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第十三章 ムームーレース2

 一面を緑の芝生が覆うムガンダ草原。
 本日ここで開催されるムームーレースへの参加登録を終えたカーマインは、サンコブラクダに乗ってスタート地点についた。
「やはり、何をするにもお金は必要ですからね。教会を立てるにも布教用のチラシを配るためにも、このレースで優勝して賞金を手に入れなければ。ついでに手に入れた遺跡の地図は呪詛子様に差し上げることにすれば万事上手くいきますね」
 ドン! という号砲とともにカーマインはフタコブラクダを走らせた。
「へいへい、置いてくぜ〜」
 そのカーマインの脇を複数のホース系モンスターが通り過ぎる。
「……」
 だが、カーマインが焦ることはなかった。
「このレースは速さを競うものではありません。いかにしてこの長い距離を一定の速度で走ることが出来るか、それが勝利の鍵なのです。いずれ彼らのモンスターは息切れを起こすでしょう」
 カーマインは余裕の表情でサンコブラクダを走らせた。

「うはwww ラクダに何か乗ってる馬鹿がいるぜwww」

 さすがにこれにはムっときたカーマインが声の方向を見ようとすると、凄まじいスピードで黄金色の獣が通り過ぎた。
「はええええwww さすがチィちゃんだぜwww」
 大きなネコに乗った小さなネコ、ではなくキングチーターの乗ったクロがどんどんと他の参加者を抜き去っていく。
「優勝して金儲けだぜwww」
 キングチーターは快調に走り続け、クロはあっという間に一位に躍り出た。
「グッ……キングチーターとは中々やりますね。ですが、瞬発力に特化したモンスターは後半に順位を落とすはずです」
 カーマインは唇を噛みしめた。
 その先、一位を独走し続けているクロは、鼻歌交じりに牧草地帯を抜けて土が露出したあぜ道に入る。
「楽勝すぎwww ワロタwww」
 笑いが止まらないクロだったが、突然下の方から地鳴りが聞こえてくることに気付いた。
 そして、次の瞬間には巨大なジャイアントワームがクロたちの数十メートル前に出現した。
「あら、わたくしが一番かしら」
 ジャイアントワームの上で、かつて呪詛子にブライトシャムシールを渡した魅華星がいた。
 銀色の髪の毛を靡かせながら、テーブルを囲んで優雅にお茶を飲んでいる。
「ちょ…… それは反則だろ…… ワロエナイ……」
 クロの落ち込みに同調するかのように、全力疾走がたたってすっかりと体力を使い果たしていたキングチーターは徐々に速度が落ちていった。
 
 レースも中盤に差し掛かった頃、少しずつ順位を上げていたカーマインは、最初の自分を抜いていったクロの姿を確認してほくそ笑んだ。
「ふふふ、順調ですよ」
 だが、カーマインには先ほどから気になる存在があった。彼と並走するかのように走っている四人乗り連結自転車の方をチラリと見る。
「おうおうお前ら、もっとペダルを漕ぎやがれです!」
 先頭の自転車に乗っているミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は、後ろの方で必死にペダルを漕いでいる犬・猿・雉を叱咤激励した。
「クッ……何でオレ様が人間なんかの指図を受けなくちゃいけないんだ」
 猿が不服そうに他の二匹に話しかける。
「おっ、そこ聞こえてるよ! いいのかな〜ミーナのだんご食べられなくても」
 ミーナは釣竿の先端にだんごを付けて、犬・猿・雉の目の前にひょいひょいと泳がせる。
「ば、馬鹿、あのだんごが食えなくなってもいいのか!」
 ミーナのすぐ後ろの犬が、その後ろにいる猿を強く咎める。
「ああ……だんご。君はどうしてそんなに美味しいんだい」
 そして最後尾。だんごの魔力と長時間の運動によるランナーズハイなのか、雉はうっとりとした表情でペダルを漕ぎ続けていた。
「ふふっ、順調だね。ミーナがせっかく一晩中考えた『おうおう!お姉ちゃんたち、いい武器装備してるの!ミーナによこせばいいと思うよ?』ってセリフを無視して、そのまま通り過ぎた伊集院呪詛子と内山英彦に復讐するんだから!」
 ミーナはだんごを二つに増やし、犬・猿・雉のペダルスピードをさらに上げさせる。
「もっともっと桃太郎号の順位を上げるのです! 優勝したらだんご100個だからね!」

「うぉおおおおおおお!!!」

 犬・猿・雉は猛然とペダルを漕ぎ始めた。
「こ、こいつらには勝てないかもしれない……」
 隣から見ていたカーマインは異様な光景に圧倒され、どんどんと先を行く桃太郎号を黙って見送った。