百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

シャンバラ鑑定団

リアクション公開中!

シャンバラ鑑定団

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「それでは、どんどんいきましょう。エントリーナンバー3、ミケネコファイターサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)さんです。なお、つきそいで白砂 司(しらすな・つかさ)もいらしています」
 シャレード・ムーンに呼ばれて、サクラコ・カーディが白砂司の背中を押しながらステージに現れた。
「それでは、お宝を拝見しましょう」
 シャレード・ムーンの言葉とともに、ワゴンの上に掛けられていた布が取り払われた。その下から、一冊の本が現れる。
「これはいったいなんなのでしょうか?」
「俺から説明させてもらおう。この『桜獣説話集』は、ジャタの森のネコ科獣人部族『猫の民』の集落近く、同部族がかつて使っていた古い墳墓から発見された書物だ。古王国時代に活躍していたとされる……」
 長くなりそうなのでダイジェストでお伝えしよう。この古書は……。
「こら、待て、本放送でカットしようなどと……こら!」
 白砂司がえんえんと説明するが、こういった場合、ナレーションで省略されるのはお約束である。
 『桜獣説話集』と銘打たれたこの古書は、ジャタの森の一部族に伝わるとされていた本であり、その内容は古王国時代に活躍したとされる獣人の逸話を集めた物とされている。(詳しい情報をお知りになりたい方は、リモコンのdボタンを押してください)
 収録されているエピソードは、文体も内容もまちまちであり、編者も不明のことから、数百年から数千年前にかけて段階的に纏められていった物と推測されている。おそらくは、書き手も複数が存在するのではないだろうか。
「だから、この本の研究によって、持ち主である族長家のイエネコの長女は『サクラコ』の名を貰うというしきたりの由来となる部分が解明されたわけだ。収録されている逸話には、桜子の名前が、主君にあたる人物が桜にちなんで授けた称号であるということと、称号とセットのイコンらしき物があるということが明記されている。民族学的見地から見ても、非常に貴重な資料と言える物なのだ」
「なのです。えっへん」
 白砂司の説明に、持ち主であるサクラコ・カーディが胸を張った。
「私の御先祖様の冒険ありラブストーリーありの数奇な運命が様々な解釈から記述されてます。読み物としても面白いですよっ」
「なるほど。では、鑑定士の皆さんに鑑定していただきましょう」
 シャレード・ムーンに呼ばれて、イグテシア・ミュドリャゼンカ、イーオン・アルカヌム、土方歳三らが、白手袋を填めた手で慎重にページをめくりながら鑑定を進めていく。何やら、結構議論となっているようだ。
「おばあ様と同じ桜という名前の猫さんですって」
「凄いお話みたいですね」
 内容に興味を持ったアンネリーゼ・イェーガーと笹野朔夜(笹野桜)が、二人共、目をキラキラとさせて鑑定結果を待っている。
 ――いえ、桜と言っても桜さんとは関係ありませんから。
 笹野朔夜が突っ込んだが、みごとにスルーされた。
「それでは、希望価格の提示をお願いします」
「はいっ!」
 シャレード・ムーンに言われて、サクラコ・カーディがフリップを高々と掲げた。
「100万ゴルダですっ!」
 いや、さすがにそれは無理があるのではないだろうか。
「大きく出ましたねー。さあ、はたして、希望通りの国宝級のお宝なのでしょうか。オープン・ザ・プライス!」
「えいっ!」
 鑑定結果が書き込まれたフリップを大谷文美から手渡されたサクラコ・カーディが、勢いよくそれをひっくり返した。
 2828!!
 客席から、おおと残念な溜め息がもれる。
「では、鑑定士の方々の意見を聞いてみましょう。アルカヌム先生、この価格はどういうことなのでしょうか」
 シャレード・ムーンが、解説をイーオン・アルカヌムに求めた。
「これでも充分高いと思う。まず、本の材質なのだが、ページごとにまちまちになっている。これは、キミたちの言うように、長い時代を経て編纂されたものであることを物語っている。事実、収録されている逸話には、明らかに同じ話が変化しているものがあった。ストーリーが同じで結果が違う。これらは、収録された時代が明らかに違うはずだ。その意味では、この変遷を追うことで、民族学的価値はかなり高いとも言える」
「よっ、説明が固いぞー」
 客席から、フィーネ・クラヴィスがヤジを飛ばした。さすがに、むっとしてイーオン・アルカヌムが言葉を句切る。
「だったら、もっと価値が……」
 明らかに、白砂司は不満そうだ。
「問題は、装丁が美術品として保存状態が最高ではないということもあります……」
 途中から、イグテシア・ミュドリャゼンカが引き継いだ。
 そう言われてしまってはと、白砂司がチラリとサクラコ・カーディの方を見る。結構喜んで何度も読み返していたサクラコ・カーディであるが、ずぼらな彼女のことだから扱いが多少ぞんざいであったのかもしれない。
「この内容に関しての書物が一冊しかないというのが、いけません。データを検索したのですが、過去の獣人に関しての資料は意外と乏しく、やれ、生体兵器として生み出されたとか、人と獣が熱愛によって結ばれた結果生まれただとか、実は人間やヴァルキリーよりも古い種族であるだとか、本によって内容がすべて違っている状態ですわ。そのため、そのほとんどは、後世の創作であるとする研究家もおりますの。本ですから、写本が他に数冊存在すれば、その時代にある程度浸透していた情報であることが実証されるのですが」
「うむ。なにしろ、途中に、漫画が挟まれているぐらいだ。物語の時代を特定するのにはさらに研究をせねばな。特に、イコンに関しての記述だが、もし琴音ロボのようなイコンが発見されたらどうする」
 いや、それはそれで……。
 実際には漫画ではなく絵草紙が混じっていたわけなのだが、土方歳三にとってはそれもりっぱな漫画ということらしい。
「とはいえ、貴重な資料であることには間違いはありませんわ。さすがに100万は言い過ぎですけれど、充分高額がついていますわ。あくまでも、これは、美術品としてオークションに出した場合の価値ですので、研究者が買いたいという場合は、もっと高額になるかもしれませんわよ」
「それでは、この本の内容は……、あっ、こら、待て、どこへ持っていく!」
「回収いたしまーす」
 シャレード・ムーンの指示で、日堂真宵が、お宝の載ったワゴンを押してさっさと引っ込んでしまった。あわてて、白砂司とサクラコ・カーディがその後を追っていった。