聞いてた淳二がまとめ、話はひと段落ついた。



     ◆

 処変わってラナロック班では――……と言うと。
「何だかこの中、ムシムシしますわねぇ」
「仕方ないですよ、日光もなければ風も殆ど通っていない洞窟内部ですからね」
 先程から終始文句を言い続けるラナロックに対し、苦笑しながら満夜が言った。
「それはそうと――……」
 ミハエルが神妙な面持ちで口を開く。
「先輩、実戦経験は……」
「うん?それなりには、ありますわ」
 彼の質問に対してにっこりと笑顔で返したラナロック。
「ならば不躾で悪いが、二、三参考に伺いたい事があってな」
「ふぅん……私でお役に立つのなら、お答えしますけど」
 ミハエルの言葉に思わず彼の袖を引っ張る満夜。どうやら本当に彼女としては、今のミハエルの発言は不躾だと思ったのだろう。それは静止行動以外の何物でもない。が、その行動をどこで見ていたのか、ラナロックが笑った。
「そんなに気にしなくても良いですよ。こういう世界では強くなりたいと願う事は、何もおかしな事じゃないですしね。それに――」
「……それに?」
「“師”と呼ばれる存在が有耶無耶である以上、先輩として存在していればまた、そう言う役目もしないといけませんしね」
 二人は思わず言葉を呑んだ。今まで不機嫌極まりない、と言った様子だった彼女が、しかし随分と頼り甲斐のある発言をするのだから。
「ならば、お言葉に甘えるとしよう。ずばり、我々二人には近距離戦での心構えがまだない。自信がない、と言う方が適切か」
「接近戦、苦手ならお止めなさいな」
 ミハエルの真剣さとは逆に、ラナロックは笑っている。
「苦手を克服するのも強さ、苦手を認めて得手を伸ばすもまた強さ。ウォウルさんがどう言うかはさて置いて、少なくとも私はそう思いますけれどね」
 これには二人とも、成程、と言う表情を浮かべる。「じゃあ――」と、今度は満夜が言葉を放った。随分と思い切り、と言った感じの話し方である。
「あの……同性の先輩だから聞けますけど、その、恋愛とかって……」
「そ、そうですねぇ……私、そういうのは少し苦手ですよ?参考になる様な言葉はありませんし……」
「そうだぞ満夜。そんなものは二の次に」
「ダメですよ! 二の次じゃダメなんです! 大事な事なんですからぁ! そんなものって言わないで下さいよっ! もうっ」
「うっ……」
 満夜のあまりの剣幕に気圧されたミハエルが思わず言葉を呑む。二人のやや前方を歩いているラナロックも、それには苦笑いを浮かべるだけだった。と、ラナロックが途端に動きを止め、後方の二人も警戒する。
「あらあら、何か来ますわねぇ……」
「地鳴り!? 何が来るんですか!?」
「狼狽えるな満夜! 落ち着くのだ!」
 三人が三人で身構え、自分たちの武器を手に取る。すぐさま戦闘態勢を取る辺り、戦い慣れはしている様だ。
 と、三人の前に現れたのは、彼等の二倍、乃至三倍近くある巨体――ゴーレム。

『汝等――此処ヨリ、立チ去レ――!』

 狭い通路の天井を、側面を破壊しながら、ゴーレムはそう呟いて三人の元へと近づいてくる。
「大きい――っ!」
 満夜が思わず数歩分後ろに下がった。
「そうだ、ミハエル君。あなた接近戦が苦手、と、先程そう言っていましたわよね?」
「……?」
「付け焼刃、下手の横好き――言い方は何とでもあるんでしょうが、それでよければお見せしますわ。参考になるのでしたらなら、どうぞ」
 二人へと笑顔で振り返るラナロックは言い終るや、一足でゴーレムの懐へと飛び込んだ。両の手に握られているのは自動小銃らしきもの。接近戦で力を発揮する様な代物ではない。
「っ!? 死ぬ気か!」
 慌てて満夜、ミハエルが詠唱を唱え、魔法を発生させて後方支援を送る。
「先輩を守らないと……っ!」
「あれでは命が幾つあっても足らん!」
 二人はありったけの力で氷術をゴーレム目掛けて打ち込んだ。
「あらあら、私、出番なくなりそうねぇ」
 自分の後方から飛んできた氷術を躱しながら、ラナロックがくすくす笑って一人呟く。
「貴女たちだっていい物ものがあるんだから、それを無視する事はないんじゃないかしら。そのスタイルを貫くのも格好いいもの」
 両手に握られた銃をゴーレムへと打ち込みながら、彼女は近くの壁を蹴り、反対側の壁へと飛ぶ。
「……あれで、下手の横好き?」
 満夜は思わず言葉を止めた。が、それも直ぐに終わる。ゴーレムの振り上げた腕がラナロックの体を捉え、彼女は紙切れ宜しく吹き飛ばされた。
「先輩!?」
「……うーん、最近運動不足ね、体動かなくなっちゃったわ」
 苦笑しながら、しかし随分とダメージが大きいのか、その場から動こうとしない。
「どうしましょう!? 先輩が……」
「我輩が注意を引くから、その隙に先輩を」
 ミハエルが満夜、ラナロックの前に躍り出る。満夜はラナロックの元に駆け寄るが、手を貸そうとした瞬間。
「駄目よ、満夜ちゃん。彼の後方支援に。私は大丈夫だから」
「……先輩」
 初めは心配そうな顔をする満夜だったが、あまりに頑ななラナロックの表情を見て、渋々頷く。振り返って、彼女は呟いた。
「私だって……私たちにだって、出来ますもん!」
 鋭利な氷の氷柱が、彼女の正面に踊っている。