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リアクション
8
夜月と白羽は、籠手型HCを通して爆弾の情報をUPしてもらった。それから、間違った品が渡されたこと、お詫びの品の代わりに商品券を差し上げますとショッピングモール全体に放送してもらった。これは親に向けての内容だ。
ショッピングモールとしては手痛い出費だったが、事の重大性にすぐ動いてくれた。
集まったおもちゃは五十個ほどだろうか。中には明らかにどこかで買った偽物も混ざっていたが、時間がないので追求は後回しだ。
何事かと寄ってくる野次馬には、師王 アスカ(しおう・あすか)と蒼灯 鴉(そうひ・からす)が応対した。ただで絵を描いてやれば親も喜ぶし、ワイルドペガサスを置いておけばそれだけで子供たちは大はしゃぎだ。
ぬいぐるみを一つ一つ見ていき、三十九個目で目当ての品を見つけたのは、午後二時五十五分だった。
「まずい。後五分だ」
白羽は呟いた。先に皆を避難させるべきかどうか。しかしたった五分では、パニックを起こさせるだけだ。白羽は素早く次の選択をした。小型飛空艇アルバトロスに乗り、空へと飛び上がる。
「待ってなの!」
大荷物を抱えた朝野 未羅(あさの・みら)がやってきて、飛び乗った。アスカと鴉も、ワイルドペガサスで後を追う。ペガサスが羽ばたくと、ゴミやチラシが吹き飛び、子供たちが歓声を上げた。
「何だお前は!」
「<アサノファクトリー>なの」
未羅は何でもないように答え、飛空艇に道具をぶちまけると、さっさと爆弾の蓋を開けてしまった。
「アスカ、こいつを頼む」
「鴉!?」
ワイルドペガサスの手綱をアスカに任せ、鴉もアルバトロスに飛び移った。
「ちょっと! 定員オーバーだって!」
機晶姫の未羅自身と、彼女の道具がかなり重く、そこにプラスされた鴉の体重でアルバトロスが傾く。
「命が惜しければ、黙って操縦してろ。いざとなったら、俺がこいつを凍らせる」
「いざってことはないの」
未羅は器用に部品を外し、順調にリード線を切っていったが、一分前になって手を止めた。
「どうした?」
「白と赤と黒とどれが好き?」
「はあ!?」
「ワイヤージレンマ〜? 映画みたい!」
馬上のアスカが、スケッチブックを手に浮き浮きした声で言った。解体の様子を全てスケッチしていたのだが、最後に来て映画やドラマでお約束のシーンを目の当たりにし、芸術的だと喜んでいる。
「アスカ、あのな、そういう場合じゃ――」
「……とこ」
「え?」
未羅が鴉を見て、口をぽかんと開けている。
「男の人……」
「確かに俺は男だが」
カラン、と未羅の手からペンチが落ちた。今まで解体に集中していて、目の前の鴉が男であることに気づいていなかったらしい。
「お、おい!?」
鴉は未羅の肩を掴み、前後に揺さぶった。未羅の頭がぐらぐら揺れるが、硬直したままだ。
「どれを切ればいいんだ!? クソ、凍らせるか――!」
鴉は「ダガー・タランチュラ」を抜いた。が、
パチン!
彼が【アルティマ・トゥーレ】を発動させるより早く、白羽がペンチを拾ってリード線を切断していた。
爆発は起こらなかった。
「よく……分かったな」
鴉は下半身から力が抜けるのを自覚した。ぺたりと座り込み、白羽に笑いかける。作業を見ていた鴉でさえ、機晶姫のスピードについていくのがやっとで、解体手順に迷うほどだったのに。
白羽はアルバトロスを操縦しながら、「当然でしょ」と笑みを返した。
「切るなら“白”! 白羽の“白”!!」
今度は鴉が硬直する番だった。
しかもアスカが、
「こら、バカラス! あなたその子に何かしたんじゃないでしょうね!?」
ぷんすか怒り、ワイルドペガサスを操ってさっさと降りていってしまった。
なぜ自分が怒られねばならないのだ? そもそもこんな解体作業、やりたくてやったわけじゃない。俺は一生懸命やったのに、――実際は見ているだけだったかもしれないが――最後はオイシイところを持っていかれるし、おまけに邪魔だからと未羅を送り届ける役目を仰せつかったが、そもそもこいつはどこから来たんだ?
そんなことをモヤモヤ考えているうちに腹が立って腹が立って、元凶である基樹をボコボコにシメることを硬く決意する蒼灯 鴉であった。
さて。
その様子をデパートの屋上から眺めていた者がいる。
ゲドー・ジャドウだ。
「あ〜あ、失敗かよ」
「そしておまえもな」
ゲドーはゆっくりと振り返った。
「おやお揃いで」
天城 一輝と佐野 和輝だ。和輝はマシンピストルを構えている。
「大人しく投降しろ、この悪党め!」
くすっ、とゲドーは笑った。
「そぉんな格好で凄まれてもなぁ」
「うるさいな!」
和輝はまだ女装中である。着替えたいがその暇がなかった。
「それに俺様が何をしたって?」
「コレットから怪しい男がいると聞いて探していたのさ。案の定、避難して誰もいない屋上におまえが一人残っていた」
「犯人はきっと、爆発がどうなるか高みの見物をするだろうと踏んでいたが、こんな逃げ場のない屋上にいるなんて、馬鹿じゃないのか? ――ああ、だから高いところにいるのか」
「だぁ〜れが馬鹿だ!!」
「馬鹿じゃなきゃ、こんな馬鹿なことはしないだろう?」
と一輝。
「お前らアホだね、少しは俺様の行動を深読みしてみなよ。俺様こう見えても、シャンバラの未来を憂いているのよ? この街は肝心要な場所なんだからもっと気をつけるべきだと、つまり安全へのアンチテーゼってやつ?」
「「誰が信じるかそんな話!!」」
「……かぶることねぇだろう」
「御託はいい。そのまま、動くな」
一輝が足を踏み出すと、ゲドーはさっと手でそれを制した。親指と人差し指で小瓶を摘んでいる。
「お前らこそ動くな。こいつは一分で肉体の崩壊が始まり、三分でゾンビ、四分後にはスケルトン、五分で完全に消滅するというとってもファンキーな魔法薬よ」
一輝がハッと息を飲んだ。
「馬鹿な。そんな兵器、教導団でもないぞ!」
「いや、こいつはネクロマンサーだ。もしかしたら……」
「欲しけりゃ教導団に売ってもいいけど。人類皆ゾンビで消滅したらアンハッピー、俺様とってもハッピーハッピー。……ま、商談はまたいずれ。俺様は帰る」
メキメキと不気味な音を立て、ゲドーの背が盛り上がると、骨で出来た翼が広がった。一輝も和輝も呆然とする。
「じゃー、はいちゃっ!」
ゲドーが骨の翼を動かすと、強風が起きた。二人は咄嗟に腕で目を覆い、その間にゲドーは飛び立った。
「逃がすか!」
一輝は隠しておいた小型飛空艇を引っ張り出すと飛び乗った。飛空艇がふわりと浮き上がる。
「天城!」
和輝を残し、一輝はゲドーを追った。ただひたすら。ずっと。……真夜中まで追い続け、ゲドーがクタクタになった頃、一輝も彼の姿を見失い、諦めた。
なお、ローゼがゲドーに回収されたのは、朝になってからだった。
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