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盗まれた機晶爆弾

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盗まれた機晶爆弾

リアクション

   9

 時間を少し戻す。
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の三人は、手分けしてショッピングモールを一通り探索した。
「どうだ? 怪しい奴はいたか?」
 グラキエスの問いに、いいやとベルテハイトはかぶりを振った。
「そうか……絶対にどこかだと思うんだがな」
「広いからな。お前の【トラッパー】や【破壊工作】でも、見つけるのは難しいだろう」
「一般人も多いショッピングモールを狙うであろうというグラキエス様の考えは正しいと思いますよ。目的が、テロであればですが」
「エルデネスト、貴様、何を持っている?」
 エルデネストは、品のよいグリーンの紙袋を提げている。
「貴様、呑気に買い物をしていたのか?」
「爆弾ありますかなどと行って店に入るわけにいかないではありませんか。店内を見ていたら勧められて、買わないわけにいかなかったんですよ」
 ちなみに茶葉と菓子である。
「うまい言い訳だな」
 エルデネストがそれらを欲しがっていたのを、ベルテハイトは知っていた。
「犯人像を考え直すべきか……?」
 グラキエスは口元に手を当て、考え込んだ。
 と、その尻にどしんと何かがぶつかった。
「何者だ!」
 ベルテハイトが咄嗟に【サンダーブラスト】を発動しかける。
「敵ではないようですよ」
 エルデネストがやんわり遮る。
 グラキエスが振り向くと、チアリーダーの衣装を着た桜月 舞香(さくらづき・まいか)だった。頭と腰を擦っている。
「何かに当たったか?」
 グラキエスは、機晶爆弾やヴァジュラやら身につけている。つむじにぶつかったら痛いだろうと彼は思った。それとも当たったのは腰か?
「いやいや、爆弾探してずーっと道路を見てたからくたびれちゃって」
 舞香はきょときょとと周囲を見回した。
「あれっ? ショッピングモール? あたし、空大にいたはずなんだけどなあ」
「空大からずっと屈んで歩いてきたのですか?」
「うん。学長や学校上層部の人たちが歩くところをずーっと辿ってきたの。敵の狙いは空大そのものだと思うのよ」
と言ってから、舞香は「あ」と小さく声を上げた。
「あなたたち、この話は知ってた……?」
「ああ。俺たちも爆弾を探していたんだ。てっきりショッピングモールが狙いと踏んでいたんだが……」
「爆弾は五つあるから、可能性はあるかもね。あ、停電爆弾は解除されたって聞いた?」
「本当か? それはよかった。残るは、四つか」
「時限式、地雷、手榴弾にナパームね」
 舞香は指を折って嘆息した。「早いところ、見つけたいわね」
「ああ。時限式なら店内、地雷なら、――そうだな、俺ならこの近くに仕掛けるな」
 グラキエスが呟いたその時、モールの反対側が妙に騒がしいのに気づいた。ざわ、ざわ、どよ、どよ、どん、どん、とその音は大きくなっていく。
 客が何人も駆けて来た。グラキエスはその一人の腕を掴んだ。
「何があった!?」
「爆弾だよ、爆弾!」
 四人の顔色が変わる。
「解体するってんでよ、空飛んでったけど、爆発したらやばいだろ! あんたらも逃げた方がいいぞ!」
 その男はグラキエスの手を払いのけると、モールの外へ逃げ出した。
 男の話を聞いた誰かが、金切り声を上げた。
「爆弾よ!」
 更にその声で「ぎゃー!」と誰かが叫んだ。
 それがきっかけだった。
 全ての店から客が飛び出し、手近な出入り口へ殺到した。子供が転び、泣き出した。子を探す親の声は「逃げろ」「どけ!」という声にかき消された。
「何とかしなきゃ!」
 舞香は飛び出そうとしたが、グラキエスに止められた。「今行けば、巻き込まれるぞ」
「でも!」
「グラキエス、何か飛んできたぞ」
 ベルテハイトが指差した先に、【我は纏う無垢の翼】ですうっと飛んできた九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)の姿があった。グレイスフルローブを身に纏い、清楚なウィンブルで顔を隠したローズの姿は、手にした「ヱホバの長弓」のためだろうか、まるで神の使いのようだった。
 ローズは人々の上に立つと、おもむろに、「ヱホバの長弓」の弦を鳴らした。
 それを聴いた人々の反応は様々だった。舞香のように「綺麗な音……」とうっとりする者もあれば、同時に降り注いだ光の矢に打たれ、倒れこむ者もあった。
「落ち着きなさい。順番に、整然と逃げるんです。慌てれば、それだけ避難が遅れますよ」
 ローズの声は、神の啓示のように人々に届いた。
「行こう」
 グラキエスはパートナーたちと、舞香を伴い、避難誘導に当たった。
 ローズは地面に降り立つと、ローブをウィンブルを外し、ロングブーツにデニムパンツ、ライダースジャケットという普段着になる。
 そして座り込んでいる帆村 緑郎(ほむら・ろくろう)を見つけた。光の矢に打たれたらしいが、だからといって彼が悪人とは言えない。パニックを起こしたほとんどの人は、自分が助かることだけを考えていた。あの矢で我に返った者も多いはずだ。
 ローズは緑郎に手を差し伸べた。
「さあ」
 緑郎はローズに促されるまま、出口へと向かう。
「こっちですねー」
 テルミ・ウィンストン(てるみ・うぃんすとん)は真っ先に出口へと歩いていた。彼は教導団の情報科に所属している。故に目立つわけにはいかない。さすがにパニックが起きたときは、何か一発ドカンとやってやろうかと思ったが、ローズのおかげで事態は落ち着いた。
 今は自分が先頭に立つことで、間違った方へ行かないよう、誘導するのが肝心だ。
 ――しかしあの光の矢はちょっと痛かったな、とテルミは思った。


 テルミとローザの誘導によって避難する一般人の中に、トマス・ファーニナルとミカエラ・ウォーレンシュタットの姿があった。爆弾の臭いを追ってここまで来たのだが、混乱に巻き込まれ、あれよあれよいう内に身動きが取れなくなってしまったのだ。
 これで教導団員とバレれば「何とかしろ!」と怒声を浴びそうなものだが、幸いにして、周囲はコスプレとしか思わなかったらしい。
「流れに乗って、いったん外へ出るのがいいわね」
 ミカエラが言った。
「このままじゃ、爆弾探しなんて出来っこないから、人がいなくなってから戻りましょう」
「そうだね。――ん?」
「どうしたの?」
 トマスの鼻がひくひくと動いた。
「臭う……」
「爆弾の?」
「じゃなくて、西門の」
「どっちも一緒よ。でも待って。ということは――」
「いるんだ。犯人がこの中に」
 トマスとミカエラは周囲を見回した。
 が、人の壁・壁・壁という状態では、到底見つけることは出来なかった。