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リアクション
第5章「白き虎の間」
「ここは……随分見通しの良い部屋だな。だが広さはかなりありそうだが……ん?」
奇襲を警戒しながら扉を開けたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)に続き、同行者が中へと入る。一見大した仕掛けの無い部屋に見えたが、その認識は直後に改める事となった。
「きゃっ! ……何でしょう、今のは。雷……?」
突如発生した光と音に封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が驚く。こちらが部屋に侵入した事に反応したのか、天井のあちこちから落雷が発生しだした。安全の為に入り口そばに寄る仲間達を護る為に、クレアと沢渡 真言(さわたり・まこと)、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の三人が耐電フィールドを全体にかけて行く。
「些か厄介な状況での調査となるな……これで少しは軽減されるとは思うが」
「皆さん全員に効果が出ましたかね。とは言え落雷となると密集しているのは危険ですから、ある程度は分散して動くべきでしょうか」
「うん、遠くまで見えるから離れても大丈夫だと思う」
「よし、相互に支援を行いながら調査を行うとしよう。仮に妨害者が現れた場合も同様に。特に先ほど現れた偽者は本物とは違う能力を持っていると考えられる。くれぐれも油断だけはしないように。では、散開」
クレアの言葉でいくつかのグループに分かれて調査が始まる。そんな中、樹月 刀真(きづき・とうま)は面識のある篁家の兄妹達の所に向かった。
「こんにちは月ちゃん」
「お久し振りです樹月さん。そちらの方は?」
篁 月夜(たかむら・つくよ)が刀真に気付き、次いでその後ろにいる三人の女性も見る。二人は以前にとある洞窟で知り合った事があるが、もう一人は初めてだ。
「初めまして。私、白花と申します。刀真さん共々よろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします。私は篁 月夜です」
「月夜さん? こちらの月夜さんと同じ名前なんですね」
「えぇ、なので私の事は好きに呼んで下さい」
ちなみに漆髪 月夜は篁 月夜の事を『月夜ちゃん』と呼んでいる。篁 月夜の方は基本的に他人を名字で呼ぶので『漆髪さん』だ。更に言えば刀真からすると『月夜』はパートナーである漆髪 月夜と、『篁』だと篁家の兄弟全員と区別がつかなくなるから『月ちゃん』と呼んでいるのだが、それが当の漆髪 月夜からちょっとした嫉妬の視線を受ける理由となった事に刀真は気付いていなかった。
「さて、ここで長話をしている訳にも行かないな。俺達は出来るだけ奥の方を調べてくる。また後で落ち合おう……行くぞ、三人とも」
「はい、刀真さん」
「月夜ちゃん、天音ちゃん、また後でね! 大樹君はお姉さん達を困らせちゃ駄目だよ」
「ふ……そこが可愛いのではないか? この坊やは」
刀真に続いて白花、漆髪 月夜、玉藻 前(たまもの・まえ)が部屋の奥へと向かう。それを見送る篁 月夜の視線に、篁 天音と篁 大樹は不思議な物を感じていた。
「どうしたの? 月夜姉さん」
「いや……樹月さんの雰囲気がちょっとな」
「刀真さん? 俺にはいつも通りに見えたけど」
「私も」
「……そうだな、二人がそう言うなら私の気のせいだろう」
そう言って自分達も調査の為に動き出す。だが、月夜は言葉とは裏腹に心の中では漠然とした思いが広がっていた。
(あれは……焦り? 苛立ち? 何であれ、良い傾向では無いな。漆髪さん達がいるから大丈夫だとは思うが……)
「なぁ、あの大樹って奴みてぇに俺の偽者はいねぇのかな? 自分自身と戦えるなんて、腕試しとしては最高なんだけどな」
「どうかな。向こうの思惑が分からないから何とも言えないけど……一つ言えるのは、誰が出てきても倒すだけだね」
部屋の左寄りを探索している駿河 北斗(するが・ほくと)と葉月 エリィ(はづき・えりぃ)が時折飛来する雷を避けながら進む。二人は入り口で複製体が出たのを見て他にも複製体が存在すると思い、その相手をするのを主目的としていた。
「いつだって乗り越えるのは最強の自分自身……くぅ〜、楽しみだぜ!」
「あのね……分かってる? 北斗。今回の仕事は調査なのよ?」
「調査? 気にすんなベル、細けぇこたぁ良いんだよっ!」
「はぁ……今日も相変わらずの馬鹿北斗でした。まる、と」
意気揚々と進むパートナーの姿にベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)がため息をつく。気の毒な事ではあるが、ベルフェンティータと北斗の間でこういったやり取りが行われたのは一度や二度では無かった。
「皆ちょっと待って。あの扉の向こうから殺気を感じますわ」
エレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)の声に全員が足を止める。次の瞬間、部屋の各所にある扉が開き、敵組織の一員と思われる者達が飛び出してきた。クリムゾン・ゼロ(くりむぞん・ぜろ)がその中のうち、こちらに来る確率の高い二人のデータを照合する。
「麗華・リンクス(れいか・りんくす)殿と水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)殿でござるか……ミーの記録によると、両者とも青い扉を調査するグループに混ざっていたでござるな」
「へぇ、じゃあ偽者って事? それなら燃やしちゃっても良いよね? 良いんだよね?」
クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)が嬉しそうに相手を見る。既に杖から炎が見え隠れし、今にも放ちそうな表情でうずうずしている。
「入り口のデータを基にする限りでは、偽者は致命傷を負うと魔力の塵と化すようでござるな」
「やった〜! 最近あんまり暴れられなくってフラストレーション溜まってたのよ! よ〜し、クリムちゃん二人纏めて放火しちゃうぞ〜。あはは、れっつパーティー!」
「男の強さを証明するのに女相手ってのはどうかと思うが……偽者相手だし、細けぇこたぁ良いか」
戦闘態勢を取る者達の中、北斗が一歩前に出る。そして強化型光条兵器の両手剣ミストリカを構えると、複製体である麗華と緋雨へと向けた。
「魔法剣士、駿河北斗。それがてめぇらを倒す男の名だ……しっかり覚えておきな!」
名乗りを上げ、ローラーブレードでの突撃。そのままの勢いでソニックブレードを放って相手を分断させ、自身の得意な高速戦闘へと持ち込む。
「機動力のある相手か……ならあたしもこれで対抗させて貰おう
「おっと、幻影か。だが、それなら全部倒すまで!」
「数が多いね。あたしも狙い撃つよ!」
ミラージュによる攪乱を行う麗華。それに対し、エリィが二丁拳銃で次々と対象を撃つ事で援護を行う。二人の攻撃の前には、幻影はただの時間稼ぎにしかならない。
「てめぇが本体だな。大人しく俺の一撃を受けて――」
「待ちなさい馬鹿北斗……来るわよ」
だが、追撃はベルフェンティータの声に阻まれた。上を見ているその視線を辿ると、天井の穴から放電が始まっているのが見える。
「やべっ!」
慌ててその場から移動する北斗。他の皆も散開した瞬間に雷が落ちる。
「ちっ、いい所だったのによ。けど、この分ならすぐに片が付きそうだぜ」
「何調子に乗ってるの。猪突猛進なあなたを周りが陰で支えてる事を理解しなさい。言っておくけど、怪我しても私癒さないからね」
「安心しなベル。俺はここでやられるような柔な男じゃねぇ。さぁてめぇら、仕切り直しだ。どっからでもかかって来な!」
ベルフェンティータの忠告も効果無く、なおも馬鹿正直に向かおうとする北斗。するとそこに、意外な所からの攻撃(?)が来た。
「わっ!!」
「どわっ!?」
いきなり至近距離からの大声を受け、北斗が仰け反る。実はここにいる複製体は麗華と緋雨だけでは無かった。ベルフラマントに身を包み、気配を消して緋雨の背中に張り付いていたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の複製体もいたのである。
「良くやったわ! これも受けなさい!」
「先ほどの返礼だ。受け取って貰おう」
相手に隙が出来たのを見て、緋雨のカタクリズムによる念力の嵐と麗華の光条兵器、リンクスアイによる攻撃が襲い掛かる。それらは全て――
「ちょ、俺ばっかりかよ!?」
北斗へと向けられていた。とっさにローラーブレードで走り回る事で回避を行うが、相手はなおも一人に向けて集中攻撃を行う。
「あらあら、人気者ですわね」
「余り嬉しい人気では無いと思うでござるが、エレナ殿。ともかく援護を――む、また来るでござるな」
クリムゾンが銃で牽制を行おうとするが、タイミング悪く雷が再び降り注ぐ。落雷に援護を止められたのは彼だけでは無かった。その周期を知っているらしい複製体のみが予め落雷に遭わない位置取りをし、北斗への攻撃を続けている。
「ピィッ!?」
もっとも、イコナだけは落雷の光と音に怯えて固まっているが。
「そこのお前、真っ直ぐに来るんだ」
落雷を避けながら攻撃を回避し続ける北斗の前に冴弥 永夜(さえわたり・とおや)が現れた。彼は雷が降り注ぐこの部屋において、それを気にする事無く立ったまま曙光銃エルドリッジを構えている。
「お、おう!」
永夜の方へと進路を変える北斗。その動きを見ながら、凪百鬼 白影(なぎなきり・あきかず)が天井のある一点を見つめている。
「今までのケースなら発動まであと十秒。丁度敵の正面に落ちるタイミングですね」
「分かった。サポートは頼んだぞ」
「お任せ下さい、永夜」
白影の宣言通り十秒後、北斗と緋雨の間に雷が落ちる。相手の動きが止まった瞬間を狙い、永夜の放った銃弾が一直線に飛んで行った。
「! 邪魔は――」
「させませんよ」
とっさにサイコキネシスで銃弾の軌道を変えようとする緋雨。だが、そこに白影のサイコキネシスも加わった。互いの力が干渉した銃弾は軌道を変える事無く突き進み、目標へと命中する。
「くっ!? やるわね……」
緋雨が右腕を押さえる。融合によって龍鱗化の力を受け継いでいたのが幸いしてダメージは抑えられたが、それでも無傷とは行かないだろう。
「悪ぃ、助かったぜ」
「何、皆に最初の戦闘を任せたお陰で落雷の傾向が分かったからな。当然の事さ」
永夜が平然とその場に立っている理由、それは雷の発生周期や落ちる場所を観察していた白影によってここには落ちないと判断されていたからだ。そして実際にこの場に落雷が発生する事は無く、一種の安全地帯となっている。
「……なるほど、この法則で発生していたのでござるか」
「えぇ。相手近くでの動きは貴方にお任せしますよ」
「御意にござる、白影殿」
白影が読みきった情報をクリムゾンが受け、自身の観察したデータと統合する。これまで銃主体で援護を行っていたクリムゾンはゼロブレードを抜くと、近距離戦を行う者の援護の為に敵陣へと走って行った。
「あいつの近くなら雷に邪魔はされねぇんだな。よし! 反撃開始だぜ!」
北斗も気を取り直してクリムゾンに続く。人数が増えた事もあり、完全に優勢となっていた。
「劣勢か……だが」
麗華がファイアストームを放つ。これは融合したクリムリッテの力による物だ。
「あっははは、温い温い。私を燃やしたいならこの百倍もってらっしゃい!!」
だが、そこは本家の力が勝る。高めの炎熱耐性を持つクリムリッテはお返しとばかりにファイアストームを唱え返し、襲い来る炎を周囲に散らして見せた。
「幻影も炎を効きはしないよ。これで……終わりっ!」
炎の壁が左右に散ったその間をエリィの十字砲火が飛んで行く。寸分違わず命中したそれは止めの一撃となり、麗華の存在を消し去った。
「ピィッ!? ……ピキャッ!!」
イコナに対しては、エレナが足止めを行っていた。サンダーブラストと天のいかづちを周囲に使う事で何かをしようとする度に動きを止める。
「ちょっと可哀想かしら。でもこの子、本物じゃない以上は何とかしてあげないといけないのよね」
「そうだな。創り出した相手が何を考えているかは知らないが、戦う為なら見過ごす訳にも行かないだろう。すまないな……もし今度生まれて来る事があるなら、手を取り合えるといいな」
永夜の銃から雷の力が篭められた銃弾が放たれる。先ほどの麗華同様、イコナも魔力の塵となって霧散していった。
「北斗殿」
「おう!」
クリムゾンの動きに合わせ、北斗が左に避ける。直前まで二人がいた位置に、天井から雷が降り注いだ。
「……珍しいわね。あの突撃馬鹿が誰かに合わせるなんて」
ベルフェンティータが内心で驚きながらも緋雨の放つ氷術を同じ魔法で潰して行く。それほどに普段の北斗は猪突猛進な熱血馬鹿なのだ。
「まぁ、やってる事は結局突撃だけど。これで少しは考えながら戦ってくれるようになれば良いのに……」
無理だろうなぁ、とため息をつきながらも援護は忘れない。押し返した氷術で緋雨の足下を凍らせ、パートナーに大きなチャンスを与えた。
「よし、これで終わりだ。英霊、宮本武蔵に学んだ剛の剣、受けてみなっ!」
本来両手で扱うミストリカを片手で持ち、振り下ろす。実剣であれば重量の関係で難しい所だが、それに縛られない光条兵器だからこその一撃だ。
「二天一流……斬・天・一・刀――!!」
「きゃ、きゃぁぁぁ!?」
緋雨の防御を貫き、その身を切り裂く。光の刃が通り抜けたと同時に魔力が流れ出し、他の二人のように跡形も無く消えて行った。
「中々強かったぜ。でもよ……ドージェには到底及ばねぇ」
相手のいた場所に背を向け、笑う北斗。それを見たベルフェンティータが再びため息をついたのだが、残念な事に誰も気付く事は無かった。
「はぁ……やっぱり馬鹿北斗は変わらない、か」
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