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【新米少尉奮闘記】甦れ、飛空艇

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【新米少尉奮闘記】甦れ、飛空艇

リアクション

 最も危険なのは、シャンバラ大荒野を抜けるまで、つまりは工場を出発した直後。
 護衛に着いている面々にも緊張が走って、いるかと思いきや、二台のトラックは比較的和やかなムードに包まれていた。
「ふふふーん、ふんふんふーふーん……」
 小暮の乗っていない方のトラック、その荷台で荷物に貼り付いているフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)が、妙に良い声で子牛が売れたのなんのという歌を歌っている。
 確かに見ようによっては幌付きのトラックは荷馬車に見えなくもないが、トラックに乗っているのは子牛ではなく兵器である。
 実際のところは結構な速度で走っているのだが、しかし長閑に響くちょっぴりもの悲しいメロディのお陰で、トラックに乗っている面々は荷馬車でぽっかぽっか進んでいる気分になってくる。
「いや、お見事な歌声ですな。どうですか、腹ごしらえに」
 同乗していたセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)が、ニコニコと笑って懐からお菓子の袋を取り出した。
 金鋭峰団長も食すという逸品、高級芋ケンピだ。
「お、ありがと!」
「そちらの方もどうぞ。芋ケンピは手軽にカロリーを摂取出来、おまけに美味い、最高の兵糧です」
「……兵糧……か?」
 芋ケンピを差し出された、四条のパートナーの戸次 道雪(べつき・どうせつ)も、首を傾げながらも受け取った。
「どうですか、これで一息」
 フィッツジェララルドはまた、荷物である兵器をせっせと弄っているミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)にもケンピを差し出す。ウォーレンシュタットはありがとう、と答えてケンピを一本受け取ると、また作業へと戻る。
「……先ほどから熱心ですな。何をなさっているんですか?」
「機晶技術は非常に興味深いですから、少しでも触れていたくて」

 興味深げに覗き込むフィッツジェラルドに、ウォーレンシュタットは少し表情を和らげて答えた。



 さて、そんな呑気なトラックの回りでは、何台もの飛空艇や車、バイク、馬、箒などが護衛に着いて居る。
 その中でもひときわ異彩を放っているのが、相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)が乗る、サンタのトナカイが引くソリだった。コミカルな外見とは裏腹に、トラックよりも高い所を飛びながら、至極真面目に警戒に当たっている。
「飛行戦力は有意義な武器だ。教導団も、それがわかっているから発掘と修理、改良をしたいのだろう」
「そうですね。今回はイコンが使えないのが少々残念ですが、まあ、トナカイでもトラックに追尾できますしね」
 二人はそう言いながら、トラックにやや先行する形で、周囲に怪しい陰が無いか、目を光らせる。

 さらにこちらでも、小型飛空艇・オイレに乗り込んだトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が眼下に目を光らせていた。
 相沢達のソリがトラックの右手を監視しているのに対し、ファーニナルは左手、と分担している。
「ん……?」
 と、ファーニナルが遠くに黒い影を見付けた。
 少し高度と速度を上げて目をこらす。
 間違いない、人影だ。地形の陰に隠れている。さらには、ヒトのものとは思えない巨大な陰もいくつか見える。
 巨獣を従えた蛮族だろう。
「小暮少尉、こちらトマス・ファーニナル」
 ファーニナルは落ち着いて、通信機を手に取った。
「蛮族らしき陰を発見しました」
「了解、距離は」
「目測ですが、このままの速度で進めばあと二、三分で接触します。そちらに同乗している僕のパートナー達を、足止めのため使者を装って遣わす許可を願います」
 来たか、と焦りの滲む小暮に、ファーニナルは打ち合わせていた作戦を提示する。
「許可する。ただし、くれぐれも無茶はしないこと」
「ありがとうございます」
 小暮の声を受け、ファーニナルは通信を、自分のパートナー達の元へと切り替える。
「魯先生、テノーリオ、作戦決行だ」

 ファーニナルの号令を受けた魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)のふたりは、「使者」の旗を掲げて、蛮族たちが集まっている地点へと向かっていた。
 無論その間にも、戦闘の準備が着々と進められている。
「おォい、止まれェ!」
 魯粛とメイベア、二人の姿を見付けた蛮族の、下っ端とおぼしき男が制止の声を上げる。何処かの世紀末で流行していそうな装飾過多な革ジャンにモヒカンという、いかにも蛮族な格好をした連中が数十人、その声を聞きつけて一度に振り向く。
「何だァお前らは!」
「ご覧の通りの使者です。まあちょっと、お話でもしませんか」
 魯粛は武器を持って居ないことを強調するように両手を上げて見せる。
「話だァ?」
 妙に甲高い声の男が、嘲るように答える。
「話すことなんざ何もねエよ、なぁ!」
 そうだそうだ、と下卑た声がいくつも重なる。
「困りましたねぇ。私たちはここを黙って通りたいだけなのですが」
 魯粛がのらりくらりと蛮族相手の「交渉」を行っている隙に、メイベアが携帯電話のマイク部分をせっせとトントン叩いている。が、蛮族達は魯粛ののらりくらりに気を取られて気付いていない。

 そのトントンは、携帯電話を通して、魯粛達と同じくファーニナルのパートナーであるウォーレンシュタットの元へ届いていた。
「蛮族の数……二十、から、三十。巨獣……五、ないし六……」
 ツートン信号で送られてくる情報を解析したウォーレンシュタットは、併走しているもう一台のトラックと通信を繋ぐ。
「敵戦力の情報が送られてきました。巨獣が五、ないし六います」
「巨獣自体は想定の範囲とはいえ、六匹ですか。勝率の減少は否めませんね」
「少尉殿、私たちが輸送しているのは立派な武器……威嚇でビビらせる、のも手の内でしてよ?」
 不安そうな声を漏らす小暮に、ウォーレンシュタットが提案する。
「……いや、それは出来ない。レーザー系の武器はエネルギーが充填されていないし、実弾が必要なものについては、今回の荷の中に弾がない」
「あっ……それは、確かにそうですね……」
「ウォーレンシュタット殿はそちらのトラックの荷を頼みます。戦闘準備を急いでくださいと皆さんに伝えてください」
「了解」
 通信を切断したウォーレンシュタットは、同乗している面々に小暮からの指示を伝える。
 と、そこに。

「悪い、交渉決裂だ!」
 
 携帯電話越しに、メイベアの叫び声に近い声が聞こえてきた。