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リアクション
★ ★ ★
「高い、貴金属!」
「おい!」
「ゲーム!!」
なんだか異様にテンションの高いカップルに負けないテンションで、アニメ大百科『カルミ』たちはゲームセンターに突入していった。
「新しい格ゲーが、ここロケテしてるという情報をつかんだんですよー。ぜひ、マスターと戦いたいんです」
アニメ大百科『カルミ』が、ニコニコしながら人だかりのしているゲーム機の所へ健闘勇刃を引っぱっていった。
「結構人がいるなあ」
「あたりまえなのです。これは、大人気アニメの『アタッカー・ブラスター』の対戦シーンを元にした、今期最高最強の……」
えんえんとアニメ大百科『カルミ』の蘊蓄が続く間に、順番が回ってきた。
「……ということで、ぜひダーリンやセルマさんにやってほしいんです!」
「はいはい、今やるから……おや?」
ゲーム機の前に座った健闘勇刃であったが、コインを入れたとたん、画面に花火が打ち上がった。
「おめでとうございます、このゲーム7777戦目のプレイヤーです。お二人には、プリクラ無料券をさしあげます」
たたたたーっと駆け寄ってきたゲームセンターのお姉さんが、チケットを健闘勇刃に手渡した。
「へ〜、よし、後で行ってみようぜ」
チケットをアニメ大百科『カルミ』に渡すと、健闘勇刃はセレア・ファリンクスと対戦してみた。なんのことはないエフェクトが派手なだけの普通の格闘対戦ゲームではあるのだが、さすがに、こういう物は健闘勇刃の方が得意だ。あっけなくストレート勝ちした後で後ろの人に譲ると、プリクラの方へと移動していった。
「もっと堪能してほしかったです!」
ちょっと不満そうなアニメ大百科『カルミ』であったが、プリクラがコスプレプリクラだと知ると、がぜんそっちの方にやる気を出した。
「ダーリン、ちょっと待っててね。のぞいちゃだめですよ」
のぞいてほしそうな一言を添えると、アニメ大百科『カルミ』たちが更衣室の中に入って行った。健闘勇刃は外で留守番だ。さすがに一緒に中に入るわけにはいかないし、どうも衣装は女性用しかないようだった。へたに着替えることになって、女装させられるのだけは避けたかった。
「えーっと、いかがでしょうか……」
「うっ、なんて格好を……」
真っ先に中から出てきた天鐘咲夜が、健闘勇刃におずおずと訊ねた。白い極端なハイレグのレオタードというレースクイーンの衣装だ。なんで、こんなきわどい物がおいてあるのだろう。
健闘勇刃が口許を握り拳で隠して、思わずにやけてしまった顔を見られまいとする。
「二人に負けられないと張り切ったんですけど……、やっぱり、似合いませんか?」
「い、いや、実に似合ってるぞ」
本心だが、なんとなくごまかしているような口調で、健闘勇刃が答えた。
後の二人がなかなか出てこないので辛抱強く待っていると、同じように待ちくたびれた天鐘咲夜が、クレーンゲームの方を見ている。
「暇だし、やってみるか」
健闘勇刃が、暇潰しにとぬいぐるみ取りに挑戦した。一度目は後ちょっとという所で、バランスを崩してクレーンからぬいぐるみがすり落ちてしまった。ちょっとむきになって、三度目でようやくカエルのぬいぐるみをゲットする。
「わあ、出てきました! 凄いです、健闘くん! このぬいぐるみ、大事にしますね!」
もらったぬいぐるみをだきしめて、天鐘咲夜が言った。
そのころには、ようやく着替え終わった二人が出てくる。
アニメ大百科『カルミ』は、魔法少女の格好をしていた。「魔法少女ペリカ」とかいうアニメのヒロインらしいのだが、なんのアニメ化分からない健闘勇刃はかわいいねとしか言いようがない。まあ、嘘ではないので、問題はないだろう。
で、セレア・ファリンクスだ。どうも、アニメ大百科『カルミ』に衣装を押しつけられたらしい。アニメ大百科『カルミ』曰く、最強の防御力を誇るビキニアーマーだというのだが、どう見てもただのビキニの水着だ。いったい、どこにアーマーと呼べる部分があるのだろうか。だいたいにして、布自体が少なく、上下とも、そのパーツの大半は紐である。
さすがに、この集団は人目を引きやすい、というか、エロい意味で人目をはばかる。
「さあ、揃ったんだから早く写真を撮ろうぜ」
健闘勇刃は、そそくさと三人をプリクラのシートの中へと押し込んだ。多いのシートの下から、健闘勇刃のズボンを穿いた足の他に、三組のすらりとした生足がのぞく。
「さあ、撮るぞ!」
少し前屈みになったアニメ大百科『カルミ』と天鐘咲夜を後ろで健闘勇刃とセレア・ファリンクスがささえる形で、パチリとシャッター音が響いた。
★ ★ ★
「涼司いるといいね」
火村 加夜(ひむら・かや)に手を引かれて蒼空学園内の廊下を歩きながら、ミント・ノアール(みんと・のあーる)が言った。
いつもであればね学園内は学生たちでごった返しているのだが、今日は休日なのでそれもまばらだ。
学校の授業そのものは休みとはいえ、パラミタの学生たちは勉学以外にも様々な仕事をこなしてもいる。特に、それらを統括する校長室は休みなしだと言ってもいい。
もちろん、すべてに対して校長が対応するわけではなく、そのほとんどは事務局の方で管理している。様々な依頼の管理は、それら職員の手による物だ。とはいえ、中には極秘の仕事という物もある。校長直々に依頼内容を説明すると言うことも少なくはない。
「だから、きっと涼司くんは忙しいと思うの。だって、校長先生なんですもの」
一生懸命作ってきたお弁当の入ったバスケットを手に持って、火村加夜が言った。本当は山葉 涼司(やまは・りょうじ)校長も休んでくれればいいのだが、立場上そうもいかないことが多いのだろう。だって、デートの時間さえ、なかなか取れないのだから。
「うん。僕も手伝ったんだから、きっと涼司も喜んでくれるよ」
「そうだといいねー」
多くの期待と微かな不安を胸に、火村加夜は校長室の扉をノックした。
「入っていいぞ」
ドアのむこうから山葉涼司の聞き慣れた声が返ってくる。
――いてくれた。
火村加夜は、思いきり校長室のドアを開けた。
奥に位置する校長用の大きなデスクに、山葉涼司が腰をおろしている。あまり行儀がいいとは言えないが、山葉涼司らしいとは言えるだろう。
――やっぱりちょっとやつれてるかな?
じっと、山葉涼司の顔を見つめて火村加夜が思った。
「どうした、なんの用だい。今ある情報は……」
なるべく仕事然として応対する山葉涼司の前に、火村加夜は持っていたバスケットをポンとおいた。
「おべんと」
言われて、山葉涼司がちょっとあっとした顔になる。
「そうだな。腹が減ったな」
デスクの上から降りて、山葉涼司が言った。
「リンゴのうさぎさんは僕が作ったんだよ」
「そりゃ、楽しみだ」
ミント・ノアールの頭をなでてやりながら、山葉涼司が言った。
その間に、火村加夜がお弁当を広げ始める。
「さあ、めしあがれ」