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学生たちの休日7

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学生たちの休日7

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    ★    ★    ★
 
「で、ここはいったい何なんだよ!」
 薄暗い通路を飛空艇で進みながら、ココ・カンパーニュは叫んだ。運転しているペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)がライトで通路の先を照らすが、どうにもここがなんであるか分からない。遺跡の一種のようだが、それにしてはずいぶんと壁とかは金属的だ。明るい部屋などもあり、所々土とかは堆積していたりするようだし、どこからか入り込んだらしい草木も生えていたが、ここが人工的な場所であることは間違いがなかった。
 通路にしたって、ゴチメイたちが使っている中型飛空艇が楽に通ることができる。さすがに、後ろをついてくるジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)は窮屈そうに翼を半分たたんでいるが、場所によってはイコンも通れそうな大きさがある。
 だいたいにして、ここに入れたときからして胡散臭い状況だった。
 
 アルディミアク・ミトゥナが茨の茂みに呑み込まれたというところまでは、ココ・カンパーニュたちの必死の捜索で分かったのだが、肝心の茨は星拳エレメント・ブレーカーを使っても一時的に傷つけられるだけで、中に入ることができなかったのだ。
「これは、凄く強力な結界ですねえ。純粋に魔法……というわけでもなさそうですし、どういう原理になっているのでしょうかあ」
 チャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)も小首をかしげて不思議がった。彼女の魔法も、リン・ダージ(りん・だーじ)の銃撃も、マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)の轟雷閃も、わずかに傷つけることはできるのだが、ダメージ自体が茨に吸収されてしまうかのように、まったく決定打とはなり得ないでいるのだ。しかも、多少の傷はすぐに茨が増殖して塞いでしまう。
「この中に、いったいどうやって入っていったのでしょうか」
 慎重に茨を調べながら、ペコ・フラワリーが言った。
「燃やせちゃえばいいのに」
「さっきから火を使っても、消えちゃうじゃないか。だめさ」
 業を煮やすリン・ダージに、マサラ・アッサムが言った。
「待て、何かいるぞ」
 微かな気配を感じてジャワ・ディンブラが注意をうながした。
 少し離れたところに、ふわふわと小型の機晶姫が浮遊している。
「おい、そこのちっちゃいの!」
 不用意にココ・カンパーニュが怒鳴ると、機晶姫が一瞬、チラリとゴチメイたちの方を見た。直後、メキメキと茨が軋んだ。突然洞窟のような入り口が広がり、その中へ機晶姫が姿を消す。
「これは、洞窟って言うには変ですねえ」
 突然姿を現した通路を見て、チャイ・セイロンが言った。どう見ても、茨の隙間というよりは、人工的なチューブのような通路がそこにあった。
「ここに来てはいけません」
 中に入ろうとしたココ・カンパーニュの前に、剣の花嫁らしきドレスを纏った娘が突然現れて立ち塞がった。
「この中に、誰がいるんだ?」
「入ってはいけません」
 ココ・カンパーニュが訊ねたが、娘はそう繰り返すだけだった。
「何、この子?」
「霧の作った、幻影のようですねえ。壊れて、同じ所を繰り返すビデオみたいな物でしょお」
 むっとして娘を睨みつけるリン・ダージに、チャイ・セイロンが説明した。
「なら無視すればいいじゃん」
「そうだな、中に入るよ。ここにいたって何にもならないからね」
 マサラ・アッサムの言葉に、ココ・カンパーニュが決断した。
「先は長そうです。一気に行ってしまいましょう」
 機会は逃せないと、ペコ・フラワリーが飛空艇を回してきた。全員でそれに乗り込むと、一気に通路に突入した。すぐ後を、ジャワ・ディンブラが続く。それを見送った娘は、悲しそうな目をしてどこかへ行ってしまった。
 ゴチメイたちが中に入ると、ほどなくして通路が生き物のように引っ込んでいった。すぐに、押しのけられていた茨たちが復活してその隙間を埋めてしまった。後にはなんの痕跡も残らなかった。
 
 こうして長い通路だかチューブだかを一気に抜けたゴチメイたちは、遺跡らしき物の中に入れたのだが、複雑で巨大な遺跡の構造に翻弄されていた。闇雲に移動しても、アルディミアク・ミトゥナを捜し出せそうにない。
「なあに、家ごと中に入ってきてるんだ、ここに居座って絶対に見つけだしてやる」
 それなりの食料は積んである飛空艇を頼もしく思いながら、ゴチメイたちは遺跡の奥へと進んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「二人共頑張れー」
 光る箒に乗って充分に距離をとったところから、シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が、ルイ・フリード(るい・ふりーど)ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)に声援を送った。
「さてと、そろそろお願いいたしましょうか。もちろん、手加減は無用ですよ。こちらも全力でいかせてもらいます。戦闘開始。いきますよ。
「くくく……、よし、相手になってやろうではないか!」
 言うなり、ジークフリート・ベルンハルトの身体が黒く霞み、その周囲から暗黒が放たれ始めた。
「黒の衣装は伊達ではないんだよ」
 漆黒の衣装が闇に消えていく中で、ジークフリート・ベルンハルトが不敵に告げた。
「やはり、魔法主体ですか」
 ルイ・フリードが、すかさず遠当てを放った。
 暗黒を展開しつつ、ブリザードの詠唱に入っていたジークフリート・ベルンハルトが直撃をくらってぐらつく。まだ暗黒を広げきっていないうちにくらった攻撃は、牽制とは言えかなり痛い。リジェネーションで耐えつつも、なんとかブリザードを完成させる。
 一気に間合いを詰めようとしていたルイ・フリードではあったが、さすがに帯域魔法は大きく移動して避けるしかなかった。その間に、ジークフリート・ベルンハルトが自分の周囲に氷術で氷柱を次々と作りだし、敵を誘うかのように後退していく。
「逃がしませんよ」
 氷柱を粉砕しつつ飛び込んでくるルイ・フリードを、闇術で作りだした闇でジークフリート・ベルンハルトがつつみ込もうとした。その闇の後を追いかけるようにして、鬼神力で強化した一撃を叩き込もうと狙う。だが、ルイ・フリードが鳳凰の拳で粉砕した氷柱の破片が容赦なくむかってきてジークフリート・ベルンハルトの身体に突き刺さった。なまじ身体が大きくなっているため避けようがない。
「試してみますか」
 弾け散る氷の気配に敵の位置を闇の中で確定したルイ・フリードが、火術で自らの拳を炎でつつみ込んだ。そのまま、疑似爆炎波とも言える一撃で決めようともくろむが、攻撃魔法を自身に使うのであるから、当然相手に与えるダメージとほぼ同等のダメージを自分も被る。魔法耐性なり、耐える手立てを考えていなければ、はっきり言って自滅技だ。しかも、一定時間炎を纏うのはかなり難しかった。実用とするならば、打撃と同時に0距離で火術を拳から放つ方が現実的だったであろう。とはいえ、もろに反動はくらうのでそれなりの対策か、発動と同時に敵を吹っ飛ばして距離をとるタイミングをうまく計らなければまたもや自滅技になりかねないが。
「あちちちちっ……!」
 案の定、自滅したルイ・フリードが、あわてて拳をつつんだ炎を振り消そうと、大きく右手を後ろへと振った。そこへ、背後からダメージを与えようと、ジークフリート・ベルンハルトがサイコキネシスで投げつけてきた氷柱が迫る。偶然、ルイ・フリードが振った拳が、氷柱を粉砕した。
「見破っただと!?」
 必殺のタイミングを外されたジークフリート・ベルンハルトが、氷塊の破片でぼろぼろになりながらも、ルイ・フリードの眼前に迫った。
「もらった!」
 強力な一撃が、ルイ・フリードの顔面に炸裂した。だが、普通ならそのまま吹き飛ばされるところを、ルイ・フリードはまばたき一回の間耐えて立ち続けた。
私の信念とその思い、あなたに受けきれますか
 カウンターの鳳凰の拳が、ジークフリート・ベルンハルトのボディに炸裂する。
「なんだかよく見えないなあ」
 上空にいたシュリュズベリィ著・セラエノ断章が、闇の中でごくわずかな時間の間に繰り広げられた攻防を見届けようと目を凝らした。そこへ、闇の中から別々の方向へと、ルイ・フリードとジークフリート・ベルンハルトが吹き飛んできた。
「あらら、ダブルノックアウトだね」
 救急箱を持って、シュリュズベリィ著・セラエノ断章は地面で大の字にのびている二人めがけて降りていった。